「指示待ち人間」という言葉が出てきて久しいですが、皆さんの職場には、「指示がなければ動かない“指示待ち部下”」はどれくらいいらっしゃいますでしょうか?20代・30代の若手に限らず、40代・50代の世代でも指示待ち層は一定層いると言われています。

今回はそうした指示待ち部下、取り分け弊社が得意とする若手社員に絞って、動かし方・指導の仕方や指示の仕方について書かせていただくのですが、私自身も過去アルバイトや仕事の場で、指示待ちになってしまった場面もあります(笑)。

そのため、そもそも、なぜ指示待ち部下が生まれてしまうのか?という原因の説明から、受け手となる若手社員の捉え方の整理、アドバイスという流れで説明していければと思います。若手の育成や育成計画に課題感を持つ人事担当者や人材開発担当者、現場マネジャーの方などは是非参考にしていただければと思います。

ちなみに、本記事では若手人材を「今の若者」と大きな主語で書かせていただいていますが、私個人としては、若手人材は「やっかいながらも、ポテンシャルに溢れた重要な経営資源」だと考えています。若手がどういう存在か?を一部、十把一絡げにしている表現もあるかもしれませんが、ご了承いただければ幸いでございます。

なぜ指示待ち部下が生まれるのか?

本章ではまず、指示待ち部下が生まれた背景などから説明していきます。背景を知ると、実はその部下本人の問題というよりも、日本教育のあり方や、失われた30年で日本の国力自体が低下し、企業そのものへの信用が落ちてしまったことに起因する、自身のキャリア観の変化などが要因として挙げられます。事情を知っていると、人の見方は変わるものです。みなさんも、まずは若手がどういう人生を歩んできたか?という部分を社会背景から理解することで、おおらかな気持ちで若手と接することができるようにしていきましょう。

子・生徒を守る教育

過去の教育と現代の教育は大きな差があったと思います。2002年以降完全週休2日制がとられて、そもそもの学習時間が減少したという物理的/時間的ゆるさもありますが、教えられている内容や関わられ方が前提違いを生んでいます。

キーワードで見るとわかりやすいと思いますので、昭和と平成後半とで比較してみましょう。

昭和時代平成後半
親から子へ
多産家庭
(兄弟姉妹が多い家庭が一般的で、親が子1人にかける十分な時間やお金がなかった)
少子化
(親1人に対して子供が少ない家庭が増え、過保護・過干渉でのフォローが一般的に)
集団主義的教育
(家族の中における役割の期待からくる教育やしつけ)
個性尊重教育
(子の強みやらしさに着眼した教育・育児)
教師から生徒へ
権威者としての教師
(教師は教室内での絶対的権威者)
生徒中心の教育
(生徒の自主性や主体性を重んじる)
体罰の容認
(教師の許容ラインを超えると体罰という罰則が待っている)
優しい指導
大規模クラス
(教師の目が行き届かない)
小規模クラス
(教師の目が行き届く)
親・教師から生徒(子)へ
上下関係
(親や教師の言うことは絶対)
対等な関係
(ソフトな上下関係はあれど、子どもの意見や感情が尊重)
一方通行のコミュニケーション双方向のコミュニケーション

大きくは少子化などの社会背景や、企業でのコンプライアンスやガバナンスの強化なども、現在ほどではないものの意識されてきたこともあり、日本全体で、人と人とのコミュニケーションが見直され始めたのが平成後半だと思っています。

このような環境では、子供や生徒が傷つくことも転ぶことも防ぐべく、周囲の大人は極力危険物を取り除き、危ないことは一切させないように配慮します。そのため、子供が自発的に何かをやる機会はどうしても限られてしまうのです。子供が「〜〜してみたい!」という意思表示をしても、大人に「危ないからだめ!」と却下されることもあり、必然的に受け身になりやすく、自主性も育ちづらい環境になったと言えます。 また日本の試験や受験のあり方なども“指示待ち部下”を作ってしまった背景だと私は考えています。試験というものはあらかじめ正解が決まっていて、それに沿った答えを答案用紙に書いていく作業であり、それが得点として評価されます。教師からの評価も指示されたことをきちんとこなすことで上がっていくこともおおいので、「指示されたこと、正解が用意されたことに対して、正解となる行為だけやっておけばよい」という考えは少なからず根付いてしまったのではないでしょうか?

