新人営業を早く戦力化するために、商品知識を教える。商談のロールプレイングを行う。先輩営業に同行させる。
どれも必要な育成です。
ただ、私が新人営業の育成に関わった経験から感じているのは、「何を教えるか」から考え始めると、教えることばかりが増えてしまうということです。
私がリクルートに在籍していた頃、中途入社した営業6名の育成プロジェクトに関わりました。
半年間の育成を行った結果、新人6名の新規顧客獲得社数は、前年の新人と比較して2.6倍になりました。
特別な営業トークを教え込んだわけでも、ひたすら電話件数を増やしたわけでもありません。
大きく変えたのは、育成を考える順番でした。
商品知識からではなく、「お客様は営業に何を求めているのか」から逆算して、必要な行動や知識を整理したのです。
この記事では、当時どのように新人営業の育成を設計したのかを振り返りながら、自社でも応用できる形に整理します。
今回紹介する育成プロジェクトの結果
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 中途入社した新人営業6名 |
| 育成期間 | 入社後の半年間 |
| 主な指標 | 新人営業による新規顧客獲得社数 |
| 比較 | 前年の新人営業の同期間実績 |
| 結果 | 前年新人比2.6倍 |
もちろん、人数や市場環境など条件が完全に同一の実験ではありません。そのため「この育成方法を実施すれば必ず2.6倍になる」という話ではありません。
それでも、成果を出している営業の行動を分析し、育成内容を組み直した結果として大きな変化が生まれたことは、その後の私の人材育成の考え方に大きく影響しました。
6名の新人営業の新規獲得社数が前年新人比2.6倍になった理由
当時、私たちが担当していたのはタウンワークの営業でした。
営業組織には約200名が所属し、それぞれ担当エリアを持っています。組織として追いかけていた重要な指標の一つが、新しく取引する企業数でした。
そこで私と同期に与えられたのが、中途入社者6名が、入社後に成果を出せる状態までの育成を設計することでした。
新人営業を育てようとすると、教えたいことはいくらでもあります。
商品知識、電話のかけ方、商談の進め方、ヒアリング、提案、クロージング、行動量、顧客管理。
すべて必要に見えます。
しかし、それらを順番に教えるだけで、本当に新規顧客を獲得できる営業になるのか。
そこで私たちは、研修項目を増やす前に、実際に成果を出している営業が何をしているのかを見ることから始めました。
売れている営業は、タウンワークを売っていなかった
成果を出している営業を見ていくと、一つ大きな共通点がありました。
彼らは、タウンワークへの掲載自体をゴールにしていませんでした。
お客様が本当に欲しいのは、求人広告ではありません。
必要な人材を採用して、人手不足を解消したい。新しい店舗を開きたい。生産量を増やしたい。現場を安定させたい。
そのための手段として求人広告を使っています。
つまり営業が提供する価値を、「タウンワークを掲載してもらうこと」と捉えるのか、「お客様の採用成功を支援すること」と捉えるのかで、商談で取るべき行動が大きく変わります。
売れている営業は、後者から考えていました。
お客様は知らないが、営業は知っている情報に価値があった
新規営業がお客様以上に、その会社について詳しくなるのは簡単ではありません。
会社の歴史や現場の事情、社員の特徴、これまでの採用経緯などは、当然お客様のほうがよく知っています。
一方で、営業だからこそ詳しくなれることがあります。
たとえば、その地域ではどこから通勤している人が多いのか。採用したい人材がどこに住んでいるのか。仕事選びで何を重視しているのか。競合企業はどのような条件で募集しているのか。同じ職種ではどのような求人が反応を得ているのか。
こうした採用市場や求職者に関する情報です。
私たちは営業とお客様が持つ情報を整理する中で、特に価値が高いのは、「お客様は知らないが、営業は知っている情報」だと考えました。
お客様がすでに知っていることを上手に説明するだけでは、「この営業に任せたい」とはなりません。
自社だけでは把握しづらい市場情報を持ち込み、それが採用にどのような影響を与えるのかまで伝える。
そこまでできれば、商品説明ではなく、顧客の意思決定を支援する営業に変わります。
採用成功から逆算して育成内容を組み直した
ここまで整理できると、新人営業へ教えるべき内容も変わりました。
商品について隅から隅まで覚えてもらうことを最初のゴールにはしません。
お客様の採用を成功させるためには、商談前に何を調べる必要があるのか。商談では何を確認する必要があるのか。求職者や市場の情報をどう読み取るのか。それをどのように提案へつなげるのか。掲載後の結果をどう振り返るのか。
