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人的資本経営
【人事の内製化】外注に頼り続ける会社と、社内で回せる会社の分かれ目
採用代行に毎月お金を払っている。研修も外部に頼んでいる。評価制度も以前コンサルに作ってもらった。それなのに、人事のことを社内で説明できる人がいない——。
中小企業の人事の現場では、こうした状態がよく見られます。外に頼むこと自体が悪いわけではありません。問題は、お金を払い続けているのに、社内に何も残っていかないことです。
担当が変われば、また一から外注先に説明し直す。外注先が変われば、これまでの経緯が消える。気づけば、自社の人事なのに、自社のことが一番分かっていない、という逆転が起きています。
この記事では、「人事の内製化」をテーマに、外注を続ける会社と社内で回せる会社の分かれ目、そして全部を抱え込まずに内製を進める現実的な方法を整理します。
最初にお伝えしておきたいのは、内製化は「外注をやめること」でも「すべてを自社で抱えること」でもない、ということです。大切なのは、自社にしか決められない判断を社内に持ち、手を動かす部分は必要に応じて外の力を借りる——その線引きを意識的に選ぶことです。この前提を押さえておくと、内製化のハードルはぐっと下がります。
目次
人事の内製化とは
人事の内製化とは、これまで外部に頼っていた人事の機能を、社内で回せる状態に近づけていくことです。
ここで誤解しやすいのが、「すべてを自社でやること」だと思ってしまうことです。実際には、そうではありません。内製化の本質は、「判断と設計を社内に持つこと」にあります。
採用の実務を代行に任せること自体は、悪くありません。けれど、「どんな人を、なぜ採りたいのか」という判断まで外に預けてしまうと、会社の人事は自分の足で立てなくなります。逆に、判断と設計さえ社内にあれば、手を動かす部分は外部の力を借りても、人事は十分に自走します。
つまり内製化とは、「何を社内に残し、何を外に出すか」を意識的に選ぶことだと言えます。全部を巻き取ることでも、全部を手放すことでもありません。
外注を続ける会社に共通する「残らない」構造
外注そのものより問題なのは、「残らない」構造のほうです。これにはいくつかの典型があります。
ひとつ目は、判断が外部の頭の中にある状態です。採用要件も、評価のさじ加減も、外注先の担当者が経験で押さえている。だから、その担当者が代わると精度が落ち、自社には判断の根拠が蓄積しません。
ふたつ目は、データが手元に残らないことです。応募の数、選考の歩留まり、入社後の定着。これらが外注先の管理画面の中にあって、自社では断片しか見えていない。すると、振り返りも改善も外注先頼みになります。
3つ目は、毎回ゼロから説明していることです。担当が変わるたび、外注先が変わるたびに、自社の事情を一から伝え直す。この説明コストは見えにくいのですが、積み重なると相当な負担です。
これらに共通するのは、お金を払っているのに、判断の力が社内に育っていないという点です。外注は手段としては有効でも、「考える部分」まで丸ごと預けると、会社は人事の主導権を失っていきます。
内製化を阻む、3つの壁
「内製化したほうがいいのは分かる。でもできない」。多くの会社がここで止まります。内製を阻む壁は、だいたい次の3つです。
①人手の壁:人事を専任で置けず、総務や経理、社長自身が兼任している。日々の業務に追われ、仕組みを整える時間がない。
②知見の壁:何が正しい人事のやり方なのか、社内に分かる人がいない。専門知識がないまま手探りで進めるのは不安が大きい。
③仕組みの壁:情報がエクセルや個人のメモに散らばっていて、そもそも現状を把握できない。判断のもとになるデータが揃っていない。
この3つは、それぞれ独立しているようでつながっています。人手がないから仕組みが整わず、仕組みがないから知見も溜まらない。だからこそ、どこか一点から崩していくことが大切になります。
内製化を進める、4つの土台
では、何から手をつければいいのか。順番に整える土台は、次の4つです。
①判断基準の言語化
最初にやるべきは、制度づくりではありません。これまで頭の中で決めていた判断を、言葉にしていくことです。「どんな人を採りたいのか」「何をもって良い評価とするのか」——。
人事の内製化でいちばん大事で、同時にいちばん骨が折れるのが、この言語化です。逆に言えば、ここさえ進めば、残りの工程はぐっと回しやすくなります。判断が言葉になっていない状態で外注をやめても、ただ混乱するだけです。
