はじめに

採用コストに対する現状の課題

皆さんは、人を1名採用するのにいくら掛かるのかご存じでしょうか?

なんと、

・新卒採用:平均93万6,000円

・中途採用:平均103万3,000円

・アルバイト、パート:平均6万3,750円

と驚くほど高いコストがかかっており、今後も上がり続けると言われています。(出典:株式会社リクルート「就職白書2020」、株式会社ネオキャリア2019年調査)

その理由は、少子高齢化に伴う、生産年齢人口の減少が大きな要因です。「2040年までに1,100万人の労働力供給不足が国内で生まれる」と言われており、今後も就業者は減る一方です(リクルートワークス研究所調査)。そうなると必然的に、少ない就業者を複数の企業で取り合うという構図が出来上がるわけですから、採用は当然難化していきます。「うまくいかない」というのは当然出てきます。

高額な求人広告料金、採用プロセスの手間と時間、そして新入社員の教育にかかるコスト…など、採用にかかるコストが積み重なることで、金銭的な資源が限られている中小企業にとっては大きな負担となるはずです。 採用は、勝つか、負けるか。

最近、多くのネット記事や書籍で、「採用=営業」と言われていますが、まさに、人は”待っていてもこない、取りに行くもの”です。その点を踏まえて、本記事をご覧いただければと思います。

中長期的な視点での採用戦略の重要性

単年度の採用活動におけるコスト削減ももちろん重要ですが、私たちが提唱しているのは、中長期的な視点での採用戦略を構築することです。この視点を持つことで、採用コストの削減だけでなく、企業文化にマッチした質の高い人材の獲得と定着を実現し、皆様の企業の持続的な成長に寄与していくと考えています。

“自社にこそ”合う人材を考える

誰もが欲しがる人材は狙わない

人事担当者Aさんに採用したい人材について聞くと、「六大学を卒業して一定の教養があり、前職は同業界同職種の経験が5年以上になる即戦力。おまけにビジネス的なスタンスも兼ね備えていて、将来の経営側の候補にもなれるような存在を…」と仰いました。

皆様はこの発言を聞き、どのように思いましたでしょうか?おそらく「考えが甘すぎる」と思った方が多いのではないでしょうか?

 ただ、人間は、「他人の言動に対しては過ちやおかしさを感じつつも、自身の言動は気づきづらい」ものです(自己認識の難しさというのはそういうものです)。

私は今まで何百社の人事担当者様にお会いしてきましたが、やはり【“誰もが欲しがる人材”を欲しがる人事担当者様が9割】だったように思えます。 経営や事業戦略と同じで、人材の獲得(=採用戦略)も「何を捨て、何にこだわるか?」が重要です。皆様の企業の人材選定基準の中で、譲れないスキルやスペック、価値観はありますでしょうか?加えて、「ここはいっそ持ってなくても良い」「妥協しても良い!」という能力やスペックはありますでしょうか?この、捨てても良い=持ってなくても良い部分を整理することが意外と大事になります。

自社に合う人材の考え方

自社に合う人材は、スキル・スペック・パーソナリティなどの部分でMUST(=必須要件)/WANT(=歓迎要件)/NEGATIVE(=除外要件)で分類することがおすすめです。

スキル:持っている能力、テクニカルな技術から、ポータブルスキルまで。応募者ができること。

スペック:持ち合わせている経験、経歴など

パーソナリティ:性格、志向(協調性、挑戦心、ストレス耐性)など

上記のような3観点で、まずは、自社のターゲットとなる応募者の“必須要件”から考えてみましょう。例えば、WEB広告の営業リーダー候補を採用したい場合…

 MUSTWANTNEGATIVE
スキル・基本のPC操作 (PowerPoint、Excel)・WEBマーケの知識 
スペック・営業経験(2年以上/ 個人・法人・業界不問)  ・提案型の営業経験 ・広告業界での営業経験 ・2名以上のマネジメント経験・チームで目標を目指し協業した経験がない(個人プレーのみ)
パーソナリティ・何事も積極的に挑戦できる人 ・キャリアアップしていきたい人・フットワークの軽い方 ・人と話すことが好きな方 ・根気強く取り組める方・失敗を素直に認められない方 ・協調性のない方

上記のようにあらためて記載してみると、ターゲットを何となくイメージできると思いませんか?また、“NEGATIVE“の要素も加えることで、「こんな人だけは採らない方が良いかも(例えば営業職なのにコミュニケーションが苦手、あまり好きではない、等)」という人も整理できますよね。 そしてこれに加えて、さらに実在する人物が想像できるレベルまで人材像を作成したものが、“採用ペルソナ”になります。ここまで設定できるとより具体的なターゲット像がイメージできると思います。

採用ペルソナの作り方

採用ペルソナを設定することは、自社に合う人材を獲得するだけではなく、社内で欲しい人材を「共通認識として持てる」ということも重要なポイントになります。採用は人事だけではなく、面接や育成などの観点で、社内において様々な部署の方が関わることになります。そのため、事前に認識をすり合わせておくことで、

・業務効率が上がる

・採用ターゲットの共有などにおけるコミュニケーションミスも減る

・面接の基準もバラけづらくなる

などのメリットが生まれ、スムーズ且つ、質の高い採用活動が可能になります。

特に他部署の方が採用の面接などをされる場合、自身と共通の特徴や価値観、経歴を持つ応募者に肩入れしやすいなどが起きてしまう可能性もあるため、やはり採用ターゲットを明文化しておく必要があるでしょう。

