みなさんは“意味づけ力”という言葉をご存知でしょうか?

意味づけ力とは、『自分に起きる出来事の中に、価値や意味を見出す力』です。

これを“意味付ける”と言います。

【徹底解説!】現代マネジメントの難しさとその対処法」でもお話ししましたが、過去の単線的(同一企業で勤め上げて昇進)なキャリアと、現代の複線的(転職が当たり前/社内における専門的ハイパフォーマー化/フリーランス化など)なキャリアを比較し、部下のマネジメントが難しくなっていると私は感じています。

前回は上司がどう関わるか?の内容でしたが、今回は部下(メンバー)側がどのように企業の中で、自身のモチベーションを高め、ハイパフォーマンスを出し続けられるのか?を“意味づけ力”というスキルから解説していきたいと思います。

弊社では、こういったスキル装着の研修を、マネジャー/部下(メンバー)側双方に用意しておりますので、「従業員のリスキリングのための研修機会を社内で用意したい」などの意向があれば、ぜひお問い合わせください。

そもそも意味づけ力って?

これは私の持論ですが、人にはマイナスのエネルギー(嫌だ、避けたい)とプラスのエネルギー(頑張りたい、もっとやりたい)があると思っています。マイナスのエネルギーが「−3」だろうがプラスのエネルギーが「+3」であろうが、絶対値は3なのですから、双方のエネルギー量は変わらないと考えています。要は、マイナスなエネルギーにより動いている部下の力が、必ずしも悪いわけではないということを伝えたいです。

例えば、「新卒の部署配属で“バックオフィス”部門に配属されてしまった。もともと営業に配属されたいと思っていたし、今の部署もそこまで楽しさを感じないので、思うようにならず悔しい。この2年間、営業の部署に異動させてもらうためにも、人一倍がんばってやる!」。これはマイナスの理由から来るエネルギーですが、頑張ってくれる気がしますよね(笑)。最悪なのは無関心・無興味・無意志です。マイナスから来るエネルギーは、原動力になり得るという意味で、必ずしも悪いものではないのです。

ですが、やはりマイナスやネガティブな理由は、いつかなくなってしまうものです。例えば、先の例で言うと、2年経っても異動がなかった場合、その従業員は途端にやる気を無くしてしまう可能性がありますし、もともと「この部署が嫌だ」というマイナスな動機であるために、2年も経たずして、意義ややりがいを感じなくなり、会社を去ってしまう可能性も考えられます。

そのため、短期的にはマイナスエネルギーでの頑張りを応援してあげてもよいのですが、中長期では続かない。だからこそ、意味付けを、上司の支援も交えながら部下自身が行い、プラスな、ポジティブな動機で仕事に取り組んだほうが良いのです。 前置きが長くなりましたが、本章では、“意味付け力”について、詳しく解説していきます。

意味づけ力とは

ここでは、意味付け(意味づける)力を更に詳しくお伝えしていきます。いきなりビジネスに当てはめるというよりも、下記のようなことが起きた場合、自分だったらどのように捉えるか?という視点で考えたほうがわかりやすいかもしれません。

―「今日こそ行きたい!」と思っていたラーメン屋にいったら、『臨時休業』の文字が出ていた。

おそらくですが
・「せっかく食べようと思っていたのに、とても残念だ」
・「わざわざ外出したのに、とんだ無駄足を踏まされた」

という残念な気持ち(感情)になるのではないでしょうか?

ビジネスにおける意味付けとは、例えば上記のような事象が起こった際に、

・「よかった!たまたまだけど、高カロリーなラーメンを避けられるから、ダイエットになる!」
・「代わりに自炊にしよう!節約できてラッキー!」

というふうに捉え方を変えるわけです。心理学で言う、認知的再評価の側面が大きいと言えます。

どうでしょうか?これだけ聞いていると、とても簡単なスキルのように聞こえると思います。

しかし、人は焦ったり、思い込みが強くなったりすると、物事の捉え方が偏ったり、ネガティブになりすぎて、物事をマイナスに捉えがちです。

ちなみに・・・少し話は逸れますが、「意味づけ」という言葉は、主に看護などの世界でも使われる言葉で、緩和ケアや慢性疾患管理、精神医学的看護など、特に長期間にわたるケアが必要な場面で強調されることが多いです。患者が自身の病気や治療、回復の過程においてどのような意味を見出すか、また、その経験が個人の人生にどのように影響を与えるかを理解できるために、用いられたりもします。

