新卒採用にかかる費用は、1人あたり93.6万円(※1)。
さらに、入社から半年以内に退職した場合、採用や教育にかかったコスト、生産性の低下などを含めると、企業の損失は数百万円規模になることも珍しくありません。
若手社員の早期離職は、採用コストだけでなく、教育にかけた時間や現場の負担、生産性の低下など、企業に大きな影響を与えます。
それにもかかわらず「給与を上げる」「福利厚生を充実させる」といった施策だけで離職防止を図っている企業は少なくありません。
しかし、若手社員が辞める理由は待遇面だけではなく、企業と若手社員の認識のズレや、育成・評価・職場環境など複数の要因が重なっています。
本記事では、若手が定着しない会社に共通する特徴をデータをもとに解説するとともに、離職率を改善するために企業が見直すべきポイントや、若手社員が長く活躍できる組織づくりの考え方をわかりやすく紹介します。
若手が定着しない会社は「企業と若手の認識」にギャップがある
若手社員の離職に悩む企業では、離職防止策そのものではなく、若手社員が求めるものと企業側の認識にギャップがあるケースが少なくありません。
企業は「十分に取り組んでいる」と考えていても、若手社員は「改善されていない」と感じていることがあります。その認識の違いが、定着率の低下につながる原因の一つです。
例えば、職場改善に自分たちの声が反映されているかどうかについても、大きな認識の差があります。
| 社員の声が職場改善に反映されていると思う割合 | |
|---|---|
| 経営層・人事・管理職 | 70% |
| Z世代社員 | 33% |
| 認識のギャップ | 37% |
出典:中小企業の若手社員と経営層のすれ違う認識に関する意識調査(2025)
経営層と若手社員では「職場改善に自分たちの声が反映されている」という認識に37ポイントもの差があります。このような認識の違いが、離職防止策の効果を下げる要因になっている可能性があります。
もちろん、若手社員の意見をすべて受け入れる必要はありません。しかし、企業側だけの視点で制度や施策を決めてしまうと、本当に必要な改善からズレてしまう可能性があります。
重要なのは、企業と若手社員の認識の違いを把握し、そのギャップを埋めることです。
企業と若手社員で認識が異なる3つのポイント
実際に、若手社員と企業では、離職や定着に対する考え方に違いがあります。代表的な3つの認識ギャップを見てみましょう。
| 項目 | 若手社員 | 企業 |
|---|---|---|
| 現場の声が反映されていると思う割合 | 33% | 70% |
| 人事評価が公正だと思う割合 | 37% | 69% |
| 若手が辞める主な理由 | 労働時間・休日(25%) | 給与・福利厚生(41%) |
※出典:中小企業の若手社員と経営層のすれ違う認識に関する意識調査(2025)
※出典:HR総研『「若手人材の離職防止に関する」に関する調査レポートを公開』(2023)
※出典:株式会社リクルートマネジメントソリューションズ『「新人・若手の早期離職に関する実態調査」の結果を発表』(2023)
さらに、企業側の調査では「若手が離職する原因」と「実際に実施している離職防止策」が一致していないことも分かっています。
| 順位 | 企業が考える離職要因 | 実施している離職防止策 |
|---|---|---|
| 1位 | 給与・福利厚生 | コミュニケーションの活性化 |
| 2位 | 上司との人間関係 | 待遇改善 |
| 3位 | 業務内容のミスマッチ | 職場環境の向上 |
| 4位 | 社内での成長が見込めない | 1on1の実施 |
| 5位 | 上司以外との人間関係 | 教育・研修制度の強化 |
出典:HR総研『「若手人材の離職防止に関する」に関する調査レポートを公開』(2023)
企業側は給与や福利厚生を離職の大きな要因と考える傾向があります。一方、若手社員は労働時間や休日など、ワークライフバランスをより重視しています。
この認識の違いを理解しないまま施策を進めても、離職防止の効果は期待できません。「意識のズレを放置した施策」こそ離職防止がうまくいかない大きな原因です。
給与や待遇の改善だけでは定着率は上がらない
給与や待遇の改善は重要ですが、それだけで若手社員の定着率が上がるとは限りません。
実際に弊社でも、給与や休日を改善したものの、若手社員の定着率がほとんど変わらなかった企業を見てきました。待遇を改善した直後は満足度が高まりますが、それだけでは離職防止にはつながらないケースも少なくありません。
もちろん、物価上昇や生活コストを考えれば、給与や待遇の改善は欠かせません。しかし、それはあくまで働き続けるための土台です。
若手社員が長く働きたいと思うかどうかは、評価への納得感や働きやすさ、上司との関係性、成長実感など、日々の職場環境にも大きく左右されます。
企業側が「給与を上げれば定着する」と考えていても、若手社員は「働き方」や「職場環境」を重視している場合があります。
給与や待遇だけに頼るのではなく、若手社員との認識ギャップを理解し、組織全体の働きやすさを見直すことが、離職防止への第一歩です。
待遇改善だけで終わらせず「若手が何を求めているのか」を継続的に把握することが、定着率向上への近道です。
若手が定着しない原因を自社だけで特定するのが難しい場合は、組織づくり・人材定着についてお気軽にご相談ください。
会社を辞める若手はなにを考えているのか?
