人事評価制度が機能しない理由とは?中小企業で形骸化する原因と改善方法

人事評価制度が機能しない理由とは?中小企業で形骸化する原因と改善方法

「人事評価制度は作ったものの、社員が納得していない」「評価シートはあるが、昇給や人材育成に活かせていない」──このような悩みを抱える中小企業は少なくありません。

評価制度は、作ることが目的ではなく、社員の成長や組織の成果につなげるための仕組みです。しかし、制度だけを整えても、評価の目的や基準が共有されていなければ、次第に形骸化してしまいます。

本記事では、中小企業の人事評価制度が機能しなくなる本当の理由を、実際の支援事例や調査データを交えながら解説します。

人事評価制度が機能していない5つのサイン

評価制度があるにもかかわらず「機能していない」会社の共通点は以下の5つです。

  • 評価結果が毎回ほとんど変わらず、成長が評価に反映されない
  • 部署や評価者によって評価の甘さ・厳しさに差がある
  • 目標設定は行うものの、期中の振り返りや面談がない
  • 評価結果のフィードバックが形式的になっている
  • 昇給や昇格と評価の関係が社員に伝わっていない

これらは、人事評価制度が形骸化している代表的なサインです。

「社員が評価に納得してくれない」という相談は少なくありません。しかし実際には、評価結果そのものではなく、評価に至るプロセスへの不信感が原因になっているケースが多く見られます。

「なぜこの評価になったのか説明がない」「評価者によって基準が違う」「何をすれば評価されるのかわからない」。こうした状態が続くと、社員は努力と評価が結び付かないと感じるようになります。

その結果、「どう頑張っても評価は変わらない」という諦めが生まれ、主体的に成長しようとする意欲も失われてしまいます。

実際の調査でも、ビジネスパーソンの61.7%が「自社の人事評価基準は不明瞭」と回答しています。また、不満の理由として最も多かったのは「評価基準が不明確」、次いで「評価者によるばらつき・不公平感」でした。

評価制度への納得感は、社員の退職率にも影響する

評価制度への納得感は、社員の定着(退職率)にも大きく影響します。

中小企業白書(2025年版)では、人事評価制度を導入している企業のほうが定着率は高い傾向にあることが示されています。ただし重要なのは制度が存在することではなく「公平に評価されている」と社員が実感できることです。

納得感のない評価制度は、やがて「年に数回シートを書くだけの作業」になります。そして社員は評価制度そのものに期待しなくなります。

評価制度への不信感は、モチベーションの低下だけでなく、採用や人材育成、離職率にも影響します。社員が「この会社では成長しても正当に評価されない」と感じ始めたとき、評価制度はすでに本来の役割を失っていると言えるでしょう。

人事評価制度が形骸化する根本原因は「目的の曖昧さ」にある

評価制度が機能しない原因として、「運用が甘い」「評価者のスキルが不足している」と考えられることは少なくありません。

もちろん、それらも改善すべき課題です。しかし、多くの企業を見てきた中で感じるのは、それらは結果として表れている問題だということです。

「何のために評価するのか」が共有されていない

本当の原因は「何のために評価を行うのか」が組織内で共有されていないことにあります。

評価制度は、人件費を決めるためだけの仕組みではありません。本来は、社員の成長を支援し、会社が期待する行動や成果を明確にしながら、組織全体をより良くしていくための仕組みです。

しかし、その目的が曖昧なまま制度だけを導入すると、「評価シートを書く」「点数を付ける」「昇給額を決める」といった作業だけが残ります。

その結果、社員は「なぜ評価されるのか」「何を目指せばよいのか」がわからないまま、毎回同じ手続きを繰り返すだけになってしまいます。

制度が形だけ残り、社員の成長につながらない状態こそが、評価制度の形骸化です。

MBO(目標管理制度)も目的が曖昧だと形骸化する

この問題は、MBO(目標管理制度)にもよく表れています。

公益財団法人日本生産性本部の調査では、MBOを導入している企業のうち「うまく機能している」と回答した企業は24%にとどまりました。多くの企業では、目標設定だけで終わり、評価への納得感や人材育成につながっていないのが実情です。

ドラッカーが提唱したMBOは、社員が自ら目標を考え、主体的に行動しながら成長するための考え方です。つまり、社員自身が仕事の目的を理解し、自ら判断して行動することが前提になっています。

ところが現場では、MBOや評価制度が「昇給や賞与を決めるための制度」として運用されるケースも少なくありません。

評価制度が社員の成長ではなく、人件費管理だけを目的とした仕組みになれば、社員は目標を「達成すべきノルマ」としか捉えなくなります。

評価制度への納得感が失われれば、モチベーションの低下や離職にもつながります。評価制度への不満は、採用口コミや企業イメージにも影響するため、決して人事部門だけの問題ではありません。

