「人事制度を見直したいものの、どのような制度を目指せばよいかわからない」「評価基準を変更しても、自社が求める人材の育成や定着につながらない」と悩む企業は少なくありません。
人事制度を設計する際は、等級制度や評価項目、報酬の決め方から考え始めるのではなく、まず誰に報いたいのか、どのような人材を増やしたいのか、制度によって組織をどう変えたいのかを明確にすることが重要です。
方向性が曖昧なまま制度を改定すると、全社員に配慮した結果、誰にも十分な効果を発揮しない制度になったり、会社に残ってほしいコア人材が適切に評価されず、優秀な人材の離職を招いたりする可能性があります。
本記事は「【人事制度の作り方】失敗しない設計手順を解説|現状分析から始める人事制度構築」の続編です。
前回整理した現状分析と組織課題を踏まえ、人事制度構築の指針となるコア人材の定義、求める人材像の作り方、等級制度や評価制度のコンセプト設計について詳しく解説します。
人事制度改定では「誰に報い、何を変えるか」を明確にする
人事制度を見直すとき、いきなり評価項目や給与テーブルを変更するのはおすすめできません。まず考えたいのが、「どのような人材に報いたいのか」「制度を通じて組織をどう変えたいのか」という方向性です。
全社員が納得する制度を目指すことは大切ですが、誰にでも当てはまる無難な制度にしてしまうと、結果として「何を評価する会社なのか」がわかりにくくなります。
さらに問題なのは、会社に残ってほしい人材が十分に評価されない一方で、今後の組織に必要な行動や成果を出していない人にも同じように報いてしまうケースです。これでは、制度を変えても組織は良い方向に変わりません。
そこで人事制度を改定する際は、現状分析や課題整理を踏まえ「自社が求める人材は誰か」「その人材にどのような行動や成果を期待するのか」を先に定めます。
前回までに整理した「現状分析」「問題の検討・分析」に続き、ここからは人事制度構築の指針となる、求める人材像や制度改定の方向性について考えていきます。
コア人材サークルの策定
人事制度改定の方向性を決めるために、まず「自社にとって、どのような人材が重要なのか」を整理します。
その際に考えたいのが、「基本姿勢」「技術・知識」「経験」の3つです。 単に「優秀な人」「成果を出せる人」とするのではなく、自社の事業や今後の戦略と照らし合わせながら具体的に考えていきます。
基本姿勢
最初に考えるのが、仕事に向き合ううえで大切にしてほしい姿勢です。
どれだけ専門知識や高いスキルを持っていても、周囲と協力できない、指示がなければ動かないといった状態では、組織として成果を出すことが難しくなる場合があります。
一方で、すべての会社が同じ姿勢を求める必要はありません。
たとえば、新しい事業を次々と生み出したい会社であれば、自ら考えて行動する姿勢や変化への柔軟性が重要になります。チームでサービスを提供する会社であれば、周囲との連携や情報共有を重視する必要があるでしょう。
「自社で成果を出している人は、普段どのような姿勢で仕事をしているか」を考えてみると、必要な基本姿勢を整理しやすくなります。
また、基本姿勢を考えるうえでは「カルチャーフィット」という視点もあります。カルチャーフィットとは、企業が大切にしている価値観や仕事の進め方と、従業員の考え方や行動が合っている状態のことです。
会社の戦略と、それを実現するために必要な組織文化や行動はつながっています。だからこそ、人事制度でも成果だけを見るのではなく、どのような姿勢や行動を評価するのかを明確にしておくことが大切です。
技術・知識
次に、会社の戦略を実現するために必要な技術や知識を整理します。
たとえば、新しい市場への進出を考えている企業であれば、市場を分析する力やマーケティングの知識、新規顧客を開拓する営業力などが必要になるかもしれません。
一方、既存事業をさらに成長させたい企業であれば、業務改善やマネジメント、部門間の調整といった能力が重要になることもあります。
具体的には、次のようなものが考えられます。