顧客へ提供したい価値から逆算して、必要な知識と行動に優先順位をつけていきました。
その結果、半年間で新人6名が獲得した新規顧客数は、前年の新人と比較して2.6倍になりました。
もちろん、これは私一人の成果ではありません。一緒に育成を担当した同期や、現場で新人を支えてくれた社員、成果を出していた営業の知識や経験があったからこそ実現できた結果です。
ただ、成果を出している営業のやり方を「センスがあるから」で終わらせず、共通点を見つけて育成へ落とし込んだことで、新人の成果にもつなげられたことは大きな学びになりました。
新人営業の育成で最初に決めるのは何を教えるかではない
この経験から、現在も人材育成を考えるときに大切にしている順番があります。
顧客価値 → 成果 → 行動 → 知識・スキル → 育成方法
です。
研修やOJTを考えるときには、どうしても後ろから考えたくなります。
「商品研修をしよう」「ロープレを増やそう」「営業同行をしよう」と、手段から話が始まりやすいからです。
しかし、その前に考えることがあります。
まず、この仕事は誰にどんな価値を届ける仕事なのかを決める
営業であれば、まず顧客が営業に何を期待しているのかを明確にします。
今回の例なら、求人広告を販売することではなく、採用成功へ近づけることでした。
ここが定まらなければ、何が良い営業なのかも決まりません。
反対に、提供する価値が明確になれば、その価値を生むために必要な成果を考えられます。
次に、一人前の状態を言葉にする
「一人前の営業」を売上額だけで定義すると、育成は難しくなります。
売上は最終的な結果であり、新人が途中でどこにつまずいているのかが分からないからです。
たとえば今回であれば、顧客の採用課題を確認できる、市場情報を事前に調べられる、求職者の視点から求人を考えられる、顧客へ改善案を伝えられるといった状態まで分解できます。
リクルートマネジメントソリューションズでも、若手営業育成では「目指す一人前像を明らかにする」「任せる仕事を設計する」「育成計画を具体化する」といった考え方が示されています。
一人前の定義が具体的になれば、今できていることと、まだできていないことを判断しやすくなります。
新人営業を早期戦力化する5つのステップ
ここまでの考え方を、自社で新人営業を育成するときの手順にすると5つに整理できます。
STEP1|顧客が求める価値を定義する
最初に考えるのは、「自社の営業は何を売っているのか」です。
商品名を答えるのではありません。
顧客は、なぜその商品やサービスにお金を払うのか。その先で何を実現したいのかを考えます。
採用サービスなら採用成功、システムなら業務効率化や売上向上など、顧客が得たい結果まで掘り下げます。
この定義が育成全体の起点になります。
STEP2|一人前の営業が出すべき成果を決める
次に、その顧客価値を生み出せる営業とはどのような状態なのかを決めます。
ここでは売上や受注件数といった結果だけでなく、その手前の状態も具体化します。
「顧客の課題を聞ける」だけではまだ曖昧です。
何を確認できればよいのか、どのような情報を持ち帰ればよいのか、どこまで自分で提案を組み立てられればよいのかまで言語化すると、育成担当者による判断のばらつきも抑えやすくなります。
STEP3|成果を出している営業が顧客との情報差をどうつくっているかを見る
ここは、単純にトップ営業へ「売れるコツは何ですか?」と聞くだけでは不十分です。
成果を出している本人にとって、日常的に行っていることほど当たり前になっていて、うまく言語化できないことがあるからです。
今回の育成でも重要だったのは、成果を出している営業が、顧客の持っていないどのような情報を持ち、それをどのように意思決定へつなげていたのかを見ることでした。
具体的には、商談前に何を調べているのか。どの情報源を確認しているのか。その中から何を顧客へ伝えているのか。顧客の反応を受けて、どのように提案を変えているのか。
ここまで行動に分解します。
たとえば求人広告営業であれば、「採用市場に詳しい」という抽象的な能力では育成できません。
「担当エリアの競合求人を確認している」「求職者が通勤可能な範囲を把握している」「競合との条件差を整理して商談へ持ち込んでいる」といった、他の人も実践できる行動まで落とす必要があります。
トップ営業の話し方を真似するのではなく、顧客に提供している情報と判断のプロセスを分解する。
これが、営業成果を個人のセンスから組織の育成資産へ変えるポイントです。
STEP4|必要な知識・スキルに優先順位をつける
ここで初めて、何を教えるかを決めます。
商品知識、業界知識、ヒアリング、提案、交渉、クロージングなど、営業に必要な知識やスキルは多岐にわたります。
しかし、すべてを一度に身につけることはできません。
