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人材活躍
若手が辞める会社の共通点。早期離職を防ぐ、中小企業の5つの打ち手
採用にも育成にも力を入れているのに、若手がすぐ辞めてしまう」。そんな悩みを抱える経営者や人事ご担当の方は、少なくないはずです。
しかも、辞めるまでの期間は驚くほど短い。ある調査では、新卒で入社した人の約4割が、入社からわずか1ヶ月で転職を意識したとされています(HRプロ)。「思っていた仕事と違う」「思っていた会社ではなかった」——そのギャップは、入社1〜3ヶ月という早い段階で生まれているのです。
けれど、ここで一つお伝えしたいことがあります。若手が辞める会社の多くは、努力していないのではありません。むしろ熱心に対策を打っている。問題は、その対策が「若手の本音とズレている」ことにあります。
この記事では、若手が辞める会社に共通する「ズレ」の正体と、定着する会社が実践している5つの打ち手、そして忙しい中小企業がそれを仕組みで支える方法を整理します。
なお、早期離職は中小企業にとって、大企業以上に痛手です。一人を採用し、育てるためにかけたコストは、辞められた瞬間に回収できなくなります。採用の母数で勝負できない中小企業では、「採った一人にいかに長く活躍してもらうか」が、そのまま経営の体力を左右します。だからこそ、若手定着は「人事のテーマ」である前に「経営のテーマ」なのです。
目次
若手が辞める会社は「ズレた対策」を打っている
まず、もっとも根本的な問題から見ていきます。それは、会社が「若手が求めているもの」を取り違えていることです。
会社側は、よかれと思って対策を打ちます。給与を上げる、福利厚生を充実させる、社内イベントを増やす。けれど、若手が本当に気にしているのは、別のところにあることが多い。この認識のズレが埋まらない限り、対策はどれだけ打っても空振りに終わります。
なぜこのズレが生まれるのか。理由はシンプルで、会社側は「自分たちが若手だった頃の感覚」で考えてしまうからです。けれど、いま入ってくる若手が育った環境も、価値観も、当時とは違います。「自分が若い頃はこれで頑張れた」が、そのまま通用するとは限らない。この前提に立てるかどうかが、ズレを埋める第一歩になります。
典型的なズレが、3つあります。
ズレ①:「現場の声を聞いている」つもりのギャップ
経営者や人事は「うちは現場の声を反映している」と考えがちです。けれど、若手側は「自分の声が届いている」とは感じていない。この「聞いているつもり」と「聞いてもらえていない」のギャップが、最初のズレです。会議で意見を募っても、若手が本音を言える空気がなければ、声は集まりません。
ズレ②:評価の公正さに対する認識の差
会社は「公正に評価している」と思っていても、若手は「何を基準に評価されているのか分からない」と感じている。評価そのものより、評価の基準が見えないことが不信を生みます。「がんばっても報われない」という感覚は、若手が静かに会社を見限る大きな理由です。
ズレ③:「待遇さえ上げれば」という思い込み
「離職は給与の問題だろう」——多くの会社がそう考えます。もちろん待遇は大事です。けれど、待遇改善「だけ」では定着しません。若手が重視するのは、労働時間や休日の柔軟さ、働く意義、成長できる環境など、お金以外の要素も大きいのです。給与を上げたのに辞めていく、という現象の裏には、たいていこのズレがあります。
むしろ、待遇は「不満を消す」ことはできても、「満足を生む」ことは難しいと言われます。給与が低すぎれば不満になりますが、ある水準を超えると、そこから先は金額を上げても定着への効果は薄れていく。一方で、成長実感や働く意義は、満たされるほど「この会社にいたい」という前向きな理由になります。待遇は守りの一手、それ以外は攻めの一手。この使い分けを誤ると、コストをかけたのに報われない、という事態を招きます。
「若手がなぜ辞めるのか、本当のところが分からない」。まずは、自社の現状を数字で見えるようにすることから始めてみませんか。
なぜ若手は辞めるのか。データが示す「就社より就職」
ズレの背景には、若手の価値観の変化があります。ここは感覚ではなく、データで押さえておきましょう。
ある調査では、新卒の離職率は約35%にのぼり、その背景に「就社より就職」という意識の強まりがあると指摘されています(日本人材ニュースONLINE)。つまり、「この会社に尽くす」より「この仕事で自分が成長できるか」を重視する。理想と現実のギャップが、離職の引き金になっているのです。
この価値観を踏まえると、若手の関心は大きく2つの方向に分かれます。
- 成長を重視するタイプ:将来性、成長の機会、仕事の意義を求める。「ここにいて、自分は伸びるのか」を常に問うている
- 働き方を重視するタイプ:柔軟な働き方、ワークライフバランス、安定性を求める。「無理なく長く働けるか」を見ている
どちらが良い・悪いではありません。大切なのは、自社の若手がどちらの志向なのかを、思い込みではなく対話とデータで把握することです。成長を求める若手に「残業を減らしました」と言っても響かないし、働き方を重視する若手に「もっと成長を」と迫っても逆効果になります。