「正直、若手が何を考えているのかわからない」と日々感じている方も多いでしょう。
重要なのは、若手を一括りにしないこと。
現場を見てきた弊社としては、若手の志向をざっくり二種類のタイプに分けることができると考えています。
ワークライフバランスを重視する若手が増えてきているのはたしかですが、突き抜けた成長を重んじる若者がいるのも事実。
また、会社から見ても優秀な若手は、成長志向、安定志向、どちらにも存在します。
特定の観点を捨てているのではなく、あくまで軸足が異なるだけです。
このうち、特に重要と考えられる4つの観点について、詳しく見ていきましょう。
若手の志向①:将来性×成長機会
特に会社から見て優秀だと感じる若手にとって、重要となるのが将来性と成長機会。
会社も成長しており、自身にとっても成長のチャンスが豊富かどうか、という観点です。
これは世代に限らず、優秀な人にとっての必須項目。「この会社ではもう成長できない」と感じられたが、最後、転職活動を始めてしまいます。
優秀な人の離職防止については以下の記事で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
関連記事:優秀な人が突然辞める会社の共通点とは?離職を防ぐエンゲージメント向上のポイント
若手の志向②:働く意義
成長志向の若手に限った話ではありませんが、若手にとって「働く意義・仕事のやりがい」は重要です。
実際、会社を辞めたいと思ったことがある若手のうち、辞めたいと思った理由の第1位が「仕事にやりがい・意義を感じない」であるという調査もあります。
出典元:株式会社リクルートマネジメントソリューションズ『「新人・若手の早期離職に関する実態調査」の結果を発表』(2023)
これについては、若手の仕事がなんのために存在し、組織の方針へどのように貢献しているのかを明示する必要があるでしょう。
若手の志向③:柔軟な働き方・ワークライフバランス
近年、若手の中で増えてきているのが「柔軟な働き方や、ワークライフバランスの重視」。
| 若手が労力をかけて手に入れたいこと | |
| 1位 | プライベートの充実(24.4%) |
| 2位 | 高い収入(23%) |
| 3位 | 自分のやりたいことをやる(16.8%) |
これは安定志向の若手に現れやすい傾向ですが、成長志向の若者も決して捨てているわけではありません。
理想とするバランスが人によって異なるため、それに合わせて柔軟な働き方も求められているのが現状です。
ここについても、会社と若手で認識ギャップがあります。
| 理想的なワークライフバランスの調査 | ||
|---|---|---|
| 仕事:プライベート | 若手 | 上司 |
| 3:7 | 28.5% | 20.2% |
| 5:5 | 39.3% | 47.1% |
| 7:3 | 24.1% | 26.4% |
この調査からは、若手・新人のほうが上司・育成担当よりもプライベートに重きを置いていることがわかります。
さまざまな世代と価値観が混在する以上、働き方の選択肢を増やし、それぞれの社員に合わせられる柔軟性が求められていると言えるでしょう。
若手の志向④:会社の将来性×安定性
4つ目に取り上げるのは、会社の将来性・安定性。
成長機会の項目でも会社の将来性は関わってきましたが、安定性にとっても重要。
安定志向が求めているのは「堅実さ」であり、「停滞」ではありません。
VUCAの時代に働き始める若手にとって、今が良くても将来性がなければ「安定している」とは言えません。
会社が停滞していてもいいのなら、評価制度は「年功序列が正義」という話になるでしょう。
本記事で頻出しているリクルートマネジメントソリューションズの調査でも、調査結果が出ています。
| 辞めたいと思いつつも働き続ける理由 | |
| 1位 | 転職へのリスクを感じる(21.3%) |
| 2位 | 会社がつぶれる心配がない(18%) |
| 3位 | 条件に合う転職先が見つからない(14.2%) |
大企業でも倒産の可能性がある現代において、会社の堅牢さや将来性は、若手にとっても「将来の安定性」につながっているのです。
若手が辞めない会社の共通点は?
