「人事評価制度は作ったものの、社員が納得していない」「評価シートはあるが、昇給や人材育成に活かせていない」──このような悩みを抱える中小企業は少なくありません。
評価制度は、作ることが目的ではなく、社員の成長や組織の成果につなげるための仕組みです。しかし、制度だけを整えても、評価の目的や基準が共有されていなければ、次第に形骸化してしまいます。
本記事では、中小企業の人事評価制度が機能しなくなる本当の理由を、実際の支援事例や調査データを交えながら解説します。評価制度を「年2回のイベント」で終わらせず、人材育成や組織づくりに活かすための考え方や改善のポイントも紹介します。
評価制度があるのに、社員が納得していない理由
評価制度があるにもかかわらず、「機能していない」と感じる会社には共通点があります。
次のような状態が続いている場合は、評価制度が形だけになっている可能性があります。
- 評価結果が毎回ほとんど変わらず、成長が評価に反映されない
- 部署や評価者によって評価の甘さ・厳しさに差がある
- 目標設定は行うものの、期中の振り返りや面談がない
- 評価結果のフィードバックが形式的になっている
- 昇給や昇格と評価の関係が社員に伝わっていない
これらは、人事評価制度が形骸化している代表的なサインです。
「社員が評価に納得してくれない」という相談は少なくありません。しかし実際には、評価結果そのものではなく、評価に至るプロセスへの不信感が原因になっているケースが多く見られます。
「なぜこの評価になったのか説明がない」「評価者によって基準が違う」「何をすれば評価されるのかわからない」。こうした状態が続くと、社員は努力と評価が結び付かないと感じるようになります。
その結果、「どう頑張っても評価は変わらない」という諦めが生まれ、主体的に成長しようとする意欲も失われてしまいます。
実際の調査でも、ビジネスパーソンの61.7%が「自社の人事評価基準は不明瞭」と回答しています。また、不満の理由として最も多かったのは「評価基準が不明確」、次いで「評価者によるばらつき・不公平感」でした。
評価制度への納得感は、社員の定着にも大きく影響します。中小企業白書(2025年版)では、人事評価制度を導入している企業のほうが定着率は高い傾向にあることが示されています。ただし重要なのは制度が存在することではなく、「公平に評価されている」と社員が実感できることです。
納得感のない評価制度は、やがて「年に数回シートを書くだけの作業」になります。そして社員は評価制度そのものに期待しなくなります。
評価制度への不信感は、モチベーションの低下だけでなく、採用や人材育成、離職率にも影響します。社員が「この会社では成長しても正当に評価されない」と感じ始めたとき、評価制度はすでに本来の役割を失っていると言えるでしょう。
形骸化する原因は「運用」ではなく「評価の目的」にある
評価制度が機能しない原因として、「運用が甘い」「評価者のスキルが不足している」と考えられることは少なくありません。
もちろん、それらも改善すべき課題です。しかし、多くの企業を見てきた中で感じるのは、それらは結果として表れている問題だということです。
評価制度は「何のためにあるのか」が共有されていない
本当の原因は、「何のために評価を行うのか」が組織内で共有されていないことにあります。
評価制度は、人件費を決めるためだけの仕組みではありません。本来は、社員の成長を支援し、会社が期待する行動や成果を明確にしながら、組織全体をより良くしていくための仕組みです。
しかし、その目的が曖昧なまま制度だけを導入すると、「評価シートを書く」「点数を付ける」「昇給額を決める」といった作業だけが残ります。
その結果、社員は「なぜ評価されるのか」「何を目指せばよいのか」がわからないまま、毎回同じ手続きを繰り返すだけになってしまいます。
制度が形だけ残り、社員の成長につながらない状態こそが、評価制度の形骸化です。
MBOがうまく機能しない企業が多い理由
この問題は、MBO(目標管理制度)にもよく表れています。
公益財団法人日本生産性本部の調査では、MBOを導入している企業のうち、「うまく機能している」と回答した企業は24%にとどまりました。多くの企業では、目標設定だけで終わり、評価への納得感や人材育成につながっていないのが実情です。
ドラッカーが提唱したMBOは、社員が自ら目標を考え、主体的に行動しながら成長するための考え方です。つまり、社員自身が仕事の目的を理解し、自ら判断して行動することが前提になっています。
ところが現場では、MBOや評価制度が「昇給や賞与を決めるための制度」として運用されるケースも少なくありません。
評価制度が社員の成長ではなく、人件費管理だけを目的とした仕組みになれば、社員は目標を「達成すべきノルマ」としか捉えなくなります。
