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旭化成の新卒学部に学ぶ/新卒育成の「集団学習」のメリットとは?
新卒社員の研修では、「いかに早く戦力化するか」「どうすれば主体的に行動できるようになるか」が常に話題になります。
社内には体系立てたプログラムもあり、教材や講師をしっかり整備しているのに、
いざ現場に配属されると「学んだことが活かされないままに終わってしまう」という経験はないでしょうか。
さらに、研修を受ける新卒社員のモチベーションがなかなか上がらず、
「やらされ感」を持って受講しているように見える──そんな状況も起こりがちです。
こうした課題意識をもつ企業は、近年「集団学習(コミュニティ・ラーニング)」に注目し始めています。
独学の成功率が低いと言われるなか、他者の存在が学習の継続意欲やモチベーションを大きく左右することがわかってきたからです。
実際、化学メーカー大手・旭化成では2023年度に新卒研修のスタイルを大きく変え、
「集団学習」を取り入れたところ、社員の自発的な学習時間が前年比で約3.5倍に伸びるなど、目を見張る成果があがったといいます。
本記事では、旭化成の事例をもとに「新卒研修×集団学習」のメリットや具体的な運用方法、さらに他社でも取り入れられるポイントを解説します。
新入社員の研修設計に携わる方や、研修の成果がいまひとつ見えづらいとお悩みの方にとって、何らかのヒントが得られますと幸いです。
新卒研修に求められるものとは
研修というと、「講師の話を聞くだけ」「用意されたマニュアルをこなすだけ」というイメージが強いかもしれません。
しかし、時代が変わり、働き方や新卒社員の価値観が多様化するなかで、研修の在り方も見直しが求められるようになっています。
ここでは従来型研修の課題と、新卒研修で重視したい「主体性の伸ばし方」について見ていきましょう。
従来の研修の課題
画一的なカリキュラムと「やらされ感」
4月に入社した新卒社員を大部屋に集めて、数週間から数カ月にわたる座学を行う──これは、いわゆる“昔ながら”の定番研修スタイルです。
一通りのビジネスマナーや企業理念などを短期間で教え込むことができるため、一見効率がよいように思えます。
ところが、この方式では個々の新卒社員の成長速度や興味・関心にあまり目が向きません。
「この研修内容は、本当に自分に必要なのだろうか」「同じ話をもう知っているのに、なぜ受けないといけないのか」
という不満が生じたり、“とりあえず受け身”の姿勢になってしまったりするケースが出てきます。
さらに、評価の軸が「研修に出席したかどうか」や「テストで一定の点数を取ったかどうか」のみに偏ってしまいがちです。
その結果、新卒社員が本来もちうる潜在能力を研修の段階で十分に引き出せず、研修後の現場でのパフォーマンス発揮にもつながりにくい、という課題が生まれます。
チームワークが育まれにくい
もう一つの問題点として、「同期同士のつながり」が表面的なものにとどまる可能性があることも挙げられます。
座学中心では、お互いにディスカッションしたり、一緒に課題を解決したりする機会が限られがちです。
結果として、「同じ時期に入社した“仲間”」という認識があまり深まらず、
研修後はそれぞれの部署に散り散りになったまま、関係が希薄になることもあります。
新卒の「主体性」を伸ばす研修とは
個人のキャリア志向に合わせた選択制
今の若手社員は、個人ごとに異なるバックグラウンドや得意分野を持っていたり、入社後に描きたいキャリアパスが多様化しています。
そのため、全員が同じ内容を強制的に学ぶ研修ではなく、ある程度「自分で研修内容を選べる仕組み」があると大きなモチベーションアップが期待できます。
たとえば、「マーケティングやデータ分析をしっかり学びたい」「リーダーシップやマネジメント力を身につけたい」といった個人の希望に合わせ、複数の講座やゼミを提示して、自由に選べるようにするわけです。
こうした選択制を導入すると、一人ひとりが「自分の成長にとって必要な学び」を主体的に追求する土壌ができます。
集団学習(コミュニティ・ラーニング)の重要性
独学では学習の継続が難しいと言われる一方、まわりの人が頑張っている姿を見てモチベーションが高まったり、
仲間同士で励まし合ったりする効果は非常に大きいのです。
新卒研修の初期段階で、同期同士が強い絆を結び、“切磋琢磨できるコミュニティ”を形成しておくことは、
研修が終わったあとも「学び続ける文化」を根付かせるための重要なステップにもなります。
【取り組み事例】旭化成が実践する集団学習