ここまでは、若手が実際になにを考えているのか、データとともに見てきました。
若手にも成長を重視するタイプと、安定を重視するタイプがいることを認識いただけたかと思います。
では、若手が辞めない会社はどうしているのでしょうか?
「自社にほしい若手」を明確化している
若手が辞めない会社は、採用段階からすでに工夫をしています。
その工夫とは、「自社がほしい若手は誰か?」を定義し、企業説明会や選考過程でその具体的なイメージを若手に伝えること。
若手の離職理由はさまざまですが、どんなに待遇がよくても、企業文化に合わない人は辞めていきます。
引き止めができないだけでなく、引き止めてもお互いが幸せにならないパターンです。
若手の離職防止は、採用段階からすでに始まっているのです。
自社の希望がぼんやりしていると採用でのミスマッチが起きやすいため、まずは求める人物像を具体化しましょう。
採用後のミスマッチを減らしたい企業は、採用から入社後まで活用できる適性検査「ツムイトHR」もご活用ください。
若手の意見を常に汲み上げている
若手が辞めない会社は、常に若手の意見をキャッチアップし、有用なアイデアを社内に反映させています。
細かく言うとさまざまな点がありますが、主には上記のように集約できるでしょう。
AIの登場により、時代の変化や発展速度はさらに加速度をつけています。最新の知識が数カ月後には役に立たなくなっている、というケースも少なくありません。
若手の視点や意見を汲み上げる重要性は、明らかに従来よりも高まっています。
公正な人事評価の制度
どんなタイプの若手であっても、人事評価の公正さは大きな影響を与えます。
若手と会社のズレでも紹介したように、経営層・人事の7割が「うちは公正」だと思っているのに対し、若手社員は3割強しか公正さを実感していません。
では、人事評価における公正と不公正はどのように異なるのでしょうか?
| 人事評価の公正さ(例) | |
|---|---|
| ◎:公正な評価 | ×:不公正な評価 |
| 評価基準が明示されている | 上司が現場を見ていない |
| 評価の透明性が担保されている | 管理職と仲が良い人だけ昇進 |
| フィードバックの機会がある | 職種が違うのに評価基準は一律 |
不公正は不公平を生み出し、不公平は人材の離職につながります。
これらの関係性については、下記の記事における「3つの不」という見出しでご紹介していますので、ぜひチェックしてみてください。
関連記事:優秀な人が突然辞める会社の共通点とは?離職を防ぐエンゲージメント向上のポイント
柔軟な職場環境
若手が辞めない会社の特徴、3つ目は柔軟な働き方。この重要性については、若手の志向の部分でもお話しました。
柔軟性はよく「働きやすさ」と言われますが、離職率という観点を絡めたときには「働き続けやすい環境」と言い換えるのがより最適でしょう。
大事なのは制度化ではなく、働き方の選択肢が豊富なこと。
働き方改革や新型コロナ以後の現代で働く若手にとって、こうした柔軟性はごく身近な例になりつつあります。
一方、柔軟ではない職場環境だと、なぜ若手が離れていくのか?
