
オーセンティックリーダーシップのすすめ
最近、「チームを率いる立場になったものの、どこまで自分をさらけ出してよいのか」
「組織の方針と自分の信念がズレている気がして悩む」といった声を耳にする機会が増えているように感じます。
周囲の期待と自身が思い描くリーダー像との間で葛藤が生まれ、本来の自分を押し殺してしまうこともあるのではないでしょうか。
さらには、新しく採用した人材が思うように定着せず、早々に離職してしまうというケースも少なくありません。
こうした状況の中で、「どうすれば部下に信頼されるリーダーになれるのか」や
「自分のやり方で組織を導いてよいのだろうか」と、模索されている方も多いのではないでしょうか。
そんなときに注目されるのが、「自分らしさ」「本物らしさ」に焦点を当てたオーセンティックリーダーシップです。
これは、形式的な理想像を演じるのではなく、自分自身の価値観や信念を軸に行動するリーダー像を指します。
最近は企業や行政など、さまざまな組織で「信頼できるリーダー」
「人間としての誠実さを重んじるリーダー」がより一層求められるようになってきました。
本稿では、オーセンティックリーダーシップの基本概念から具体的な実践ステップ、
導入事例や最新研究動向を踏まえ、「自分らしさを失わずに組織を導きたい」と願うリーダーの方々へヒントをお伝えします。
Contents
オーセンティックリーダーシップとは何か
「オーセンティック(Authentic)」とは、「真正」「本物」などを意味する言葉です。
オーセンティックリーダーシップは、その言葉どおり「リーダー自身が持つ価値観や信念を偽りなく発揮すること」
に重きを置いたリーダーシップ・スタイルを指します。
多くの解説では、以下の4要素が核となるとされています。
- 自己認識(Self-awareness)
自分の強みや弱みを正確に理解し、周囲からのフィードバックに対しても開かれた態度で受け止めることを重視します。
リーダー自身が「自分は何者か」を深く掘り下げることで、行動に一貫性が生まれやすくなります。
- 関係性の透明性(Relational transparency)
部下や同僚、上司との間で、率直なコミュニケーションを行う姿勢を指します。
自分の考えや感情を隠しすぎることなく、適度にオープンにすることで、相手との信頼関係を築きやすくします。
- バランスの取れた意思決定(Balanced processing)
物事を判断するときに、個人的な先入観に流されすぎず、さまざまな意見を尊重しながら結論を導き出す姿勢です。
賛成・反対の双方に耳を傾け、公平な視点を保つよう努めることで、部下は「このリーダーは耳を傾けてくれる」と安心感を得ます。
- 内在化された道徳観(Internalized moral perspective)
社会的な圧力や周囲の意見に左右されることなく、自分の倫理観に忠実であろうとする姿勢を示します。
外部からのプレッシャーに流されない「芯の強さ」が、組織全体に安心感や方向性を与えることにつながるのです。
リーダーがこれらの要素を備えることで、演技や取り繕いではない「本音のリーダーシップ」が形づくられます。
理想的に見える立ち居振る舞いを無理に真似るのではなく、自分自身の内面から湧き出るリーダーシップを発揮することが重要です。

自己理解から始まるオーセンティックリーダーシップ
「自分らしくリーダーシップを発揮したい」と思っても、いきなり行動レベルで変化を起こすのはなかなか難しいものです。
まず大切なのは、「自分という存在を正しく理解する」ことから始めるステップです。
たとえば以下の方法は、多くのリーダーが実践している自己認識向上のアプローチとして知られています。
- 強み・才能の棚卸し
過去の成功体験を振り返ってみましょう。大きなプロジェクトで成果を出したとき、どんな能力を発揮していたのか。
普段の業務で周囲から「助かる」と言われる部分は何か。
こうした情報をまとめ、自分が自然とできることを再確認すると、自分ならではの「強み」がクリアになります。
- 価値観の明確化
「自分が最も大切にしていることは何か」をあえて書き出し、自分なりの優先順位をつけてみます。
仕事の進め方ひとつとっても、「効率性を重視」「メンバーの成長を重視」など、そこには人それぞれ異なる価値観があるはずです。
この“価値観のリスト”が、日々の意思決定においてブレない指針となっていきます。
- 周囲からのフィードバック収集
いわゆる360度フィードバックを活用したり、信頼できる同僚や部下に「自分のリーダーシップの良い点・改善点」を率直に聞いてみるのも効果的です。
自分では気づかない“当たり前にできている強み”や、“無自覚なクセ”を発見するきっかけになります。
- パーソナルストーリーの活用
リーダーとしての意義や使命感を形づくるのに、自分の人生経験から得た学びは欠かせません。
成功談だけでなく、失敗談や葛藤の経験も貴重な財産です。部下とコミュニケーションをとる際、
自分の過去のストーリーを共有すると、「上司も悩みや挫折を経験しているんだ」と親近感や共感を生みやすくなります。
- 弱みを開示する
「弱みを開示すると部下に舐められるのでは?」と不安になる方もいるでしょう。
しかし、実際には“あえて弱みを隠さない”リーダーのほうが、
部下から見ると「本音で向き合ってくれる人だ」と認識され、心理的安全性が高まるという報告もあります。
完璧なリーダー像を演じるよりも、人間味のある姿を見せたほうがチームの信頼関係は深まりやすいのです。
また、個人だけでなく、組織がリーダー育成の研修やコーチングプログラムを用意している場合は積極的に活用してみましょう。
自分だけで悩みを抱えず、専門家や同じ境遇のリーダー仲間と意見交換をすることで、
一層スムーズに「自分らしいリーダー像」を確立できるはずです。

