リスキリング成功事例3選|成功事例から学ぶ人材育成の進め方

リスキリング成功事例3選|成功事例から学ぶ人材育成の進め方とポイント

リスキリングを始めたいと思っても、研修を受けた後、社員にどんな仕事を任せればよいのか。そこまで決められずに止まってしまう企業は少なくありません。

他社の成功事例を調べると、大規模な社内大学や全社研修が目に入ります。ただ、その規模をまねる必要はありません。見たいのは、何のために学び、学んだことをどの業務で使ったかです。

この記事では、ダイキン工業、日立製作所、西川コミュニケーションズの公表資料をもとに、リスキリングの取り組みを紹介します。さらに、事例から中小企業が取り入れられる考え方と、無理なく始める手順を整理します。

目次

リスキリングの企業事例3選

ダイキン工業、日立製作所、西川コミュニケーションズのリスキリング事例

3社の事業や育成規模は異なります。まずは、それぞれが解決しようとした課題に注目してください。

  • ダイキン工業:自社事業に必要なデジタル人材を社内で育てる
  • 日立製作所:事業戦略と社員の学びを結び付ける
  • 西川コミュニケーションズ:新規事業に必要な3DCGの技術を身に付ける

ダイキン工業|自社の事業を理解したデジタル人材を育成

ダイキン工業は、データ活用やソフトウェア技術の重要性が高まる一方、社内に情報技術の専門人材が不足していました。そこで2017年に社内の育成制度「ダイキン情報技術大学」を設け、空調などの事業を理解したデジタル人材の育成に取り組みました。

同社の紹介記事では、体系的な学習に加え、卒業生が実際の開発に関わる様子も紹介されています。学ぶ分野を「AI全般」と広げるのではなく、自社の製品や業務で必要となる技術に結び付けている点が参考になります。

中小企業なら社内大学をつくる必要はありません。たとえば受発注業務の改善が目的なら、担当者がデータの整理方法を学び、実際の注文データを使って改善案を作る。学習の対象と、試す仕事をセットで決めることから始められます。

日立製作所|事業戦略に合わせて学びの機会を設計

日立製作所は、成長事業に向けた人材育成の一環としてリスキリングに取り組んでいます。同社は2024年の発表で、事業戦略に連動した多角的な施策が評価され「日経リスキリングアワード2024」の企業・団体総合部門で最優秀賞を受賞したと公表しています。

ここから学べるのは、研修メニューを先に増やすのではなく、会社がこれから取り組む事業と、そこで不足する能力を先に整理することです。事業の方向と関係の薄い講座を大量に用意しても、受講後に知識を使う場面がなければ成果を判断しにくくなります。

小規模な会社でも「来期は既存顧客への提案を強化する。そのために営業担当が顧客データを読めるようにする」といった形なら、育成の目的を具体的にできます。

西川コミュニケーションズ|新規事業に合わせて3DCGを学ぶ

印刷業を祖業とする西川コミュニケーションズは、3DCGを使った事業に取り組むなかで、社内の希望者を募り、長期的なリスキリングを実施しました。

厚生労働省が公開する事例では、当初、社内に3DCGの知識や技術を持つ人がほとんどいなかったことも紹介されています。

この事例で注目したいのは、既存の事業から離れた研修を一律に課したわけではなく、新しい仕事で必要になる技術を見据えて学ぶ機会を設けた点です。現在の業務に詳しい社員が新しい技術を身に付ければ、従来の顧客理解を生かした提案にもつなげられます。

中小企業でも、新しいサービスに挑む際は、最初から全社員を対象にせず、関わる予定の社員数人で試し、仕事の進み方を見ながら対象を広げる方法が考えられます。

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3社の事例に共通するリスキリングの進め方

3社の取り組みをそのまま自社に移すことはできません。ただし、事業で必要な力を決め、学ぶ人を選び、学習後に使う仕事を用意するという順序は共通の参考になります。

研修の前に「変えたい仕事」を決める

「DX人材を育てる」だけでは、必要な知識も対象者も決まりません。

「営業報告を手入力から集計に変える」「問い合わせへの回答を早くする」など、対象の業務を一つ挙げてみてください。その仕事に必要な知識を洗い出すと、研修内容を選びやすくなります。

学ぶ時間と実践する機会を確保する

受講を本人の空き時間に任せると、繁忙期に止まりがちです。

業務の中で学習時間を確保し、研修後に実際の案件やデータを使って試す場を用意します。上司は学習の進捗だけでなく「どこで使えそうか」「何が使いにくかったか」を確認すると、次の改善につながります。

