タイムパフォーマンスとは

皆さんはタイムパフォーマンスという言葉を耳にしたことはありますでしょうか?

通称「タイパ」と呼ばれるこの言葉は、90年代後半~00年代前半に生まれた「Z世代」で浸透している消費行動のことを指しています。

シンプルに言えば短い時間でどれだけの効果・満足度を得られるかという視点が重視されるようになってきているのです。

費やした時間に対して得られた効果や満足度の対比。よく使われる「コストパフォーマンス(コスパ)」の時間版、と言えばわかりやすいかもしれません。

「タイムパフォーマンス」でポイントとなるのは、時間と効果・満足度の関係です。短い時間で高い効果を得られれば「タイムパフォーマンスが高い(良い)」、長い時間をかけたのに得るものが少なければ「タイムパフォーマンスが低い(悪い)」。たとえば短期間・数回の商談で受注できれば「タイパの良いビジネス」と言えるでしょう。

タイパは「効率」や「生産性」という言葉に言い換えることもできると思います。

もともとビジネス上では時間をかけず効率よく仕事をすることは重視されていきていましたが、改めて、現在そんな「タイムパフォーマンスの高い働き方」に注目が集まってきています。 本記事ではタイムパフォ-マンスが注目されている背景や事例などをご紹介していきたいと思います。

「タイムパフォーマンス」が注目されるようになった背景

「タイムパフォーマンス」が近年になって特に注目されるようになった背景には、主に以下の3点が挙げられます。

デジタル技術・IT技術の進化

パソコン、データベース、インターネットといったデジタル技術・IT技術が急速に発展し、世界中からありとあらゆる情報が発信・提供され、蓄積されるようになりました。ただし1日が24時間であることは変わりません。

つまりデジタル・IT技術の進化によって増加した多くの情報に対して、収集・整理にかけられる時間が増えることはないのです。そのため、より短い時間で有益な情報に辿り着くことが求められるようになってい来ています。

そして、この課題を解決するのも実はデジタル技術・IT技術の進化なのです。デジタル機器が進化・普及し、高速なデジタル回線が世界中に張り巡らされたことで、意識しなくてもインターネットに簡単にアクセスすることが可能になりました。これまでなら専門書などを漁って集めなければならなかった知識や情報が、キーワードを入力するだけで簡単に手に入る。

このように、ひとつひとつの情報にかけられる時間が短くなったことが、タイパが流行した理由の一つと言えます。

近年ではスマートフォンの普及によって、動画投稿サイト、SNSへのアクセスも手軽になり、移動時間や信号待ちの時間など、少ない時間でもコンテンツ消費が可能になりました。 tiktokやYouTube Shorts、Instagramのリールなど、短い時間で消費できるコンテンツの人気が高まったのも「より効率的に情報収集をしたい」というユーザ側の需要があると考えられます。

ビジネス環境の変化、働き方と価値観の多様化

リモートワークやオンライン会議の普及で、企業側も労働者側も、プライベートと労働時間の分別・管理、時間を無駄にしない効率的な働き方を意識せざるを得なくなりました。

企業は人手不足が続く中で、少ない労働力でいかにして生産性を向上させるか、という点も企業運営における大きな課題となっているため、仕事の効率アップが正義で、「残業して頑張る」は悪だ、という時代になってきています。 労働者も転職によるキャリアアップの一般化や、ワークライフバランスを重視した働き方など、価値観に変化が。短時間で成果をあげて余剰時間を作り出し、キャリアアップのための学習やプライベートの充実に使いたいと考える人たちが増えてきています。

「デジタルネイティブ」と呼ばれるZ世代間での流行

冒頭でも触れましたが、タイムパフォーマンス注目の背景に大きくかかわるのは「Z世代」です。

2010年時点でのスマートフォンの世帯保有率は9.7%に過ぎませんでしたが、そこから急速に普及し、2015年には72%、2020年には86.8%に達しています。Z世代が生まれ育った環境には既に発達したデジタルツールやIT技術が身近に存在していました。

そのため、Z世代は各種デジタルツールやインターネットの利用を当たり前のものとして捉え、たくさんの情報の中から信頼がおける情報、自分にとって有益な情報を選び取ることに慣れ親しんでいます。

それがZ世代が「デジタルネイティブ」と呼ばれる所以です。

数ある情報の中から必要な情報を選び取るためには、より効率の良い情報収集の方法を選ぶ必要があるため、結果としてZ世代にはタイパを意識する傾向が表れたのではないかと考えられます。 実際に2024年3月卒業の大学生、大学院生を対象に株式会社学情が実施したインターネットアンケートでは、55.7%が「タイムパフォーマンス(タイパ)」を意識する、と答えています。

具体的に意識していることとして、「アプリの有効活用」「より質の高い情報を得るために、自分の目で確かめることを大切にしている」といった意見が寄せられ、その他にも、「イベントは、話を聞きたい企業が3社以上出展していたら参加する」との意見もあり、「かかる時間の長さ」よりも「かけた時間に見合う情報や成果を得られるか」がより重視されていることがよくわかります。

タイムパフォーマンスの例

動画コンテンツの倍速視聴、切り抜き動画・ショート動画の視聴

近年ではスマートフォンの普及によって、動画投稿サイト、SNSへのアクセスも手軽になり、移動時間や信号待ちの時間など、少ない時間でもコンテンツ消費が可能になりました。

特に「Z世代は動画コンテンツを倍速で視聴することを好む傾向がある」といわれています。Youtubeでは長時間コンテンツの一部だけを抽出した「切り抜き動画」や、前後を省略した見どころだけの「ショート動画」も高い人気があります。tiktokやInstagramのリールなども同じです。 こうした短い時間で消費できるコンテンツの人気が高まったのも「より効率的に情報収集をしたい」というユーザ側の需要があると考えられます。