組織での活用事例と得られるメリット
オーセンティックリーダーシップを取り入れた結果、どのような変化やメリットが得られるのでしょうか。
ここでは、著名なリーダーや企業の具体的な事例をもとに、その効果をイメージしてみます。
たとえば、世界的投資家のウォーレン・バフェット氏は、毎年の株主宛て書簡などで自らの失敗や判断ミスを率直に公表する姿勢で有名です。
一般的には「失敗は隠したい」と思うところを逆にオープンに共有するため、株主や社員から高い信頼を集めています。
これはまさに、“関係性の透明性”を重んじるオーセンティックリーダーシップの象徴的な例といえるでしょう。
また、カリスマ的リーダーとして語り継がれるApple創業者のスティーブ・ジョブズ氏は、
大学での講演において自らの余命宣告や過去の挫折を赤裸々に語り、大きな共感を得ました。
成功だけでなく苦難や葛藤を隠さないその“本物らしさ”が、
部下やファンに「この人に付いていけば面白い未来が切り拓ける」と強く思わせたのです。
さらに、ある医療機器メーカーでは、幹部が自身のキャリアストーリーや人生観を社員に積極的に共有しながら
「社員を共に成長するパートナー」として尊重したことで、離職率が低下し、チーム全体のエンゲージメントも向上したといわれています。
幹部が自分のストーリーをオープンにし、社員の声をこまめに拾い上げる姿勢を徹底した結果、
「自分が尊重されている」という実感を社員たちが得られたのです。
こうした事例に共通するのは、リーダーが“演じていない”という点です。
装飾を取り払った「自分」を見せることが、部下との信頼や安心感を生む大きな要因となります。
上司が自分の失敗や弱点をオープンに語れる文化は、
部下にとっても「失敗しても挑戦を歓迎してもらえる場所だ」との確信を育みます。
その結果、チーム全体の主体性やイノベーションが促され、組織としてのパフォーマンス向上にもつながるのです。
最新研究が示す効果と他のリーダーシップ理論との比較
近年、オーセンティックリーダーシップは様々な研究で取り上げられ、
そこでは「リーダーの誠実さや自己一致が従業員エンゲージメントを高め、組織全体の成果に良い影響を及ぼす」といった実証結果が数多く報告されています。
心理的安全性や職務満足度の向上、離職抑制などの点でプラスに働くケースが多いとされ、
特に看護や教育など人を支援する現場で顕著な効果が見られるというデータもあります。
同時によく取り上げられるのが、他のリーダーシップ理論との比較です。たとえば、
- トランスフォーメーショナル(変革型)リーダーシップ
ビジョンの提示やカリスマ性によって組織を大きく変革し、部下を鼓舞するスタイル - サーバント(奉仕型)リーダーシップ:
部下への奉仕と支援を通じて、メンバーの成長と組織の発展を導くスタイル
これらと比べたとき、オーセンティックリーダーシップは「リーダーの内面・価値観の一貫性」に特にフォーカスする点が特徴です。
一方で、変革型や奉仕型と対立するわけではなく、むしろ補完し合える要素も少なくありません。
たとえば、「自分らしさを保ちつつ高いビジョンを語る」ことや、
「誠実なコミュニケーションで部下を支えつつ、必要な時には毅然とビジョンを提示する」
といった融合的なアプローチが有効とされています。
さらに、AIが進化しリモートワークが広がる現代では、
リーダーの意思決定や説明責任に対する透明性がいっそう重要になってきています。
遠隔地とのコミュニケーションが増えると、「一貫性ある言動で信頼関係を築くリーダー」こそが組織を安定させるカギとなります。
画面越しでも伝わるのは、結局のところリーダーの“人柄”や“真摯さ”であるため、
オーセンティックリーダーシップの価値はますます高まっていると言えるでしょう。
まとめと今後への展望
オーセンティックリーダーシップは、「リーダー自身の価値観や信念を起点にしながら、誠実さと透明性をもって組織を導く」スタイルと整理できます。
そこではリーダーの弱みや失敗経験さえも貴重な財産となり、部下との信頼関係を深める材料になることが大きな特徴です。
何かと成果やスピードが重視されがちな現代ですが、実際には「このリーダーは信用できるか」
「本音でぶつかってくれるか」といった人間的な要素こそが組織の長期的発展を支える基盤となります。
ただし、リーダー自身がどれだけ自分らしさを発揮したくても、
組織風土が「トップダウンばかりで自由に発言できない」「失敗を許容しない」という状態だと、実践は難しいかもしれません。
ですから、リーダー個人の努力だけでなく、企業文化として「多様な意見を歓迎する」「対話を大事にする」仕組みを整えることも欠かせません。
具体的には、1on1ミーティングの定期実施や、メンター制度・コーチングの充実、社内での価値観共有セッションなどが一例として挙げられます。
もちろん、オーセンティックリーダーシップがすべての課題を解決する万能薬というわけではありません。
しかし、自分らしいリーダーシップを追求していく過程で培われる「自己理解」と「周囲への誠実な姿勢」は、どんな組織でも生かせる普遍的な要素です。
もし今、リーダーとして「どう振る舞うのが正解かわからない」「上司の型を真似してみたがしっくりこない」と感じているのであれば、
一度自分が大切にしたい価値観や、過去の成功・失敗の経験をじっくり整理してみてはいかがでしょうか。
本質を貫くリーダーになるための第一歩は、表面的なテクニックではなく、「自分自身との対話」から始まるのかもしれません。
さらに、オーセンティックリーダーシップを組織全体に浸透させるためには、
リーダーだけでなく、メンバー一人ひとりが自身の価値観を理解し、尊重しあう文化を醸成することが重要です。
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