最初の商談までに必要なもの、初受注までに必要なもの、一人で担当を持つまでに必要なもの、と段階を分けます。
新人側にとっても、「なぜこれを学ぶのか」が顧客価値や成果とつながっている方が、学習の意味を理解しやすくなります。
STEP5|実践・フィードバック・再実践を回す
知識を理解しただけでは、営業はできるようになりません。
研修で知る。ロープレで試す。同行やOJTで実践する。その結果を振り返り、次に直すポイントを決める。
この循環が必要です。
一度に多くの改善点を伝えるのではなく、次の商談で意識することを一つか二つに絞る方が、新人本人も実践しやすくなります。
新人営業の育成計画はどう組む?3〜6カ月のスケジュール例
5つのステップを実際の育成へ落とす際には、期間だけでなく、「その時点で何ができる状態を目指すのか」を決めることが重要です。
たとえば3〜6カ月で一定の自走を目指す営業組織であれば、次のような設計が考えられます。
| 時期 | 主な育成内容 | 目指す状態 |
|---|---|---|
| 入社〜1カ月 | 顧客価値、商品基礎、顧客・市場理解、商談の基本、ロープレ | 自社の商品説明だけでなく、顧客が何を実現したいのかを理解して話せる |
| 2〜3カ月 | 営業同行、商談の一部分を担当、事前準備、商談後の振り返り | 顧客の課題を確認し、必要な情報を自分で調べて商談へ持ち込める |
| 3〜4カ月 | 単独商談を増やす、提案作成、案件レビュー | 一連の商談を自分で進め、上司と相談しながら提案を組み立てられる |
| 5〜6カ月 | 単独での案件推進、失注・成功事例の振り返り | 自分で仮説を立て、商談・提案・振り返りを回せる |
これはあくまで一例です。
商材の単価や商談期間、顧客の複雑さによって、適切な期間は変わります。
重要なのは「3カ月経ったから独り立ち」とするのではなく、どの状態まで到達したら次の段階へ進むのかを決めることです。
OJT・ロープレ・同行・研修・1on1は目的によって使い分ける
新人営業の育成では、特定の手法だけに頼らないことも重要です。
研修には知識や共通の型を学びやすいという強みがあります。一方、ロープレは知識を使える状態へ近づける練習に向いています。営業同行やOJTでは実際の顧客を前にした判断や対応を経験できます。1on1は、その経験を振り返り、次の課題を整理する場として活用できます。
営業初心者向けの研修でも、顧客の期待を理解したうえで、ロールプレイなどを通じて実践につなげる設計が採られています。
また、厚生労働省が公表した令和7年度 能力開発基本調査では、正社員に計画的なOJTを実施した事業所は60.6%でした。一方で、能力開発や人材育成に何らかの問題があるとする事業所は80.1%に上ります。
つまり、OJTを実施していることと、育成がうまくいっていることは同じではありません。
何をできるようにするためのOJTなのかを設計することが重要です。
関連記事:AIでOJTを効率化|新人教育・人材育成に活用する方法と導入ポイント
新人営業が育たない会社で見直したい3つのポイント
研修やOJTを実施しているのに新人営業が育たない場合、本人の努力不足と判断する前に、育成する側の設計も確認する必要があります。
一人前の営業が定義されていない
「早く一人前になってほしい」と言いながら、何ができれば一人前なのかが人によって違うケースがあります。
ある上司は行動量を重視し、別の上司は売上を重視する。さらに別の先輩は商談の丁寧さを求める。
これでは新人は何を目指せばよいのか分かりません。
育成担当者同士で、期待する状態を揃える必要があります。
教えやすいものから教えている
商品知識や社内システムの操作、社内ルールは教えやすいため、研修へ組み込みやすい内容です。
もちろん必要ですが、それだけでは「顧客にどう価値を提供するか」までは理解できません。
研修項目を考える前に、その知識をどの場面で何のために使うのかまでつなげる必要があります。
OJTが現場任せになっている
「配属後は先輩について覚えてもらう」という状態では、誰につくかによって育成内容が大きく変わります。
優秀な営業が、必ずしも育成も得意とは限りません。
最低限、目指す状態、教える順番、振り返るポイントは組織として共通化しておくことが重要です。
関連記事:1on1のやり方|続けても部下が育たない3つの原因と改善方法
新人営業の成長は売上だけで判断しない
新人営業の育成で難しいのは、成果が出るまでに時間差があることです。
たとえば、商談準備の質が上がったとしても、すぐに受注へつながるとは限りません。
そのため、新人の成長を見るときには結果だけでなく、その手前の変化を見る必要があります。
見るポイントは大きく、結果・行動・習熟度の3つです。
