「求人を出しているのに、応募が来ない」

「媒体にお金を払っているのに、まともな応募が一件もない月がある」

中小企業の採用のご相談で、いま最も多いのがこの悩みです。そして多くの場合、原因を「媒体が悪いのでは」「掲載料が高すぎるのでは」と、出し先の問題として捉えています。

けれど、本当の原因はもっと根っこにあります。「求人を出せば応募が来る」という前提そのものが、もう成り立たなくなっているのです。これは媒体を変えれば解決する話ではありません。採用の考え方を、「出す」から「選ばれる」へと切り替える必要があります。

この記事では、まず採用市場がどれほど厳しくなっているかをデータで確認します。そのうえで、近年語られる「採用マーケティング」とは何かを、専門用語をかみくだいて説明します。最後に、人手も予算も限られた中小企業が今日から始められる手順を、具体的にお伝えします。

【データで見る】「出せば来る」時代の終わり

まず、いまの採用市場がどういう状態にあるのかを、数字で押さえましょう。応募が来ないのは、あなたの会社の努力不足が原因ではありません。

人手不足倒産は3年連続で過去最多、正社員不足は4年連続で半数超

人手不足は、もはや一部の業界の話ではありません。人手不足を理由とした倒産は3年連続で過去最多を更新し、2025年には400件を超える勢いだと報じられています。

さらに、企業の51.6%が正社員の不足を感じており、これは4年連続で半数を超えています。働き手の数そのものが減り、企業同士が限られた人材を奪い合う構造になっています。この状況で、ただ求人を「出す」だけでは、数多くの求人の中に埋もれてしまいます。

求職者は「比較して選ぶ」側になった

採用が難しくなった理由は、人手不足だけではありません。求職者の行動も変わりました。

いまの求職者は、求人を見つけたらすぐに応募するのではなく、その会社のホームページ、SNS、口コミなどを調べ、複数の選択肢を比較してから動きます。つまり、企業が「選ぶ」立場から、求職者に「選ばれる」立場へと、力関係が逆転しているのです。求人票という入口の情報だけで応募を決める人は、もう多くありません。

応募の前に、求職者は会社名で検索し、採用ページや社員の発信、口コミに目を通します。求人票に書かれた条件だけでなく、「ここで働く実感が持てるか」を確かめてから動くのです。だからこそ、求人を出す前に、検索した先で何が見えるかを整えておくことが、応募率を大きく左右します。出稿の前に、自社が「どう見えているか」を点検することが先になります。

「出せば来る」前提が崩れたいま、必要なのは、媒体への出稿の上手さではなく、「選ばれる会社の状態」をつくることです。

採用マーケティングとは何か?

ここで「採用マーケティング」という言葉が出てきます。横文字で身構えてしまうかもしれませんが、中身はシンプルです。

「売り込む」のではなく「選ばれる状態をつくる」

採用マーケティングとは、ひとことで言えば、応募してほしい人に自社を知ってもらい、興味を持ってもらい、選んでもらうまでの流れ全体を設計することです。商品やサービスを売るときと、考え方は同じです。

求人を出すのは、この流れの最後の一部にすぎません。その手前に、「誰に来てほしいのか」「その人に自社の何を伝えるのか」「どこで出会うのか」という設計があります。ここを抜きに媒体だけ変えても、応募が増えないのはこのためです。

たとえば、商品が売れない原因を「広告の出し方」だけに求めても、そもそも「誰に、何が刺さるのか」が定まっていなければ、広告を変えても結果は変わりません。採用もまったく同じです。媒体は最後の出し先であって、その前の設計が応募の質と量を決めます。多くの中小企業が「媒体探し」から始めてうまくいかないのは、順番が逆になっているからです。

成果を出している会社の共通点

採用で成果を出している企業には、共通点があります。あるトレンド予測では、2026年を「採用マーケティング元年」と位置づけ、成果企業の特徴として次の4つが挙げられています。

