AIで作った資料はきれいに整っている。文章もそれっぽい。でも「なぜこの内容にしたの?」と聞くと、本人があまり意図を話せない。そんな場面が最近増えたなと感じています。
AIを使えば仕事は速くなりますし、私自身も調査、資料作成、文章、壁打ち、開発までかなり使っています。ただ、上記のような事象が続くと、仕事は進んでいるのに、考える力や判断する力は本当に育っているのか、少し不安になります。
この不安は、単に「AIは危ない」という話ではありません。実際、世界ではAIを使いながら学ぶことと、自分で考える経験をどう両立するかが論点になっています。研究で分かってきたことも踏まえながら、仕事や人材育成ではAIをどこまで使うのがよいのかを考えてみます。
AIで考える機会をどう残すかは、すでに世界でも論点になっている
直近では、ニューヨーク市が2026年9月2日、公立学校の就学前から8年生までの約60万人を対象に、児童生徒が直接使う生成AIを2026–27年度の1年間、原則停止すると発表しました。高校では全面禁止ではなく、AIリテラシー教育や教師管理下での限定利用を進める方針です。
この方針で興味深いのは、「AIが悪いから使わせない」という単純な話ではないことです。子どもが難しい問題に向き合い、分からない状態を経験し、間違えて、もう一度考える。その過程までAIで飛ばしてよいのか、という問題提起になっています。
研究で起きていることは、要するに2つです
研究も細かく読むとかなり複雑ですが、仕事や育成を考えるうえで押さえたい結果はシンプルです。
2025年に発表されたMicrosoft Researchなどの研究では、知識労働者319人、生成AIを使った936件の仕事の事例を調べています。要するに、AIへの信頼が高い人ほど、AIが出した情報や結論を自分で吟味する行動が少ない傾向がありました。これは自己申告による調査なので、「AIを使えば能力が落ちる」と証明した研究ではありません。ただ、AIを信じるほど確認する工程が減りやすい、という傾向は見えています。
もう一つ、2025年にPNASに掲載された高校数学の研究では、生成AIを使った生徒は練習中の成績が高くなった一方、AIを外して受けた試験では、AIを使わず学習したグループより成績が低くなった条件がありました。ところが、答えをそのまま渡さずヒントを出すようにAIの使わせ方を変えると、その悪影響はほぼ解消されています。
AIを使うこと自体より、AIによって「自分で考える工程」をどこまで飛ばしているかの方が大きい。少なくとも、今ある研究からはそう考える方が自然です。
人材育成でAIをどこまで使うかは、会社がどこを目指すかで変わる
ここから企業の人材育成に置き換えると、私は「AIを使わせるべきか、使わせないべきか」という二択では考えにくいと思っています。ごりごりAIを使うAI Nativeな会社を目指すのか、AIを業務支援として使う会社なのかで、そもそも育てる能力が変わるからです。
実際、国内でもDeNAは「AIオールイン」を掲げ、全従業員のAIネイティブ化を起点に、全社の生産性向上や事業への再投資を進めています。メルカリも「AI-Native」を掲げ、社員のAIツール利用が日常化した状態から、組織や人事の仕組みそのものをAI前提で見直す段階へ進んでいます。
もちろん、DeNAやメルカリと同じ形をそのまま目指す必要はありません。大事なのは、自社がどこまでAI前提の会社を目指すのかを決めないまま、人材育成だけ切り離して考えないことだと思います。
| 会社の考え方 | AIに任せる範囲 | 人に残したいもの |
|---|---|---|
| AI Native志向 | 調査、仮説出し、資料作成など広くAI前提で進める | AIを使って成果まで出す力、出力の採否、最終的な意思決定 |
| 業務支援として活用 | 情報整理、要約、たたき台、定型作業を中心に任せる | 専門知識、顧客理解、判断を積み重ねる経験 |
もちろん実際は、会社全体でどちらかに振り切るというより、職種や仕事によって変わると思います。エンジニアと営業でも違いますし、新人と経験者でも違います。
AI Nativeを目指す会社で、資料をゼロから手作業させることにどこまで意味があるのかは考えた方がいい。一方で、顧客の状況を読み取る経験が必要な営業に、最初から顧客理解までAIに任せてしまえば、何を見て判断するのかを学ぶ機会は減ります。
だから、「AIはここまで」という一律のルールより、この会社、この職種、この段階で何を身につけてほしいのかを先に決める方が整理しやすいと思っています。
AIに聞けば済むことが増えるほど、「あなたはどう思う?」が残る
個人的には、AIに聞けば済むことは、もう個々人がAIに聞いて終わると思っています。一般的な知識を知りたい、情報を整理したい、選択肢を出したい。こうしたことは、わざわざ社内の誰かが答えを持っている必要性がかなり下がっています。
もちろん事実確認は必要ですが、「知っていること」そのものの希少性は下がっていくはずです。だからこそ、むしろ浮き彫りになるのが、「で、あなたの意見は何なの?」と問われる瞬間です。
先日、若手に私が作った提案資料を見せたとき、「どんなプロンプトを打っているんですか?」と聞かれました。そのときに感じた違和感も、ここにつながっています。
私が知っている特別なプロンプトが資料を良くしているわけではありません。そのお客様は何を気にしているのか、何を問題だと捉えるのか、弊社として何を提案するのか。そこを考えたうえで、形にする部分をAIに手伝ってもらっています。
AIに「この顧客に考えられる課題を10個出して」と聞くこと自体は全く問題ないと思います。ただ、その10個のうち自分はどれだと思うのか。なぜそう思うのか。何を見れば判断を変えるのか。ここは本人の仕事として残ります。
AIが答えを出せる範囲が広がるほど、答えを持っていることより、自分の判断を持っていることの方が見えやすくなる。人材育成でも、この変化はかなり大きいと思っています。
成果から逆算すると、AIに任せる範囲は決めやすい
では、人材育成でどこまでAIを使わせるのか。私は、AIから考え始めるよりその人にどんな成果を出してほしいのかから逆算するのが分かりやすいと思っています。
例えば若手営業に提案資料を作ってほしいとします。成果を「きれいな資料を完成させること」と置けば、ほとんどAIに任せてもいいかもしれません。でも、本当に育てたいのが「顧客の課題を捉え、次の提案を自分で判断できること」であれば、顧客のどこを見たのか、なぜその課題だと思ったのか、なぜその提案を選んだのかは本人に残した方がいい。
逆に、文章の整形や資料の見栄えまで手作業させる必要はありません。そこに育成上の意味が薄いなら、AIに任せてしまえばいいと思います。
成果 → その成果に必要な判断 → AIに任せてよい作業の順に考えると、「AIを使わせすぎるのが怖い」「どこまで禁止すればいいのか」という話から抜けやすくなります。
新人教育やOJTでAIをどう組み込むかまで具体化したい場合は、AIでOJTを効率化|新人教育・人材育成に活用する方法と導入ポイントも参考にしてください。
Tsumuguでも、AIの操作方法を教えるだけではなく、仕事で求める成果から逆算して、どこをAIに任せ、どこを本人の判断として残すかを考える形で人材育成を設計しています。具体的な研修内容はAI活用の浸透促進研修でご覧いただけます。
AIを使うかどうか自体は、たぶんこれから論点ではなくなっていきます。AIに聞けば済むことが増えるほど、最後に残るのは「あなたはどう考えるのか」です。
人材育成で考えたいのも、AIを使わせるかではなく、AIを使ったうえで、何をその人の力として育てるのかなんだと思います。




















