「なんであの同期は定時でさっさと帰宅しているのに、俺(私)より先に昇格しているんだ?」
「どうしてあの部長は大して仕事もしていないのに、こんなに高い給料をもらっているんだ?」

このようなセリフを耳にしたことはありませんか? もしくは、自分自身でそう感じたことがあるかもしれません。これらは、「不公平さ」に対する不満が顕在化している状態です。この感情は、個人のやる気や満足感に深く関わり、ひいては組織全体のパフォーマンスに影響を及ぼすものです。

このような不満を抱える背景には、「公平理論」が関わっています。公平理論とは、人々が自分の労力や成果と、それに対して得られる報酬や待遇を、他者と比較することで感じる公平感に基づく理論です。もし、自分の貢献度と報酬が釣り合っていないと感じたとき、不公平感が生まれ、その結果としてモチベーションの低下や不満が生じます。

特に、組織でマネジメントを行っている方や人事評価を担当している方にとって、この公平理論を理解することは極めて重要です。不公平感が蓄積すると、従業員のやる気を損ない、離職率の上昇や組織全体の生産性低下を引き起こすリスクが高まります。

たとえば、最近部下のやる気が低下しているように感じる、または組織全体のパフォーマンスが思うように上がらず、困っているという状況はありませんか? それは、もしかすると組織内での公平性が十分に保たれていないことが原因かもしれません。

公平な目標設定や評価システムは、組織の健全な運営と従業員のエンゲージメントを高めるための基盤です。
そんな課題を抱えている方は、ぜひ最後までお読みいただき、この理論を実際のマネジメントや人事施策に活かしてみてください。

公平性の重要性

公平理論とは?

公平性のある目標設計の重要性を理解するために、まず「公平理論」について理解をしていただきたいです。

公平理論は、1963年にアメリカの心理学者ジョン・アダムスによって提唱された理論で、
組織行動学やモチベーション研究の分野で広く認識されています。
この理論の核心は人々が自分の仕事に対する成果と報酬のバランスを他者と比較することで、自身のモチベーションや満足度を判断するというものです。

公平理論によれば、個人は自分が仕事に投入した労力や時間、スキル、経験といったインプットを、
得られた報酬や待遇(給与、昇進、承認など)のアウトプットと比較します。
さらに、そのバランスを同僚や他の従業員のインプットとアウトプットと比較することで、
自分が「公平」に扱われているかどうかを感じ取ります。

例えば、ある従業員が自分のインプット(長時間労働、専門的スキル)に対して得られる報酬(給与、昇進)が、他の従業員と比べて劣っていると感じた場合、その従業員は「不公平感」を抱くことになります。
この不公平感が蓄積されると、モチベーションの低下、不満の増加、
さらには退職の検討といった行動に繋がる可能性が高まります。

また公平理論では、報酬がどのように配分されるかという「配分の公平性(ディストリビューショナル・ジャスティス)」や、報酬の決定プロセスがどれだけ透明で公正であるかという「手続きの公平性(プロシージャル・ジャスティス)」は、社員が自分の待遇に対してどの程度の満足感を抱くかに影響を与えていると言われています。

上記のように、公平理論は日々のマネジメントや人事施策において極めて実践的なツールとなります。
特に組織内での評価や報酬の決定において、この理論を理解しておくことは従業員のモチベーションを高め、
組織全体のパフォーマンスを向上させる重要なカギなのです。

公平な目標設計を行うには

ここまでで、組織において公平性がいかに重要であるかを理解いただけたかと思います。
では、実際に公平な目標設計を行うにはどうすればいいのでしょうか。
公平性を保つための第一歩は、従業員のパフォーマンスを評価するための明確で一貫性のある基準を設定することです。
評価基準が曖昧であったり、従業員によって異なる基準が適用されると、不公平感が生じやすくなり、
モチベーションの低下や職場の不満につながることがあります。
これを防ぐためには、次のようなポイントに注意して評価基準を設定することが重要です。

