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行動理念の“浸透”は【企業文化への投資】がカギ:LayerXの事例に学ぶ
「行動理念(行動指針)は掲げているけれど、正直なところ現場ではほとんど意識されていない気がする…」
「せっかく理念を定めても、気づけば社内の一部だけの合言葉になっている…」
こうした声は、事業が成長していく過程の企業や成熟期にある企業の人事担当者から頻繁に耳にします。
行動理念を策定した当初は、経営陣や幹部クラスの意識も高く、
何とか現場に浸透させたいと意気込むものの、いつの間にか“形骸化”してしまうのはなぜなのでしょうか。
近年、働き方の選択肢は増え、個人のキャリアも流動化しています。
「なぜ今この会社で、自分は働いているのか?」という問いを、より多くの人が持つようになりました。
それだけに、企業が目指すゴールを示しそれに伴う具体的な行動理念を整えることは、
一人ひとりのモチベーションや働きがいを高めるうえでも大切です。
とはいえ、実際に行動理念を“浸透”させるのはそう簡単ではありません。
そこで参考にしたいのが、LayerXという企業の事例です。
LayerXは、「すべての経済活動をデジタル化する」というビジョンのもと、
企業文化を事業戦略と同じか、あるいはそれ以上に重要視し、投資されています。
中でも「羅針盤」と呼ばれるカルチャーブックを使ったアプローチは、
行動理念を具体化し、組織の全員が共有・体現できるように工夫された参考にすべき事例です。
この記事では、LayerXの取り組みを紐解きながら、行動理念が形骸化しやすい原因、企業文化への投資がもたらす効果、そしてカルチャーブック(羅針盤)を活用するメリットを整理していきます。
行動理念を“掲げるだけ”で終わらせず、実際に社内で運用し、根づかせるためのヒントを探っていきましょう。
Contents
行動理念が形骸化する原因
言葉だけの理念になりがち
どの企業にも「うちはこんなバリューを大事にしています」「私たちの行動理念は○○です」という形で、経営理念や行動指針を掲げていることが多いでしょう。ところが、それらが現場レベルまで浸透しきっていないケースは珍しくありません。
たとえば「挑戦を歓迎する」などの抽象的なフレーズだけでは、具体的にどんな行動が“挑戦”とみなされるのか、社員1人ひとりの理解度がバラつきがちです。結局、「それって具体的にどういうこと?」という疑問が解消されず、理念はあっても実際の行動に落とし込まれないという状況が生まれます。
また、経営陣や一部のリーダー層だけが声高に行動理念を唱えていても、日常の会話や評価プロセス、意思決定などに反映されないと、社員たちは「結局は口先だけ」と受け取りがちです。こうしたギャップが続くと、せっかく定義した行動理念が形だけの存在になり、社内で見向きもされなくなってしまいます。
急速な組織拡大による価値観のブレ
少人数の組織であれば、代表者の考えや会社の大切にしたい価値観が、日々の業務を通じて自然に共有されやすいものです。ところが、ある程度の規模になると、新しく入社する社員が増え、部署やチームによって文化が微妙に異なる、いわゆるサブカルチャーが発生しやすくなります。
さらに採用においては、十分なオンボーディングを実施する時間も取れず、企業文化や行動理念を口頭や雰囲気だけで伝えることに限界が生じてきます。結果、価値観の共有が曖昧なまま部署ごとに“暗黙のルール”が積み上がり、組織全体の一体感が失われてしまうのです。
企業文化への投資がもたらす効果
意思決定と行動のスピードアップ
明確な行動理念が現場にまで浸透している組織では、「この状況で自分はどう行動すべきか?」という判断がしやすくなります。特に変化の激しい近年では、いかに迅速に意思決定を行い、実行に移せるかが大きな差を生みます。
行動指針を軸に、誰もが判断の基準を共有していれば、上長にいちいちお伺いを立てなくても、ある程度の方向感をもって進められるはずです。組織全体にとっては“決裁スピードの向上”につながり、結果的に新しい試みにチャレンジしやすい土壌ができあがります。
社員のエンゲージメント向上
社員が会社の理念に共感し、「自分の行動や働き方は、この理念とつながっている」と実感できると、仕事へのモチベーションや責任感は自然と高まります。逆に行動理念があやふやだったり、経営層しか知らなかったりすると、自分が何のためにがんばっているのかが見えづらくなるのです。
日々の業務に追われるなかでも「会社のゴールと自分の将来像がリンクしている」「この組織でなら、自分の成長が期待できる」と感じられれば、社員にとってその企業は長く働きたい場所となるでしょう。優秀な人材ほど“納得感”を大事にする時代だからこそ、企業文化への投資は結果的に高いエンゲージメントを育む投資でもあるわけです。