人が育つ会社には、制度より先に考え方があります。まず「何のために評価するのか」を定め、その目的に合わせて制度を設計し、運用する。この順番が逆になると、どれだけ立派な評価制度を作っても長続きしません。

制度があることと、制度が機能していることは、まったく別の話です。

関連記事:人事評価の透明性を高める方法とは?公平な評価制度の作り方とメリット

支援事例|評価制度が機能していなかった食品製造会社

実際に企業の人事制度を支援していると「評価制度はあるものの、うまく機能していない」というケースは少なくありません。

ある食品製造業の会社を支援した際にも、評価制度そのものはすでに存在していました。半期に一度、上長が部下を100点満点で評価するシートを記入し、その結果を社長が確認する仕組みです。

しかし、実際の評価結果を集計してみると、社長による調整後の平均点は56.2点。さらに詳しく見ると、80点以上の社員が多い部署がある一方で、全員が60点以下という部署もありました。

問題だったのは単に「評価にばらつきがあること」ではなく、評価者によって評価基準の捉え方が異なっていたことです。

評価項目には「責任感」「積極性」といった言葉が並んでいましたが「どのような行動ができれば何点なのか」という具体的な基準までは定められていませんでした。結果として、評価は各部長の感覚・好き嫌いに依存していたのです。

そのため、同じ行動をしていても、評価する上司によって点数が変わる可能性があります。制度として評価項目やシートは存在していても、実際の評価は評価者個人の経験や価値観に左右されやすい状態になっていました。

これでは、人事評価制度を運用しているというより「半年に一度、評価シートを記入しているだけ」の状態になってしまいます。

人事評価制度を見直す5つの視点

この会社の状況を整理する際、評価シートだけを修正するのではなく、次の5つの視点から評価制度全体を確認しました。

  1. 目的:何のために社員を評価するのか
  2. 制度:評価基準や評価方法、昇給・昇格などのルールが明確になっているか
  3. 現場の納得感:評価者と社員が評価基準を同じように理解しているか
  4. 人材育成:評価結果が次の目標や育成につながっているか
  5. 運用:面談や振り返りを含め、継続的に運用できる仕組みになっているか

人事評価制度を機能させるには、「目的→制度→現場の納得感→人材育成→運用」までを一つの仕組みとして考えることが重要です。

特に注意したいのが、評価者研修や面談方法などの「運用」から改善しようとするケースです。

もちろん運用改善も必要ですが、「そもそも何のために評価するのか」「どのような社員・行動を評価するのか」が決まっていなければ、評価者が判断するための共通基準を持てません。

人事評価制度を機能させる5つの視点

評価基準が曖昧だと評価者によるばらつきが生まれる

評価者によって判断が異なる問題は、この会社だけに限ったものではありません。

Uniposの人事評価に関する調査では、評価に不満を感じる理由として「評価者の価値観や業務経験によって評価にばらつきが出る・不公平だと感じる」が45.2%を占めています。

評価者によるばらつきを抑えるためには、単に「公平に評価してください」と伝えるだけでは不十分です。

例えば「積極性」という評価項目を設けるのであれば、「積極性がある社員とは、具体的にどのような行動をする社員なのか」まで言語化し、評価者と社員の双方で認識を揃える必要があります。

評価者の感覚に頼らないためには、会社が評価したい行動や成果を具体的な言葉にすることが重要です。

その土台になるのが「会社は何のために評価制度を設けるのか」という目的です。

評価制度を見直す際、最初から評価シートの項目や配点、ウェイトを変更しようとする企業は少なくありません。しかし、それらはあくまで制度設計の一部です。

まず評価の目的を決め、その目的に合わせて評価基準を具体化し、現場で共通認識をつくる。そのうえで人材育成や日々の運用につなげていく。この順番で考えることで、評価制度が「シートを書くだけの仕組み」になることを防ぎやすくなります。

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目標設定をしても人事評価制度が形骸化する理由

人事評価制度が形骸化する原因の一つが、目標を設定した後のフォロー不足です。

目標設定をしても、期中に振り返りをしていない会社は約4割にのぼるという調査もあります(2026年4月、267名対象)。半期の最初に目標を決め、次に確認するのが評価面談という状態では、目標設定そのものが目的になってしまいます。