  • 「誰を採りたいか」の要件定義が明確である
  • 複数の採用手法を組み合わせている
  • 経営層が採用に関与している
  • データやKPI(重要な数字)を活用している

逆に言えば、求人を一つの媒体に出して待つだけ、要件もあいまい、経営は現場任せ、という状態では、成果が出にくくなっているということです。これは規模の大小ではなく、やり方の差です。

中小企業が今日から始められる、3つの手順

「マーケティングなんて、人も予算もない中小には無理」と感じるかもしれません。けれど、やることを3つに絞れば、今日から始められます。むしろ身軽な中小企業のほうが動きやすい部分もあります。

手順1:「誰に来てほしいか」を、具体的に決める

最初にやるのは、求人を書くことではありません。「自社に来てほしいのはどんな人か」を、できるだけ具体的に決めることです。

年齢や経験だけでなく、「どんな価値観の人か」「何にやりがいを感じる人か」「自社のどこに魅力を感じてくれそうか」まで踏み込みます。ここがあいまいだと、すべてのメッセージがぼやけて、結局誰の心にも刺さりません。「みんなに来てほしい」は、「誰にも響かない」と同じです。

来てほしい人がはっきりすると、どこで出会えばいいか、何を伝えればいいかが自然に決まってきます。

具体的には、いま自社で活躍している社員を思い浮かべるのが近道です。その人たちは何にやりがいを感じ、どんなときに力を発揮しているか。入社の決め手は何だったのか。共通点を書き出していくと、「来てほしい人」の輪郭が見えてきます。ゼロから理想像を描くより、実在する活躍者から逆算するほうが、地に足のついた要件になります。

ここで決めた人物像は、求人原稿、SNSでの発信、面接の質問まで、すべての判断のものさしになります。逆に言えば、ここがぶれると、後の打ち手もすべてぶれます。最初に時間をかける価値が、最もある工程です。

手順2:自社から動いて、接点をつくる

二つ目は、待つのをやめて、自社から接点をつくりにいくことです。

求人媒体に出して待つだけでなく、SNSで日々の仕事や社員の様子を発信する、スカウト型のサービスで直接アプローチする、自社の採用ページで「働く人の顔」を見せる。こうした地道な発信が、「選ばれる状態」を少しずつつくっていきます。知名度のない中小企業ほど、出会いの数を自分から増やす工夫が効いてきます。

採用市場の中で自社がどう見えているかを知るには、競合の調べ方も役立ちます。採用競合調査を自社で行う方法もあわせて参考にしてください。

特別なことをする必要はありません。求人媒体は使いつつ、そこに「自社から動く経路」を一つ足すイメージです。たとえば、社員に協力してもらって働く様子を発信する、スカウト型のサービスで来てほしい人に直接声をかける、過去に応募してくれた人とゆるくつながり続ける。一度に全部やろうとせず、続けられる経路を一つずつ増やすのが、息切れしないコツです。最初の一つは、いまの自社が無理なく続けられそうなものを選んでください。

手順3:候補者体験を、ていねいに磨く

三つ目は、応募してくれた人への対応です。マーケティングというと入口ばかりに目が向きますが、応募後の体験こそ、選ばれるかどうかを左右します。

連絡が遅い、面接で会社の話ばかりする、合否の連絡がそっけない。こうした一つひとつが、「この会社、大丈夫かな」という不安につながります。逆に、連絡が早く、面接で相手の話をよく聞き、誠実に向き合う会社は、知名度がなくても「ここで働きたい」と思ってもらえます。面接での向き合い方は採用面接の見極め精度を上げる3つの問いも参考になります。

特に効くのが、連絡のスピードです。応募や面接のあと、何日も音沙汰がないと、求職者の気持ちはほかの会社へ移っていきます。中小企業は意思決定が速い分、ここで差をつけられます。「早く、誠実に」を徹底するだけで、知名度の差はかなり埋まります。お金も特別な仕組みも要らない、いちばん始めやすい打ち手です。