採用・定着力の強化
採用面でも、行動理念や企業文化の明確さは大きなアドバンテージになります。応募者は「この会社はどんな価値観のもとで働いているのか?」をしっかりチェックしており、言葉と行動が一致していれば「ここなら自分に合いそう」と安心材料になります。
また定着面でも、理念が曖昧な組織にいると社員の中に「なんだか肌に合わない」「会社の方向性が見えない」という不満が蓄積しやすく、早期離職につながるリスクがあります。逆に企業文化とマッチしていれば、社員同士が自然に協力し合い、離職率の低さやチームの連携力につながりやすいのです。
LayerXの事例:羅針盤とは何か
企業文化を可視化するカルチャーブック
LayerXは「すべての経済活動をデジタル化する」というビジョンを掲げ、急成長を遂げている企業です。事業戦略と並行して、またはそれ以上に「企業文化への投資」を重視しており、その一環として導入しているのがカルチャーブック「羅針盤」です。
メルカリをはじめとする急成長企業の多くがバリュー(行動指針)を組織運営の根幹に据えています。LayerXも同様に、行動理念を明確化し、それを“使えるツール”としてアップデートし続けるために、カルチャーブックを活用しています。
羅針盤のコンセプトと作成プロセス
「羅針盤」は、その名の通り、社員が迷ったときや判断に悩んだときに参照できる“指針”として機能します。抽象的な理念だけでなく、「この行動はLayerXっぽい」「これはLayerXらしくない」といった具体例を示すことで、日々の業務において“判断軸”として活用できるように作られているのが特徴です。
さらに、入社初日や1ヶ月後に時間をとって、「羅針盤」に沿った企業文化の説明をしっかり行うとのことです。社員が増加し、従業員数が100名を超えた段階で、口頭伝達や雰囲気だけの共有では限界があると感じたCEOがこれをカバーする方法として打ち出したのが「資料(スライドや動画)による明確化」でした。
コミュニケーションと評価への落とし込み
「羅針盤」は、単に“ドキュメントを作って社内共有した”で終わらず、1on1や日常のフィードバック機会に積極的に取り入れられているのがポイントです。たとえば、
- 「最近の業務で、どんな行動がLayerXらしいと感じた?」
- 「先月のプロジェクトで、何がLayerXらしくなかったと思う?」
など、具体的なシーンと照らし合わせながら振り返ることで、“形骸化”を防いでいるそうです。社員数が増えるほど、全員が同じ価値観を共有し、行動理念を実践するのは難しくなりますが、こうした運用の仕組みがあれば浸透度を維持しやすいというわけです。
羅針盤を活用するメリット
行動理念の“具体化”で認識のズレを解消
行動理念は、どうしても抽象的な表現になりやすいもの。しかし「羅針盤」のようにカルチャーブックという形で具体的な行動例やエピソードを可視化すると、社員が共通のイメージを持ちやすくなるメリットがあります。
「“挑戦を歓迎する”とは、会議で新しいアイデアを出すときに批判されるのではなく、建設的なフィードバックが帰ってくる雰囲気がある」というように、言葉だけでなく行動シーンを示すことで、認識のズレを大幅に減らせます。これは、部署や職種、入社時期などが違っていても、目指すべき姿を同じフレームワークで考えられるという点で大きいです。
部署横断の連携強化
組織が大きくなると、どうしても部署ごとの方針や空気感が出てきます。
それ自体は自然なことですが、共通の価値観や行動理念がないまま放置されると、
「あの部署とウチは相性が悪い」「あのチームはやり方が違うから理解できない」といった対立やミスコミュニケーションを生みやすくなります。
その点、同じ“羅針盤”を社内全体で共有しておけば、少なくとも行動基準の根っこにある価値観は一致している状態がつくりやすくなります。
相手がどんな基準で物事を考えているのか、どんな姿勢を重視しているのかがわかると、スムーズに共通言語でコミュニケーションできるのです。
自然な“アップデート”を促す文化
行動理念やバリューは、一度決めたらそのまま動かせないものではありません。
むしろ市場環境や組織構造の変化に合わせて、適宜アップデートしていくことが理想的です。
しかし、実際には「作ったけど放置してしまった」というケースが多いでしょう。
LayerXの場合、「羅針盤」を日常的に参照しているため、現場レベルの変化や改善要望を拾いやすくなっていると考えられます。
社員から「最近、こういう行動指針も必要かもしれない」という意見が出やすくなり、
経営陣も「では、ここを調整しよう」といった具合に柔軟なアップデートがしやすい仕組みが生まれます。
こうした企業文化は、変化が激しいビジネス環境で生き残るうえでも大きな強みとなるはずです。
まず一歩を踏み出すためのステップ