①定量的かつ定性的な指標を組み合わせる
評価基準を設定する際には、売上など定量的な指標に加えて、
チームワークや問題解決能力といった定性的な指標も取り入れることが必要です。
定量的な指標は、具体的な数値で測定できるため公平な評価がしやすい反面、従業員の貢献度や仕事に対する姿勢といった側面を見落とすリスクがあります。
一方、定性的な指標は数値化が難しいものの、従業員が組織に与える影響や、
職場環境に対する貢献を評価することが可能になります。

例えば、営業職の場合、定量的な指標としては「月間売上額」や「新規顧客獲得数」などがあると思います。
しかし、これだけでは業績の数字に直結しない要素、
例えば「顧客との長期的な信頼関係構築」や「チーム内での情報共有とサポート」といった定性的な貢献が
評価されない恐れがあります。
このようなケースでは、営業成績だけでなく、顧客満足度やチーム内での役割などを評価に組み込むことで、
よりバランスの取れた評価が可能となるのです。

②評価基準を事前に共有する
公平な評価を行うためには、評価基準を事前に社員に共有することも重要です。
事前に評価の基準やその目的を明確に伝え、全員が同じ理解を持てるようにしておくことで、
実際に得た評価を納得感持って受け入れることができると考えます。

例えば、新しいプロジェクトに従事するチームに対しては、
プロジェクトの成功基準や評価方法を事前に説明しておきましょう。
私自身も会社員時代、突然新規事業の部隊にアサインされたことがあるのですが、
まだなにも体制が整っていない中で初めての仕事を行うので不安はかなり大きかったです。
自分はどうやって評価されるのか、そもそも何をどう頑張っていいのか分からず、
その状況にストレスを感じていました。
当時は「納期通りの完了」や「予算内での達成」といった明確な目標を設けてもらったので、
チームメンバーが同じ方向を目指して動くことができたと実感しています。

ですので、ぜひ事前共有は丁寧に行うようにしてください。

③定期的なフィードバックを実施する
定期的に上司からフィードバックを行うことで、社員は自分の進捗を正確に把握しやすくなり、
目標達成に向けて必要なアクションを確認・修正することができます。
これを繰り返すことで徐々に社員は自分の成長や貢献を実感できるようになっていきます。

リクルートでは四半期ごとにマネージャーとメンバーが1対1でミーティングを行い、
目標達成率などの定量成果のほか、自分ができるようになったことや克服すべき課題について話し合います。
3か月に1度のペースで実施することによって、自分の成長度合いを逐一確認することが可能になりますし、
上司からのフィードバックを通じて今後成長していくためにどのようなアクションをとるべきかも理解することができ、
結果的にモチベーション向上にもつながっているのです。

評価基準の例

評価基準を具体的に設定する際には、各職種や役割に応じて適切な指標を定めることが重要となります。
以下に、いくつかの具体例を挙げておきますので参考にしてみてください。

営業職の場合
・定量的指標: 月間売上額、新規顧客獲得数、クロージング率
・定性的指標: 顧客満足度、チームとの協力度

開発職の場合
・定量的指標: コード品質、バグ修正数、プロジェクト完了までの時間
・定性的指標: 創造的な問題解決能力、チーム内での知識共有、ユーザーフィードバックの反映度

管理職の場合
・定量的指標: 部門のKPI達成率、予算遵守率、部下の昇進率
・定性的指標: リーダーシップ能力、意思決定の透明性、部門内のコミュニケーション向上

公平性を重視しすぎた場合に起こりうる弊害

前述したように、公平性を実現することは組織において非常に重要な要素です。
しかし、悲しいことに公平性を重視しすぎるといくつかの弊害も生まれてしまうのです。

どのような弊害が起こりうるのか

以下に、公平性を重視した際に想定される弊害の例を挙げます。

①評価制度の硬直化による、優秀な社員のモチベーション低下
公平性を維持するために、すべての社員に対して同じ基準で評価する場合がありますが、
これが組織の柔軟性を損なう可能性があります。

