【実施だけでは意味がない!】話題のエンゲージメントサーベイとは
皆さんは、最近流行りの『エンゲージメントサーベイ』をご存知でしょうか。エンゲージメントサーベイとは、文字どおり、組織のエンゲージメントを評価するために行うアンケート調査を指し、従業員のモチベーションや会社に対する愛着心、会社とのつながりの強さなどを可視化(スコア化等)するモノです。通常、エンゲージメントサーベイは匿名で行われ、従業員は設問に回答したり、自分の意見をコメントしたりします。
人材マネジメントに最新のテクノロジー(IT・AI・センサー技術・ウェアラブルツール)を活用することを“HRテック”と呼びますが、このHRテックというテクノロジーの向上により、最近ではエンゲージメントサーベイを行うツール・サービスがどんどん出てきています。
しかし、私が知っている限り、エンゲージメントサーベイを実施した多くの企業様から、
・「エンゲージメントサーベイは実施しても意味がないので無駄」
・「手間を掛けて回答はさせたが、これが一体何の役に立つのかがわからない」
という声を頂いています。
エンゲージメントサーベイ自体は、組織を変えていく上で現状把握が正確にできるという非常に有用な手段かと思いますが、使い方を知らないと、それこそただただ、可視化されただけで終わってしまいます。今回は、そもそものエンゲージメントサーベイに関する詳しい説明から、使用方法、施策実行における注意点などを説明していきます。
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エンゲージメントサーベイとは
本章では、「エンゲージメントサーベイって何?」という方に向けて、概念的な説明や、なぜここまで流行しているのか?ということから説明していきます。
ちなみに・・・、「エンゲイジメント」(完全一致に限定)というワードを含む記事件数の推移をみると、2014年の1月から6月末までが198件、2015年の同期間が365件、2016年の同期間が672件、2017年の同期間が1,022件、2018年の同期間が1,272件、2019年の同期間が1,999件となっており、5年前と比較すると、「エンゲイジメント」を含む記事件数はなんと約10倍となっております。
こういった事実からも、やはりエンゲージメントに対する、急速な関心の高まりを感じますよね。
日本の現状
これは私自身驚かされた、というより、悲しくなったデータですが、世界的な調査会社ギャラップの調査によると、日本企業では「やる気のない社員」が全体の7割を占めている、と言われています。また、日本は「熱意あふれる社員」の割合がわずか“6%”で。139カ国中132位と最下位クラスです。
勤勉な国民性と評されてきた日本人でしたが、いまや会社員の大半が「やる気のない」状態にある・・・という形です。また他の調査によると、会社と上司に対する信頼度についても、日本は他の先進国と比べて低いと言われています。
他にも人材の流出問題や、労働生産性の低さなどが、ここ数年問題視されています。
公益財団法人日本生産性本部の調べでは、日本の時間あたり労働生産性は52.3ドル。OECD加盟38カ国中、30位という低位置にいる状態です。 こうした背景から、従業員の自発的な貢献性・イキイキ度合いなどを高めていこう!という考えが近年強まっており、そのファーストステップとして、現状の組織状態を正しく把握するために用いられ始めたのがエンゲージメントサーベイなのです。
そのため、エンゲージメントサーベイを実施することはあくまで現状把握としての手段である、この点を認識しておくことが重要となります。
類似概念との違い
エンゲージメントサーベイについての詳しい説明に入る前に、類似した概念との違いを見ていきましょう。似たような言葉に「従業員満足度」「ロイヤルティ」などの言葉がありますが、どのような違いがあるのでしょうか?
