【HRBPとは?】HRBPがもたらす組織変革の方法と可能性
HRBPとは何かをお話しさせていただく前に、今の企業の状況及びなぜHRBPが注目されているのかをご説明させていただきます。
現在の企業を取り巻く環境は、デジタル化や業界構造の変化により、数年前とは比較にならないほどスピード感を増しています。
新規事業やサービスを打ち出しても、競合が次々と似たサービスを展開してくるため、従来のやり方にこだわっているだけでは生き残れないケースが多くなりました。
こうした激しい変化に対応するため、優秀な人材を確保・育成し、適材適所で活躍してもらう必要性がこれまで以上に高まっています。
しかし、現場の人事担当者に目を向けると、
・「どうしても日々の労務管理や評価手続きなどのオペレーションで手いっぱい」
・「採用計画を立てても思うように候補者が集まらず、入社後に離職されてしまう」
・「将来のリーダーを育てたいが、体系的な育成プランが描けない」
といった悩みが尽きないという声をよく耳にします。
そうした中で、従来の枠を超えた新しい人事の役割として注目を集めているのが、HRBP(Human Resource Business Partner)という存在です。
Contents
【HRBPとは】HRBPの基本概念と誕生の背景
HRBPとは、1990年代に提唱された考え方で、
「事業戦略を推進するための組織設計や人材戦略を立案し、部門長とパートナーとして二人三脚で実行する」という役割のことです。
一言でご説明すると、「部門専門の人事コンサル」もしくは「部門所属の人事」になります。
ポイントは、単に人事部門としてのオペレーションを行うだけではなく、
事業目標に深くコミットし、「経営と現場をつなぐ架け橋」として積極的に提言や改善を行うという点にあります。
従来の人事部門は、人事制度の運用や勤怠管理など、会社全体を俯瞰してルールに沿った仕組みづくりを担当する色合いが強いものでした。
一方で、事業部門側に立つと「もっと事業のリアルに沿った柔軟な人事施策を打ちたい」
「新規事業向けのスキルセットを持った人材がすぐにでも欲しい」という思いがあっても、
トップダウンで決まった制度や既存の手続きの枠から抜け出せず、なかなかスピード感が出せないというジレンマを抱えがちでした。
HRBPの導入は、こうした従来型の人事運営を見直し、事業が求めるタイミングと形で人材を活かしきる体制をつくるうえで有効とされています。
各部門に「ビジネス視点を併せ持った人事のプロフェッショナル」が配置されることで、経営層が掲げる目標を具体的な組織づくりや人材アサインにつなげやすくなるのです。
国内企業の具体的事例—成果を出すHRBPの活用法
・ ベネッセホールディングス:DX推進を加速させる戦略人事
大手教育サービス企業として知られるベネッセホールディングスでは、デジタル技術を駆使して新しい価値を創造する取り組みを早期から進めてきました。
ここで大きな役割を果たしたのが、DX部門に配置されたHRBPです。
新規事業を生み出すためには既存事業の枠にとらわれず、新しいスキルや知見を持った人材を集める必要があります。
そこでHRBPは、どのような専門人材が不足しているかを事業部門と一緒に洗い出し、採用計画や育成プログラムの整備を主導。
社内に点在するデジタル人材の組織化を検討し、研修体系の設計やスキルマップの可視化といった施策を着々と進めたといいます。
結果として、DX推進に欠かせない専門領域の採用や研修がスムーズに進み、組織全体の変革が加速しました。
・ 日立製作所:経営の参謀として事業改革を後押し
日立製作所は、10年ほど前からHRBPの概念を研究してきたものの、本格的に導入を進めたのは比較的最近のことです。
特に注力しているのは、「事業リーダーが気づいていない潜在課題」を先回りして見つけ、解決策を提案するという点。
人材の育成方針や評価制度を再設計するだけでなく、「部門のビジネスモデルの将来はどうか?」といった本質的な問題にまで踏み込み、
必要であれば組織再編やキャリアパスの大幅な見直しを進言する役割も担っています。
「経営の参謀」として権限を与えられたHRBPが、事業部長や経営陣と同じテーブルで本質的な議論をすることで、より深いレベルでの組織改革が可能となるのです。
・ 株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA):アジャイル手法でスピード感を実現
DeNAでは「HRBPスクラム」という手法を導入しています。
チームで戦略人事を進めることで、一つの施策を考えて実行するまでのサイクルを短期間で回す取り組みを行っています。
IT業界はとくに競争変化が激しく、次々と新しいサービスが生まれる分野のためスピード感が重要となります。
そのため、ITで利用されている開発手法である「スクラム開発」の要素を人事領域に取り入れ、こまめなミーティングと振り返りを積み重ねることで、施策の改善がスピーディーに行い、事業の成長ペースに合わせて柔軟に組織の仕組みや人の配置をアップデートしています。
・ 株式会社カインズ:現場に寄り添うキャリア支援