ここからは、大手化学メーカーである旭化成が実際に導入している「新卒学部」の事例をご紹介します。
独学ではなく同期と学び合う仕組みを積極的に取り入れた結果、学習時間の大幅な増加やキャリア不安の低減など、目に見える成果が上がったと言います。
旭化成「新卒学部」の背景
旭化成では、2023年度から新卒研修を大きくリニューアルし、新入社員約200名を「新卒学部」というコミュニティに所属させる仕組みを導入しました。
きっかけは、社内でワークショップを実施するなかで、「他人の存在が学習の動機を高める」ことを強く実感したからだと言われています。
従来型の講義形式だけではモチベーションを維持するのが難しい一方で、
「みんなで学ぶ」環境があれば励まし合いやライバル意識が働き、学習に対する姿勢が大きく変わる。
まさに集団学習の強みを活かしたコンセプトになっています。
オンラインと集合研修の組み合わせ
新卒学部では、「オンライン学習」と「集合型ワークショップ」をうまく組み合わせ、
同期同士が常に“同時に、一緒に”学べる時間を確保しています。
たとえば、月に2回は業務時間中にオンライン講座を同時受講し、講義が終わったあとはチャットスペースで感想を共有したり、
わからない部分を教え合ったりする仕組みを取り入れているそうです。
オンライン学習プラットフォームとしては「Schoo(スクー)」などを活用しており、分野ごとに豊富な講座ラインナップを用意。
これにより、わざわざ研修室に全員を集めなくても、同じ時間に同じ講座を視聴することで仲間意識や「やってみよう」という雰囲気が生まれやすくなります。
チャットやSNSツールでコミュニケーションを取り合うため、研修後に一人で学習した際も「すぐに同期に質問できる」「学んだ知見を共有し合える」というメリットが得られます。
ゼミ長制度と新卒の自主運営
さらに特徴的なのが、第2クール(11月から翌2月)に導入される「ゼミ長制度」です。
新卒学部を一つの“大学”に見立てるイメージで、学びたいテーマごとに「ゼミ」を立ち上げ、それを主導するリーダー役を「ゼミ長」と呼んでいます。
ゼミ長は、学習テーマの具体化や進捗管理、外部講師のアサインなど、運営面の取りまとめを担います。
人事部はあくまでサポート役として控えめに支援するだけで、基本的には新卒社員同士が自主的に「学びを深める場」を作り上げていく流れです。
こうした「やらされ感」のない環境は、新卒社員のモチベーションを高め、学習内容への当事者意識を強くする効果があると言います。
なかには、オンライン交流会を定期的に開催したり、著名な外部講師を独自に招いたりと、かなり精力的に活動するゼミも出てきており、周囲を巻き込む原動力が生まれているとのことです。
集団学習の成果と要因
旭化成が集団学習を導入した結果、学習時間の劇的な増加やキャリア不安の解消といった成果が得られました。
それを支えた要因をもう少し詳しく紐解いてみましょう。
量的成果:学習時間の劇的な増加
新卒学部を導入した2023年度、4月から9月までの新卒社員の「自発的学習時間」を合計すると、前年と比べて約3.5倍にあたる1,756時間に増加したそうです。
自分に必要な講座を“選べる”という自由度に加え、周りが頑張っている姿を見ることで「自分もやろう」と発奮できる環境があったことが大きいと考えられています。
なかでも、第1クール(6月から9月)でしっかり学習の習慣がつき、その勢いを保ちながら第2クール以降も自主的な学びが継続していった点は注目に値します。
質的成果:キャリア不安の低減
成果は量だけでなく質の面でも現れました。
旭化成では、統計分析などの定量調査を通じて、研修前後における新卒社員の「キャリアに対する不安」スコアを測定しているそうです。その結果、新卒学部への参加を経て、不安度合いが下がったというデータが得られました。
背景には、「同期同士で一緒に学び合うことで、自分だけの悩みではないと気付ける」「同じ不安を抱えていた仲間が学習によって成長していく姿に刺激を受ける」といった感覚が働いていると推測されます。
仕事への不安や将来への漠然とした心配は、一人で抱え込むほど増幅されてしまいがちです。
そうしたメンタル面でのケア効果がコミュニティ・ラーニングには期待できるのです。
上司・事業部の理解獲得
一方で、新卒学部を構想段階から導入するにあたっては、事業部サイドから「業務への支障が出るのでは?」と懸念が上がったとも言います。
実際、新入社員をいきなり現場配属し、早い段階で成果を出してもらいたいという思いを持つマネージャーも多いでしょう。