「目標を立てたこと」と「目標を持って仕事をしていること」は別です。

例えば、半期の目標として「新規顧客を10社獲得する」と決めても、その後の進捗を確認しなければ、社員にとっては評価シートに書かれた数字でしかありません。

「現在何社まで獲得できているのか」「計画より遅れている原因は何か」「次の1か月で何を変えるのか」と定期的に振り返ることで、初めて目標が日々の仕事とつながります。

また、会社や上司から一方的に目標を与えるだけでは、目標が「達成すべきノルマ」になりやすい点にも注意が必要です。

会社が期待する成果を示すことは必要ですが、その達成方法まですべて上司が指示してしまうと、社員が自分で考え、判断する機会が減ってしまいます。

目標管理で重要なのは、目標を設定することではなく、「目標設定→実行→振り返り→改善」のサイクルを回すことです。

そのため、目標設定面談だけで終わらせず、1on1や中間面談などで進捗を確認する機会を設けます。計画どおりに進んでいない場合も、単に「もっと頑張ろう」で終わらせるのではなく、本人と上司で原因や次の行動を整理することが大切です。

事業環境や担当業務が変わった場合には、期初に設定した目標そのものを見直す必要もあります。半年前に決めた目標を最後まで守ることより、現在の会社や本人の状況に合わせて適切に修正することのほうが重要です。

目標設定シートを書いて半年後に採点するだけでは、人事評価制度は形骸化します。目標を日常の仕事に落とし込み、定期的な振り返りと上司の支援まで仕組みに組み込むことで、目標管理は社員の成長につながるものになります。

関連記事:360度評価制度とは?メリット・デメリット・導入事例からわかる失敗しない運用ポイント

人事評価制度を人材育成につなげるポイント

評価制度をうまく活用している会社に共通しているのは、評価を「過去の採点」で終わらせず、次の成長につなげていることです。

評価結果を昇給や賞与の判断材料として使うことは必要です。しかし、「今回は70点でした」「この項目がB評価でした」と結果を伝えるだけでは、社員は次に何を改善すればよいのかわかりません。

これでは、評価制度が年に1〜2回行われる「査定のためのイベント」になってしまいます。

人材育成につなげるためには、評価結果をもとに「次に何を伸ばすのか」「どのような経験を積むのか」「上司はどのような支援をするのか」まで考えることが重要です。

例えば、マネジメント能力が次の課題であれば、小規模なプロジェクトのリーダーを任せる。顧客対応力を伸ばす必要があれば、上司のサポートを受けながら難易度の高い顧客を担当してもらう。このように、評価で明らかになった課題と実際の仕事を結びつけます。

「評価する→強みや課題を把握する→次の目標や経験を決める→仕事を通じて成長する」という循環をつくることで、評価制度は人材育成の仕組みとして機能します。

そのためには、社員に求める役割や能力を明確にし「この水準に到達したら、次にどのような仕事や役割を任せるのか」という成長の道筋を示すことも大切です。

社員自身が「今の自分に何が足りないのか」「次に何をできるようになればよいのか」を理解できれば、評価は単なる点数ではなく、成長するための指標になります。

人事評価制度は、社員の過去を採点するためだけのものではありません。現在地を確認し、次の成長に向けた道筋を会社と社員で共有するための仕組みとして活用することが重要です。

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人事評価制度を機能させるための5つの改善方法

人事評価制度を機能させるための改善方法

人事評価制度が形骸化している場合、評価シートや評価項目だけを変更しても根本的な解決にはなりません。

「何のために評価するのか」を明確にしたうえで、評価基準や目標設定、フィードバック、人材育成まで一連の仕組みとして見直すことが重要です。

ここでは、人事評価制度を機能させるために押さえておきたい5つの改善方法を紹介します。

評価制度の目的を明確にする

最初に見直したいのが、「何のために評価するのか」という評価制度の目的です。

昇給や賞与を決めることだけが目的になると、評価する側にとっては「点数を付ける作業」、社員にとっては「査定されるイベント」になりやすくなります。

本来の人事評価制度は、会社が社員に期待する役割や行動を伝え、現在地を確認し、次の成長につなげるための仕組みです。

社員の成長と会社が求める成果を結びつけ、その結果を適切に処遇へ反映する。この循環をつくることが評価制度の役割です。

まずは経営者や人事担当者だけでなく、実際に評価を行う管理職まで目的を共有しましょう。「評価制度を作ること」そのものがゴールになると、制度が完成しても現場では使われなくなってしまいます。

抽象的な評価基準を行動レベルまで具体化する

「責任感」「積極性」「主体性」「コミュニケーション能力」といった評価項目だけでは、評価する人によって判断が変わります。

例えば「責任感がある」という項目でも、ある上司は「期日を守ること」、別の上司は「問題を自分で見つけて行動すること」と考えるかもしれません。評価される社員は「報告・連絡・相談を徹底すること」だと考えている可能性もあります。

