人材採用
【前編】自社に適した選考プロセスの見つけ方とは?
皆さんの会社では、新卒採用において自社に合った選考プロセスをきちんと設計できていますか?そもそも「選考プロセスを設計するとは?」「自社に適した選考なんてあるの?」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
私のお客様でも、”なんとなく”合同説明会に参加したり、大手求人サイトに掲載していて、その手段をとった理由をお伺いしても「他社がやっているからとりあえずやっている」というように、明確な理由はないといったパターンが非常に多いです。
実はこれでは採用はうまくいきません。採用をきちんと行うためには、応募を集めるためになにをするのか、面接の回数・実施方法はオンラインなのか対面なのか、会社説明会ではどんな話をするのか、そもそも説明会を開くのか、などなど様々な採用手法に関する選択を自社に適した方法に合わせて行っていく必要があるのです。
では何を基準に選択をすればよいのか、という疑問が生じてくるかと思いますが、それは、自社で設定する選考の各段階におけるKPI(重要評価指数)となります。 次章以降では、このKPIの設定方法や目安の数字をお伝えしたうえで、自社に適した選考プロセスをどのように設計していくべきなのかについて解説してまいります。
KPIを設定すべき指標について
「KPIくらい知っているよ」と思われるかもしれませんが念のためご説明させていただきますと、KPIは目標達成に向けたプロセスの進捗管理を定量的に評価・分析するための指標のことを言います。採用においても選考プロセスをより細かく段階に分け、それぞれにKPIを設定することで、どの段階が上手くいっているのかあるいは上手くいっていないのかを客観的に判断することができます。
なお、以下の文章より曽和利光様の「会社を成長させる新卒採用:戦略編」を参考にさせていただいております。
以下がKPIを設定すべき指標7つとなります。
①有効応募率(プレエントリー者数÷実際のエントリー者数)
②書類選考合格率(書類選考通過者÷提出者数)
③筆記通過率(筆記通過者数÷受験者数)
④適性検査合格率(適性検査合格者数÷受験者数)
⑤面接合格率(面接通過者数÷面接者数)
⑥途中辞退率(途中辞退者総数÷受験者数)
⑦内定辞退率(内定辞退者数÷内定者数)
②書類選考合格率、⑤面接合格率、⑦内定辞退率などはよく耳にすることがあるかと思いますが、①リアル接触率や⑥途中辞退率はあまりピンと来ない方も多いのではないでしょうか。しかし著者の曽和さんは、このリアル接触率と途中辞退率が最も重要な指標であると位置づけていますので特に意識してみてください。
では、ここからは各指標についてより詳細にご説明してまいります。
有効応募率
この有効応募率とは、プレエントリー者を母数としたときの実際にエントリーした人の割合を意味しています。
リクナビさんなどの大手求人サイトでプレエントリー(興味がある企業に対し自分の情報を送る機能。ボタンを押せば完了するのでハードルが非常に低い)した人が、実際の応募フェーズにどれくらい進んでいるかの指標となります。
このフェーズでせっかくの応募者を取りこぼしている企業が非常に多いというのが現状。なぜここで学生が離脱してしまうのかというと、応募のハードルが高すぎるパターンが最も多いのですが対策できていない企業がほとんどです。
離脱する多くはその企業に興味がない学生です。
前回の”若者を引き付ける母集団形成とは?”という記事にも書かせていただきましたが、いわゆる自社のファン(元々自社に興味を持っている人)ばかりを採用していては本当に優秀で自社にマッチしている人材を取りこぼす可能性が高く、今は自社のファンではない人材に対してもアプローチをしていきファンになってもらう必要があります。しかしながら現状多くの企業では選考フローの最初の段階から興味のない学生を取りこぼしてしまっているということになります。
「自社に興味のない学生なんか応募してもらわない方がましだ」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。そのお気持ちも分かるのですが、人材獲得が難化している現代の採用市場では、もうそれは通用しません。
せっかくの機会を取りこぼさないように、できるだけ有効応募率を上げていくことが非常に重要となるのです。
リ有効応募率の相場平均は30%程度。これより低い場合は早急な対策が必要となります。 対策としてはたとえば説明会をオンライン開催にする、エントリーシートは面接時に会社で書いてもらうなど、できるだけ応募のハードルを低くする方法を考えるようにしましょう。
書類合格率
これはエントリーシートなどの書類を提出した数のうち合格者の割合です。
私の就活時代は学歴フィルターと言われるものが存在し大学名で合否を判断されるといったことはよくありました。大学名だけで判断するのはよくないと批判されることがよくある手法ですが、逆に言うと書類上では大学名でしか合否を判断することができないとも言えます。
リアルで会ってみない限りその人の素性は判断できませんので、書類では明確に評価がしづらく、せっかくの優秀な人材を取りこぼしかねなくなります。