従業員満足度(ES):英語で「Emloyee Satisfaction」と呼ばれ、その頭文字をとり、ESと表現されたりしています。働き方や制度改革による、「従業員がどれだけ会社や職場に満足しているか」を定量化したモノです。 しかし、個々の社員の満足度が高いからといって、「主体的・自発的に仕事に取り組めている」とイコールなわけではありません。つまり、従業員満足度が上がっても、企業の収益や個人の生産性が上がるわけではないと言えるのです。
エンゲージメントの考え方は、パーソル総合研究所の調査で面白い結果項目があります。
それは「近年働きやすさの満足度は上がっているが、働きがいは下がっている」というデータです(従業員999名以下の中小企業のみ抽出)。このことから、会社への満足度が上がることによって、必ずしも、会社や職務への貢献性が高まるとは言えないということが分かると思います。
ただし、ここでは「会社満足度が上がっている」と表現させていただきましたが、本質的に引き上がっているか?でいうと、「そうではない」とTsumuguとしては捉えています。
満足度が上がっているように見える要因には、働き方改革の浸透や、コロナ禍での倒産や離職リスク下における、安定雇用への安心感の芽生えなど諸要因考えられますが、会社満足度が“本質的に(=働き甲斐や貢献度も含め)“上がってきていると考えられるような、企業様からの定性的な声は聞こえてこないのが実情です。
ロイヤルティ:ロイヤルティとは、忠誠、忠実の意味をもち、従業員の自社に対する「帰属意識」、「愛社精神」などを指します。関係性に基づく概念という意味ではエンゲージメントに似ておりますが、ロイヤルティという言葉は主従関係・上下関係を前提としたニュアンスをもっているのがポイントです。一方、エンゲージメントの概念は、個人と組織を対等な存在と捉えているものなので、その意味では違いがあるといえるのではないでしょうか?
エンゲージメントの2つの要素
ここまでエンゲージメントという言葉を多用してきましたが、実はエンゲージメントという言葉には2つの大きな要素「ワークエンゲージメント」と「従業員エンゲージメント」があります。こちらは内容や構成要素、向上手段もそれぞれ違うのですが、分けて捉えることで、よりエンゲージメントというものを正しく捉えられると思いますので、しっかりと理解しておく必要があると言えます。
まとめると上記のような分かれ方になります。
簡単に言うと、「仕事に対してのポジティブな意欲」を指すワークエンゲージメントと、「企業や組織への貢献意欲を指す」従業員エンゲージメントというふうに大別が出来ます。
この2つの要素に、どちらが大事か?どちらからやるべきか?という答えは基本的には存在せず、両方大事で両方やったほうが良いというのが結論です。ただし、私が多くの会社様を見てきた中で言えば、日本の中小企業様では、従業員エンゲージメントから高めていくことの優先度がより高い会社様のほうが多かったのも事実です。
それぞれ見ていきましょう。
ワークエンゲージメント
ワークエンゲージメントという概念はオランダのユトレヒト大学の教授等が提唱した概念であり、「仕事から活力を得ていきいきとしている(活力)」「仕事に誇りとやりがいを感じている(熱意)」「仕事に熱心に取り組んでいる(没頭)」の3つ揃った状態と定義されています。
要は、会社がどうこうではなく、その仕事への“働きがい”があるかどうか、を問うている項目であると捉えてみるとわかりやすいと思います。
ワークエンゲージメントに関しては、『1-2. 類似概念との違い』における、パーソル総合研究所『コロナ禍で「ワーク・エンゲイジメント」はどう変化したのか?ー企業規模に注目して』から引用した図でもお見せしましたが、年々下がっている傾向にあります。
ワークエンゲージメントがあまりにも低い状態を、厚生労働省の「令和元年版 労働経済の分析」では、「バーンアウト(燃え尽き症候群)」と表現されています。こうなってしまうと、仕事に自分なりに力を尽くした結果、疲れ果ててしまった状態に陥るため、他者への思いやりのない行動(脱人格化)や達成感の低下などに繋がっていってしまいます。
