最近、企業を取り巻く環境が急速に変化していることを、日々の業務の中で感じている方が多いかもしれません。

事業の拡大や新しい市場への参入、リモートワークの普及など、これまでにないスピードで進行する変革に対応するためには、従来の人事業務だけでは限界が見えてきています。

そんな中で注目されているのが、「HRBP(ヒューマンリソースビジネスパートナー)」という役割です。

HRBPは、経営に密接に寄り添い、人事戦略をビジネスと結びつけるパートナーです。

従来の人事部門とは異なり、経営陣や各事業部と協力しながら、組織の課題を戦略的に解決するポジションです。

具体的には、

  • リーダー候補の育成方針を立てる
  • 部署を超えたプロジェクトを推進する

といったように、人と組織に関する幅広い問題について「どうすれば会社の成長につながるか」を考えることが求められます。

この視点を取り入れることで、

  • 人事が経営の後追いにならず
  • 経営と共に未来を描き
  • 先手を打って施策を実行する

役割を果たせるようになります。

一方で、「HRBPは大企業だけの話では?」と感じる方もいるかもしれません。

しかし、現場と経営を結びつける仕組みは、企業の規模に関わらず必要とされています。

たとえば、

  • 事業拡大に合わせた採用や育成を計画的に行う
  • 新たに導入した制度が現場で機能しているかを検証する
  • 組織文化を魅力的にブラッシュアップする

など、人事の視点が多様化する今、HRBPを導入する意義は十分にあると言えるでしょう。

海外で注目を集めるHRBP

海外では、企業の経営戦略そのものを人事がリードするケースが年々増えてきています。

その背景にあるのは、市場環境の変化がとにかく激しいということ。

たとえばIT業界では、テクノロジーの進化や顧客ニーズの移り変わりがとても速く
採用や育成だけじゃなく、組織そのものの形をすばやく変えていかないと、競争に勝てない状況が当たり前になってきています。

そうした中で求められているのが、単なる労務管理や採用人数の調整にとどまらず
「どの部門に、どんな人材を、いつ、どんな形で確保して活かすか」を、経営と一緒に真剣に考えることです。

ここでカギになるのが、人事の専門知識だけでなく、
事業の数値目標、マーケティング戦略、現場のリアルな課題やニーズまで、幅広く把握できる力

HRBPは、そうした総合力を活かして経営層に提案し、さらに現場と連携しながら実行に移していく推進役でもあります。

海外の企業では、HRBPを「戦略コンサルタント」に近いポジションとして捉えているところも多いです。

たとえば、
「この部門に今必要なリーダー像って?」「カルチャー変革を進めるなら、どんなステップを踏むと効果的?」
といったことを、経営データなども参考にしながら企画・実行していきます。

さらに、海外では多様なバックグラウンドを持つ人が集まりやすいので、
社内のコミュニケーションやチームワークをスムーズにすることも、人事にとって大切なミッションのひとつです。

HRBPは、チームや拠点の壁を越えて人と人をつなぐ調整役として動いたり、
必要に応じてプロジェクトを立ち上げて組織の変革を進めたりもしています。

こうした先進的な取り組みが広がる中で、HRBPへの期待やニーズが高まっています。

海外企業のHRBP活用事例

海外では、HRBPが導入されているシーンや、その活躍のあり方は実に多様です。

たとえば、あるグローバルメーカーでは、各部門に1名ずつHRBPを配置しつつ、経営課題の優先度に応じて他部門のHRBPを柔軟にアサインできる仕組みを整備しました。
これにより、特定の課題に対して人事リソースを集中的に投入できるだけでなく、部門間の情報共有や横断的な連携の強化といった効果も得られています。

また、別の大手IT企業では、HRBPが定期的に別部門へ“短期留学”する制度を導入。
日常業務とは異なる業務に触れることで、事業理解の深化と社内ネットワークの構築を後押ししています。
その結果、各HRBPが経営と現場の両面をバランスよく理解できるようになり組織全体の課題をより広い視野で捉える力が向上したと報告されています。

金融サービス企業の事例では、HRBPを「ピープルビジネスパートナー」と再定義し、役割と期待値を明確化したことで、組織内の混乱が大きく減少し、経営層との連携も円滑になったという成果が出ています。
導入前は、HRBPが「何でも屋」のような曖昧な立ち位置になっており、業務範囲が不明確だったそうですが、再定義後は、

  • 「経営陣の意思決定を人事の視点からサポートする」
  • 「チェンジマネジメントを推進する」

といった具体的なミッションが設定され、組織変革の推進役としての存在感が高まったといいます。

さらに、あるテクノロジー企業では、HRBPに「問題そのものを深く理解する姿勢」を重視させています。
課題が表面化した際には、複数の部門や関係者を巻き込みながら原因を探るプロセスを取り入れ、一時的な対応に終わらせず、組織の根本的な改善につなげるという方針です。

このように、HRBPを単なる「人事部門のサポート役」ではなく、経営と現場の両方をつなぎリードする存在として捉え、そのための体制や文化を整えた企業ほど、大きな成果をあげていることがわかります。

