多くの企業が「 MVV (ミッション・ビジョン・バリュー)」を掲げています。
ただ、「作っただけで終わってしまっている」「社員が自分ごととして捉えていない」と言ったお悩みをよく伺います。

実際、近年の調査では、 MVV を策定しても約6割の企業が「浸透に課題を感じている」と回答しています。
形だけのスローガンではなく、現場の意思決定や行動にまで MVV を根付かせることこそが、組織を強くする鍵です。

この記事では、

  1. MVV が今なぜ重要なのか
  2. 成功企業の実践事例
  3. 現場(地上戦)への落とし込み方

を体系的に解説します。
「理念が浸透する組織」を目指される経営者・人事担当者の方は、ぜひ最後までお読みください。

なぜ MVV が重要視されるのか?

まず、 MVV がなぜ重要視されるのか、その理由を明確にしましょう。

現代はVUCAの時代と言われ、
・Volatility(変動性)
・Uncertainty(不確実性)
・Complexity(複雑性)
・Ambiguity(曖昧性)
に満ちた、予測困難な時代とされています。
※VUCAとは?

このような変化の激しい環境をもつ現代では、従来の戦略で対応し続けることが難しくなっています。

また優秀な人材は会社選びを行う際には、どんな社会課題を重視し向き合っている会社なのか、
その問題を解決するためにどんなサービスを提供しているのか、といった具合に「 一貫性」を求める傾向があります。
そのため、採用の優位性においてもMVVが非常に重要です。

この「MVV」が企業にもたらす有用性は以下3点です。

意思決定の軸となる

MVVは、組織が何のために存在し、どこに向かって進んでいくのか、どのような価値観を大切にするのかを明文化したものです。
明確なMVVがあれば、迷った時、困難な課題に直面した時、MVVに立ち返ることで、進むべき道を見出すことができます。

これは、社員においても同様です。社員が業務上で悩みを抱えたときや組織の育成の指針を示すときの意思決定にも役立ちます。
そのため、MVVを明確に決めて運用することは意思決定の「軸」ともなるのです。

社員のモチベーション・エンゲージメント向上

社員一人ひとりが、組織のMVVに共感し、自分の仕事がその実現にどう貢献しているのかを理解することができます。
そうすることで個人が働くことの社会的意義が見え、仕事へのモチベーションやエンゲージメントが高まります。

ここから自分の仕事に誇りや意義を見出し、より積極的に業務に取り組むようになるでしょう。

組織の一体感・求心力の醸成

共通のMVVのもとに、社員が一致団結することで、組織の一体感や求心力が高まります。
部署や役職を超えた連携が生まれ、組織全体のパフォーマンス向上に繋がります。


さらに補足になりますが、明確なMVVを策定することは採用活動においても有効です。
つまり、理想や理念に共感する人材が集まることで、組織文化の維持・強化に繋がります。

このように、MVVは現代において企業の持続的な成長を支える、重要な役割を担っているのです。

MVVの決め方

では、具体的にどのようにMVVを決めれば良いのでしょうか。
効果的なMVVを策定するためには、以下のステップで進めることをお勧めします。

STEP1:プロジェクトチームの編成

MVVの策定は、経営層だけで行うのではなく、各部門・各階層からメンバーを集めたプロジェクトチームを編成しましょう。
多様な意見を取り入れることで、より実態に即した、社員が共感しやすいMVVを策定することができます。
経営層のみで行ってしまうと現場に根付かない、冒頭にお話しした「空中戦」のみで終わってしまう可能性があります。

STEP2:現状分析(As-Is)

まずは下記3項目のような調査を行い、自社の現状を徹底的に分析します。
外部環境分析 :市場動向、競合分析、顧客ニーズなどを調査し、自社を取り巻く環境を把握します。
内部環境分析 :自社の強み・弱み、経営資源、組織文化などを分析し、自社の現状を客観的に評価します。
ヒアリング・アンケート :社員に対し、自社の存在意義や大切にすべき価値観などについて、ヒアリングやアンケートを実施します。

STEP3:理想像の検討(To-Be)

現状分析を踏まえ、自社が将来どのような姿を目指すのかの理想像を検討します。

ミッション(存在意義)   :自社は何のために存在するのか?社会に対してどのような価値を提供するのか?
ビジョン(将来像)     :自社は将来どのような姿を目指すのか?どのような世界を実現したいのか?
バリュー(価値観)     :ミッション・ビジョンを実現するために、どのような価値観を大切にするのか?

