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評価制度を作っても誰も使っていない。中小企業の人事評価が機能しない本当の理由
「評価制度、ちゃんとあるんですよ」
そう言ってくれる経営者や人事担当者に、これまで何十人と会ってきました。
でも、同じ会話の中で必ずといっていいほど続く言葉があります。
「でも、正直あまり機能していないんですよね」
ちゃんとある。でも機能していない。
この矛盾が、中小企業の人事評価の現実を端的に表していると思っています。
評価制度を「持っている」ことと、評価制度が「動いている」ことは、まったく別の話です。
多くの会社で、評価制度は棚の上に置かれた仕組みになっています。年に2回、シートに点数を書いて提出する。
それだけで「評価制度を運用している」と言える状態です。
中小企業の約57%が5年以上評価制度を運用しているにもかかわらず、
「業績向上と連動している」と実感できている会社は半数以下というデータがあります。
制度があること自体は、決して珍しくないのです。
でも、それが会社の成長と社員の育成につながっているかどうかは、まったく別の問いです。
この記事では、なぜ中小企業の人事評価制度が形骸化するのか、
その本質的な理由と、「機能する評価制度」がどのような状態を指すのかを、実際の現場経験をもとにお伝えします。
Contents
評価制度があるのに、誰も納得していない
まず、評価制度が「機能していない」状態とはどういう状態か、整理しておきたいと思います。
以下に当てはまる項目が多い会社は、注意が必要です。
- 評価の点数がいつも似たような結果になり、動きがない
- 部署によって評価が極端に甘い・厳しい(甘辛差が大きい)
- 目標設定の面談はあるが、期中に振り返りをしていない
- 評価結果を本人に伝える面談が形式的になっている
- 昇給・昇格と評価結果の連動が、社員に見えていない
これらは、人事評価制度の形骸化を示すサインです。
「うちの社員は評価への不満が多い」という話をよく聞きます。
ただ、その不満の正体を掘り下げると、評価の結果そのものへの不満よりも、
「プロセスへの不信感」のほうが圧倒的に多い、というのが私の実感です。
なぜ低い評価を受けたのかが説明されない。評価者によって基準がバラバラに感じる。
自分が何をすれば評価されるのかが見えない。
そういった状態が続くと、社員は「どう頑張っても変わらない」と思い始めます。
実際の調査データも、この実感を裏付けています。
ビジネスパーソンを対象にした調査では、61.7%が会社の人事評価基準を「不明瞭」と回答しており、
評価に不満を感じている人は7割近くにのぼっています(株式会社ワークポート調査)。
不満の内訳を見ると、「評価基準が不明確」が最も多く62.8%、
次いで「評価者によってばらつきがある・不公平だと感じる」が45.2%でした(unipos人事制度調査)。
評価への不満は、定着率にも直結します。中小企業庁の中小企業白書(2025年版)では、
人事評価制度を設けている事業者は、設けていない事業者に比べて「定着率7割以上」の割合が明らかに高いことが確認されています。
制度の有無が定着を左右するのではありません。「誰もが同じ基準で評価されている」という実感が、長期的な定着を生むのです。
そうなると、評価制度への関心は失われていきます。
毎回形式的にシートを書いて、結果を受け取って、それで終わる。評価制度は「年2回発生する作業」になってしまいます。
人事評価制度への不満は、採用・育成・離職にも影響します。
評価制度が機能していない会社では、「ここに残っても自分の成長が見えない」という感覚を持つ社員が増えやすいのです。
形骸化は「運用の問題」ではなく「思想の問題」
評価制度が機能しない原因を「運用が甘い」「評価者のスキルが足りない」と捉えている会社は多いです。
ただ、私が現場を見てきた感覚では、それは表層の話です。
本質的な問題は、「なんのために評価をするのか」が会社の中で合意されていないことです。
MBO(目標管理制度)を導入している会社のうち、「うまくいっている」と感じている会社はわずか24%というデータがあります(公益財団法人日本生産性本部)。
残りの76%の会社では、MBOを導入した後も「目標設定したがそれきり」「評価の公平感がない」「動機づけにつながっていない」という状態が続いています。
なぜこうなるのか。
MBOはもともと、社員の自律的な成長を促すためのフレームです。
ドラッカーが提唱したその本質は、「社員が自らの仕事の意味を理解し、主体的に目標に向かう」ことにあります。
でも多くの会社では、「人件費の増減を正当化するための根拠づくり」として使われています。
制度の「形」だけを借りてきて、「なぜそれをするのか」という思想が伴っていない。