HRBP導入における課題とその対策

とはいえ、HRBPを導入すれば自動的に効果が現れるわけではありません

特に課題としてよく挙げられるのが、期待される役割が不明確なままHRBPを配置してしまうケースです。
その結果、
経営課題を解決できるほどの権限や専門性がない
実際は一般的な人事業務の延長になってしまった
といった状態に陥ることも少なくありません。

実際、海外の調査でも、HRBPの役割定義があいまいなまま導入し、成果が出なかった事例が複数報告されています。

こうした失敗を防ぐためには、まず、経営層や主要部門の責任者が「HRBPにどのような成果を期待しているのか」を明確に言語化し、組織全体に共有することが不可欠です
そのうえで、HRBPが必要な知識やスキルを実践の中で身につけられるよう、体系的な研修やOJTの場を設けることが重要となります。

たとえば、HRBPに求められるスキルとしては、

  • チェンジマネジメント
  • コーチングのスキル
  • 人事データの分析力
  • 業界や事業特性に関する知識

など、幅広い分野が含まれます。これらは一朝一夕で習得できるものではないため、中長期的な視点で成長を支える仕組みが必要です

また、日常的に経営層や各部門と密にコミュニケーションをとりながら、現場の課題と経営判断との関係性を共有しておくことも、HRBPの価値を最大化するうえでのポイントです。

加えて、HRBPが現場対応に追われてしまい、本来注力すべき戦略業務に手が回らなくなるリスクにも注意が必要です。

そのためには、

  • 定型的な業務は専任チームが担う
  • シニアHRBPが特定のプロジェクトに専念する

など、役割分担や業務設計を組織全体でサポートする体制を整えることが欠かせません。

単に役職名だけを導入しても、実務を支える仕組みが伴わなければ、HRBPの機能は形骸化してしまいます
だからこそ、導入前後の設計と運用の工夫が求められるのです。

日本企業が取り組むべき具体策

国内に目を向けても、同様の課題を抱えている企業は少なくありません。

たとえば、現場では優秀な人材の確保に追われている一方で、トップマネジメントからは「戦略的な育成制度の構築」や「組織文化の改革」を求められる——このように、人事部門への期待と実際のリソースがかみ合わないケースは、決して珍しくないのが現実です。

そこで注目されるのが、HRBPを経営と現場をつなぐ明確な“パイプ役”として配置するというアプローチです。この役割を担う存在がいることで、両者が共通のビジョンを持ち、計画的に変革を進めやすくなる効果が期待できます。

実際にHRBPを導入するにあたっては、以下のステップを踏むことで、よりスムーズな定着が見込まれます。

  1. 経営陣と人事部門が向き合い、企業の中長期的な目標・戦略を明確にする
  2. その戦略を実現するために必要な組織や人材の要件を洗い出し、HRBPの役割を具体化する
  3. HRBP候補者を選定し、必要なスキルや知識を育む育成プランを立てる
  4. 導入後の評価基準や、部門間のコミュニケーション体制を整備する

こうしたプロセスを丁寧に踏んでいくことで、HRBPが実際に成果を上げるための土台がしっかりと築かれていきます

さらに、データや分析の活用も欠かせない視点です。

たとえば、従業員満足度やエンゲージメントスコア、離職率、育成プログラムの受講状況などのデータを定期的にトラッキングすることで、HRBPが組織の課題を“数字”として経営陣に提示しやすくなり、説得力のある提案につながります

また、実施した施策の成果を「見える化」する手段としても、データドリブンの人事戦略はHRBPと非常に相性が良いとされています。

これからの国内企業には、システム導入を含めた改革スピードを高めつつ、HRBPという存在を効果的に活用していく柔軟さと戦略性がより一層求められるでしょう。

まとめ 

海外で加速しているHRBP導入の流れは、日本企業にとっても決して他人事ではありません

環境変化が日常化し、従業員の価値観や働き方が多様化する今、人事には単なるサポート役ではなく、「もう一人の経営者」として組織全体を見渡す視点が強く求められるようになっています。

そのカギを握るのが、自社の強みや弱みを正確に捉えた上で人材戦略を描き、具体的な施策を実行に移す役割を担うHRBPです。

もちろん、導入にあたっては役割の定義づけや研修制度の整備、データ基盤の構築、経営層との信頼関係づくりなど、越えるべきハードルも多くあります。

しかし、これまでの海外事例が示す通り、うまく機能したHRBPは、単なる人事業務にとどまらず、組織文化の変革や次世代リーダーの育成、さらには業績向上にまで貢献する力を発揮しています

現在、多くの企業が事業成長と人材の確保・育成をどう両立させるかに頭を悩ませています。

だからこそ、HRBPという役割を本質的に活用することの価値は非常に高まっているといえるでしょう。

人事が一歩先を見据えてリーダーシップを発揮し、組織の潜在力を引き出していく——その起点となるのが、HRBPの存在です。

変化の大きい時代をしなやかに乗り越えていくためにも、自社の未来を支える「新しい人事のかたち」として、HRBPの導入を前向きに検討する価値は十分にあるのではないでしょうか。

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