- 市場や顧客の変化を捉え、今後の方向性を考える力
- 新しい商品やサービスを企画する力
- 課題の原因を整理し、解決策を考える力
- メンバーを育成し、チームをまとめる力
- データをもとに判断する力
- 顧客や社内の関係者と調整する力
ここでも重要なのは、一般的に評価されているスキルを並べることではありません。
「これから自社が目指す方向に進むために、どのような技術や知識を持つ人が必要なのか」という順番で考えます。
経験
技術や知識とあわせて「どのような経験をしてきた人材に活躍してほしいのか」も考えてみましょう。
ここでいう経験は、「業界経験5年以上」「管理職経験3年以上」といった年数だけではありません。
たとえば、
- 新しいプロジェクトを立ち上げた経験
- 売上が伸び悩む事業を立て直した経験
- 新しい方法を提案し、業務を改善した経験
- 部門をまたいで関係者をまとめた経験
- 部下や後輩を育成した経験
- 大きな失敗や困難を乗り越えた経験
などもあります。同じ5年間の経験でも、その中で何を経験し、どのような課題に向き合ってきたかは人によって異なります。
そのため、経験年数だけではなく「自社の戦略を実現するうえで、どのような経験を積んできた人が活躍しやすいか」を考えることがポイントです。
求める人材像
「基本姿勢」「技術・知識」「経験」を整理できたら、最後にそれらを組み合わせて、自社が求める人材像をつくります。
たとえば、
- 顧客の変化を捉え、自ら新しい提案を考えて実行できる人材
- 周囲と協力しながら業務改善を進め、チームの生産性を高められる人材
- 現場で得た経験や知識を後輩に伝え、次のリーダーを育てられる人材
といった形です。最初からきれいな文章にする必要はありません。
むしろ、言葉を整えることに時間をかけるより、実際に経営者や現場の責任者が読んで「確かに、こういう人に長く活躍してほしい」と認識を合わせられることのほうが重要です。
求める人材像は会社を格好よく見せるための言葉ではなく、人事制度で「誰に報いるのか」を決めるための基準です。
まずは仮置きでも構いません。「基本姿勢」「技術・知識」「経験」と照らし合わせながら、足りないものを加え、不要なものを削っていきましょう。
求める人材像の整理や人事制度への落とし込みにお悩みの方はお気軽にご相談ください。
人事制度改定のコンセプトを決める
求める人材像が見えてきたら、次は「どのような人事制度にするのか」という改定のコンセプトを決めます。
ここで大切なのは、いきなり具体的な施策を考えないことです。
たとえば、「新規開拓を強化したいから営業職の給与を上げよう」「管理職が足りないから役職手当を増やそう」といった議論から始めると、その場の課題に対応するだけの制度になりかねません。
給与や等級、評価基準は、一度変更すると簡単には元に戻せません。だからこそ、個別の施策を決める前に、「今回の人事制度改定で何を重視するのか」という判断軸を決めておくことが重要です。
ここでは、改定の方向性を考えるうえで押さえておきたい「序列の付け方」と「評価のメリハリ」という2つの観点から考えていきます。
序列の付け方
まず考えたいのが、社員の等級や処遇を何によって決めるのかです。
大きく分けると「人が持っている能力を基準にする考え方」と「任せている仕事や役割を基準にする考え方」があります。
前者の代表例が「職能等級」です。
職能等級では、従業員が仕事を遂行するために持っている能力を基準に等級を決めます。知識やスキル、経験などを踏まえ「この人にはどの程度の仕事を遂行できる能力があるか」を見ていく考え方です。
幅広い仕事を経験しながら社員を育成したい企業や、部署をまたいだ異動が多い企業では取り入れやすい一方、能力の定義が曖昧になると、なぜ昇格したのか、なぜ給与が上がったのかがわかりにくくなることがあります。
もう一つが「役割等級」や「職務等級」です。こちらは、人そのものではなく、任されている役割や職務の内容、責任、難易度などを基準に等級を決める考え方です。
