「うちで活躍している○○さんのような人を採りたい」。社長や現場からそう言われても、その人の何を採用基準にすればよいのか、迷うことはないでしょうか。
ハイパフォーマー分析とは、高い成果を出している社員の行動や考え方を調べ、成果につながる特徴を見つける取り組みです。ただし、活躍社員の特徴を、すべて採用条件にする必要はありません。 採用時に求める経験やスキルと、入社後に教える知識やスキルを分けることが大切です。
この記事では、適性検査の結果と実際の仕事ぶりを比べる方法から、採用条件の決め方、面接と入社後の確かめ方まで説明します。育成で補える知識まで必須にしたり、会社の支援不足を採用の問題と捉えたりしないために、どの段階で何を判断するかを考えていきましょう。
ハイパフォーマー分析で何が分かるのか
ハイパフォーマー分析で調べるのは、活躍している社員が、実際の仕事で何をしているかです。「コミュニケーション力が高い」といった印象を、具体的な行動に置き換えていきます。
たとえば、注文の聞き漏らしが少ない営業なら、顧客の依頼が曖昧なときに何を質問しているかを調べます。用途や希望納期を尋ね、自分で判断できない仕様はベテランに相談してから返答していたとしましょう。この場合は、本人の質問の仕方に加え、ベテランが仕様を判断していたことも、正確な注文対応につながっています。
こうした事実が分かると、採用ではどんな聞き取りのスキルを求めるか、入社後は何を教え、誰が相談に乗るかを具体的に話し合えます。分析の対象は営業に限らず、顧客の継続利用を増やす担当者や、ミスや手戻りを減らす事務職など、役割に応じた成果から選びます。
分析対象の選び方|売上上位の社員だけでよいのか
売上順位の前に、次に採る人の役割を決める
会社で一番売上が高い社員を、そのまま分析対象に選ぶと、次の採用に必要な情報が集まらないことがあります。たとえば、その社員が長年の取引先への追加提案で成果を出していても、今回の募集が新規顧客の開拓なら、最初の接点をつくる仕事については別の社員を見る必要があります。
採用を始める前に、経営者や配属先の責任者と、会社がこれから何を実現したいかを話し合います。そのうえで、次に採る人の役割を「誰に、何をして、どの成果を出してほしいか」の一文にします。たとえば、「既存顧客の注文を受け、仕様と納期の認識違いによる手戻りを減らす」という役割です。この場合は、受注額だけでなく、注文の正確さや顧客との調整にも目を向けます。
同じ業務を担う社員の成果・担当顧客・経験を比べる
役割が決まったら、それに近い仕事で成果を出している社員を選びます。一度の大きな受注で目立った人だけでなく、一定の期間、安定して成果を出している人も見ます。特定の仕事が得意な社員が複数いれば、やり方が似ているか、違う方法で成果を出しているかを比べられます。
ここでは、比較する期間と仕事の範囲をそろえます。営業なら、同じ期間の数字を並べたうえで、新規と既存の担当割合、顧客の規模、扱う商品、経験年数を添えます。売上の差が、そのまま本人の能力の差だと決めないためです。
たとえば、大口顧客を引き継いだ社員と、小さな取引先を一から増やしている社員では、同じ売上額でも仕事の中身が違います。全員を一つの順位に並べるより、今回任せる仕事に近い社員を比べた方が、採用で必要な行動を探せます。
社員が少ない場合は、一人ずつの行動から仮説をつくる
同じ職種が数人しかいない会社では、今回任せる業務を一つ選び、一人ずつの対応を比べます。たとえば営業が5名なら、注文の聞き漏らしが少ない2名だけでなく、残る3名についても、どのように注文を受けているかを調べます。
少人数で見つかった傾向は、まず採用基準の仮説として扱い、入社後の仕事ぶりを見ながら確かめます。この5名の比較だけで、検査の得点による合否基準を固定しないことです。平均点に差があっても、一人の極端な得点に引っ張られていないか、個々の結果も読みます。