AIは、発信や情報整理を助けてくれる

近年は、採用の発信にAIを活用する会社も増えています。求人原稿や採用ページの文章の下書き、SNS投稿のたたき台づくり、応募者情報の整理といった作業は、AIに任せると少人数でも回しやすくなります。

ただし、「誰に、何を伝えたいのか」という中身は、人が決める領域です。AIが整えた文章をそのまま使うと、どこかで見たような無難な言葉になり、自社らしさが消えます。伝えたい中身は自分たちで決め、その表現や整理をAIに手伝ってもらう。この役割分担が、採用の発信を効率と質の両立に近づけます。

採用マーケティングでよくある3つの勘違い

取り組み始めた会社がつまずきやすいポイントが、3つあります。先に知っておくと、遠回りを避けられます。

勘違い1:「SNSをやれば解決する」

SNSは有力な手段ですが、それ単体で応募が増えるわけではありません。誰に何を届けるかが決まらないまま投稿を続けても、見てくれる人は増えても応募にはつながりにくいものです。手段の前に、手順1で決めた人物像が要ります。発信は、届けたい相手が決まって初めて意味を持ちます。

勘違い2:「採用ページを作れば来る」

立派な採用ページをつくっても、それを見てもらえなければ意味がありません。採用ページは「出会ったあとに背中を押す場所」であって、出会いそのものをつくる場所ではありません。接点づくり(手順2)とセットで初めて機能します。ページ制作だけにお金をかけて満足してしまうのは、よくある落とし穴です。

勘違い3:「とにかく露出を増やせばいい」

露出を闇雲に増やすと、来てほしい人とは違う層からの応募も増え、選考の手間ばかりが膨らみます。大切なのは量よりも、来てほしい人に届く精度です。限られた人手で採用を回す中小企業ほど、広げるより絞るほうが効いてきます。

中小企業ほど、採用マーケティングが効く理由

「マーケティングは大企業のもの」というイメージがあるかもしれません。けれど実際には、中小企業のほうが向いている面があります。

一つは、意思決定の速さです。社長や役員がその場で判断でき、「こういう人に来てほしい」という思いを直接発信できます。大企業のように、何段階もの承認を経る必要がありません。思い立った打ち手を、すぐ試せる身軽さがあります。

二つは、現場との距離の近さです。働く人の顔や、仕事のリアルな様子を伝えやすいことです。求職者が本当に知りたいのは、立派なスローガンより「実際にどんな人が、どんなふうに働いているか」です。ここは規模の小さい会社の強みになります。

三つは、一人ひとりに向き合えることです。応募者が限られているからこそ、丁寧な対応で「選ばれる」可能性を高められます。露出量で勝てなくても、関係の深さで勝つ。これが中小企業の採用マーケティングの基本姿勢です。

「出して終わり」から「数字で回す」へ

最後に、採用マーケティングを一過性で終わらせないための視点をお伝えします。それは、採用を「出して終わり」にせず、数字で振り返って回し続けることです。

どの経路から来た人が、実際に入社し、定着し、活躍しているのか。ここまで見えてくると、来年どこに力を入れればいいかが分かります。応募数だけを追うのではなく、入社後の定着まで含めて経路ごとに見ていく。採用の入口が絞られ、採りにくくなる時代ほど、採った一人にしっかり定着してもらうことの価値は上がります。

せっかく採った人が早期に辞めてしまえば、採用にかけた労力は無駄になります。早期離職を防ぐ考え方は連鎖退職の前兆。中小企業の早期対処法でも扱っています。採用で見るべき数字の基本は採用KPIは何を見ればいいのかにまとめました。採用マーケティングは、入口づくりと、入った後の定着が、数字でつながって初めて意味を持ちます。

最初から完璧な分析は要りません。まずは「どの経路から何人応募し、何人が入社したか」を年に一度、書き出すだけでも、来年の判断材料になります。数字で振り返る習慣そのものが、場当たりの採用を、少しずつ再現性のある採用へと変えていきます。完璧なデータより、続けられる振り返りのほうが、結果として効いてきます。