「看護の世界の考え方をなぜ会社に・・・」と思われたり、「そもそも仕事への意味付けなんてマネジャーや人事の仕事ではない」と仰る方もいるかもしれませんが、そもそも組織とは『情緒的な舞台』(Fineman,1993)とされ、「感情の問題を抜きにして組織現象をとらえることはできない」(金井壽宏・高橋潔(2008)「組織理論における感情の意義」『組織科学』41巻4号より引用)と考えられます。

一人ひとりの部下やその集団に対する“感情のマネジメント”はとても大事なものなのです。だからこそ、ポジティブな意味付け力を組織として高めていくこと、そうした意味付けができるメンバーを増やしていくことは、非常に重要な、マネジャーや人事の役割なのです。

なぜ人は、意味付けを苦手とするのか?

アドラー心理学で有名な、アルフレッド・アドラーが残した言葉でこんな言葉があります。

「人はみな主観の世界に生きている。」

人は世の中の出来事を自分の考え方を通して理解し、意味づけ、行動すると考える「認知論」的考え方で、人は自分だけの心のメガネを通して世界を見ていると言います。

例えば、「人は嘘を付く生きものだ」。この言葉をみて、皆さんはどう感じたでしょうか?過去色んな人に騙された経験のある人は、「そうそう、人ってすぐに嘘を付くから、あんまり信用しないほうが良いよ」と思うかもしれませんし、あまり人に騙された経験のない人は、「いやいやそんなことないよ、人って正直に生きる生き物だと思うよ」と思うのではないでしょうか。

他にも、「犬は可愛いものだ」に関してはどうでしょうか?

例えば、犬を可愛いと思っている人は可愛いともちろん思ってくれると思いますが、昔犬に追いかけ回されたり、噛まれて血が出た経験のある人は、犬を怖いと思うと思います。こうしたことからも、同じ主張でも、見る人によって、それがポジティブに捉えられるのか、ネガティブに捉えられるのか?は変わってきますよね。

上記の例のように「過去の事実や経験から、事象を解釈し、推論を立てていく思考のパターンやシステム」を“メンタルモデル”と言いますが、このメンタルモデルこそが意味付けを難しく足らしめている要因なのです。人の解釈は過去の事実や経験に依拠して評価や判断を加えるので、物事の捉え方が人それぞれ違うばかりか、ネガティブに解釈してしまうものをポジティブに再解釈したり(リフレーミング)、価値や意味がないと感じたものに、価値や意味を見出そうとすることは、より一層、困難な行為なのです。

どうやって意味づけ力を高めるのか?

さて、ここまで意味づけ力の説明と意味づけ力を習得する困難さに対して解説を行ってきましたが、本章では、意味付け力の高め方について解説をしていきます。

ネガティブ単語をポジティブに捉えることから始める

意味づけ=ポジティブということではありませんが、プラスの意味に捉えていく行動がほとんどなので、まずは、マイナスな言葉をポジティブに変換することから始めてみましょう。

例えば、

・疲れた→よく頑張った
・できない→チャレンジングだ
・わからない→自分にできないことに挑戦できている証拠

などです。

株式会社ダイジョーブの山田智恵さんは、著書『THE MEANING NOTE 1日3つ、チャンスを書くと進む道が見えてくる』において、「毎日3つずつチャンスを書き、それを見返す」というミーニング・ノートを活用する重要性を述べています。

ここでは詳細を省きますが、日々の出来事を「これは自分にとって良い機会(チャンス)かも?」と捉え直す事によって(意味づけ)、行動が変わり、結果が変わり、人生が変わった経験を著者は語っています。 みなさんもまずは、簡単なことで良いので、日々の出来事を“捉え直す”ということから始めてみてはいかがでしょうか?

心に●●を住まわせる!