関連記事:リスキリングとアップスキリングの違いとは?意味・具体例・企業事例から成功のポイント

中小企業がリスキリングを始める5つのステップ

リスキリングを始める手順を業務、スキル、学習、実践、検証の5段階で示した図

1.優先する業務を一つ決める

新規事業、顧客対応の改善、作業時間の短縮など、事業への影響が大きく、社員が取り組める業務を選びます。一度に多くの部署へ広げる必要はありません。

2.必要なスキルと現状との差を確かめる

選んだ業務に必要な作業を具体的に書き出し、担当者が今できることと、学ぶ必要があることを分けます。資格の有無だけで判断せず、普段の業務経験や本人の希望も確認しましょう。

関連記事:スキルギャップとは?AIで可視化する方法と中小企業でも実践できる解消法

3.学習方法と担当業務を一緒に決める

社内の詳しい社員から学ぶ、外部の短期研修を受ける、オンライン教材を使うなど、内容に合う方法を選びます。同時に、学んだ後に任せる小さな仕事を決めておきます。たとえば集計方法を学んだら、翌月の営業会議に使う表を作る、といった具合です。

4.仕事で試し、上司と振り返る

最初から完成度を求めず、試した結果を確認します。できたこと、つまずいたこと、業務の手順を変える必要があることを本人と上司で話し合い、次の課題を決めます。

5.受講数だけでなく、仕事の変化を見る

研修の修了人数や資格取得数は学習状況を示す指標です。それとは別に、対象業務の所要時間、手戻りの件数、提案の実施件数などを、開始前と後で比べます。売上のように他の要因にも左右される数字は、研修だけの成果として扱わないことが大切です。

事例を自社に置き換えるときの具体例

大企業の事例を見ると、予算や専任担当者の数に目が行きます。しかし、現場の仕事に落とし込むと、小規模な会社でも試せる部分があります。次の例は実在企業の実績ではなく、進め方を考えるための例です。

営業部門|顧客データを提案に使う

既存顧客への提案が担当者の経験に偏っているなら、まずは顧客ごとの購入履歴や問い合わせ内容を整理します。

営業担当者が表計算ソフトの集計やデータの読み方を学び、次の商談で使う提案資料を一つ作ってみます。学習後に確認するのは講座の修了率だけではありません。

「顧客データを使った提案が何件あったか」「提案準備にかかる時間は変わったか」を見ます。数字がよくならなければ、担当者の知識だけでなく、元データの入力ルールや資料の作り方に問題がないかも確かめます。

製造・現場部門|記録を改善に使う

不良や設備停止の報告が紙や口頭に分かれている場合は、記録の項目をそろえるところから始められます。現場を知る社員が簡単な入力フォームや集計方法を学び、一定期間の記録をもとに発生しやすい工程や時間帯を確かめます。

データ分析の高度な資格を取ることが最初の目標ではありません。担当者が記録を読めるようになり、現場で見直すべき作業を一つ見つけられれば、次に学ぶべきことも具体的になります。

バックオフィス|定型業務の手順を見直す

毎月の請求書作成や勤怠確認に時間がかかる場合は、作業手順を洗い出してから、表計算やクラウドツールの使い方を学びます。入力、確認、承認のどこで手戻りが起きているかを見れば、ツールの研修だけでは解決しない点も見えてきます。

変更前後の作業時間だけでなく、確認漏れや差し戻しの件数も比べましょう。時間が短くなってもミスが増えていれば、運用方法を修正する必要があります。

リスキリングを途中で止めないための設計

学習時間を個人任せにしない

通常業務を減らさずに「新しいスキルを身に付けてほしい」と伝えても、学ぶ時間を確保するのは難しいものです。対象者を決める段階で、週にどれくらい時間を使えるか、繁忙期はいつか、担当業務を誰が支えるかを上司と確認します。

短い動画や教材で少しずつ学ぶ方法もありますが、学習時間が短ければ必ず続くわけではありません。受講日を予定に入れ、学んだ内容を仕事で使う日まで決めておくほうが、日々の業務に埋もれにくくなります。

対象者に「何が変わるか」を説明する

社員にとっては、新しい仕事を覚える負担や、今までの経験が不要になるのではという不安もあります。会社側が必要性だけを説明するのではなく、どの業務で学んだことを使い、本人にどんな役割を期待するのかまで伝えましょう。

本人の希望を聞き、試す業務を調整することも大切です。希望者を募る方法が合う場合もあれば、業務上必要な担当者に、支援体制を付けて学んでもらう場合もあります。方法を決める前に、対象となる仕事の性質を見てください。

管理職にも役割を持ってもらう

研修の申し込みを人事担当者だけで進めると、受講後に現場で使う機会がないまま終わることがあります。管理職には、事前に任せる業務を決め、学習中の仕事量を調整し、試した結果を一緒に振り返る役割があります。

「研修はどうだった?」と尋ねるだけでは実務への接続は見えません。「先週の仕事で使えたか」「どの操作で困ったか」「来月は何を任せられそうか」と具体的に確認すると、次の課題を決めやすくなります。

関連記事:AIでOJTを効率化|新人教育・人材育成に活用する方法と導入ポイント

リスキリングの成果はどう測る?