たとえばあるメンバーが特別なスキルや知識を持っており、そのスキルが特定のプロジェクトで重宝されたとします。
しかし公平性を保つために他のメンバーと同じ基準で評価されている場合、
そのメンバーは自分の貢献度合いに対し適切に評価されていないと判断し、不満を感じる可能性が高いです。
一度不満を感じてしまうと、どんどんモチベーションが低下し、最悪のケースでは退職を招くこともあります。
このような事態が続いてしまうと、優秀な社員がだれもいなくなってしまい、組織にとってかなり痛手となります。

②組織の硬直化による非効率化
組織の硬直化とは、企業や組織がルールやプロセスを重視しすぎることで、
変化やイノベーションに対する柔軟性を失い、結果的に組織全体が非効率的になる現象です。

ルールやプロセスを重視するということは、すべての意思決定をルールに基づいて行うということになります。
意思決定に非常に時間を要するので必然的に効率性は下がるでしょう。
またルールに縛られることで、新しいアイデアも生まれづらい環境となりますので、
結果としてイノベーションが起きない組織になってしまいます。
非効率性・イノベーションの停滞が続くと、会社としての競争力が弱まっていく可能性も十分考えられます。

対応策

この弊害に対してどのように対策していけばよいのでしょうか。
大切なことは、これらの弊害を理解し、公平性と柔軟性の両立を行う努力です。
では柔軟性はどのようにして担保すればよいのでしょうか。
以下で柔軟性を重視し成功した企業の事例をご紹介いたします。

①NETFLIX
Netflixは、世界中で動画ストリーミングサービスを提供する企業です。
もともとはDVDレンタルサービスとしてスタートしましたが、業績悪化に伴い柔軟に事業転換を行ったことで、
大成功を収めました。
そんなNetflixでは「自由と責任の文化」を強調しており、従業員に大きな裁量権を与えています。
例えば、業務時間や有休を自由に取ることができ、自身の判断で仕事の進め方を決めることができます。
この自由度の高さが従業員の創造性を引き出し、会社としてイノベーションを起こす要因のひとつであると言われています。

②3M
3M(スリーエム)は、アメリカ合衆国に本社を置く多国籍企業です。
1902年に設立され、当初は鉱山業を営んでいましたが、その後製造業にシフトし
現在では世界中で数千種類以上の製品を提供するグローバル企業として知られています。
3Mは研究開発に多大な投資を行い、従業員が自由に新しいアイデアを考え生み出すことを推奨しています。
たとえば従業員が勤務時間の15%を自由に創造的なプロジェクトに費やすことができる「15%カルチャー」を導入しています。自分の興味に基づいた研究や開発を行うことを目的としており、これまでに多くの革新的な製品を生み出しています。
さらに、部門の壁を越えたコミュニケーションを重視しており、異なる専門分野の知識やアイデアが融合し、新たなイノベーションが生まれやすくなっています。

最初からここまで斬新な取り組みを行うことは難しくても、
たとえば社員同士のコミュニケーションをとれる時間を設けたり、ある程度メンバーに裁量を与えることで自由に働いても得るようにする、など徐々にできることはあるはずです。
このような柔軟性と前段でお伝えした公平性をバランスよく組み合わせることで、組織の健全な成長を促すことができるのです。

最後に

いかがでしたか?
何度もお伝えしているように、公平性を重視することは組織の健全な運営にとって非常に重要な要素です。
社員を正当に評価することでモチベーションの向上や組織全体のパフォーマンス向上につながります。
しかし、公平性を追求するあまり、柔軟性を欠いたり、イノベーションが阻害されるリスクも存在します。

公平性を基盤としながらも柔軟性を兼ね備えた組織づくりを目指し、
従業員が安心して働き、最大限の能力を発揮できる環境を整えていくことが大切です。
組織の未来を見据え、バランスの取れたアプローチを実践していきましょう。