②データ化
次に、人事の現状を数字で見える形にします。採用がどこで止まっているか、入社後どのくらいで辞めているか。バラバラの情報をひとつに揃えることで、初めて「自社の現在地」が見えます。データは、判断を社内に取り戻すための土台です。
③型化
言語化した判断とデータをもとに、繰り返し使える「型」をつくります。採用要件のフォーマット、評価のものさし、面接で必ず聞くこと。型があれば、担当が代わっても判断がぶれにくくなり、属人化から抜け出せます。
④運用する人
最後に、回し続ける人を決めます。専任でなくても構いません。データを見て、型を更新し、次の打ち手につなげる役割を、社内の誰かが担うこと。この人がいて初めて、内製化は「仕組み」として動き始めます。
この4つは、順番に積み上げていくものです。土台のないまま外注をやめると、現場が混乱します。逆に、土台ができていれば、外注を減らしても人事は回り続けます。
採用ご担当の皆さまの中には、「内製化したいが、何から整えればいいか分からない」というお悩みも多いはずです。Tsumuguでは、弊社が伴走しているクライアント企業様での実例をもとに、判断の言語化とデータ化から、御社の人事の自走をご支援いたします。

全部を内製化しなくていい——伴走と内製のハイブリッド
ここまで読んで、「やっぱり大変そうだ」と感じた方もいるかもしれません。大事なことをお伝えします。内製化とは、全部を自社で抱え込むことではありません。
現実的なゴールは、判断と設計を社内に持ちながら、足りない部分は外の力を借りる「ハイブリッド」の状態です。
たとえば、判断基準やデータは社内に持つ。そのうえで、専門的な設計や、自社にない視点が必要な場面では、外部の伴走を活用する。こうすれば、知見の壁や人手の壁を、内製化を止める理由にせずに済みます。
Tsumuguが大切にしているのも、まさにこの考え方です。データが症状を映し、人が課題を解決する。データ(ツムイトHR)を社内に持ち、必要なところに人が伴走する——この2つの組み合わせが、無理のない内製化の進め方だと考えています。
全部を手放すのでも、全部を抱えるのでもなく、「判断は社内、足りないところは伴走で補う」。これが、多くの中小企業にとって続けられる形です。
【AI視点】作業はAIへ、判断は人に、設計は社内に残す
内製化を考えるうえで、AIの存在は無視できません。「AIがあれば、内製化はもっと簡単になるのか」という問いには、条件つきで「はい」と答えられます。
仕事は「作業」「設計」「判断」の3層で見ると整理しやすくなります。このうち、定型の作業はこれからAIに任せやすくなります。求人原稿の下書きや情報の整理など、人手の壁を埋める助けになるでしょう。
一方で、「何を基準に決めるか」という判断と、その判断を言葉にする設計の層は、社内に残すべきものです。ここをAIに丸投げすると、結局また「外(AI)の頭の中」に判断を預けることになり、内製化の意味がなくなります。
つまり、AIをうまく使う内製化とは、作業はAIに渡し、設計と判断は社内に残すという線引きをすること。AIは内製化の敵ではなく、むしろ人手の壁を下げてくれる味方です。ただし、その手前で「自社の判断を言葉にできているか」が問われることは、AIがあっても変わりません。
内製化の最初の一歩は、「現状を数字で見る」こと
内製化を進めようと思っても、「何から手をつければいいか分からない」で止まってしまう——これがいちばん多い停滞です。土台の4つ(言語化・データ化・型化・運用者)のうち、最初の一歩としておすすめするのは、現状を数字で見える形にすることです。
理由は3つあります。
ひとつは、現状が見えないと、何を内製すべきかも判断できないからです。採用がどこで止まっているのか、入社後どのくらいで辞めているのか、評価はどれだけばらついているのか。これらが数字になって初めて、「自社の弱点はどこで、どの判断を社内に取り戻すべきか」が見えてきます。
ふたつ目は、数字が判断の言語化を引き出すからです。「なんとなく採用がうまくいっていない」では、判断基準を言葉にしようがありません。けれど「応募から面接までの通過率が低い」と数字で見えれば、「では、どんな人を通すのか」という基準づくりの議論が自然に始まります。データは、言語化のきっかけをつくります。