そこで旭化成の人事部は、「新人たちのモチベーションを引き出し、むしろ業務でのスキルアップにつながる施策である」ことを丁寧に説明し続けました。
また、新卒学部での活躍を実際の配属先にも逐一共有し、「研修で積極的に学んでいる姿勢」への理解を高めてもらうことで、現場からのサポート体制も整えたそうです。
結果的に、コミュニティ・ラーニングで培った能力は業務にもプラスに作用し、「やる気のある新人を指導しやすい」という好循環を生み出したのです。
他の企業でも参考にできる部分
ここまで旭化成の事例を見てきましたが、「自社で同じように大掛かりな仕組みを作るのは難しそう」と感じる企業もあるかもしれません。
しかし、集団学習のエッセンスは、一部だけ取り入れることも可能です。以下では、中小規模の企業や部門単位での導入を検討する際に、押さえておきたいポイントを整理します。
部分導入から始める集団学習(コミュニティ・ラーニング)
コミュニティ・ラーニングというと、大勢を巻き込むことばかりイメージしがちですが、
最初は少人数のチームや特定部門で始めても効果は期待できます。
たとえば、新卒社員を数名ずつグループに分け、チューター役の先輩社員がサポートしながら「月に1回集まり、選択した学習テーマを共有し合う」程度でも構いません。
大事なのは、一人ひとりが孤立せず、「自分の学びを誰かに伝える場がある」という状態をつくること。
そこから「やり方をもっと工夫したい」「オンライン講座も取り入れてみたい」という声が出てきたら、段階的にスケールを拡大していけばよいでしょう。
ITツールや外部講師の活用
集団学習を促進するうえで、ITツールやオンラインプラットフォームの活用はほぼ必須と言ってもよいでしょう。
具体的には、以下のようなポイントを検討することが多いです。
- オンライン学習プラットフォーム:SchooやUdemyなど、幅広いビジネススキルを網羅しているサービスを契約する
- チャットツールやSNS:SlackやTeams、あるいは社内SNSを活用し、受講後の感想や質問をいつでも気軽に投稿できる場を用意する
- 外部講師の招致:社内に専門知識を持つ人材がいない場合は、外部講師を呼んで学習イベントを開催し、新人や若手を刺激する
特にオンラインプラットフォームの導入は、「わざわざ誰かが研修を教えにいかなくても、多様なコンテンツを一括で提供できる」というメリットがあります。
一方、導入するだけで満足してしまうと、社員がなかなか活用しないまま終わることもあるため、「一緒に受講する仕組み」とのセットが大切です。
社内巻き込みとスモールスタートのコツ
集団学習を社内で根付かせるためには、上長や事業部門への丁寧な説明が不可欠です。
特に、「なぜこの取り組みが業務を圧迫するのではなく、むしろ成果につながるのか」を具体的に示すと効果的です。
また、旭化成のように若手社員の中から「推進役」を選ぶのも良い方法です。ゼミ長やリーダーといった役割を与えることで、当事者意識を持った人材が率先して企画・運営を回していきます。
最初は数人の“熱量の高いメンバー”から始めて、学びの楽しさや成果が周囲に伝わると、「自分もやってみたい」という輪が自然に広がるはずです。
まとめ:新卒研修と集団学習のこれから
新卒研修を「集団学習」で変革するメリットは、大きく分けて次の3点です。
- 個々のモチベーションアップ:同期と一緒に学ぶことでやる気が高まり、学習時間が増加しやすい。
- キャリア不安の解消:仲間の存在が心強く、孤立感がなくなることで、将来に対する不安が軽減される。
- 主体性の醸成:ゼミ長や自主運営の仕組みにより、「やらされる研修」から「自ら学び取る研修」へと変化する。
これらは新卒研修だけに限りません。旭化成でも今後は管理職研修にもコミュニティラーニングを取り入れようとしているように、部長・課長クラスでも、コミュニティ内で実務上の課題を共有しながら学び合う手法は十分に通用します。
重要なのは、一人で抱え込まない仕組みづくりと、お互いが刺激を与え合うコミュニティの設計です。
企業規模や業種にかかわらず、まずは小さなグループから始めてみる、
外部のオンライン講座やチャットツールを活用してみるなど、実践方法はいくらでもあります。
もし、いま「新卒社員の研修効果が低い」「若手がどうしても受け身になってしまう」といった悩みをお持ちなら、集団学習を検討してみる価値は大いにあるのではないでしょうか。
やり方次第で、新卒だけでなく企業全体の“学びの文化”を育む大きな一歩となるはずです。
ここまでお読み頂きありがとうございました。
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