今、リーダーシップについて悩まれている方はいますでしょうか?

部下を持つ方は大体一度は悩まれたことがあるのではないでしょうか。

リーダーシップと一言で言っても「これ」という正解はありません。
しかしいわゆるリーダーシップとは「カリスマ性を持った人物が一人でその他大勢をまとめ従える」という像を想像されるのではないでしょうか。
しかし、実は現代のリーダーシップ像は変化しつつあるのです。

今回は、そんなリーダーシップ理論の中でも、特に注目されている「経験学習リーダーシップ」というものについてご紹介いたします。

初めて部下を持つことになった新任マネージャーのような方はもちろん、管理職になって長年というベテランの方にもぜひ知っていただきたい内容となっておりますので、ぜひ最後まで読んでいただけますと幸いです。

経験学習リーダーシップとは

そもそも「経験学習リーダーシップ」ってなに?と思われる方も多いのではないでしょうか。

経験学習リーダーシップとは、メンバーが自らの経験から学べるように支援する指導方法を指します。
この方法では、個人が具体的な経験を通じて学び、その経験を内省し、理論化し、実践に活かすプロセスを重視するという点が特徴です。
経験学習リーダーシップは、アメリカの組織行動学者であるデイビット・A・コルブが提唱した「経験学習サイクル理論」に基づいてつくられたものですが、
この理論についてはご存じの方も多いのではないでしょうか。


経験学習サイクル理論

教育だけでなくビジネスのトレーニングや個人の自己開発にも広く応用されるようになったこの理論は、
経験・内省・概念化・実践という4つの段階からなるサイクルで構成されています。

経験(実際に自分が体験する)→内省(成功・失敗問わずなぜそうなったのかを俯瞰的にとらえ分析する)→概念化(知識として落とし込み応用できるようにする)→実践(概念化した知識を活かす)というサイクルを回すことで、人は経験から学び、そして次に生かすことができるというものです。

経験学習リーダーシップは、この理論をベースに部下が経験を内省・概念化・そして実践することで、
自律的に成長できるよう支援をする手法なのです。

経験学習リーダーシップが注目される理由

なぜ今経験学習リーダーシップがマネジメントにおいて重要であると言われているのでしょうか。

そもそも人の成長の7割は経験によって決まるといわれています。様々な経験から得たスキル、知識、考え方がその人の能力を形成するのです。しかし、同じ経験をしても大きく成長する人もいれば、成長しない人もいるというのが現実です。なぜそのような違いが生まれるかというと、「経験から吸収する力」の違いが発生していると言えます。
松尾睦氏(著:職場が生きる 人が育つ「経験学習」入門)は、経験から吸収する力について以下のように語っています。

”適切な「思い」と「つながり」を大切にし、「挑戦し、振り返り、楽しみながら」仕事をするとき、経験から多くのことを学ぶことができる”

つまり、仕事に対して信念を持ち、職場内外の他者とつながりを持ち、それを土台に
して新たな仕事に取り組み、内省し、やりがいや意義を見つけるとき、人は経験から多くのことを学ぶことができるということです。
確かに、自分が前向きに仕事に向き合えている時の方が、積極的に学ぼうとしますし多くのことを経験しようと考えるのはごく当たり前のことだと感じます。

しかし、人は自分の力だけで成長することはできません。
特に新人の場合は何をどのように学べばいいのかすら分からないのが普通です。
そんな時必要なのが上司による支援なのです。
松尾氏も著書に「育て上手と言われる人たちは経験から学ぶ力を高めることが上手い人である」と記しています。
このような理由から、経験学習リーダーシップが現代のマネジメント手法に適しているとされているのです。

経験学習リーダーシップの実践プロセス

ここからは実際に経験学習リーダーシップを実践するプロセスをご紹介いたしますので、このステップで行ってみてください。
よくありがちな失敗例も合わせてお伝えしますので、「自分も同じような失敗をやってしまっていないか?」と普段の自分の言動を振り返りながら読んでいただけると、より効果的かと思います。

部下の強みを探る

よくマネジメントでありがちなのが「部下の弱みばかり指摘する」こと。
もちろん間違いを正してあげることは必要なのですが、今回の経験学習リーダーシップにおいてはやるべきではありません。
部下それぞれの強みを探り把握してあげることが重要です。
理由はシンプルで、「弱みを克服するよりも、強みを伸ばすほうが、成長につながりやすいから」です。
(ここでいう弱みは、いくら頑張っても完全に克服することが難しい「先天的な弱み」を指します。)

たとえば、Aさんは人とコミュニケーションをとることは得意ですがデータ分析など数字を扱うのは苦手ということがよくあると思います。もちろん慣れてくるとある程度数字に強くなりますが、それでも苦手意識を消すことはなかなか難しいと思われます。この場合Aさんに分析業務を任せるより、営業にアサインする方が成長に繋がりやすそうというのは明らかです。
さらに上記の場合、部下のモチベーションにも影響を与えます。
苦手なものを進んで行えるような人はなかなかいませんよね。先ほどのAさんでいうと、苦手な分析業務を毎日やらなければいけないとなると、だんだんモチベーションが下がっていくはずです。モチベーションが下がると仕事に対する熱意も失われていき、経験から学ぶ力が養われることはありません。
こういった理由から、部下の強みを的確に把握し最適な仕事にアサインすることが重要なのです。