実際のペルソナは例えば下記のようなイメージです。

このようにしてみると、誰が見ても共通認識が生まれますし、自社にこそ合う人材をちゃんと定義していけそうですよね!こういったターゲットは一朝一夕で定義にすることは難しいですが、採用活動を行っていく中で、都度見えてきて、修正を繰り返していくものかと思っています。そのため、初年度は採用の方向性が定まらず、採用にかかる費用が少し嵩んでしまうということがあるかもしれませんが、採用活動を重ねていくことで、採用ターゲット像がアップデートされていき、トータルの採用にかかるコストを下げていくことが可能です。

それでも、自社に合う人材がわからない方へ

ここまで、“自社に合う人材”を考える上で、スキル・スタンス・パーソナリティのMUST/WANTの整理や、採用ペルソナの概念について語ってきましたが、いかがでしたでしょうか?採用は勉強も探求もせずに、感覚で行うものではありません。採用ができている企業は、活動をする前に、しっかりとそれ相応の検討・整理を実施しているのです。 しかしそれが分かっても「なかなかターゲットを決めるのは難しい…」という方もいらっしゃるかと思います。そういったときは、下記のような手順で採用ターゲットを考えていきましょう!

上位の概念から整理する

まず、皆さんの会社における、

・ビジョン、ミッション、バリュー

・経営戦略や事業戦略・計画

・採用の目的、背景

これらの概念から考えることが大事です。採用と経営・事業戦略を分けて考えるというのはよく陥りがちなミスとして上げられますが、人は、ヒト・モノ・カネなど言われるように、経営資源の1つですので、経営や事業の戦略などと紐づいている必要があるのです。

例えば、3年後に営業に力を入れて、自社商品・サービスの販路を拡大していこう!と考えている段階で、企画やスタッフ職に近い人材層だけ集めていても、中期に向けての計画の実現は難しくなってしまいますよね。また、ビジョンとして顧客価値を追い求め続けている会社であれば、「営業はできるけど、顧客視点はあまりない」という応募者はカルチャーフィットせず、会社を離れてしまう事も考えられます。こうなってしまうと、せっかく採用にかかったコストは無駄になり、また新しい人材を雇わなければいけなくなります。 そうなると、結果的に採用にかかるコストが増えてしまうのです。

社内での活躍社員の特徴(共通項)を再度整理し、言語にする

皆さんの会社にも、「こんな人がたくさんいたらいいのに…」という活躍社員の方はいませんでしょうか?確かに多くの価値観や考え方を持つ方が集ったほうが、多様性による組織としての強さは生まれるわけですが、一方で、「後○人くらい、〜〜な人がほしい!」そう思うことはありますよね。

 活躍社員のどんなスキルが、どんなスペックが、どんな志向性が、その人を活躍社員足らしめているのか?このように考えると、1からMUST/WANTや採用ペルソナを捻り出すよりも効率的です。

例えば、下記のような分析の仕方が一般的です。

・直接観察:日常の業務中の振る舞いやコミュニケーションの仕方。

・インタビュー:活躍社員自身や同僚、上司にインタビューを行い、その人物がどのような能力やスキル、志向性を持っているかを探る。

・業績データの分析:具体的な業績データ(定量・定性)やプロジェクトの成果を分析。

などです。 ぜひ色々な角度から、活躍社員の特性を分析してみましょう。

適性検査の導入

またこちらは少し費用がかかりますが、個人のスキルや価値観・志向性をテストで分析し、“見える化”してくれる適性検査を導入するという考え方もあります。

 例えば、有名なのはリクルート社の“SPI”などですが、これは、「行動的側面」「意欲的側面」「情緒的側面」「社会関係的側面」と大きく4つの分類がなされており、例えば「積極的で、行動が先行するタイプ」や「高い目標や理想は持つが、行動は伴わないことがあるタイプ」など、テスト結果で分析することが可能です。

自社で採用ターゲットを明確に考える時間が無かったり、考えてはいるものの、ノウハウ不足で運用に落とし込めるレベルではないなどのお悩みがある方は、こうした見える化ツールを導入してみるのも、1つ手ではないでしょうか?

さいごに

名著『ビジョナリー・カンパニー2 飛躍の法則』に、採用における考え方において、非常に示唆に富んだ文章があります。

 “ブルカートは、同社が勢いよく成長した時期にCEOのアラン・ウルツェルとこんな会話を交わしたと話してくれた。「あるとき、『アラン、このポストやあのポストに、まさに適切な人材がなかなか見つからないので、疲れ切ってきた。どこで妥協すればいいだろう』と聞いたら、アランは躊躇なくこう答えた。『妥協はしない。別の方法を見つけて、最適の人材を探そう』と」”

 皆さんにお伝えしたいことは、【採用の失敗は教育では取り戻せない】という考え方。つまり、上記のアランのように「採用にこだわりきってほしい」のです。

採用を失敗すると、給与を払ったことに対しての見返りがない、採用にかかったコストが無駄になったというだけではなく、現従業員に対しても心理的な負荷をかけることに繋がります。そしてそれを教育で取り戻そうとも、根本の価値観や考え方からずれていると、教育で補うことは非常に難しいはずです。こうなっていくと、自社の事業を伸ばすために雇ったはずの人材が、企業衰退の一要因になってしまう可能性もあるのです。

今回は「採用コストを押さえる」というテーマではありましたが、《自社に合う人材を考えること》《採用にこだわり切ること》は、中長期での採用予算のコストカットに繋がることはもちろん、会社の命運を握っていると言っても過言ではありません。採用は、急がば回れ。

本記事が皆さんの参考になれば幸いです。ありがとうございました。