STEP4:MVVの言語化

理想像に基づき、MVVを下記の点に気を付けながら具体的な言葉に落とし込みます。

簡潔でわかりやすい言葉を使う    :誰が読んでも理解できる、簡潔な言葉を使いましょう。
具体的でイメージしやすい表現にする : 抽象的な表現ではなく、具体的な行動をイメージできる表現を心がけましょう。
独自性のある表現を意識する     :他社と差別化できる、自社ならではのオリジナリティを追求しましょう。

STEP5:社内への共有・意見収集

策定したMVV案を社内に共有し、社員からフィードバックを収集します。
説明会を開催したり、社内報で発信したりするなど、様々な方法で社員の目に触れる機会を増やしましょう。

寄せられた意見を参考に、必要に応じてMVVを修正します。
大変に思われるかもしれませんが社長が1人で決めたMVVほど現場に浸透しないものはありません。
立場や役割によって見えている世界は当然違いますが丁寧にすり合わせていくことが大切です。

MVV浸透の成功事例紹介

MVV(Mission, Vision, Value)を効果的に浸透させることで、企業のパフォーマンスを飛躍的に向上させた成功事例を紹介します。


株式会社メルカリ

メルカリでは、創業当初から「Go Bold(大胆にやろう)」「All for One」「Be a Pro」というバリューを明確に掲げています。
単なるスローガンではなく、評価制度・採用・研修すべてにバリューを反映しているのが特徴です。

たとえば、半期ごとの人事評価では、成果だけでなく「どの程度バリューを体現したか」が重視されます。
さらに、社員表彰制度「Go Bold Award」では、失敗を恐れず挑戦した社員が表彰対象になります。
この仕組みにより、「バリューが行動の基準になる文化」が自然と根付いています。

株式会社フクナガエンジニアリング

株式会社フクナガエンジニアリング(FEC)は、大阪の産業資材メーカーで、金属スクラップからフレコンバッグやノーパンクタイヤ等を生産・販売しています。
同社は創業後初めて本格的にミッション経営へ舵を切り、新しいミッション「社会に埋もれている種をみつけて新しい価値に育てよう」を経営理念に据えました。
しかし従業員の多くはこれまでMVV未導入の環境で働いていたため、新たな理念を受け入れるハードルが高かったと言います。
そこでFECでは、MVVの導入初期段階で「業務50%、MVV50%」というコンセプトを掲げました。
具体的には、日々のオペレーションと同じくらいの割合でMVV浸透施策(説明会やワークショップ、社内掲示など)を実施し、社員の負担にならないようバランスを取っています。
このようにMVV浸透活動を「当社の一業務」と位置づけることで、導入の障壁を下げ、社員にとって理念を意識しやすい状態をつくりました。

また、社員自身がミッション策定に参加し議論する機会も設けました。
役員だけでなくマネージャー層を巻き込み、一体感を持って新理念を作り上げたことで、現場の納得度が大幅に向上しました。
これらの施策により、FECでは新ミッションが社内に定着し始め、従業員が日々の判断でMVVを参照する習慣が生まれています。
結果として、組織の一体感と中長期的な成長戦略への社員参画が進み、企業文化の変革へつながっています。

株式会社Merone

株式会社Meroneは、女性の自立支援を目的とするベンチャー企業で、
「自身を信じ、愛する力を育て、女性の自己実現を創出する」をミッションとするMVVを掲げています。

創業間もない組織ではもともとMVVの認知が低かったため、経営層は徹底した社内コミュニケーションを通じて理念浸透に取り組みました。
特に注目すべきは、1on1ミーティングでのMVV活用です。
上司・マネージャーが部下へのフィードバックの都度、「その行動はこのバリューに合っているか」
「この行動こそミッションに沿っていて素晴らしいね」といった声かけを行い、日常会話にMVVを意識したフレーズを取り入れています。
これにより、社員は自然と「判断軸=MVV」を身につけ、日々の業務で行動基準として利用するようになりました。

また、MVVに触れる機会そのものを制度的に増やしています。
当初は3ヶ月に1回だった1on1ミーティングを月1回に頻度アップし、定期的に価値観を擦り合わせる機会を設けました。
経営層からメンバーまで全員でMVVの意味・背景を共有し、各自の目標や業務に落とし込むことで、「組織としてすべきこと」と「個人の成長」の両立を実現しています。
こうした取り組みの結果、社員のMVVへの共感度が高まり、エンゲージメントや業績が向上。
Meroneでは導入当初より社員のモチベーションや売上が大幅に改善し、全社の成長に貢献しています。