評価制度への納得感が失われれば、モチベーションの低下や離職にもつながります。評価制度への不満は、採用口コミや企業イメージにも影響するため、決して人事部門だけの問題ではありません。
人が育つ会社には、制度より先に考え方があります。まず「何のために評価するのか」を定め、その目的に合わせて制度を設計し、運用する。この順番が逆になると、どれだけ立派な評価制度を作っても長続きしません。
制度があることと、制度が機能していることは、まったく別の話です。
クライアント企業で見た「動かない評価制度」の実像
ある食品製造業の会社を支援した際、こんな状況がありました。
評価制度は一応ありました。半期に一度、上長が部下を100点満点で評価するシートを記入し、社長が確認する仕組みです。
ところが、このスコアを集計してみると、平均点が56.2点(社長による調整後)という状態でした。
さらに、部署によって80点以上が当たり前の部署と、全員が60点以下という部署が混在していました。
これは、「評価がばらついている」のではありません。「そもそも評価基準が統一されていなかった」ということです。
評価項目は一応あるのですが、その定義が曖昧で、「責任感がある」「積極性がある」といった抽象的な言葉が並んでいました。
結果として、評価は各部長の感覚・好き嫌いに依存していたのです。
この状態で評価制度を「使っている」とは言えません。シートを記入しているだけです。
この状況を一緒に整理する中で、私は5つの論点を確認しました。
- 思想:この会社は何のために評価をするのか
- 制度:評価の仕組みとルールは何か
- 現場納得:評価者・被評価者が同じ理解でいるか
- 人材育成:評価の結果が育成につながっているか
- 運用:日常的に動き続けられる仕組みになっているか
多くの会社は3〜5だけを整えようとして、1〜2がないまま走っています。

なお、「評価者によるばらつき」は、この会社に限った話ではありません。
評価に不満を感じる理由の第2位として「評価者の価値観や業務経験によって評価にばらつきが出る・不公平だと感じる」が45.2%を占めるというデータがあります(unipos人事制度調査)。
ばらつきが生まれる根本には、評価基準が言語化されていないことがあり、
その背景には「何のために評価をするのか」が決まっていないことがあります。
仕組みを整える前に思想を決めていれば、ばらつきは起きにくくなります。
「評価の仕組みを作ろう」となった時、最初に着手するのが「評価シートの設計」「評価ウェイトの決定」であることがほとんどです。ただ、それは「制度」の話です。「思想」が決まっていない段階で制度を作っても、誰もその意味を共有できません。
評価制度が「形骸化している」「うまく使えていない」という課題を抱えていませんか?
ツムイトは、人事の課題を数字で見える化する無料ダッシュボードです。まず現状を整理することから始めませんか。
0円で貴社の状況を整理!
目標設定が「やりっぱなし」になる会社の共通点
評価制度の形骸化を語る上で、目標設定の問題は避けられません。
目標設定をしても、期中に振り返りをしていない会社は約4割にのぼるという調査があります(2026年4月、267名対象)。
設定すること自体が目的化して、その後のフォローが設計されていない状態です。
なぜこうなるのか。
一つには、「目標を立てたこと」と「目標を持って仕事をしていること」が、混同されているからだと思います。
目標設定の面談を年2回やって、「目標管理ができている」と感じている会社が多いです。でも目標は、立てた瞬間から意味を持つのではありません。日々の仕事の中で「今日の行動はこの目標に向かっているか」と自分で確認できる状態になって、初めて意味を持ちます。
ある調査によると、企業の約82%で「社員が自分で判断する経験」が減少しており、58%で「上司への確認増加」が起きているとされています(33.8万人・980社を対象とした調査)。
上から目標が降ってきて、それを達成するための行動を上司に確認しながら進める構造の中では、目標設定は「作業指示書」に近いものになっていきます。自分で考えて判断する経験が積み重ならないため、目標と日常の仕事がつながっていかない。
目標設定が育成につながるのは、本人が自分で考え、判断し、振り返るプロセスを積み重ねる場合だけです。そのプロセスの設計なしに「目標設定シートを書かせる」だけでは、人事評価制度は形骸化します。
「研修をすれば知識は増える。でも、知識が増えることと、その知識を使って動けることは別の話だ」というのは、育成の文脈でよく言われることですが、目標設定も同様です。目標の立て方を学んでも、目標に向かって自分で判断する経験がなければ、制度は定着しません。
評価制度が「育成」につながっている会社と、そうでない会社の差