ホームセンター大手のカインズでは、HRBPが従業員一人ひとりと面談し、それぞれの希望や悩みを聞き取る仕組みを構築しました。
自社の商品ラインナップや店舗運営上の課題を熟知したHRBPが、個人のキャリア形成と事業の方向性を結びつけるサポートをすることで、
従業員のモチベーションが高まるだけでなく、リーダー候補の早期発掘や適正配置にもつながっています。
・ GEヘルスケア・ジャパン:グローバル企業のビジネスパートナー
GEヘルスケア・ジャパンでは、各事業部の責任者のパートナー役としてHRBPを配置し、それぞれのビジネスモデルや戦略を踏まえながら適切な人事施策を提案しています。
経営目標を達成するために「どのポジションにどんな人材が必要か」「次世代リーダーをどのように育成するか」など、
具体的なアクションプランを部門長とともに考えるプロセスが定着しており、組織全体の動きがよりスピーディーかつ連携的になったという声が上がっています。
HRBPが機能しない理由—よくあるつまずきとその背景
HRBPは魅力的な概念でありながら、導入がスムーズに進む企業ばかりではありません。
実際に機能しない主な理由としては、以下が挙げられます。
- 役割のあいまいさ
HRBPと既存の人事部長や人事担当者との業務が重複し、「誰が何を決めるのか」が不透明になるケース。
明確なジョブディスクリプションや責任範囲の設定ができていないまま導入すると、混乱が生じやすくなります。 - トップの理解や支援不足
HRBPが経営や事業改革に踏み込むには、ある程度の裁量権や予算などのリソースが欠かせません。
経営層のコミットが得られない場合、具体的な人事施策を実行に移せず、結局は「口だけパートナー」になってしまうことがあります。 - ビジネス知識の不足
事業部門と対等に議論するためには、業界の動向や財務、マーケティングといったビジネス全般の理解が必要です。
人事としてのスキルはあっても、現場の戦略や数字に詳しくないと「経営の参謀」になりきれない恐れがあります。 - オペレーション業務への時間的圧迫
採用業務や評価手続き、労務管理などの通常業務で手いっぱいのまま「HRBPも兼務してほしい」と任せると、
戦略的取り組みに割ける時間がなくなり、本来の役割が薄れてしまうリスクがあります。
導入のステップと成功に導くポイント
実際にHRBPを導入し、しっかりと機能させるためには、下記のようなプロセスと工夫が重要です。
- 役割の明確化と体制づくり
最初に、HRBPが何を担い、どこまで権限を持つかを明示します。
既存の人事部門との関係性や、経営陣・事業部門との連携フローをあらかじめ設計しておくことで、後々の混乱を防ぐことができます。 - トライアル導入
全社一斉に導入するのではなく、まずは特定の事業部門やプロジェクトで試験的に実践してみると、具体的な課題が見えやすくなります。
小規模な範囲で成功の型をつくることで、他部門へ水平展開する際の説得力も高まります。 - 経営との緊密な連携
HRBPに求められる役割は、経営戦略と組織の間に立って橋渡しをすることです。
定例の会議に参加し、事業部門の計画をしっかりキャッチアップしながら、必要な人材・組織施策をスピーディーに立案・実行するスキームを回せるようにしましょう。
経営トップからの積極的な後押しがあるほど、現場との連携も進みやすくなります。 - ビジネス視点を養うための研修や教育
HRBPを担当するメンバーには、財務、マーケティング、業界動向などのビジネス知識が求められます。
社内外の研修プログラムを活用し、実務やケーススタディを通じて学び続ける機会を整備することが大切です。
さらに、部署横断のコミュニティや勉強会を設けて、互いの実践事例や失敗事例を共有すると、知見が蓄積されていきます。 - 継続的な評価と改善
新しい取り組みは、導入初期ほど手探りの状態が続きます。
HRBPがもたらす成果を定性的・定量的に評価し、定期的に振り返りを行うことで、組織や役割分担を微調整しながら最適化していく姿勢が欠かせません。
未来を切り拓く「戦略的人事」の要として
HRBPは単なる「人事担当の一部」ではなく、企業の未来を切り拓く戦略的パートナーとして機能します。
組織が変わるスピードを高め、新しいビジネスチャンスを掴むためには、事業や経営を深く理解したうえで人材を活かし、組織を動かす存在が欠かせません。
実際、すでにHRBPを導入している企業からは、
「経営目線と現場目線を行き来できる人材が加わることで、部門ごとの連携が格段にスムーズになった」
「採用や育成の企画が実際の現場ニーズと直結し、スピード感が増した」
といった声があがっています。
時代の変化が激しく、「これまでの常識」に縛られたままでは成功を収めにくい今、HRBPのような新しい視点を持った人事が活躍する場は、ますます広がっていくでしょう。
人事が経営や事業の根幹に深く入り込み、組織を変えていくダイナミックな役割を担うことが、これからの企業経営の大きなキーとなるはずです。
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