日本企業の失墜によるキャリア観の変化

失われた30年の中で、日本は諸外国から大きく遅れを取りました。

例えば・・・
・世界の時価総額ランキングは1989年、TOP10の中に7社の日本企業が名を連ねていましたが、2023年では、日本のトップであるトヨタ自動車でも39位
・IMD「世界競争力年鑑」における日本の競争力総合順位は1989年から1992年まで1位を獲得。しかし昨年2023年は35位

など挙げていけば多くの見方で日本の国力の落ち方が確認できます。

そうした時代の流れの中で、今はVUCA時代。1社で頑張っていても、昇給が保証されているわけでも、昇進が高い確率で実現されるわけでもありません。「頑張っても報われない」「頑張っても無駄」という考えが若者の間に生まれるのは当然の流れかと思います。

現在、若者言葉で流行しているコスパやタイパという言葉がありますが(「タイパ」は『今年の新語2022』の大賞に選ばれていましたね)、こうした若者の価値観の変化と国力ダウンが相まって、若者はキャリア観を変え、企業内での振る舞いを変え、結果、効率性を追求した『指示待ち若手化』の状態に行き着いたと思います。

効率の良い人生を追求し、「コスパが悪いから」という理由で、恋愛や結婚にも消極的になっていると耳にしますが、仕事でもできるだけ時間の浪費をしないように、“言われたことだけやる姿勢”という状態が醸成されているのかもしれません。

終身雇用や年功序列は、いわば仕事で頑張ったことに対しての“見返り”です。一昔前は、言われたことをきちんとこなし、それ以上の働きを見せることで評価や報酬という形で返ってくることがある程度は保証されていたのです。ただし最近ではトヨタ自動車の社長や経団連の方が「終身雇用の維持は難しい」と発言をしていたり、最近では早期退職の募集が連日多くの大企業で出ていたりと、やはり“見返り”がないと実感するような報道ばかりです。そのような状況下で「辛抱して、理不尽に耐えて、言われたこと以外のことを進んでやっても、コスパが悪い」と感じられてしまうのは当然の潮流かもしれませんね。

指示待ち部下と指示待ち部下を生み出す上司の特徴

下記のような方は、指示待ち部下だったり、そうなりやすい可能性があります。

1. 指示がないと動かない
指示待ちと言っているので、当然かもしれませんが、「指示がないと動かない」が特徴の1つとして挙げられます。上司や周囲から明確な指示がない場合、何も行動しません。1つのタスクが完了した後も次のタスクの指示を待つ姿勢が見られます。

ちなみに理由はまちまちですが、こういった方は、「上司の指示に従うことが安全だろう」という心理が働いている可能性が高いです。部下が過去経験してきた指導や教育が影響していることが多く、指示に従うことで評価される環境で育った人が多いと考えられます。

2. 自己主導性の欠如
部下自身から能動的に仕事を見つけたり、提案したりすることが少ない、ということも特徴の1つです。与えられた仕事をこなして満足し、新しいアイディアや改善点を提案することがほとんどありません。

こちらに関しては、失敗を恐れたり、責任を避けたりする心理から来ていることがケースとして多いと思います。特に日本の文化では、成功した数より、失敗した数の方が個人の評価に大きく影響するため、若手はリスクを避ける傾向が強くなってしまうのです。

3. 責任回避の傾向
自分の判断で行動することを避け、上司に責任を押し付ける傾向がある方なども、指示待ち部下の特徴の1つです。仮にトラブルが発生した場合、自分の判断ミスを避けようとする傾向があります。

日本の企業文化では、失敗が個人のキャリア(社内での昇進・評価など)に大きなダメージを与えることがあります。今まで見てきた中でも、挑戦したからこその失敗が褒められる風土や文化が根づいている企業様はあまりなかったように感じます。そのため、責任を回避するために上司の指示を待つ傾向がみられるのです。