評価制度をうまく使っている会社に共通していることが一つあります。
評価を「過去の採点」として使っていないことです。
「過去の採点」として使う評価制度は、「何点だったか」を記録するためのものです。それは人件費の算出根拠にはなりますが、社員の成長には直結しません。結果を告げて、終わる。それだけでは、評価制度は「年2回の審判」にしかなりません。
一方、機能している評価制度では、評価の結果は常に「次の設計図」になっています。この評価をもとに、次の半期に何に取り組むのか。どんな経験を積むのか。そのために上長は何をサポートするのか。そこまでが、評価制度の射程に入っています。
「任せる」と「放す」は違います。
「任せたいけど任せられない」という状態は、多くの中小企業で共通して起きています。でも、それは「任せられる人材がいない」のではなく、「任せるための設計ができていない」だけのケースがほとんどです。
何を判断していいのか、どこまで自分で動いていいのかが見えていない状態で仕事を渡しても、それは「放した」だけです。
評価制度が育成につながるとは、「この水準に到達したら次のステップへ」という道筋が見えていることです。社員が「自分はどこに向かって成長すればいいのか」を理解していること。そして、それを日常の仕事の中で実感できていること。
評価制度は、その設計図になれるはずです。ただし、「採点表」として使い続ける限りは、そうなりません。
育成と評価をつなげる設計は、まず現状の数字を把握することから。
ツムイトで採用から定着まで一気通貫で見える化できます。
ツムイトは0円で問題を整理!
機能する評価制度に共通している3つのこと
最後に、実際に機能している評価制度に共通していたことを3つにまとめます。
① 「誰のための評価か」が会社で合意されている
評価制度は、会社のためでも、上長のためでも、人件費管理のためでもありません。
社員一人ひとりが成長し、会社に貢献し、それが正当に評価される。その循環を作るためのものです。
この合意が、経営者から現場のマネージャーまで共有されているかどうか。ここがスタートラインです。
「評価制度を作ること」がゴールになっている会社では、ここが飛ばされています。
だから、制度が完成した後に誰も使わない状態が生まれます。
② 評価者と被評価者が同じ言葉で話せる
「仕事への責任感がある」という評価項目があるとします。
評価者Aは、期日を守ることを責任感だと捉えています。評価者Bは、主体的に問題を発見して動くことを責任感だと捉えています。そして、被評価者Cは、報連相を徹底することが責任感だと思っています。
このままでは、評価は機能しません。同じ言葉を使っていても、意味が揃っていないからです。
機能する評価制度では、評価基準が「行動レベル」まで落とし込まれています。「責任感がある」ではなく、「期日3日前に進捗を報告し、問題があれば対策案を持って相談できている」という粒度です。
これは、作るのに時間がかかります。ただ、ここを省いた評価制度は、必ず「感覚評価・好き嫌い評価」に流れていきます。
③ 評価の結果が「次のアクション」に結びついている
評価が終わったあと、何が起きるかを設計しておくことです。
点数が低かった社員に対して、次の半期に何を変えるのか。上長は何を支援するのか。逆に評価が高かった社員には、どんな機会や責任を与えるのか。
「評価の結果が次の成長につながる」という体験が積み重なることで、社員は評価制度を信頼するようになります。そして、そこで初めて「納得感のある評価」が生まれます。
なお、AIを活用した評価支援ツールも増えています。目標の進捗を自動集計したり、評価のばらつきをデータで可視化したりする仕組みが、以前に比べてずっと導入しやすくなっています。
ただし、ツールを入れる前に「思想」と「言語化」が整っていなければ、データがあっても使われません。評価制度のデジタル化も、「なんのための評価か」という問いへの答えが先です。

まとめ
人事評価制度は、評価シートやルールを整えるだけでは機能しません。
社員が「なぜ評価されるのか」「どのような行動が評価につながるのか」を理解し、評価結果が次の成長や挑戦につながる仕組みになって初めて、制度は組織に根づきます。
評価制度が形骸化している企業では、評価基準の曖昧さや運用方法だけでなく、「何のために評価を行うのか」という目的そのものが共有されていないケースが少なくありません。まずは制度の土台となる考え方を整理し、自社に合った運用へ見直していくことが重要です。
株式会社Tsumuguでは、人事評価制度の設計・見直しだけでなく、採用基準やMVV、1on1、人事制度まで一貫した組織づくりをご支援しています。評価制度を社員の成長につながる仕組みへ改善したい企業様は、お気軽にご相談ください。





















