新入社員や管理職の育成に取り組む中で、
「せっかく研修を導入したのに、実施直後だけでなかなかモチベーションが続かない」
「現場での実践に結びつかない」
といった悩まれる研修担当者様のお声をよく伺います。

どの部署や職種でも「やる気を起点にした課題」は共通する一方で、
その解決策を見出すのはなかなか難しく、日々が過ぎてしまうことが多いのが現実です。

こうした悩みへの解決策として注目を集めているのが「自己決定理論(Self-Determination Theory: SDT)」です。
自律性・有能感・関係性という3つの基本的欲求をいかに満たすかによって、
人の内発的なモチベーションが大きく変わるという考え方で、特に組織のエンゲージメント向上につながるとされています。

本記事では、SDTが示す基本原理から具体的な施策例、業種・企業規模別の応用事例に至るまで、
段階を追ってわかりやすくご紹介します。

「いろいろ施策を打っているのに、なぜか全員のやる気が高まらない」という方にこそ、ぜひお読みいただければと思います。

自己決定理論(SDT)の基本要素

まず、自己決定理論の中心をなすのが、
「自律性(Autonomy)」「有能感(Competence)」「関係性(Relatedness)」という3つの基本的欲求です。

人は誰しも「自分の意志で選択したい」「自分にできると思える仕事に取り組みたい」「周囲とのつながりを感じたい」
という欲求をもっており、これらの欲求が満たされることで、内発的なモチベーションが高まりやすくなるのです。

たとえば、自律性が尊重されれば「やらされている」感覚が無くなり、自ら動くエネルギーが湧いてきます。
さらに、有能感を得られる環境では「自分は役に立っている」という達成感を抱きやすく、職場への愛着も深まります。


そして、仲間や上司との絆がしっかり築かれていると、「一緒に働くのが楽しい」「助け合える」
といった安心感を得られるため、結果として職場全体のコミュニケーションも円滑になりやすいのです。

逆に、これらの欲求が阻害されると裁量がない」「成長している実感がない」「人間関係が希薄だ」と感じてしまい、
やる気が高まらず離職にもつながりかねません。


SDTは、このように人間の基本的な欲求とモチベーションの関係を深く掘り下げ、
組織がどのように働きかければ、従業員が自発的に成長や貢献を目指すようになるかを提案しています。


SDTを活かした具体的施策

実際の職場でSDTを活かすには、「現場でどんな施策が有効か」を具体的に考える必要があります。

たとえば管理職向けのリーダーシップ研修では、従来の命令・管理型マネジメントではなく、
部下に裁量を与えて自律性を支援するアプローチを学ぶ方法があります。

「部下の目標設定に対して必要最低限の指針のみ示し、過干渉は避ける」
「目標達成に役立つ情報やアドバイスをこまめに提供するが、判断は本人に委ねる」
といったスタンスを組織全体で共有する事などが例として挙げられます。

有能感を高めるために。社員が研修やOJTを通じて新しいスキルを獲得できる場を用意し、
成長を実感できる仕掛けを導入することが有効です。

具体例としては、段階別の研修カリキュラムやメンター制度の設置、プロジェクトベースの学びを重視する風土づくりが挙げられます。
これらの施策は、従業員が「自分はもっとできるはずだ」という意欲を抱きやすくし、結果的に高いパフォーマンスにつながります。

加えて、組織内でチームビルディングを行ったり、
他部署と連携するプロジェクトを積極的に促したりすることで、関係性の欲求を満たす工夫も大切です。

たとえば定期的な1on1ミーティングや、全社的に成果を称え合うイベントを開くといった施策を行えば、
「自分はチームの大事な一員だ」と感じられるようになります。

フィードバックと評価制度

人材育成の施策を効果的にするには、フィードバックと評価制度が欠かせません。
せっかく社員が積極的に行動しても、その成果や過程が正しく認知・評価されなければモチベーションが長続きしにくいからです。

SDTの観点では、フィードバックは「部下をコントロールするもの」ではなく「成長を支援するもの」と位置づけられています。
たとえば1on1面談や定期面談で、具体的に「ここが良かった」「ここを伸ばせばもっと活躍できる」という点を伝え、本人と一緒に次のステップを考える時間をしっかり設けるのです。

さらに公正・透明性の高い評価制度は、社員に納得感や安心感を与え、有能感と関係性を同時にサポートします。

評価基準を明示し、昇格や給与改定のプロセスを開示することで、
「会社は自分を公平に扱ってくれている」と感じやすくなり、組織への信頼も高まるでしょう。

一方で、評価制度を導入しても形骸化してしまうと逆効果です。
たとえば評価基準だけがあっても、実際には上司が部下の長所や課題をまったく把握していない場合、部下は「やる気が削がれるだけ」と感じてしまいます。

したがって、日常的な声かけや小さな成功の共有を大事にする風土づくりが必要です。

業種・企業規模別の実践例

自己決定理論の取り組みは、業種や企業規模によって適用の仕方が少しずつ異なることも特徴的です。

たとえばスタートアップはもともと組織がフラットで裁量が大きいため、最初から自律性や関係性が満たされやすい環境といえます。
実際、社員数が増加する成長期に合わせてコミュニケーションや評価制度を整え、
企業理念を共有する取り組みを行うことで、一体感とエンゲージメントを維持する例が見られます。


一方、大企業のように階層が多く規則が整備されている場合は、
制度や研修を通して管理職を自主性支援型に育成し、現場レベルでSDTを根づかせる工夫が重要です。

また、IT企業は変化が激しく知的労働者が多いため、フレックスタイムやリモートワークなどの「自由度の高い働き方」を採用し、
有能感を高める学習・挑戦機会を豊富に用意しているところが目立ちます。


さらに、製造業のように安全やマニュアル重視の現場でも、トヨタ自動車発祥の改善提案制度や品質管理サークル(QCサークル)のように、
作業者一人ひとりが自主的に取り組む仕組みを取り入れることで個々の力を引き出す好例があります。

実際、全社が共通の価値観を持ちつつも現場の自主性を最大限尊重して成果につなげる取り組みは、
SDTの本質と非常に親和性が高いのです。

まとめ

最後に、SDTに基づくエンゲージメント施策を導入するうえでの重要なポイントと注意点を振り返りましょう。

まず、企業の経営理念や価値観を社員としっかり共有し、「自分の仕事がどんな意義につながるのか」を伝えることが不可欠です。
これができれば、社員は共感を得やすく、自律性有能感の基盤が築かれ、自然と「自発的に行動したい」と思うようになります。

さらに、管理職や経営層が率先して自主性支援型のマネジメントを実践し、部下や現場の声に耳を傾け、改善を続ける姿勢が重要です。もし組織内に「やらされ感」や「形だけの制度」が残っていると、どんなに制度や研修を導入しても、思うような効果は得られません。

また、社員はそれぞれ異なるため、一律のアプローチではなく、
1on1面談などを通じて個々のモチベーションタイプを見極める工夫が必要です。
こうした個別対応によって、より効果的なサポートが可能になります。

これらの点に注意しながらSDTの原則を取り入れ続ければ、
やがて「社員がイキイキと働き、組織としての成果も上がる」という好循環が生まれるはずです。

従業員と組織の双方に大きなメリットをもたらす点こそが、自己決定理論(SDT)の魅力の一つです。
ぜひできる部分から実践し、職場がより活気に満ちた場所へと進化していくことを願っています。

※組織の無料診断や採用のご相談はお気軽にしてください。
 LinkedInも更新しておりますのでこちらもぜひご覧ください。
 <<代表LinkedIn>>