3つ目は、外注先に依存しない土台になるからです。データが自社の手元にあれば、振り返りも改善も社内でできます。逆に、データが外注先の管理画面の中にあるうちは、いつまでも外に依存し続けることになります。
つまり、現状を数字で見ることは、内製化の入り口であると同時に、その後の言語化・型化・運用すべての土台になります。まず一点、ここから崩していく。これが、人手も知見も限られた中小企業にとって、もっとも無理のない始め方です。
「内製化=コスト削減」という誤解
最後に、よくある誤解をひとつ解いておきます。内製化を「外注費を削るための手段」と捉えてしまうことです。
たしかに、内製化が進めば、外注に払っていた費用の一部は減るかもしれません。けれど、それを目的にすると、判断を誤ります。コスト削減を急ぐあまり、土台ができていないのに外注を切れば、採用力や育成力そのものを落としてしまうからです。
内製化の本当の価値は、コストではなく「会社が人事の主導権を持つこと」にあります。判断とデータが社内にあれば、意思決定が速くなり、担当が変わっても続き、改善が回り始める。これらは、外注費の削減額では測れない価値です。
費用は結果としてついてくるもので、目的ではありません。「安くするために内製化する」のではなく、「人事を自分の足で立たせるために内製化し、結果として無駄な外注が減る」。この順番を取り違えないことが、内製化を成功させる前提になります。
何を内製し、何を外に出すか——切り分けの判断軸
「判断と設計は社内、実行は外でもいい」とお伝えしてきました。では、具体的にどう切り分ければよいのでしょうか。判断の軸になる考え方を整理します。
切り分けの基準は、「自社にしか決められないことかどうか」です。
| 社内に残すべき(内製) | 外に出してもよい(外注・伴走) |
|---|---|
| どんな人を採りたいかの定義 | 求人原稿の作成・媒体の運用 |
| 何をもって良い評価とするかの基準 | 評価制度の設計サポート |
| 育成で目指す状態の言語化 | 研修の企画・実施 |
| 人事の優先順位づけ | 専門的な調査・分析の代行 |
| 自社のデータの保有 | データの整備・基盤の提供 |
左側に並ぶのは、いずれも「自社の意思」が問われることです。ここは、外に出した瞬間に会社の人事が自分の足で立てなくなります。一方、右側は手を動かす部分で、外部の力を借りても自走を損ないません。
迷ったときは、「これを外に出したら、判断の根拠が社内に残るか、消えるか」を考えてみてください。残るなら外注してよく、消えるなら社内に持つべき、という判断ができます。
内製化を急ぎすぎると、かえって失敗する
内製化のメリットを知ると、つい「今すぐ全部、社内に巻き取ろう」と考えたくなります。けれど、ここには落とし穴があります。
土台ができていない状態で外注を一気に切ると、現場が立ち行かなくなります。判断基準が言葉になっていないのに採用代行をやめれば、誰がどう採るかで混乱します。データが揃っていないのにコンサルとの契約を切れば、振り返りの拠り所を失います。
内製化は、「外注を減らすこと」が目的ではなく、「判断の力を社内に育てること」が目的です。順番を間違えると、コスト削減のつもりが、かえって採用力や育成力を落とすことになりかねません。
現実的な進め方は、外注を続けながら、その裏で判断の言語化とデータ化を進めること。社内に判断の力が育ってきたら、外注の範囲を少しずつ実行部分に絞っていく。この「並走しながら移していく」やり方が、もっとも失敗が少なくなります。急がず、土台から積み上げることが、結局はいちばんの近道です。
内製化が進んだ会社で起きる変化
判断とデータが社内に蓄積していくと、会社の人事には具体的にどんな変化が起きるのでしょうか。
ひとつは、意思決定が速くなることです。「どんな人を採るか」「誰を昇進させるか」を、いちいち外部に確認しなくても、社内の基準とデータをもとに、その場で判断できるようになります。
ふたつ目は、担当が変わっても続くことです。判断が型とデータになっていれば、人が入れ替わっても人事はリセットされません。「あの人がいないと分からない」状態から抜け出せます。
3つ目は、改善が回り始めることです。現状が数字で見えていれば、打ち手の結果も数字で確かめられます。やってみて、振り返って、次に活かす。この改善のサイクルが、社内で回るようになります。
これらはすべて、「判断が外ではなく社内にある」ことから生まれる変化です。内製化のゴールは、コストを下げることそのものではなく、会社が人事の主導権を取り戻すことにあります。