自社の行動理念を再確認する
もし今すでに行動理念やバリューを掲げているのであれば、まずはそれを再確認することから始めましょう。改めて眺めてみて、「現場の実態や価値観と合っているか?」「現在の会社の規模やフェーズにフィットしているか?」を点検します。
- そもそも誰が作ったのか、不明確になっていないか
- 具体的に“行動例”として示せるか
- 社員が理解しやすい言葉で書かれているか
こうした視点で洗い出し、必要であればバリューの再定義や文言の見直しも検討しましょう。
カルチャーブックや共通資料の作成
次のステップとして、LayerXの「羅針盤」のように、行動理念を可視化するための資料(カルチャーブックなど)を作成してみるのがおすすめです。ポイントは、「社員がいつでも見返せる状態を作る」ことと、「抽象的な理念を具体的な行動やエピソードに落とし込む」こと。
- スライドや動画、Webページなど、形式は自由
- 実際の成功事例・失敗事例を“行動指針”の視点で整理
- 新入社員研修の中で読み込んでもらう仕掛け
特に新入社員にとっては、初期のオンボーディングで企業文化を理解するかしないかが、
その後の働き方や定着率に大きく影響すると言われています。
カルチャーブックがあれば、雰囲気や口伝えだけでは伝わりづらいニュアンスを補足できるでしょう。
評価や研修とつなぎ、運用サイクルを回す
カルチャーブックを作っただけで満足してしまうと、いつかは“読み物”になって終わりかねません。
そこで、人事評価や研修プログラムのなかで活用する工夫が欠かせません。たとえば、
- 評価シートに行動理念の項目を組み込み、「どの程度体現できていたか」を面談で話し合う
- 半年ごとや四半期ごとの研修やワークショップで、カルチャーブックを参照しながら事例共有
- 1on1やチームミーティングで、「最近どこがバリューっぽかった?」とフィードバックの話題にする
こうした運用サイクルを回すことで、行動理念が**“使われる”存在**として定着しやすくなります。
社員の声を拾いながら改善を続ける
最初から完璧な行動理念やカルチャーブックを作る必要はありません。
むしろ、社内の状況や事業環境に合わせて柔軟にアップデートしていく姿勢が大切です。
- 社員から「ここの表現が分かりにくい」「もっとこういう価値観を付け足したい」という意見を募集する
- 定期的にカルチャーブック見直しの機会をつくる
- 社員の成功エピソードや学びを共有し、ドキュメントに追加・改訂する
こうしたプロセスを経ることで、行動理念が社員にとって“自分ごと”になり、会社全体で共有する文化へと育っていきます。
まとめ:行動理念を“浸透”させるために大切なこと
企業文化を投資対象と捉える視点
LayerXのように、企業文化への投資を事業戦略と同じレベルで重視する発想は、これからの時代においてますます重要になると考えられます。新しいプロダクトやサービスをリリースするときと同じように、企業文化を育む仕組みにもコストと時間を投下しているからこそ、行動理念の“浸透”が実現しやすいのです。
“掲げる”だけで終わらせない工夫
行動理念やバリューは“壁に貼るだけ”社内資料に書くだけ”では何の意味もありません。
- 具体的な行動例の提示
- カルチャーブックの活用
- 評価や研修への連動
- 社員同士のフィードバック機会の設計
これらの仕組みを総合的に整え、「いつでも、誰でも、自然に理念に触れられる状態」をつくることこそが、
形骸化しないバリュー運用の秘訣です。
変化を続ける組織をつくるために
行動理念は、会社の成長ステージやマーケットの変化に合わせて、少しずつアップデートし続けることが望ましいでしょう。
最初から完成を目指すのではなく、社員の声を反映しながら少しずつブラッシュアップすることで、その組織らしさが現場に根づき、
“常に進化し続ける文化”を育むことができます。
市場環境が目まぐるしく変わるいま、“変化できる”組織が強いとよく言われます。
行動理念を軸に全員が同じ方向を見つつも、新たなチャレンジを歓迎し、必要に応じて価値観をアップデートしていく。
LayerXの「羅針盤」やカルチャーブックのアプローチは多くの示唆を与えてくれるはずです。
行動理念を浸透させるには、少なからず手間と時間を要します。
しかし、掲げるだけで終わらせず、運用・改善を繰り返すことで、組織の強みそのものを手に入れることができるとも言えます。
ぜひ本記事を参考に、自社の理念を改めて見直し、カルチャーブックや共通資料の作成にチャレンジしてみてください。
そこから生まれるのは、表面的なスローガンではなく、社員一人ひとりが体現する“生きた行動理念”となるはずです。
ここまでお読み頂きありがとうございました。
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