結果では受注額や新規獲得社数を見る。行動では商談数や提案件数だけでなく、必要な準備や振り返りができているかを見る。習熟度では、上司のサポートが必要な状態から、どこまで一人で判断・実践できるようになったのかを見る。
この3つを合わせることで、「まだ売れていないから成長していない」という判断を避けやすくなります。
また、数字だけでは見えないつまずきを確認するために、定期的な1on1や振り返りも有効です。
ただし、1on1で何でも話そうとする必要はありません。
「今どこにつまずいているのか」「以前よりできるようになったことは何か」「次に何を一つ試すのか」を確認するだけでも、育成を次の行動につなげやすくなります。
採用ミスマッチと判断する前に、育成設計を確認する
新人営業が思うように成果を出せないと、「そもそも営業に向いていなかったのではないか」「採用を間違えたのではないか」という話になることがあります。
もちろん、本当に適性や価値観が合っていないケースもあります。
すべてを育成で解決できるわけではありません。
ただ、本人の問題だと結論づける前に、会社側にも確認できることがあります。
- その仕事で求める成果を具体的に説明できているか
- 顧客が求める価値と、社員へ教えている内容がつながっているか
- 成果を出している人の行動が暗黙知のままになっていないか
- 新人が身につける順番を設計できているか
- 実践した後に振り返り、次の行動を決める機会があるか
これらが整っていない状態では、採用の問題と育成の問題を切り分けることができません。
できる人を採用することは大切です。
同時に、採用した人が成果を出せる構造をつくることも会社側の役割だと私は考えています。
新人営業の育成についてよくある質問
新人営業には最初に何を教えればいいですか?
商品知識をすべて覚えるところから始めるのではなく、まず「誰に、どのような価値を提供する仕事なのか」を理解してもらうことをおすすめします。
そのうえで、最初の顧客対応に必要な商品知識や基本動作へ落としていく方が、なぜその知識を学ぶ必要があるのかを理解しやすくなります。
新人営業の育成計画はどう作ればいいですか?
最初に「何カ月で独り立ちさせるか」を決めるだけではなく、それぞれの段階で何ができるようになっていればよいのかを設定します。
たとえば、1カ月目は顧客価値と基本知識を理解する、2〜3カ月目はサポートを受けながら顧客対応できる、3〜6カ月目は自分で仮説を立てて商談から振り返りまで進められる、といった形です。
期間と到達状態をセットで設計することがポイントです。
新人営業は何カ月で一人前になるべきですか?
一律に「3カ月」「半年」と決めるよりも、自社における一人前の状態を先に定義した方がよいでしょう。
営業商材の単価や商談期間、顧客の複雑さによって、一人前になるまでの期間は大きく変わります。
「○カ月で一人前」と期間だけを決めるのではなく、その時点で何ができていればよいのかを段階ごとに設定します。
OJT担当者は何を見ればよいですか?
最終的な売上だけでなく、「期待する行動ができているか」「どこでつまずいているか」「前回より一人でできることが増えているか」を確認します。
フィードバックも一度に多く伝えず、次の実践で変えるポイントを絞ることが重要です。
営業に向いていない新人はどう判断すればよいですか?
成果が出ていないことだけで判断しない方がよいでしょう。
必要な知識やスキルを学ぶ機会が提供されていたか、期待する状態が共有されていたか、適切なフィードバックがあったかを確認します。
それらを整えたうえでも継続的に大きなミスマッチが生じる場合は、本人の適性や希望するキャリア、配置も含めて検討する必要があります。
まとめ|採用した人が成果を出せる構造までつくる
新人営業の育成では、商品知識、OJT、ロープレ、営業同行など、さまざまな方法があります。
ただ、それらはあくまで育成の手段です。
その前に、顧客は何を求めているのか。その価値を届けるために、営業は何ができる必要があるのか。を定義する必要があります。
私が関わった6名の新人営業育成でも、タウンワークの商品知識から考えるのではなく、「お客様の採用成功」から逆算したことで、教える内容や商談で取るべき行動が整理されました。
その結果として、新規獲得社数は前年新人比2.6倍になりました。
育成は、できる人のやり方をそのまま真似させることではありません。
成果を生み出している行動を見つけ、新人でも一つずつ身につけられる形に変えることです。
株式会社Tsumuguでは、新入社員研修や営業研修、OJT担当者研修など、企業ごとの課題や育成したい人材像に合わせた研修・人材育成を支援しています。
「営業教育が現場任せになっている」「トップ営業のノウハウを仕組みにしたい」「新人営業の早期戦力化を進めたい」といった課題があれば、育成設計の段階からご相談いただけます。




