しかも、一人の若手の中にも両方の志向が混在します。「成長したいが、無理はしたくない」という人は珍しくありません。だからこそ、タイプで決めつけるのではなく、一人ひとりが「いま何を大事にしているか」を見ることが要ります。同じ若手でも、入社直後と1年後では重視するものが変わることもある。定着とは、この変化に気づき続けることでもあるのです。
ここで重要なのは、若手の本音は待っていても表に出てこないということです。不満があっても、多くの若手は口にしません。代わりに、静かに転職活動を始める。だからこそ、会社側から本音を引き出す仕組みが要ります。この点は、優秀な人が突然辞める会社の落とし穴でも詳しく触れていますが、「見えていない」ことこそが最大のリスクなのです。
若手が辞めない会社の共通点。5つの打ち手
では、若手が定着する会社は何をしているのか。共通する5つの打ち手を整理します。どれも、特別な予算がなくても始められるものです。
打ち手①:採用段階で「ほしい若手」を明確にする
定着は、入社後ではなく採用の入口から始まっています。「どんな若手に来てほしいか」が曖昧なまま採ると、入社後にミスマッチが起きます。自社の価値観・働き方に合う人物像を言葉にし、採用時にそれを正直に伝える。入口でのすり合わせが、出口(早期離職)を防ぎます。
面接での見極めの精度を上げる具体策は、採用面接の精度を上げる3つの問いでも解説しています。ここで大切なのは、自社を良く見せすぎないこと。入社前の期待を過剰に上げると、入社後の「思っていたのと違う」を自ら生んでしまいます。良い面も大変な面も正直に伝える——その誠実さが、結果的にミスマッチを防ぎます。
打ち手②:若手の声を、継続的に汲み上げる
一度のアンケートで終わらせず、定期的に若手の声を聞く仕組みを持つことです。ポイントは「聞いて終わり」にしないこと。聞いた声に対して何かを変える。その積み重ねが、「この会社は自分の声を聞いてくれる」という信頼を育てます。聞きっぱなしは、むしろ不信を強めます。
具体的には、1on1のような定期的な対話の場が有効です。ただし、形だけの面談では本音は出ません。「最近どう?」で終わらせず、若手が安心して話せる関係を日頃から築いておくこと。そして、出てきた声のうち一つでも「変えました」と返すこと。全部に応える必要はありません。「一つでも動いた」という事実が、次に本音を話す動機になります。エンゲージメントサーベイのような仕組みを入れても組織が変わらない理由は、まさにこの「聞いた後に動かないこと」にあります。詳しくはエンゲージメントサーベイを入れても組織が変わらない理由で解説しています。
打ち手③:公正な評価制度をつくる
若手が求めるのは、甘い評価ではありません。「なぜこの評価なのか」が説明できる、公正な評価です。評価基準を事前に示し、結果には理由を添えて伝える。この透明性が、「がんばれば報われる」という納得感を生みます。評価制度が形骸化する原因については、評価制度を作っても誰も使っていない理由も参考になります。
打ち手④:柔軟な働き方の選択肢を用意する
在宅勤務、時短、フレックスなど、働き方に選択肢があること。すべてを導入する必要はありません。自社にできる範囲で、若手が「この会社なら無理なく続けられる」と思える柔軟さを示すことが大切です。働き方の柔軟さは、特に「働き方重視タイプ」の若手の定着に直結します。
打ち手⑤:心理的安全性を保つ
最後が、もっとも土台になるものです。ミスや反対意見を口にしても、責められない環境。若手が安心して発言できる職場では、不満が小さいうちに表面化し、手を打てます。逆に、何も言えない職場では、不満は静かに溜まり、ある日突然の退職届として表面化します。
心理的安全性は、「優しい職場」とは違います。馴れ合いでも、何でも許すことでもありません。「率直に意見を言っても、人格を否定されたり評価を下げられたりしない」という信頼のことです。これがあると、若手は問題を早く共有してくれます。これがないと、若手は問題を抱え込み、限界まで黙り、そして辞める。心理的安全性は、定着の土台であると同時に、組織が問題に早く気づくためのセンサーでもあるのです。
これら5つは、バラバラの施策ではありません。共通しているのは、「若手を、思い込みではなく、ちゃんと見ようとしている」という姿勢です。見ようとする会社に、若手は留まります。

「守りの離職防止」から「攻めの定着」へ
ここまでの話を一段上げてお伝えします。多くの会社の離職対策は、「辞めそうな人を引き止める」という守りになっています。けれど、本当に効くのは、辞める兆しが出る前から手を打つ攻めの定着です。
守りと攻めの違いは、こうです。
- 守り:退職の意向が見えてから、慌てて条件を提示する。たいてい手遅れ
- 攻め:問題がなさそうに見える段階から、若手の状態を継続的に把握し、小さな違和感のうちに対応する
なぜ守りでは間に合わないのか。それは、退職の意向が表に出た時点では、若手の気持ちはほぼ固まっているからです。多くの場合、転職先の目処も立っている。そこで慌てて「給与を上げる」「部署を変える」と提示しても、「辞めると言ったから引き止められた」という印象しか残らず、たとえ残っても長くは続きません。引き止めは、最後の手段であって、定着策ではないのです。