たとえば、同じ営業職でも「既存顧客を担当する」「大口顧客を担当する」「営業戦略を立ててチームを率いる」では、任されている役割や責任が異なります。その違いを等級や処遇に反映させます。
職務等級の場合は、担当する職務の内容や責任範囲を職務記述書(ジョブディスクリプション)などで明確にし、その職務に応じて処遇を決めます。
つまり「その人が何をできるか」を重視するのか、「どのような仕事や役割を担っているか」を重視するのかという違いです。 どちらか一方が優れているわけではありません。
社員を長期的に育成しながら幅広い仕事を任せたいのか、役割と責任を明確にして成果につなげたいのか。自社の事業や組織のあり方を踏まえて、どちらを重視するのかを決めていきます。
また、実際の人事制度では、能力と役割の両方を取り入れることもあります。大切なのは制度の名称ではなく「自社では何を基準に社員の等級や処遇を決めるのか」が説明できる状態にすることです。
評価のメリハリ
もう一つ考えたいのが、評価によってどの程度の差をつけるかです。
高い成果を出した社員には、昇給や賞与などで大きく報いるのか。それとも、短期的な成果だけではなく、仕事への取り組み方や成長も含めて評価するのか。ここにも会社の考え方が表れます。 たとえば、成果をより強く重視するのであれば、売上や利益、目標達成率などの定量的な指標を評価に反映し、成果に応じて処遇にも一定の差をつける方法があります。
成果を出した社員に報いやすくなる一方、個人間の競争が強くなりすぎたり、数字になりにくい仕事が評価されにくくなったりする可能性もあります。
一方で、あらかじめ定めた基準に対して評価する絶対評価や、結果だけでなく仕事の進め方も見るプロセス評価を重視する方法もあります。
こちらは、成果だけでは測りにくい貢献や成長を評価しやすい反面、基準が曖昧だと評価者によって判断に差が出やすくなります。
そのため「成果重視か、プロセス重視か」「相対評価か、絶対評価か」と単純に二者択一で考える必要はありません。
営業職では成果の比重を高め、管理職ではチーム育成や組織への貢献も重視するなど、職種や役割によって評価方法を変えることもできます。
重要なのは、自社がどのような行動や成果に報いたいのかを先に決め、その考え方に合わせて評価方法を設計することです。
人事制度改定では、評価項目や点数配分といった細かな仕組みから考えるのではなく「何を評価し、誰に報いる制度にするのか」というコンセプトを固めることから始めましょう。
関連記事:人事評価制度が機能しない理由とは?中小企業で形骸化する原因と改善方法
まとめ:人事制度改定は「誰に報いるか」から考える
経営学者のピーター・ドラッカーは、人に関する意思決定は長期にわたって影響を及ぼし、後から修正することも難しいため、経営者が十分な時間をかけて取り組むべき重要な仕事だと説いています。
人事制度も同じです。評価項目や給与テーブルを変更すれば終わりではありません。どのような人を評価するのかによって、社員の行動や成長の方向性が変わり、採用・育成・配置・定着にも影響します。
だからこそ、人事制度を改定するときは、目の前の不満や課題だけを見て制度を変えるのではなく、「誰に報いたいのか」「どのような人材を増やしたいのか」「制度を通じて組織をどう変えたいのか」を最初に整理することが大切です。
この判断軸が決まっていれば、その後の等級制度・評価制度・報酬制度にも一貫性を持たせやすくなります。
人事制度に唯一の正解はありません。会社の事業や組織の状況が変われば、求める人材や評価したい行動も変わります。まずは自社が何を大切にしたいのかを整理し、それを制度に落とし込んでいきましょう。
株式会社Tsumuguでは、中小企業の経営戦略や組織課題に合わせて、求める人材像の整理から等級制度・評価制度・報酬制度の設計まで、人事制度の構築・見直しを支援しています。自社に合った人事制度の方向性にお悩みの方は、お気軽にご相談ください。






