成果を測るときは「学んだか」「使ったか」「仕事が変わったか」を分けて考えます。たとえば受講率が高くても、職場で使う機会がなければ、業務改善につながったとは判断できません。

  • 学習の進捗:受講完了、演習の実施、必要な操作の習得
  • 実務での活用:新しい方法を使った案件数、現場での実践回数
  • 業務の変化:作業時間、ミスや手戻り、顧客対応の質

最初に測定方法を決め、開始前の状態を記録しておきます。前後の数字がなければ、改善したかどうかを話し合いにくくなります。

一方、売上や利益は景気、商品、担当顧客などにも左右されます。リスキリングがどの程度影響したかを断定せず、まずは対象業務に近い変化を確認しましょう。

研修を受けても成果が出ない場合は、教材の質だけが原因とは限りません。使えるデータがない、ツールの利用権限がない、上司が従来の手順を求めている、といった障害を取り除く必要があります。

リスキリングに助成金は使える?

研修費用を検討する際は、厚生労働省の人材開発支援助成金を確認できます。

対象となる訓練や企業の要件、手続きはコースごとに異なります。研修を決める前に、自社と予定する訓練が該当するか、最新の案内を確認してください。

助成金の利用を前提に研修を選ぶよりも、まず事業に必要な内容を決め、その費用に使える制度があるか調べる順番がよいでしょう。申請時期や必要書類も含め、管轄の労働局などに確認しておくと安心です。

リスキリングについてよくある疑問

何人から始めればよいですか?

対象人数を先に決める必要はありません。試す仕事と、その仕事を担当する人から決めます。たとえば営業報告の集計を見直すなら、入力を担当する社員、集計する社員、結果を見る管理職が関わることになります。初回はこの範囲で試し、手順が固まってからほかの部署に広げる方法があります。

リスキリングと通常の社員研修はどう違いますか?

リスキリングは、事業や仕事の変化に対応するため、これまでとは異なる業務で必要なスキルを身に付ける取り組みとして使われる言葉です。

一方、社員研修には既存業務の能力向上や新入社員向けの基礎教育など、幅広い目的が含まれます。呼び方を区別するより、「学んだ後にどんな仕事ができるようになるか」をはっきりさせることが重要です。

社員が学習に消極的な場合はどうしますか?

まず、本人に理由を聞きます。内容に関心がない場合と、今の仕事で手いっぱいの場合では対応が異なります。学んだ後の役割が見えないなら、担当する業務を示して説明します。

時間が取れないなら、仕事量や学習期間を見直す必要があります。受講率を上げるためだけに評価や表彰と結び付けても、現場で使われるとは限りません。

外部研修と社内での学習、どちらを選ぶべきですか?

社内に知識がなく、基本的な考え方から学ぶ必要があるなら外部研修が役立ちます。一方、業務固有の手順や顧客対応は、社内の経験者から学ぶほうが具体的な場合があります。

外部で基礎を学び、社内の実務で試す組み合わせも考えられます。比較する際は料金だけでなく、演習内容、受講後のフォロー、業務に使えるかを確認しましょう。

研修の効果はいつ判断すればよいですか?

受講直後には理解度を確認できますが、業務への効果は実際に使う時間が必要です。最初の案件で使えたかを確認し、その後も一定期間の作業時間や手戻りを追って判断します。

最初から長期の売上目標だけを置くと、途中で何を直せばよいか分からなくなります。

まとめ|リスキリングの成功事例を自社の人材育成に生かす

ダイキン工業、日立製作所、西川コミュニケーションズの事例は、育成するスキルも取り組みの規模も異なります。

共通するのは、事業で必要なスキルを考え、社員が学んだことを仕事に生かそうとしている点です。自社でリスキリングを進める際は、まず対象となる業務と、そこで必要なスキルを整理するとよいでしょう。

そのうえで学習方法と実践の機会を決め、受講状況だけでなく、仕事にどのような変化があったかを確認します。企業事例を参考にしながら、自社の課題や人員に合う進め方を検討することが大切です。

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ABOUT US
塔筋大樹株式会社Tsumugu代表取締役
同志社大学卒業後、地元金融機関へ新卒入社。その後、株式会社リクルートジョブズ(現リクルート)へ中途入社。求人広告営業として全国トップクラスの営業成績を収め、営業リーダーや代理店支援を担当。その後、Indeed特別認定パートナーの株式会社アド・イーグル執行役員として営業・人事・企画領域を管掌。現在は株式会社Tsumugu代表取締役として、中小企業の採用・育成・評価・定着に関する課題に対し、データとAIを活用した人事支援を行っている。