冷凍食品や完全栄養食

食材の買い出しや調理にかかる時間を省くために、冷凍食品を利用する人は結構多いですよね。しかし手軽さに甘えて栄養バランスが疎かになってしまうこともよくあると思います。

しかし今では各種栄養素のバランスまで考えた「完全栄養食」と呼ばれる料理やお弁当などが作られていおり、それらが定期的に届く宅配サービスもあります。 こうした商品、サービスの利用は「タイムパフォーマンスの高い食事方法」といえるでしょう。

働き方・採用活動のオンライン化

ビジネスシーンにおけるタイムパフォーマンスでは、働き方や採用活動のオンライン化が大きなところでしょう。

リモートワークやオンライン会議は、移動の時間、情報を探す手間、連絡の手間などを削減できます。

例えば、採用サイトに動画コンテンツを掲載し、OBとオンライン対話できる機会を設ければ、就活生は会社訪問の時間を削減することが可能です。地方に住んでいる就活生でも、東京に本社を構える企業の選考に気軽に参加できるようになります。

タイムパフォーマンスを意識する人の特徴

ここまでの内容をお分かりいただけるように、あらゆるサービスが普及し、時間をかけずにさまざまなことができるようになった現代では、タイパを重視する人が増えてくることは当然であるとも言えます。

特にZ世代は、このような環境が当たり前の中でほとんどの時間を過ごしてきているため、特に顕著に表れやすいというのは間違いありません。

しかし、実際には「Z世代だから」タイパを好む、とも言えないのです。

タイパを求める人々の根底は、「時間が惜しい」という共通の感覚です。

そして、ひとえに「時間が惜しい」と言っても、その中には「時間がないから時間を大切にしたい」という時短型と、「今すぐに楽しみたい、成果が欲しい、待ちたくない」というバラエティ型の2種類に分類できるのです。

(1)時短型

時短型は主に忙しく時間に追われる人たちに当てはまります。働き盛りの世代、タスクの多い管理職、子育てをしている世代など、時間に追われることの多い人たちは、必要に迫られて時間効率を高めていくしかないのです。こういった人たちはZ世代に限らず、さまざまな世代に存在するでしょう。

(2)バラエティ型

一定の時間の中でより多くの情報を収集したい、モノを消費したい、楽しみたい、という層の人たちのことを指します。動画を倍速で視聴するなどの方法で時間効率を高めているのです。

時間に追われているわけではないですが、自分の時間を最大限楽しむため、今を楽しむための欲張りな消費と言えるでしょう。

バラエティ型においては概ね先述してきたZ世代特有のタイパの意識かもしれません。

時短型で考えれば、Z世代ではない人事担当者の皆様も、思い当たる節があるかもしれませんね。

例えば忙しいサラリーマンが時間効率化のために「新聞を読みながら朝食を食べる」という行為も、タイパを重視した行動と言えるでしょう。 このように、「タイパ」という言葉を意識せずとも、これまでに人々はタイパ重視の動きをしているのです。

タイパを重視するZ世代との向き合い方

Z世代の大きな違いは、これまでの「時間効率を重視せざるを得ない」という必要に応じて辿り着いたタイパではなく、身を置く環境による「基準化された」タイパであるという点です。

仕事の指示を出して「それって何の意味があるのですか?」というような質問をされたことがある人、もしかしたらこの中にもいるのではないでしょうか。

意味のない作業を嫌う、意味を説明しないと動けない人々は多くなっています。

もちろん意味のない仕事をやりたいと思う人は少ないでしょう。

ただ、指示を受けた以上「こういった意図ではないか」、「仕事だから」、といったように、自身の中で意味や背景を考え行動に移したり、業務と割り切って与えられた指示を遂行する人がきっと多いはずです。

これがいいか悪いか、正直なところ賛否が分かれると思いますが、この時代の移り変わりの中でZ世代は特に無駄を嫌い、失敗を恐れる傾向が強くなってきているため、「なぜそれをやるのか」「やることで何に繋がるのか」といった説明をしっかりする必要があります。

逆に言えばこの世代は、自身の得られるものがある、無駄ではない、と理解があれば、他の世代より積極的に行動を起こしてくれる可能性も大きいです。 意図や背景の説明は、本来あるべき指示の仕方ではありますが、Z世代とのコミュニケーションでは特に意識して行うと良いかもしれません。

さいごに

これまでZ世代、Z世代と一括りで説明してしまいましたが、持っている価値観や性格などは人それぞれですし、Z世代と呼ばれる層に偏見を持つべき、ということではありません。

ただ、タイムパフォーマンスをより意識する傾向が強い世代であることを理解して向き合うことは大切だと考えます。

業務効率化・生産性向上、人材獲得など、「タイムパフォーマンス」を高めるための取り組みは今後ますます重要となってくることが予想される中で、無駄な時間がかかれば、それだけ人件費をはじめとしたコストもかかるため「タイムパフォーマンス」の向上はコストパフォーマンスの向上にも繋がると言えます。

その中でタイパ意識に長けたZ世代は、自社の改革に大きな影響を与えてくれる可能性も大いにあります。 ただし、「タイムパフォーマンスを高める」ことだけに固執し、急激な業務効率化や劇的な働き方改革を進めると、現場に悪影響が及ぶ危険性もあるため、短期的な成果だけでなく、長期的に見たメリットとデメリットも視野に入れながらタイパを考えていくことが大切です。