4. コミュニケーションを取りたがらない
上司に社内SNSで連絡をしたり、話しかけたりといったコミュニケーションが少なく、自分の意見や考えを伝えることが周囲より少ないという部分も指示待ち部下の特徴です。報告・連絡・相談(いわゆる「ホウレンソウ」)が不足しているパターンが多く見られます。

部下はコミュニケーションを避けることで、上司から余計なタスクが降ってくることを避けたいなどの心理からこのような行動をすることがあります。また、意見を言うことが自分の評価にどのように影響するかを過度に気にすることも一因として考えられますね。

5. 学習意欲の低下
自分から新しいスキルや知識を学ぼうとする意欲が低いのが5つ目の指示待ち部下の特徴です。必要最低限の業務にかぎり、仕事を行おうとします。 そもそも自発的な学習やスキルアップの機会が少ない環境や、成長の機会が与えられない企業文化が影響していることが可能性としてあげられます(現在だと『グロービス学び放題』や『Schoo』など低単価オンライン学習サービスなども多くでてきているので、それも言い訳かもしれませんが・・・)。学ぶことによる効果やメリットを感じられていないのかもしれませんね。

指示待ち部下を作る上司の特徴

下記のような上司は指示待ち部下を生み出す可能性があります。

1. 過干渉なマイクロマネジメント
部下の業務に過度に干渉し、細かい部分まで指示を出してしまうのは、指示待ち部下を作ってしまう上司の特徴の1つです。部下が自分で判断する余地を与えないので、部下が自分で考えることを阻害してしまうことが発生します。その結果、自律的な行動を抑制することになるので、いつの間にか上からの指示を待つだけの受動的な姿勢になりがちです。

2. 自分でやる癖がある
部下に任せるべき仕事を自分でやってしまう上司も危険信号です。部下に信頼を置かず、自分が最も良くできると考え、プレイヤー時代のように何でも自分でやってしまおうとします。このような上司は、部下に対する信頼感が欠如しており、「自分でやったほうが早く、良いものができる」と自分で全てやってしまおうとします。会社的にも、短期的にはそれで成果が出るかもしれませんが、中長期的視点にたてば、それでは人も育たないので良いことはないですよね。こうした上司の行いは結果的に部下の成長機会を奪います。部下は自分が任されないことにより、積極性を失い、指示を待つだけの存在になってしまうのです。

3. フィードバックの不足
部下の仕事に対して適切なフィードバックを行わない、という上司も実は部下の指示待ち状態を作る1つの要因です。成功や失敗に対する具体的なアドバイスやフィードバックが不足していると、部下は自分の行動や成果について不安を感じ、どう改善すればよいかがわからなくなります。これにより、自分で判断することに自信を持てず、上司の指示を待つようになってしまうのです。

4. ミスに対する厳しすぎる対応
部下のミスに対して過度に厳しく叱責する上司も、気をつけておいたほうが良いでしょう。失敗を容認せず、部下がミスを恐れて身動きが取れなくなる文化を作ってしまいます。ミスに対して厳しい対応は、部下にとってリスクを取ることが怖いと感じさせます。その結果、部下は自分から行動することを避け、上司の指示に従うことが最も安全だと考えるようになってしまうのです。

人事部の方は基本的には営業部や製造部など現場部署と会話する際に、その部の部門長やリーダーと会話する機会のほうが多いと思います。しかし、そういった方は、自分たちがどんなに悪しきマネジメントを遂行していたとしても、それが良いのか悪いのか自己認知していないことがほとんどです。上司のマネジメントから部下の指示待ち状態を作らないためにも、360度評価など部下の声を拾っていく人事施策を常に実施していくことをおすすめいたします。

指示待ち部下を動かすには

この章では、前章で説明した指示待ち部下の動かし方に関して、人事施策としてのアプローチと、現場上司のマネジメントアプローチに分けて説明します。部下の変化感は一朝一夕で表れるものではありませんが、根気よく実施していきましょう。

人事施策としてのアプローチ

まずは1にも2にも組織文化の変革が基点になります。部下が動きたくなるような(動かざるを得ないような)自律性と責任感を持つことが奨励される文化を醸成することが大切です。そのためには、トップマネジメントからMVVの策定明確なメッセージ発信が必要です。自律性を重んじる文化を推進し、社員がリスクを取ることを奨励する方針を打ち出しましょう。