結果として、社員は「なぜ目標を立てるのか」を理解しないまま、毎期シートを埋めることになります。
「思想なき評価制度」は、じわじわと組織の内側から人を抜かせます。
HRプロの調査(2023年)によると、人事評価に不満を感じた社員の7割以上がモチベーション低下を経験しており、離職・転職の検討につながったケースも少なくありません。
評価制度が「機能していない」という状態は、採用ブランドにも影響します。
口コミサイトや退職者インタビューで「評価制度への不満」が繰り返し出てくる会社は、次の採用にもその影響が出はじめます。
人が育つ組織には「思想」があります。
事業成長を優先しすぎて人づくり・組織づくりを後回しにする傾向のある会社では、評価制度も同様に扱われます。
忙しいと制度の運用は後回しになり、形だけが残る。これはよく見られる構造です。
制度があることと、それが意味を持っていることは、別の話なのです。
クライアント企業で見た「動かない評価制度」の実像
ある食品製造業の会社を支援した際、こんな状況がありました。
評価制度は一応ありました。半期に一度、上長が部下を100点満点で評価するシートを記入し、社長が確認する仕組みです。
ところが、このスコアを集計してみると、平均点が56.2点(社長による調整後)という状態でした。
さらに、部署によって80点以上が当たり前の部署と、全員が60点以下という部署が混在していました。
これは、「評価がばらついている」のではありません。「そもそも評価基準が統一されていなかった」ということです。
評価項目は一応あるのですが、その定義が曖昧で、「責任感がある」「積極性がある」といった抽象的な言葉が並んでいました。
結果として、評価は各部長の感覚・好き嫌いに依存していたのです。
この状態で評価制度を「使っている」とは言えません。シートを記入しているだけです。
この状況を一緒に整理する中で、私は5つの論点を確認しました。
- 思想:この会社は何のために評価をするのか
- 制度:評価の仕組みとルールは何か
- 現場納得:評価者・被評価者が同じ理解でいるか
- 人材育成:評価の結果が育成につながっているか
- 運用:日常的に動き続けられる仕組みになっているか
多くの会社は3〜5だけを整えようとして、1〜2がないまま走っています。

なお、「評価者によるばらつき」は、この会社に限った話ではありません。
評価に不満を感じる理由の第2位として「評価者の価値観や業務経験によって評価にばらつきが出る・不公平だと感じる」が45.2%を占めるというデータがあります(unipos人事制度調査)。
ばらつきが生まれる根本には、評価基準が言語化されていないことがあり、
その背景には「何のために評価をするのか」が決まっていないことがあります。
仕組みを整える前に思想を決めていれば、ばらつきは起きにくくなります。
「評価の仕組みを作ろう」となった時、最初に着手するのが「評価シートの設計」「評価ウェイトの決定」であることがほとんどです。ただ、それは「制度」の話です。「思想」が決まっていない段階で制度を作っても、誰もその意味を共有できません。
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目標設定が「やりっぱなし」になる会社の共通点
評価制度の形骸化を語る上で、目標設定の問題は避けられません。
目標設定をしても、期中に振り返りをしていない会社は約4割にのぼるという調査があります(2026年4月、267名対象)。
設定すること自体が目的化して、その後のフォローが設計されていない状態です。
なぜこうなるのか。
一つには、「目標を立てたこと」と「目標を持って仕事をしていること」が、混同されているからだと思います。
目標設定の面談を年2回やって、「目標管理ができている」と感じている会社が多いです。でも目標は、立てた瞬間から意味を持つのではありません。日々の仕事の中で「今日の行動はこの目標に向かっているか」と自分で確認できる状態になって、初めて意味を持ちます。
ある調査によると、企業の約82%で「社員が自分で判断する経験」が減少しており、58%で「上司への確認増加」が起きているとされています(33.8万人・980社を対象とした調査)。
上から目標が降ってきて、それを達成するための行動を上司に確認しながら進める構造の中では、目標設定は「作業指示書」に近いものになっていきます。自分で考えて判断する経験が積み重ならないため、目標と日常の仕事がつながっていかない。
目標設定が育成につながるのは、本人が自分で考え、判断し、振り返るプロセスを積み重ねる場合だけです。そのプロセスの設計なしに「目標設定シートを書かせる」だけでは、人事評価制度は形骸化します。