よくある質問

採用マーケティングに取り組むとき、中小企業のご担当者からよくいただく質問をまとめました。

求人媒体はもうやめるべきですか

やめる必要はありません。媒体は、来てほしい人と出会うための有力な経路の一つです。ただし、媒体に「出して待つ」だけで終わらせず、自社からの発信や候補者への丁寧な対応と組み合わせることが大切です。媒体は手段の一つ、と位置づけ直してください。

SNS採用は、中小企業でもできますか

できます。むしろ、現場の距離が近い中小企業のほうが、社員の様子や仕事のリアルを発信しやすい利点があります。大切なのは、毎日バズを狙うことではなく、来てほしい人に向けて、自社の素顔を継続的に届けることです。続けられる範囲で、無理なく始めるのがコツです。

何から始めればいいか分かりません

まずは手順1の「誰に来てほしいか」を具体的に決めるところから始めてください。ここが決まると、どこで発信するか、何を伝えるかが自然に見えてきます。いきなりSNSやスカウトに手を広げるより、土台となる要件定義を先に固めるほうが、遠回りに見えて近道です。

お金をかけられない場合、どこから手をつけますか

予算が限られているなら、お金のかからない「候補者体験の改善」から始めるのがおすすめです。連絡を早くする、面接で相手の話をよく聞く、合否を丁寧に伝える。これらは費用ゼロで、しかも選ばれるかどうかに直結します。お金をかけるのは、来てほしい人の像が固まってからでも遅くありません。

採用代行に任せれば、自社で採用マーケティングをやらなくていいですか

丸ごと任せきりにするのはおすすめしません。「誰に来てほしいか」「自社の何を伝えたいか」は、自社にしか分からない中身だからです。外部の力を借りるのは有効ですが、人物像と伝えたい価値の軸は自社で持ち、実行の一部を任せるという関係が健全です。任せた採用がうまくいかない多くは、この軸ごと渡してしまったときに起きます。

まとめ:採用は「出す」から「選ばれる」へ

人手不足倒産は3年連続で過去最多、正社員不足は4年連続で半数超。求人を出せば応募が来る時代は、はっきりと終わりました。求職者は複数の会社を比較し、「選ぶ」側になっています。

この変化に対して必要なのは、媒体選びの上手さではなく、「選ばれる会社の状態」をつくることです。それが採用マーケティングであり、難しく考える必要はありません。誰に来てほしいかを具体的に決め、自社から動いて接点をつくり、応募してくれた人にていねいに向き合う。この3つから始められます。

そして、採用を「出して終わり」にせず、どの経路の人が定着し活躍したかを数字で振り返る。入口と定着を数字でつなぐことで、採用は毎年強くなっていきます。

選ばれる会社は、規模で決まるのではありません。来てほしい人に、自社の魅力を、ていねいに届け続けられるかで決まります。

「選ばれる採用」を、数字で組み立てませんか。

Tsumuguでは、弊社が伴走しているクライアント企業様での実例をもとに、中小企業の採用を「勘」から「データとAI」へ移すお手伝いをしています。人事データ基盤「ツムイトHR」は、どの経路からの応募が定着・活躍につながっているかを見える形にし、採用の打ち手を数字で判断できるようにするところから始められます。

「求人を出しても応募が来ない」「どこに力を入れればいいか分からない」。そう感じたら、まずは自社の採用を数字で見るところから、ご相談ください。御社の段階に合わせて、無理のない形でご提案いたします。

この記事を書いた人

塔筋 大樹(とうすじ だいき)— 株式会社Tsumugu 代表

株式会社リクルートを経て、現在は株式会社アド・イーグルにて営業・人事・企画領域を執行役員として管掌。

あわせて株式会社Tsumuguの代表として、中小企業の採用・育成・評価・定着に関する人事課題に対し、データとAIを活用した伴走支援を行っている。