なお、新しい職種で社内に経験者がいない場合は、社員同士の比較ができません。この場合は、担当する業務を洗い出し、必要な経験やスキルから採用基準をつくります。
適性検査を使ったハイパフォーマー分析の進め方
分析する社員が決まったら、適性検査の結果を実際の仕事ぶりと照らし合わせます。得点の違いだけで結論を出さず、その背景にある行動を確かめます。
社員ごとに成果・行動・検査結果を整理する
適性検査には、考える力や知識を測るもの、性格や仕事への向き合い方を尋ねるものがあります。分析では、使っている検査が何を測っているかを説明資料で確かめてから、社員同士を比べます。性格の検査なら、各項目の高低を仕事での行動と照らし合わせます。
比較に使う材料は、次の表のとおりです。表計算ソフトなら、同じ社員の欄に成果の数字と具体的な対応、検査結果を記入すると、関連を追いやすくなります。
| 材料 | 記録すること | 分析で見ること |
|---|---|---|
| 仕事の結果 | 対象期間、受注額、手戻りの件数など | どの仕事で成果が出ているか |
| 実際の行動 | 顧客への質問、返答、社内への相談 | 結果が出るまでに何をしたか |
| 担当業務と周囲の支援 | 担当顧客、経験年数、上司や同僚の関与 | 成果に影響した経験・担当業務・支援は何か |
| 適性検査 | 受検日、検査名、関連する項目 | どの仕事の場面を本人に聞くか |
受検した時期によっても、データの読み方が変わります。日本SHLは、採用時の検査と在籍中の検査を区別し、入社前後で自己認識が変わる場合があると説明しています。採用時の結果が残っていれば、その後の成果と比べて採用基準を見直せます。いま社員に受検してもらう場合は、現在の仕事ぶりとの関係を調べます。日本SHLによる入社前後の検査データの説明
成果の違いと検査結果から仮説を立てる
活躍社員に共通する特徴が見つかっても、ほかの社員にも同じ特徴があれば、それだけでは成果の違いを説明できません。 適性検査を提供するアッテルの公開分析例でも、成果の高い社員の共通点だけでは、ほかの社員との違いを捉えきれないことが示されています。アッテルのハイパフォーマー分析例
たとえば、同じ商品を扱う営業社員について、直近半年の受注対応件数と、仕様や納期の聞き漏らしによる手戻り件数を並べます。担当件数の違いを考慮し、受注対応のうち手戻りが起きた割合を比べます。その横に、同じ性格検査の慎重さに関係する項目の得点を、社員ごとに記入します。
手戻りの割合が低い社員には、この項目の得点が高い傾向が見えたとします。ここから「注文を受ける前に曖昧な点を聞き返しているため、聞き漏らしが少ないのではないか」と仮説を立てます。確かめたいのは、得点の高低と、実際の注文対応がどう結びついているかです。
インタビューと仕事の記録で仮説を確かめる
仮説を確かめるため、手戻りの割合が低い社員と高い社員の双方に、顧客の依頼が曖昧だった案件を一件ずつ挙げてもらい、同じ質問をします。「普段、何を意識していますか」ではなく、次の順で、その案件での対応を聞きます。
- 顧客は、最初にどのような依頼をしたか
- 何が分からず、何を聞き返したか
- 回答する前に、社内の誰へ何を尋ねたか
- そのやり取りで、注文内容や納期がどう変わったか
聞いた内容は、商談記録やメールと照らし合わせます。手戻りの割合が低い社員は用途と希望納期を尋ねてから返答し、高い社員は依頼された内容だけで進めていた、という違いが見つかったなら、「曖昧な点を聞き返す」という行動を採用基準の候補にします。得点が近いのに対応が違う社員がいれば、その人の記録も読み、質問の仕方や相談先の違いを探します。
本人の力と、周囲が担っていた仕事を分ける
先ほどのように、仕様の判断をベテランに任せていたなら、営業本人が担ったのは、不明点に気づき、早めに相談することです。「判断力が高い人」とまとめず、誰が何をしていたかを分けます。