従業員エンゲージメント
続いて従業員エンゲージメントです。従業員が会社の向かっている方向性(企業理念)に共感し、業績向上のために、自発的に「会社に貢献したい」と思う意欲のことを指しています。
一言で表すなら、「従業員の企業に対する信頼の度合い」や「従業員と企業とのつながりの強さ」といえます。会社で働くイキイキ度合い、なんて言葉のほうがわかりやすいかもしれませんね。
正直、従業員エンゲージメントを高めるドライバーは少し抽象的で、捉えづらいものになっているのが事実ですが、例えば、会社のトップがリーダーとして、どんなビジョンを掲げているのか?や、それは社会にとってどんな価値なのか?を明確に語ったり(MVVの浸透)、頑張ったり成果を上げたことに対しての見返りや評価の度合い(人事制度の設計)により、スコアが引き上がったりしていきます。
先程も、「この2つの要素(ワークエンゲージメントと従業員エンゲージメント)に、どちらが大事か?どちらからやるべきか?という答えは基本的には存在せず、両方大事で両方やったほうが良いというのが結論」と書きましたが、低すぎて問題になりやすいのは、従業員エンゲージメントだと私は捉えています。
アメリカの臨床心理学者にフレデリック・ハーズバーグの『二要因理論』によれば、「職務満足=つまり、モチベーションをあげる要素」と「職務不満足=つまり、モチベーションを下げる要素」は違います。もちろん会社として従業員のやる気を引き出していくような、職務満足感を提供していくというのは大事ですが、まずは職務不満足を引き起こす要因から考えていくことが大事です。
まずは、同僚や上司との信頼関係の構築や、組織風土の醸成、組織の方針やビジョンと照らし合わせた、公正公平な評価制度を考えていく、などから始めていきましょう。
エンゲージメントを高めるメリット
企業価値の向上
エンゲージメントを高めることは、企業の業績に直結する、と言われています。
ギャラップの調査によると、エンゲージメントの高いチームは低いチームより、収益性が22%、生産性は21%、EPS(株価収益率)は47%も上回ると言います。また、離職率は大幅に低く、欠勤も少ない状態を生み出すことができ、人材の定着にも寄与します。
他の調査でも、エンゲージメントの低い従業員に働きかけてそのエンゲージメントを向上させれば、離職可能性が87%低下することが判明しているそうです。 さらには、元ハーバード・ビジネススクール教授ジェームス・ヘスケットらは、従業員のエンゲージメントが高まると顧客の満足度も高まることを実証しており、こういった現象は、「サービス・プロフィット・チェーン(SPC)」や「サティスファクション・ミラー(鏡面効果)」と言われています。
顧客満足度が上がると、アップセルやクロスセルを通じた単年でのさらなる収益の増加、利用継続性の高まりによる中長期でのLTVの向上も見込めそうですね。
イノベーションが生まれやすくなる
エンゲージメントが高まった状態というのは、「ワークエンゲージメント=仕事に対しての熱量」と「従業員エンゲージメント=会社への貢献意欲」が高まった状態なわけですから、新たな発想やアイデアが生まれやすい環境が作られます。
エンゲージメントの高さがイノベーションにつながるというのは、実際の企業群と照らし合わせてみるとわかりやすいのではないでしょうか。企業口コミサイト『OpenWork(オープンワーク)』内に、2014年11月1日~19年10月31日(現職社員回答日及び退職社員退社年)に回答された「風通しの良さ」「待遇面の満足度」「社員の士気」「社員の相互尊重」といったエンゲージメントに関する項目を抽出した際に、下記のような企業が上位に入ってきます。
・ユーザーベース
・グーグル
・リンクアンドモチベーション
・リクルート
・キーエンス
社名を見てみるとわかりやすいですが、これらの企業群はエンゲージメントの指数が非常に高く、且つ、数々のイノベーションを高頻度且つ高品質で生み出している企業と言えるでしょう。