そのため書類選考段階で大量に落とすというよりは、あまりにも応募者が多く手が回らない場合などに最低限絞るための手段として利用するのがベストかと思います。
可能な限り実際に応募者と会ってみるということを意識してください。 とはいえ書類選考を効率的に行うことも重要ですので、以下に書類選考でチェックすべきポイントをご紹介しますので参考にしてみてください。
求人の情報を満たしているか
新卒学生の場合、人物像や学歴が自社の求める条件に合っているかを確認しましょう。募集要項の基準をクリアしていないのに通過させてしまうと入社後のミスマッチに繋がる恐れがあります。
文書作成能力があるか
誤字脱字はもちろんですが、日本語として読める文章かどうかも大切です。特に営業職でこの能力がないと、取引先とのやり取りの中でクレームに繋がってしまうこともあります。また社内の社員同士のコミュニケーションに支障が出ることもありますので、ここで見極めておきたいです。
自分の言葉で書かれているか
インターネット上にテンプレートが掲載されているため、全文コピーしてくる応募者もいます。最近ではチャットGPTに文章を書かせるといったやり方も流行っていますので、注意が必要です。AIが書いた文章はどことなく違和感があることが多いので、注意深く読めば分かることも多いです。 きちんと自分の言葉で書かれているかは必ずチェックしましょう。
読み手へ配慮された書き方か
ビジネスマナーにも通じる部分があるので、配慮がないと仕事でも支障をきたす可能性が高くなります。特に注意して確認しておきたいのは、
・内容が伝わりにくい
・経歴が抽象的
・一文が長くて読みづらい
・専門用語(カタカナ語)を多用している
などです。
相手のことを考えられる人であるかどうかは、一緒に働くメンバーにとっても非常に大切なことですよね。
自己PRが書かれているか
書類選考では、履歴書や職務経歴書しか判断材料がないため、自己PRはとても重要な部分です。意識したいのが、どのような人物なのかを誰が見ても理解できる文章で書かれているかという点です。自分を深く理解している学生は内省力や自分を俯瞰的に見る能力を持っており、これは仕事の成果をより早く上げるための重要な能力です。うまく自己PRをかけている学生は採用後即戦力になる可能性もあります。
たとえば、あなたの企業が新規事業の営業職を募集していた場合、見るべきポイントとしては「積極性と挑戦意欲が感じられる自己PRが記載されているか」「簡潔かつわかりやすい文章を書いているか」などがあげられます。
筆記通過率
ここでいう筆記試験とは、数学や英語などの学力を測る試験を指します。
筆記試験を通過させるかさせないかは企業が採用において何を重視するかによってコントロールが可能です。 以下に業界ごとで重視すべきポイントをあげております。
①コンサルティング業界
重視ポイント: ロジカルシンキングと問題解決能力
具体例: 数列や図形の問題、データ解析などを含む試験を行い、応募者の論理的思考能力を評価します。
②商社
重視ポイント: 語学力と異文化適応能力
具体例: 英語やその他外国語の試験を通じて、応募者の語学力を評価します。TOEICやTOEFLのスコア提示が最も多い手法となります。
③金融業界
重視ポイント: 数学的素養とリスク管理能力
具体例: 確率や統計等の数学的な試験を行うことで、応募者の数理的能力を評価します。
④広告・マーケティング業界
重視ポイント: クリエイティビティとコミュニケーション能力
具体例: 文章力やクリエイティブな思考を問う筆記試験を行います。例えば、与えられたテーマに対する広告コピーの作成や、マーケティング戦略の提案書を書く試験などです。
⑤製造業(特に技術職)
重視ポイント: 専門知識と技術的な理解
具体例: 製造業の技術職では、機械工学や電気工学などの専門知識を問う筆記試験を行います。例えば、回路設計の問題や材料工学に関する問題を出題します。
私個人の考えとしては、学力の高さと実際に仕事ができるかは比例しない場合もあるので(もちろん地頭が良ければ仕事においても優秀である可能性が高いですが)、筆記試験で合否を判断しすぎると自社にとって良い人材を落としてしまうリスクがあると思っています。新卒採用においてはポテンシャルで判断しようと考えている企業の場合はここでむやみに落とさないほうがいいかもしれません。
自社の求める人物像や、採用にかけられるリソースによって判断基準を変えていくことをオススメします。
筆記通過率の数値目安としては、筆記を重視する企業であれば10%程度、実際に本人と会うことを重視する企業であれば50%程度となりますので参考にしてみてください。
まとめ
長くなってしまうので、今回はここでいったん終わりたいと思います。
次回の記事では後編として、残りの選考フローについて解説してまいりますので、ぜひ最後までお読みいただけるとうれしいです。今回のまとめとしては、採用を成功させるためには選考フローの各段階においてKPIを設定することが重要であるとお伝えしました。
また、選考フローにおいて特に重要な「リアル接触率」について特に詳しくご説明いたしました。人材獲得が激化している現代において、どれだけ多くの学生にリアルで会えるのかが非常に重要です。
みなさんの組織でも、新卒採用の際にはぜひ参考にしてみてください。 ここまで読んでいただきありがとうございました。