一件の対応を、本人が行ったこと、周囲が行ったこと、使った資料や仕組みに分けて残します。人が変わっても同じ資料や相談先を使えるなら、それも採用後の仕事の進め方に含められます。ここまで分かってから、どこまでを候補者本人に求めるかを決めます。
活躍社員の特徴を、どこまで採用条件にするか
分析で見つかった特徴をすべて求めると、経験を積んだ社員と同じ完成度を、候補者にも求めることになります。しかし、商品知識など、入社後に教えられるものもあるはずです。
そこで、見つかった特徴を「採用時に求める」「入社後に教える」「今回の採用では求めない」の3つに分けます。担当する業務に欠かせないか、自社で育成できるかを基に、採用で優先する経験やスキルを絞ります。
その特徴がなければ、任せる仕事で何に困るか
先ほどの注文を受ける営業で、「顧客の要望を正確につかんでいる」「自社商品の知識が豊富」「初対面でも会話が弾む」という特徴が見つかったとしましょう。
この営業に必要なのは、不明点を相手に尋ね、注文内容を正確につかむスキルです。質問の仕方を教える時間や、先輩が同席する体制を用意できるかも確認します。どちらも難しく、すぐに一人で顧客対応を任せるなら、不明点を自分で確認してきた経験を採用時に求めます。
一方、自社商品の知識は、顧客対応を任せる時期までに学べる教材と指導担当者を用意できれば、入社後の育成に回せます。「初対面でも会話が弾む」ことは、顧客への聞き取りや説明ができる人まで落とす理由にはしません。この例では、会話の華やかさより、注文内容を正確につかむ仕事を優先します。
特徴を採用条件に加える前に、「これが欠けると、担当する仕事のどこで困るのか」と問い直す。具体的な場面が出てこないなら、なぜ必須にするのかを現場と話し直した方がよいです。
育成に回せるかは、教える人と習得までの時間で判断する
活躍社員の仕事の進め方は、採用基準だけでなく、新人に教える内容としても活用できます。私が中途入社者6名を半年間育成したときは、成果を出す営業が、求人広告の掲載そのものではなく「顧客の採用成功」を目指して提案している点に着目しました。その提案で顧客に伝えている情報を洗い出し、新人に教える項目へ組み込みました。
ただし、教える内容が決まっても、それだけで育成に回せるとは判断できません。誰が教え、担当業務を任せる時期までに身につけてもらえるかを考える必要があります。 たとえば商品知識なら、指導担当者を決め、顧客への回答に必要な知識を学ぶ時間を確保できるかを検討します。
先輩が同行して教える時間を取れる会社と、入社直後から一人で顧客を担当してもらう会社では、採用時に求める経験が変わります。必要な時期までに育成が間に合わないなら、経験のある人を採るか、最初に任せる業務を狭めるか、会社側も選ばなければなりません。
決めた採用条件を面接官に共有し、印象で覆さない
面接前に、必須にした条件だけでなく、求めないと決めた条件とその理由も面接官に共有します。面接で「なんとなく明るさが足りない」と感じても、合意した採用条件と関係がなければ、不採用の理由にはしません。
選考中に新たな懸念が出た場合は、担当業務のどこで支障が出るのかを現場と話し合います。面接官ごとの好みで条件を増やさず、共通の基準で判断するためです。
面接での確認方法|「できます」という回答だけで判断しない
過去の行動を確かめる質問を用意する
必須条件を決めても、「不明点を確認できますか」と尋ねるだけでは、候補者は「できます」と答えられます。実際にどんな状況で、何を見て、誰に働きかけたのかを聞く質問に変えます。
先ほど必須にした「不明点を相手に尋ねるスキル」なら、たとえば次の質問です。「相手からの依頼だけでは、何をすればよいか分からなかった仕事を一つ教えてください。何が分からず、どう対応しましたか」。この質問なら、営業経験の有無にかかわらず、依頼を受けて仕事を進めた経験から答えられます。
回答を聞いたら、「なぜ、そこを聞こうと思ったのですか」「相手にはどう尋ねましたか」「あなた自身が判断したのはどこですか」と続けます。成功したかどうかだけでなく、不明点に気づいた理由と、本人が取った行動をたどります。