例えば、株式会社リクルートでは毎年『Ring』という新規事業の提案制度があります。社内外有志のメンバーが集い、事業プランを仕立て、最終段階になると経営層に直接プレゼンをするという場があります(ゼクシィやスタディサプリもこのRingの場からスタートしたと言われています)。すでにRingという制度が始まってから40年以上経つらしいですが、常にイノベーションに向けた発信が従業員から生まれてきていると考えると、驚きですよね。
エンゲージメントを高めるには
当たり前ですが、調査するだけでは組織の改善は起きません。人間と同じで、体重を測っただけでは痩せていくわけがないのと同じです(笑)。そのため、数値を生かして、目的を達成するためにどんな手段を講じていくか?なんのアクションを取っていくか?スコアを取った後の行動が大事なのです。そちらを本章では見ていきましょう。
会社のビジョンやミッションを従業員に浸透させる
自社のビジョン・ミッション(いわゆるMVV)や目標を共有するようにしましょう。従業員は自分が働いている会社が何を目的として、どういったビジョンに基づいて活動しているかを把握することで、経営層と一体感を持って業務に取り組むことができます。
自社のビジョン共有の方法として、定期的に説明会を実施する、ハンドブックや社内報などへの掲載、上位レイヤーが定期的に部下と直接交流機会を設けるなどがあります。
マネジメント層の人材育成を行う
エンゲージメントの中でも、取り分けワークエンゲージメントは現場上司に起因する物が大きいです。上司がイキイキしていると部下もイキイキしてくる・・・これをクロスオーバーと言ったりもします。そのため1on1など日々のコミュニケーションの取り方からしっかりと教えていくのが大事です。
加えて、エンゲージメントにおいては人事評価、部下の努力やポテンシャルが公平公正に正しく評価されていることが大事です。日々の頑張りが上司に伝わり、正しく評価されていると感じた配下社員はエンゲージメントの向上が見込めるでしょう。そのため、マネジメント層に対する、コーチング・トレーニング・フィードバックなどに関する人材育成を行うことは非常に効果的です。
従業員側の期待値調整を行う
これは内部の中で片付ける問題と言うよりも、ぜひ外部での研修などを取り入れて行ってほしいのですが、部下側の会社や仕事に対しての期待値が高すぎることが、職務満足感の上下に関わっていることは多々あります。
そのため、エンゲージメントが低い理由を、現場のマネジャーだけの責任にするのではなく、会社として人材マネジメント全体の中で見直すところはないか?の検討も大事です。
例えばですが、求人広告で、「年収1000万円すぐに到達!」「圧倒的成長環境!」などと押し出しすぎた採用ブランディングをすると、入社してくる部下はそれ相応の期待感を抱いてくるはずです。そうした中で、エンゲージメントの高低の要因を現場のマネジャーにだけ置いていても、本質的な解決には繋がらないのです。
さいごに
いかがでしたでしょうか?ここで紹介したのは、エンゲージメントを高める施策のほんの一部です。組織を構築しているのは人。上司も部下も人、経営者も人です。そのため、細かく考えれば100人100通りのやり方があるとも言えます。
ただし、一人ひとりに合わせていると、キリがないのも事実ですし、すべての人員に報いることは理想的かもしれませんが、難しいのが現実です。人それぞれの考えや価値観もあるわけですから、全員のエンゲージメントを高めようとすることは、良いことをしているようで、逆にターゲットがばらつき、誰にもヒットしない打ち手になりがちなのです。(誰にヒットさせる打ち手か?は前ブログ【仕組みで変える!】人事制度の作り方入門―現状分析編―でも紹介した、「コア人材を定義する」という内容に近いですね)
エンゲージメントの設問への回答スコアの高低だけではなく、年次や役職、部署ごとなど、クロスで分析すると解釈の仕方やそこへの打ち手も変わってくるはずです。株式会社Tsumuguでは、独自のエンゲージメントサーベイを非常に低価格から利用していただくことが可能です。ぜひ、ご検討の際はお問い合わせください。お読みいただきありがとうございました。