同じ言葉を使っていても、意味が揃っていなければ公平な評価はできません。

評価基準は、評価者と社員が同じ状態をイメージできるところまで具体化することが大切です。

例えば「責任感がある」ではなく、「期日までに業務を完了し、問題が発生した場合は早い段階で上司へ報告したうえで対応策を提案できる」といった行動レベルまで落とし込みます。

評価基準の言語化には時間がかかりますが、ここを曖昧にしたままでは評価者の感覚や印象に左右されやすくなります。

評価者によるばらつきを減らす

評価基準を具体化しても、評価者によって解釈や採点基準が異なれば、社員の納得感は高まりません。

特に中小企業では、管理職になった社員が評価方法を十分に学ばないまま部下の評価を任されるケースがあります。「自分が若手だった頃の基準」や個人的な仕事観で評価してしまえば、部署ごとに評価の甘さ・厳しさが変わってしまいます。

対策として、評価者研修を実施するだけでなく、実際の評価結果を持ち寄って認識をすり合わせる「評価会議」を設ける方法があります。

同じ成果や行動に対して、評価者ができるだけ同じ判断をできる状態をつくることが、公平な人事評価につながります。

評価者を教育して終わりではなく、実際の評価を通じて定期的に基準をすり合わせることが重要です。

目標設定後に1on1や中間面談を行う

半期の最初に目標を設定し、半年後の評価面談まで振り返らない状態では、目標管理は形骸化しやすくなります。

事業環境や担当業務が変われば、期初に設定した目標が実態に合わなくなることもあります。また、本人が目標達成に向けて困っていても、評価時期まで問題が共有されなければ上司は支援できません。

そのため、1on1や中間面談などを通じて、定期的に進捗を確認する仕組みを設けます。

確認するのは「目標を達成できそうか」だけではありません。現在どこでつまずいているのか、どのような支援が必要なのか、目標自体を修正する必要はないかまで話し合います。

評価制度を「半年に一度の採点」ではなく、日常のマネジメントに組み込むことが形骸化を防ぐポイントです。

関連記事:1on1のやり方|続けても部下が育たない3つの原因と改善方法

評価結果を次の育成・配置・処遇につなげる

最後に重要なのが、評価が終わった後に何をするのかです。

低い評価だった社員に結果だけを伝えて終われば、「評価された」という事実しか残りません。次の半期に何を改善するのか、そのために上司が何を支援するのかまで一緒に考える必要があります。

一方、高い評価を得た社員には、新しい仕事を任せたり、役割を広げたり、昇給・昇格へ反映したりすることも必要です。

「評価される→課題や強みがわかる→次の行動が決まる→成長や処遇につながる」という流れができて、初めて人事評価制度は機能します。

社員自身が「頑張ったことが評価され、次の成長や機会につながった」と実感できれば、評価制度への納得感も高まります。

評価結果を記録して終わるのではなく、次の半期の目標設定や人材育成、配置、昇給・昇格までつなげるところまでを評価制度として設計しましょう。

まとめ

人事評価制度は、評価シートやルールを整えるだけでは機能しません。

社員が「なぜ評価されるのか」「どのような行動が評価につながるのか」を理解し、評価結果が次の成長や挑戦につながる仕組みになって初めて、制度は組織に根づきます。

評価制度が形骸化している企業では、評価基準の曖昧さや運用方法だけでなく、「何のために評価を行うのか」という目的そのものが共有されていないケースが少なくありません。まずは制度の土台となる考え方を整理し、自社に合った運用へ見直していくことが重要です。

株式会社Tsumuguでは、人事評価制度の設計・見直しだけでなく、採用基準やMVV、1on1、人事制度まで一貫した組織づくりをご支援しています。評価制度を社員の成長につながる仕組みへ改善したい企業様は、お気軽にご相談ください。

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ABOUT US
塔筋大樹株式会社Tsumugu代表取締役
同志社大学卒業後、地元金融機関へ新卒入社。その後、株式会社リクルートジョブズ(現リクルート)へ中途入社。求人広告営業として全国トップクラスの営業成績を収め、営業リーダーや代理店支援を担当。その後、Indeed特別認定パートナーの株式会社アド・イーグル執行役員として営業・人事・企画領域を管掌。現在は株式会社Tsumugu代表取締役として、中小企業の採用・育成・評価・定着に関する課題に対し、データとAIを活用した人事支援を行っている。