最近ネットなどでよく目にするのが、「心にギャルを住まわせろ」です(笑)。ギャル=明るい、ポジティブ、悩みがない、などのアンコンシャス・バイアスが働いているものではありますが、ギャル限らず「心に●●を住まわせろ!」というのは非常に意味づけ力を高める上では重要な手法です。

ギャルでなくても、尊敬する先輩や上司、明るい友人など「あの人だったらどうやって考えるだろう?」と癖づけて物事を考えるのは非常に有益です。先のメンタルモデルですが、自分事だと、どうしても特定の事象に対してネガティブに捉えたくなるようなことも、「あの人だったら・・・」の別視点に置き換えると、不思議と、すっと意見や解釈を切り替えられるものです。

2-1,2-2に限らず、最終的にはこのアクションにかかる時間を早めることを意識していけると良いと思います。最初は、嫌な出来事が起きた日の週末、飲み会で友達に愚痴っていたときに友達から反論をもらい「確かにそういう考え方もあるかも…?」くらいでも良いと思います。それがだんだんと、家でお風呂に入ってるときに、その日のうちに思い出すようになったり、半日後、6時間後、1時間後、10分後、嫌な事象の直後、に再解釈(リフレーミング)ができるようになるのが理想です。

そのため、まずは再度解釈し直す訓練を積み、どんどん再解釈にかかる時間を縮めていけるようにしていきましょう!

部下の意味付け力を高めるには?

次は上司や人事部の視点で、どうやったら部下に意味づけ力を高めてもらえるのか?に焦点を当てて、説明していきます。部下側の努力はもちろん必要なのですが、1章で語ったように、メンタルモデルにある前提の考えや価値観を変えて、別の解釈をし直すというのは非常に難しいスキルです。そのため、上司の方の関わり方も重要になってきます。

部下の過去を知る

ライフラインチャートというものがあります。主には縦軸が充実度、横軸が年齢です。

  • まずは年齢ごとのモチベーションや充実/満足度が高かったのか低かったのか?記載してもらいましょう。
  • 次に高低がうまれるきっかけとなった出来事を記載してもらいます。
  • そしてその記載された出来事に関して、「なぜそれで満足度が上がったのか?」「なぜそれで充実度が下がったのか?」を聞いていく。
  • 聞いていく中で、抽象化したときに、部下がポジティブに捉えるポイントと、ネガティブに捉えるポイントが見えてくるので、思考の癖を押さえる。

という感じです。 慣れるまでは、あまり情報が引き出せなかったり、そもそも部下がストレートに伝えてくる関係性が築けていなかったり、部下の中で言語化がうまくいっていなかったり・・・というケースも発生するかと思います。訓練次第ですが、こうしたことを繰り返し行うことで、部下の考え方の特徴が見えてくるので、意味付けの際にも、「またこう考えてないか?」など先回りして、アドバイスすることができるのです。

他の価値観に触れさせる

「類は友を呼ぶ」といいますが、人というのは同様の価値観や性格を持つ人間と一緒にいがちです。それだけに、先程の「心に●●を住まわせる」ではないですが、「あの人だったらこう考えるかもな」というサンプルが少なかったり、なにより、自身のメンタルモデルからくる発想が間違っていないと感じている場合も多々あります。そういった場合、研修などを通じて、同じ事象に対してどのように解釈するか?というグループワークを実施することを研修として設けてみましょう。

「社内で同期が昇進した」という1つの事象をとっても、その事実に対する捉え方は人それぞれです。そうした別の考え方に触れる場を意図的に設計することが重要です。外部研修講師など、別の視点からフィードバックやアドバイスを受けるという経験も、部下の捉え方の幅を広げる1つのアクションに繋がっていくと思います。

さいごに

さて皆さんいかがでしたでしょうか?今回は、組織を活性化するうえで重要なビジネススキル、“意味づけ力”にフォーカスをして、記載させていただきました。 意味づけ力というのは、スキルという見方もあれば、「今目の前で向き合っている業務になにか意味や価値を見出そう!」とするスタンスにも近いものがあると考えています。

強いスキルを持った人ばかりが在籍する集団というのはとても素晴らしい状態かもしれませんが、一方で、そういった人的リソースが十分すぎるくらい揃っていることはなかなかありません。そういう意味では、仕事へのスタンス、考え方、姿勢を鍛えることに着眼し、実際に施策を打つことは、とても有益だと思っています。なぜなら、土台のスタンスがしっかりしていると、学び取る力や前に進む力が引き上がり、後天的にスキルが身につくパターンがほとんどだからです。

意味づけ力は、そういった、成長/変化できるビジネスパーソンを作る上での非常に有効な力です。ぜひ、自社で意味づけ力の向上に取り組んでみてくださいね。