MVV浸透における失敗例とその対策

MVV(Mission, Vision, Value)が組織にうまく浸透しない原因はいくつか考えられます。

例1 :トップダウンのアプローチでMVVを決定し浸透させようとした結果、社員が受動的になってしまうケース。
これを解決するためには、全社員が参加するワークショップを定期的に開催し、意見を吸い上げるプロセスが有効です。

例2  :MVVが具体的な行動指針や評価制度に反映されていないケース。
このような場合、日常の業務においてMVVが意識されにくくなります。
対策としては、MVVに基づいた評価基準を明確にし、定期的なフィードバックを行う仕組みを作ることが重要です。

例3 :コミュニケーション・後方の不足が顕著なケース。
トップマネジメントからの継続的な発信がないと、社員はMVVを単なるスローガンと感じてしまいます。
これを避けるためには、経営層が定期的にMVVに関連したメッセージを発信し、担当者や社員との対話を大切にする文化を育むことが不可欠です。

MVVをどう地上戦(現場)に接続するのか?

では、どうすればMVVを「地上戦」、つまり現場に接続し、浸透させることができるのでしょうか。
ここでは、具体的な施策を5つ紹介します。

施策①:MVVを体現する行動指針(行動レベルへの落とし込み)を策定する

抽象的なMVVを、具体的な行動レベルに落とし込むことが重要です。
バリューで定義した内容をさらに深堀、実際の業務でどのような行動をすべきかを行動指針として明文化しましょう。

下記は、事例の一つです。
バリュー: 「顧客第一」
行動指針:顧客の声を真摯に受け止め、迅速かつ丁寧に対応する。
     顧客の期待を超えるサービスを提供するために、常に改善を心がける。
     顧客との長期的な信頼関係を構築するために、誠実な対応を徹底する。

このように、バリューを具体的な行動指針に落とし込むことで、
社員は日々の業務の中で何を意識すべきかが明確になり、MVVを「自分ごと化」しやすくなります。

施策②:評価制度・表彰制度への反映

MVVを体現する行動を評価する仕組みを構築しましょう。

・評価制度  : 評価項目にMVVに関連する項目を設定する。
例えば、目標設定や評価の際に、MVVに沿った行動がどれだけ取れていたかを評価項目に加えることが考えられます。

・表彰制度  : MVVを体現する活躍をした社員を表彰する制度を設ける。
バリューを体現した行動や成果を上げた社員を表彰することで、社員のモチベーション向上とMVV浸透を促進できます。
例えば挑戦というバリューを掲げているのであれば最もよい失敗をした人を表彰することも一つかもしれません。

施策③:採用活動への反映

採用活動においても、MVVへの共感を重要な選考基準としましょう。

・採用基準の明確化: 求める人物像にMVVへの共感を盛り込み、採用基準を明確化します。
・選考プロセスでの確認: 面接などを通じて、候補者が自社のMVVに共感しているかを確認します。
MVVに共感する人材を採用することで、組織文化の維持・強化に繋がり、MVV浸透を加速させることができます

施策④:トップ・マネジメント層による継続的な発信

経営層やマネジメント層が、下記のような場面で日常的に発信し続けることが重要です。

・朝礼や会議での言及 : 定期的にMVVについて触れ、その重要性を繰り返し伝えましょう。
・社内報などの発信  :MVVに関する特集記事を掲載するなど、社員の目に触れる機会を増やしましょう。
・自らが率先垂範する :経営層やマネジメント層が、自らMVVを体現した行動を示すことが、何よりも効果的です。

施策⑤:MVV浸透を目的としたワークショップや研修の実施

MVVへの理解を深め、自分ごと化を促すためのワークショップや研修を定期的に実施しましょう。

・MVV理解ワークショップ  : MVVの意味や背景を理解するためのワークショップを開催する。
・行動指針ワークショップ  :バリューと行動指針に基づき、自身の業務にどのように落とし込むかを考えるワークショップを行う。
・ケーススタディ      :MVVを軸としたケーススタディを通じて、意思決定や問題解決について議論する場を設ける。

最後に

MVVは、組織の未来を切り開くための指針です。しかし、指針は持っているだけでは意味がありません。
それを使いこなし、日々の航海に活かしてこそ、初めてその真価を発揮します。

本記事を参考に、ぜひMVVを組織の「空中戦」から「地上戦」へと繋げ、社員一人ひとりの行動にまで浸透させてください。
その先にこそ、MVVで掲げた理想の世界が広がっているはずです。
このブログ記事が、皆様の組織におけるMVV浸透の一助となれば幸いです。

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