「研修をすれば知識は増える。でも、知識が増えることと、その知識を使って動けることは別の話だ」というのは、育成の文脈でよく言われることですが、目標設定も同様です。目標の立て方を学んでも、目標に向かって自分で判断する経験がなければ、制度は定着しません。
評価制度が「育成」につながっている会社と、そうでない会社の差
評価制度をうまく使っている会社に共通していることが一つあります。
評価を「過去の採点」として使っていないことです。
「過去の採点」として使う評価制度は、「何点だったか」を記録するためのものです。それは人件費の算出根拠にはなりますが、社員の成長には直結しません。結果を告げて、終わる。それだけでは、評価制度は「年2回の審判」にしかなりません。
一方、機能している評価制度では、評価の結果は常に「次の設計図」になっています。この評価をもとに、次の半期に何に取り組むのか。どんな経験を積むのか。そのために上長は何をサポートするのか。そこまでが、評価制度の射程に入っています。
「任せる」と「放す」は違います。
「任せたいけど任せられない」という状態は、多くの中小企業で共通して起きています。でも、それは「任せられる人材がいない」のではなく、「任せるための設計ができていない」だけのケースがほとんどです。
何を判断していいのか、どこまで自分で動いていいのかが見えていない状態で仕事を渡しても、それは「放した」だけです。
評価制度が育成につながるとは、「この水準に到達したら次のステップへ」という道筋が見えていることです。社員が「自分はどこに向かって成長すればいいのか」を理解していること。そして、それを日常の仕事の中で実感できていること。
評価制度は、その設計図になれるはずです。ただし、「採点表」として使い続ける限りは、そうなりません。
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機能する評価制度に共通している3つのこと
最後に、実際に機能している評価制度に共通していたことを3つにまとめます。
① 「誰のための評価か」が会社で合意されている
評価制度は、会社のためでも、上長のためでも、人件費管理のためでもありません。
社員一人ひとりが成長し、会社に貢献し、それが正当に評価される。その循環を作るためのものです。
この合意が、経営者から現場のマネージャーまで共有されているかどうか。ここがスタートラインです。
「評価制度を作ること」がゴールになっている会社では、ここが飛ばされています。
だから、制度が完成した後に誰も使わない状態が生まれます。
② 評価者と被評価者が同じ言葉で話せる
「仕事への責任感がある」という評価項目があるとします。
評価者Aは、期日を守ることを責任感だと捉えています。評価者Bは、主体的に問題を発見して動くことを責任感だと捉えています。そして、被評価者Cは、報連相を徹底することが責任感だと思っています。
このままでは、評価は機能しません。同じ言葉を使っていても、意味が揃っていないからです。
機能する評価制度では、評価基準が「行動レベル」まで落とし込まれています。「責任感がある」ではなく、「期日3日前に進捗を報告し、問題があれば対策案を持って相談できている」という粒度です。
これは、作るのに時間がかかります。ただ、ここを省いた評価制度は、必ず「感覚評価・好き嫌い評価」に流れていきます。
③ 評価の結果が「次のアクション」に結びついている
評価が終わったあと、何が起きるかを設計しておくことです。
点数が低かった社員に対して、次の半期に何を変えるのか。上長は何を支援するのか。逆に評価が高かった社員には、どんな機会や責任を与えるのか。
「評価の結果が次の成長につながる」という体験が積み重なることで、社員は評価制度を信頼するようになります。そして、そこで初めて「納得感のある評価」が生まれます。
なお、AIを活用した評価支援ツールも増えています。目標の進捗を自動集計したり、評価のばらつきをデータで可視化したりする仕組みが、以前に比べてずっと導入しやすくなっています。
ただし、ツールを入れる前に「思想」と「言語化」が整っていなければ、データがあっても使われません。評価制度のデジタル化も、「なんのための評価か」という問いへの答えが先です。

まとめ
人事評価制度は、ある意味で会社の姿勢が最も可視化される仕組みです。
「うちは社員を大事にしている」と言っていても、評価制度が感覚評価・甘辛差・やりっぱなしになっている会社では、その言葉は社員に届きません。
形骸化した評価制度を立て直すことは、難しいことではありません。ただ、「制度を整える」前に、「なぜ評価をするのか」を経営層が合意することが、絶対に必要です。
評価制度を作ったことのある会社は多いです。でも、それを「使い続けている」会社は少ない。
本記事があなたの会社の評価制度の設計運用の一助になれば幸いです。
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