よくある質問
Q. 人事の専任がいなくても、内製化できますか?
できます。内製化は専任を置くことと同じではありません。総務や経理と兼任の方でも、判断基準を言葉にし、現状を数字で見られる仕組みがあれば、人事は社内で回せます。むしろ専任がいない会社ほど、判断を仕組みに残しておく価値が大きくなります。
Q. これまで外注に頼ってきたので、何が社内に足りないか分かりません。
まずは現状を数字で見るところから始めるのがおすすめです。採用がどこで止まっているか、入社後どのくらいで辞めているか。現在地が見えると、「どの判断が社内になく、外に依存しているか」が浮かび上がってきます。
Q. 内製化すると、外部の専門家はもう必要なくなりますか?
必ずしもそうではありません。現実的なゴールは、判断とデータを社内に持ちつつ、足りない専門性は伴走で補うハイブリッドです。全部を抱え込むのではなく、「自社にしか決められないこと」を社内に持つ、という考え方です。
Q. AIがあれば、内製化はもっと簡単になりますか?
作業面では、AIが人手の壁を下げてくれます。ただし、判断基準を決めることや、それを言葉にする設計は社内に残すべきで、ここをAIに丸投げすると内製化の意味が薄れます。AIは内製化の味方ですが、「自社の判断を言葉にする」という一番の山は、AIがあっても残ります。
Q. どのくらいの期間で内製化できますか?
会社の状況によりますが、内製化は「いつ完了する」というより「少しずつ社内に判断が積み上がっていく」プロセスです。まず現状を数字で見るところから始め、判断の言語化、型化と段階的に進めます。一気に切り替えるより、外注と並走しながら数ヶ月~年単位で移していくほうが、無理がなく定着します。
Q. 社長がすべて判断している状態からでも、内製化できますか?
できます。むしろ、その状態こそ内製化が必要なケースです。社長の頭の中にある判断を言葉にし、データと型に移していくことで、社長一人に集中していた人事の判断を、社内で共有できる形に変えていけます。「社長がいないと決まらない」を解いていくことが、内製化の中心的なテーマのひとつです。
まとめ
人事の内製化について整理してきました。要点は次の通りです。
- 内製化とは全部を自社でやることではなく、判断と設計を社内に持つこと
- 外注を続ける会社の問題は、お金を払っても判断の力が社内に残らないこと
- 内製化を阻むのは、人手・知見・仕組みの3つの壁
- 進める土台は、①判断基準の言語化 ②データ化 ③型化 ④運用する人
- 現実解は、全部を抱えず判断は社内・足りないところは伴走で補うハイブリッド
人事を「あの人にしかできない」「あの外注先しか分からない」状態から、「データを見れば社内で判断できる」状態へ。その第一歩は、判断を言葉にし、現状を数字で見える形にすることです。
Tsumuguでは、人事データ基盤「ツムイトHR」と人による伴走を組み合わせ、御社の人事が自分の足で立てるようご支援いたします。まずは御社の人事を数字で見るところから、無料相談でお気軽にご相談ください。
この記事を書いた人
塔筋 大樹(とうすじ だいき)— 株式会社Tsumugu 代表
株式会社リクルートを経て、現在は株式会社アド・イーグルにて営業・人事・企画領域を執行役員として管掌。
あわせて株式会社Tsumuguの代表として、中小企業の採用・育成・評価・定着に関する人事課題に対し、データとAIを活用した伴走支援を行っている。