攻めの定着の鍵は、「見えるようにしておくこと」です。誰が、どんな状態で、どんな志向を持っているか。これが個々の上司の頭の中にしかないと、その人が忙しいときや異動したときに、若手の変化を見逃します。
弊社が伴走しているクライアント企業様でも、若手の状態を継続的に記録し、定期的な対話とセットで運用することで、「気づいたら辞表を出されていた」という事態を減らせた例があります。特別なことではありません。見える形にして、定期的に見る。この地道な仕組みが、攻めの定着を可能にします。
忙しい中小企業が、若手定着を仕組みで支えるには
「言いたいことは分かるが、そこまで手が回らない」。これが、多くの中小企業の本音だと思います。人事を兼任で回し、日々の業務に追われる中で、若手一人ひとりの状態を見続けるのは、現実的に難しい。
だからこそ、個人の感度に頼るのではなく、仕組みで支えるという発想が要ります。
私たちが提供している人事データ基盤「ツムイトHR」は、この「若手の状態を見える形にして、定着を支える」ことを目的の一つにしています。たとえば、入社後3ヶ月・6ヶ月・12ヶ月の定着状況を記録し、上司の1on1を支援する。すると、「なんとなく元気がない」という感覚を、データの変化として早めに捉えられるようになります。採用時の情報と入社後の様子がつながって見えることで、「どういう若手が、どう関わると定着するのか」も少しずつ分かってきます。
ただし、忘れてはいけないことがあります。データは、若手の状態を映す鏡にすぎません。実際に声をかけ、対話し、環境を変えるのは人の仕事です。データが「この若手、最近様子が変わったかも」と教えてくれても、そこでどう関わるかを決めるのは、現場を知るあなたです。データが症状を映し、人が課題を解決する。この役割分担ができたとき、若手の定着は「運任せ」から「設計できるもの」に変わります。
採用にかけたコストを、早期離職で失わないために。若手を「見える形」で捉え、ズレを埋めていく。その積み重ねが、若手が辞めない組織をつくります。
よくある質問
Q. 若手の本音を聞こうとしても、当たり障りのない答えしか返ってきません。
A. それは、若手が「本音を言っても大丈夫」と感じていないサインかもしれません。問いを変えてみてください。「何か不満ある?」ではなく「最近、一番やりにくいと感じたことを一つ挙げると?」のように、具体的で答えやすい問いにする。また、上司ではなく年次の近い先輩との対話の場を設けるのも有効です。心理的安全性は、一度の面談ではなく、日々の積み重ねで育ちます。
Q. 待遇を上げる余裕がない中小企業は、どう定着させればいいですか?
A. 待遇以外の打ち手に目を向けてください。働く意義を伝える、成長の機会を示す、働き方に柔軟さを持たせる、公正に評価する——これらはお金をかけずにできます。実際、若手の離職理由は給与だけではありません。「この会社にいる意味」を感じられれば、人は留まります。待遇で大手と張り合うより、中小企業ならではの「距離の近さ」を活かすほうが現実的です。
Q. 何から手をつければいいか分かりません。
A. まずは「自社の若手が、いつ、なぜ辞めているのか」を見える形にするところからです。早期離職が3ヶ月以内に集中しているのか、半年後なのかで、打つべき手は変わります。現状が数字で見えると、5つの打ち手のどれを優先すべきかが見えてきます。採用から定着までを数字で見る方法は、採用KPIは何を見ればいいのかでも解説しています。
まとめ
若手の早期離職を防ぐために、要点を整理します。
- ズレを知る:若手が辞める会社は「現場の声・評価の公正さ・待遇偏重」の3つで若手の本音とズレている
- データで捉える:新卒離職率は約35%。「就社より就職」の価値観を踏まえ、自社の若手の志向を把握する
- 5つの打ち手:①ほしい若手の明確化 ②声の継続的な汲み上げ ③公正な評価 ④柔軟な働き方 ⑤心理的安全性
- 攻めの定着へ:辞める前から状態を見える形にし、個人の感度ではなく仕組みで支える
若手の早期離職は、「最近の若者は」で片づく問題ではありません。会社と若手のあいだにある「ズレ」を、見える形にして埋めていく。その地道な取り組みが、採用コストを無駄にせず、若手が長く活躍する組織をつくります。
Tsumuguでは、弊社が伴走しているクライアント企業様での実例をもとに、中小企業の若手定着を、データとAIによる伴走で支援しています。「若手がなぜ辞めるのか、まず把握したい」という段階からで構いません。まずは御社の若手の定着状況を、一緒に数字で見えるようにするところからご相談ください。
この記事を書いた人
塔筋 大樹(とうすじ だいき)— 株式会社Tsumugu 代表
株式会社リクルートを経て、現在は株式会社アド・イーグルにて営業・人事・企画領域を執行役員として管掌。
あわせて株式会社Tsumuguの代表として、中小企業の採用・育成・評価・定着に関する人事課題に対し、データとAIを活用した伴走支援を行っている。