次に、目標設定と評価の見直しです。評価はその組織の風土を作りますので、非常に大事なフェーズです。社員にどうなってほしいのか?を明確にし、その達成に向けたプロセスを重視する評価制度を導入することが効果的です。目標を具体的に設定し、達成度合いを定期的に確認することで、社員が自分の役割を理解し、自主的に行動する意識を高めることができるでしょう。

評価項目の変更が難しい場合、インセンティブなど小さなところから修正していくのも1つの手です。インセンティブ制度を活用して、自主性や創造性を発揮した社員に対して追加の報酬を与えることで、全体的なモチベーションを高めることができます。

最後におすすめなのが外部研修などの実施です。問題解決能力や意思決定力を養うためのトレーニングを提供することで、社員が自律的に行動する基盤を作ることができます。外部研修は、私もサラリーマン時代に数多く受けていますが、やはり社外の人からの声は自分も受けていて刺さりやすかったのを覚えています。上司と部下の中には“前提”が多くあり、伝えたいことが正しく伝わらないことがしばしばです。例えば、上司がもともとは叱責するタイプで、マネジメント研修を受けて考えを改めたとえしましょう。その上司が部下に「怒らないから自由にやってみよう!」と声をかけたら、部下は素直に動いてくれるでしょうか?おそらく動かないですよね。なぜなら、部下と上司の間に、今までのコミュニケーションで培われた“前提”があるからです。部下は上司の改心に対してしばしば寛容ではありません。そう考えると、素直に情報を享受する姿勢が作られる外部講師というのは、同じ話をするにしても何倍も価値があるのです。

現場上司からのアプローチ

上司側だとハードと言うよりソフトなアプローチが求められます。そのため、なによりも上司と部下の信頼関係の構築が重要だと私は思っています。部下を信頼し、自主的に行動できる環境を作り、タスクを任せてみて、その成果を信頼して受け入れる姿勢を持ちましょう。部下がミスをしても、それを学びの機会と捉え、建設的なフィードバックを行うことで、部下の自信と自律的成長を促すことができるのです。

そのためにフィードバックやコーチングといったマネジメントスキルを身につけることが重要になってきます。定期的なフィードバックの場を設け、部下の成長をサポートする環境を整えていきましょう。部下が達成したことや改善点について具体的なフィードバックを行い、次のステップに向けたアドバイスを提供していくことで、部下のモチベーションと自律性を引き出すことができるのではないかとおもいます。

ちなみに、フィードバックに関しては、以前お役立ちブログ内で、フィードバックの仕方についてまとめているのでご興味あれば御覧ください。

またフィードバックレベルではなくても、コミュニケーション量自体を上げてみてください。定期的なミーティングや1on1の面談を通じて、部下とのコミュニケーションを密にしましょう。上司と部下はどうしても役職上の壁が生まれてしまうものです。そのため、頻度高くコミュニケーションを取ると、部下側から上司に話しかける心理的ハードルも下がっていくはずです。 上記のような取り組みを現場上司が正しく実践することで、指示待ち部下を改善し、自律的に行動する部下を育成することができます。日々の業務の中で少しずつ取り組むことで、チーム全体のパフォーマンス向上につなげていきましょう!

さいごに

いかがでしたでしょうか?今回は、指示待ち部下が生まれる背景や特徴、アプローチの仕方に関してまとめさせていただきました。注意していただきたいのが「指示待ちは改善してほしいけど、若手自体は非常に価値のある存在である」ということです。若手=面倒な存在、と捉えてしまわないようにしてください。

若手の人材は、非常に価値観や考え方が多様で、現代を生き抜く発想力や意志を強く持っています。それ故に指示待ちで、自らの主体性や自律性に飛んだ行動が取られないのは会社としては非常にマイナスな状態です。若手人材がうまくワークすれば、例えば新しい事業戦略が生まれたり、組織戦略が生まれたりすることも多々あると思います。

若手は「やっかいながらも、ポテンシャルに溢れた重要な経営資源」です。是非、会社として有効活用していけるように、組織を整えておきましょう。