では、実際どのようにして部下の強みを探ればよいのでしょうか。
そもそも強みには「見える強み」と「潜在的な強み」が存在しています。
見える強みはすでに普段から活用されている強みで、潜在的な強みはまだ本人も自覚していないレベルの強みとなります。
私のお客様でも、特定の部下の強みが分からず悩まれる方がいらっしゃいますが、そういった場合においては、潜在的な強みを見逃していることがほとんどです。
たとえば営業部門にいたBさんは営業成績も悪く上司からも見放されていましたが、経理部に異動になったとたん、非常に細かくかつ丁寧な仕事ぶりが評価されたという事例があります。
だれしも強みは必ずあると私は信じています。だからこそ、諦めずに上司であるあなたが部下の強みを引き出してあげてほしいのです。

では実際の強みの探し方についてですが、事例とともに以下にまとめておきます。

情報収集は部下との雑談やプライベートの話、もしくは部下の同僚や元上司から話を聞くことで強みを探す手法です。
雑談というとあまり意味がないように感じられそうですが、雑談にこそ会社では見られない強みが隠されている可能性があります。
ここで40代の主婦さんを部下に持つ方の事例を挙げます。
普段は時短で働かれているため、強みが分かりづらい部下の一人でした。
しかし、雑談を通して地域の子ども会の会長を任されたこと、前任者から引き継ぎをしていること、現在は子ども会の問題解決をしているということを知り、マルチタスクが得意であることが分かったそうです。
そこから複数の仕事を彼女に任せるようにしたところ、メキメキと能力を伸ばしていきました。
このように、些細な情報でもアンテナを張っておくことで予想外の強みを見つけられるかもしれません。
この手法は、時短等で物理的に関わる時間が少ないメンバーなどに効果的です。

仕事の観察は、今まで部下がしてきた成功体験から探ったり、まずは様々な仕事を任せてみて様子を見るというやり方になります。
たとえば休職後異動したてのメンバーに、エクセルを使った簡単な入力業務をお願いし徐々に難易度の高い分析業務を依頼するようにしたところ、自分でエクセル検定を受けるなど、自らどんどんスキルを伸ばしていったという事例があります。
この時重要なのは「褒めること」「完全に任せてみること」です。
一つできるようになったら、「さすが〇〇さん!」というふうに褒めてあげることを意識してください。これによりモチベーションが上がり、本人のやる気に繋がります。
また完全に仕事を任せることで、頼られていると認識させやる気を挙げることも重要です。
この手法は、責任感が強く頼られることが好きなタイプに効果的となります。

部下からの情報というのは、直接部下から情報を得るということです。
たとえば、「普段友人や家族からどんな性格と言われますか?」のように質問することで、
親しい関係性の人間にどう見られているのかを確認することができます。
また、たとえば中途社員や異動したての部下についてはまだまだ情報が不足しています。
そのような場合は、過去にどのような業務を経験し、どんな知識やスキルを獲得し
たかについて、時系列でまとめた「仕事経験レビュー」を書いてもらえば、その人が持っている強みのヒントが得られるはずです。

成功体験も振り返りさせる

よく上司が部下に言うセリフとして、「なんで失敗したか考えて反省しなさい」というものがあると思います。
もちろん、仕事上の問題点や失敗したことを振り返り、問題を解決し、同じような失敗を二度と繰り返さないようにすることは大事です。
問題なのは、問題や失敗だけを振り返らせることにあります。
育て上手のマネジャーたちは、問題や失敗だけでなく、上手くいったことや成功も振り返らせることで部下が持つ強みを引き出しています。
ではなぜ成功を振り返る必要があるのでしょうか。ポイントは「再現性」にあると考えています。
成功体験には「その人の強み」が現れていることが多く、なぜ成功したか理解することは自分の強みを理解することになります。
そして、なぜ成功したかを概念化し自分の中に落とし込めれば、次また同じ事象が発生した際にも、同じように成功することができるのです。
再現性を高めることはビジネスにおいて非常に重要です。だからこそ、成功体験はしっかりと振り返らせるようにしましょう。

中堅メンバーと連携する

マネジメントを行う際失敗しがちなのが「すべての業務を自分一人で請け負おうとする」ということです。
責任感のある人ほど、他部署との交渉、会議のファシリテーション、部下の育成、進捗管理、業務改善、将来の課題形成等、すべてのマネジメント業務を1人で引き受ける傾向があります。
しかし、すべての業務を自分で仕切ろうとすると、マネジャー自身がつぶれてしまう危険性があるだけでなく、管理職候補である中堅社員が育ちません。
そのような際は、職場の中堅メンバーと連携しながら、ビジョンを共有することを意識してください。
中堅メンバーにマネジメントの一部を任せ、理念やビジョンを共有することでメンバーの行動を方向づけることを目的としています。
こうすることで中堅や若手が成長し、さらには職場のコミュニケーションも改善するかもしれません。
以前までのリーダーシップ像は、すべての業務を一人で負うような「英雄型リーダーシップモデル」と呼ばれるものでしたが、近年の人材不足の状況において、そのモデルは限界を迎えています。
現在は、複数のメンバーがリーダーシップ機能を分担する「共有型リーダーシップ」や、メンバーが主体的に動く「フォロワーシップ」が主流であり、この形が人材の成長をうながし結果的に会社の成長にも繋がると考えられているのです。

最後に

経験学習リーダーシップについてお話してきましたがいかがでしたか?
冒頭で、リーダーシップとはカリスマ性のある人物がその他大勢をまとめるといった
英雄型リーダーシップを想像してしまうとお伝えしましたが、今や真逆のリーダーシップ像になりつつあります。
自分にはカリスマ性なんかないからマネジメントなんて無理だと思われている方は多くいらっしゃいますが、実は現代においては必要ありません。
今回の記事が皆さんのお役に立てていれば幸いです。