「普段から気をつけています」としか話せない場合は、「直近ではいつありましたか」と一件に絞ってもらいます。話が抽象的なまま、話し方の印象で条件を満たしたと決めないことが大切です。
面接官の評価基準を、具体的な行動でそろえる
質問と一緒に、どんな行動が確認できれば必須条件を満たすと判断するかを決めます。この営業の例なら、「自分で不明点に気づき、相手に尋ねたか」を共通の評価基準にします。
| 回答から分かること | この条件の評価 | 追加で聞くこと |
|---|---|---|
| 自分で不明点に気づき、相手に尋ねた具体例がある | 求める行動が見える | 何を根拠に聞く項目を選んだか |
| 上司に言われて質問した具体例がある | 自分で気づけるかはまだ分からない | 自分から質問した別の経験はあるか |
| 「確認を大切にしている」という説明だけ | 判断に必要な事実が足りない | 最近の一件で何を聞いたか |
面接の記録には、「納期の前提が曖昧だと気づき、発注者へ使用日を尋ねていたため、不明点を自分で確かめるスキルがあると評価した」と、行動と評価理由をセットで書きます。ほかの面接官と判断の根拠を共有でき、入社後も期待した対応ができているかを振り返れます。
検査結果から予想した仕事ぶりと、面接の回答が違うときは、別の仕事でも同じ行動を取っていたか聞きます。一度だけの対応だったのか、普段からそうしているのかを知るためです。
質問と評価方法を面接全体でそろえる進め方は、構造化面接の質問例・評価基準で扱っています。ここで絞った採用条件を、面接官が使う質問と記録欄へ移していきます。
入社後の行動と成果から、採用基準を見直す
仕事を任せる時期に、期待した行動と成果を振り返る
採用時に決めた業務を任せる時期に、配属先の上司と採用担当者で、本人の行動と成果を振り返ります。たとえば「入社後3か月で一人で注文を受けられる」という目標なら、その時点で面接の評価記録と受注対応の記録を照らし合わせます。結果が出るまで時間がかかる業務なら、成果を確かめる時期も別に決めておきます。
期待した行動ができ、聞き漏らしも減っているなら、その事実を次の分析に加えます。従来の活躍社員とは違う性格傾向の人が成果を出していれば、検査結果から立てた仮説も見直します。成果が出ていない場合は、次の3つを分けて考えます。
成果が出ない理由を、3つに分けて考える
まず、期待した行動を本人が取れていない場合です。自分で不明点に気づけると評価して採ったものの、前職では上司の指示どおりに質問していたと分かったなら、面接で本人の判断を確かめきれていません。次回は「何を質問したか」に加え、「なぜそこを質問しようと思ったか」を具体的に聞きます。
次に、会社が予定していた育成や支援を提供できていない場合です。商品説明を受けていない、相談先が決まっていないのであれば、まず指導の機会や相談先を用意します。採用条件を厳しくするだけでは、次に入社する社員も同じところで困ります。
最後に、重視した行動はできているのに、成果につながっていない場合です。不明点の確認はできても、変更後の納期を関係者へ伝え忘れていたなら、採用時に「必要な情報を周囲に伝えるスキル」を見落としていた可能性があります。連絡の仕組みで防げるか、本人に求めるスキルへ加えるかを検討します。
次回の採用基準に、変更内容とその理由を残す
どの対応や成果を根拠に変更したのか、会社が担う育成・支援も変えるのかまで記録します。採用担当者や面接官が替わっても、必須にした理由や、あえて求めなかった理由を引き継げます。
まとめ
ハイパフォーマー分析で見つかった特徴を、すべて採用条件にする必要はありません。採用時に求める経験やスキルと、入社後に教える知識やスキルを分け、採用基準と育成方針を現場と一緒に決めましょう。




