それは、「この組織では将来的に働き続けることができない」と感じてしまうから。
若手は「これから大きなライフイベントを控えている人」と言い換えることもできます。
若手は今でこそ若者ですが、今後、さまざまなライフイベントを経験しながら年齢を重ねていきます。
特に影響が大きいのは結婚や出産。弊社による退職者インタビューでは、出産・育児後のキャリアに言及する若手も多いのです。
結婚や出産を機に退職していく社員が多い場合、働き方の選択肢を見直してみましょう。
心理的安全性が保たれている
心理的安全性を別の言葉にすると、「ミスをしたり意見を言っても、頭ごなしに否定されず受け止めてもらえる環境」と言えます。
若手が辞めない会社は、必ずと言っていいほど心理的安全性が担保されています。
Googleが心理的安全性の重要さを検証したのが2012年。そこから10年以上が経過していますが、実践できている組織は少ないのが現状。
社員の50.4%が「本音を言えない」と感じているという調査(※6)が存在することからも、安心感が欠けている職場は多いと言えます。
※6 出典元:パーソル総合研究所『職場での対話に関する定量調査』(2024)
とはいえ、心理的安全性は理論を知っていても、実践するのが難しいもの。
そこで、少なくとも心理的安全性を阻害するような行動を取らないことを意識しましょう。
若手に限らず、社員の不信を招く行動は避けましょう。
「若手が定着しない会社」が変わった事例
若手が辞めない会社の特徴を確認したところで、実際に定着率が上がった事例を見ていきましょう。
本記事で具体的に紹介する事例は2つ。
①柔軟な働き方の導入による効果
②インターンシップによる定着率アップ
まずは、柔軟な働き方を導入したスープストックトーキョーの例です。
【離職率が半減!】柔軟な働き方の導入で離職率が低下
柔軟な働き方によって離職率が下がった好例としては、スープストックトーキョーが挙げられます。
・複業可能 ・欠員へのヘルプ専門社員 |
|
| 効果 | 年間離職率が半減 (23%⇨12.8%) |
スープストックトーキョーの「働き方開拓」はユニークで、時短勤務はもちろん、複業も社外だけでなく社内で複数職を兼務することが可能。
また、「店舗を任せられる人員がいないため休みづらい」という悩みを現場から汲み取り、ヘルプ専門の社員を設置。
こうした取り組みの数々によって、飲食店にありがちな悩みを改善し、離職率の低下に至ったとのこと。
人事部が積極的に現場の声をヒアリングし、的確な施策を打つことができた模範的な事例でもあります。
インターンシップによるキャリアビジョンの明示
インターンシップを取り入れることで、若手の定着率が上がった例もあります。パーソル総合研究所の調査を見ると、違いがわかりやすいでしょう。
| インターンによる3年離職率への影響 | ||
|---|---|---|
| インターン参加者 | インターン非参加者 | |
| 3年離職率 | 16.5% | 34.1% |
パーソル総合研究所以外の調査でも、新卒の3年離職率は3割強。
インターンシップでは、その企業や業界の内部を体感できるだけでなく、現場で働いている社員とコミュニケーションを取ることができます。
インターンシップによって事前に採用のミスマッチを軽減するだけでも、3年離職率は約2分の1へ。
このインターンの中で、キャリアビジョンも明示してあげると、若手から見ても会社に入った後のイメージがより明確になり、定着率に貢献します。
ただし、インターンと言いつつ内部をまったく見せず、実態が企業説明会になっていては効果も薄れがち。名ばかりのインターンにならないよう注意しましょう。
まとめ
若手社員が定着しない原因は、給与や福利厚生だけではありません。企業が良かれと思って実施している施策と、若手社員が本当に求めていることとの間に認識のズレが生じているケースは少なくありません。
離職率を改善するためには、採用・育成・評価・マネジメントを切り離して考えるのではなく、一貫した人事戦略として見直すことが重要です。また、若手社員の声を継続的に聞き、制度や働き方をアップデートし続ける姿勢も欠かせません。
若手が「長く働きたい」と思える会社は、一朝一夕ではつくれません。自社の現状を正しく把握し、小さな改善を積み重ねることが、定着率向上と組織の成長につながります。
※1 出典:株式会社リクルート 就職みらい研究所『就職白書2020』(2020)
※2 出典:エン・ジャパン株式会社『「早期離職」に関する実態調査 入社から半年で早期離職が発生した場合、企業の損失額は「640万円」。 早期離職経験者は31%。後悔の最多は「転職活動が大変になった」。』(2025)を元に、給与水準を年収300万として弊社にて試算





















