「管理職候補が育たない」「後継者が見つからない」「経営者や一部の管理職に業務が集中している」。このような課題を抱える企業は少なくありません。
少子高齢化や人材不足が進む中、企業が持続的に成長するためには、将来を担う人材を計画的に育成する仕組みづくりが欠かせません。その取り組みとして注目されているのがサクセッションプラン(後継者育成計画)です。
サクセッションプランは、単に後継者を決める制度ではなく、経営戦略と連動しながら次世代リーダーを育成するための人材戦略です。導入が進む企業では、事業承継だけでなく、管理職不足の解消や組織力の向上にもつながっています。
本記事では、サクセッションプランの意味や重要性、導入が求められる背景、具体的な進め方、企業の取り組み事例まで、中小企業にも役立つ視点でわかりやすく解説します。
サクセッションプランの重要性
サクセッションプランとは

サクセッションプランとは、将来の経営戦略や事業計画を見据え、重要なポジションを担う人材を計画的に育成する取り組みです。
例えば、「5年後に部長候補を3名、役員候補を2名育成する」といった目標を設定し、それぞれに必要な経験や育成計画を設計することがサクセッションプランにあたります。
以前はCEOや役員など経営層の後継者育成が中心でしたが、現在では部長・課長などの管理職や専門職まで対象が広がっています。企業にとって欠かせないポジションを継続的に担える人材を育てることが目的です。
なぜ注目されているのか
サクセッションプランが注目される理由は、制度面だけでなく、企業を取り巻く環境が大きく変化しているためです。
まず、コーポレートガバナンス・コードでは、経営トップの後継者育成について取締役会が適切に監督することが求められています。上場企業を中心に、後継者育成を経営課題として捉える動きが広がっています。
「後継者は自然に育つものではなく、経営戦略と合わせて計画的に育成するもの」という考え方が一般的になりつつあります。
Tsumuguでは、特に重要な背景として次の2点があると考えています。
① 人口減少による後継者不足
少子高齢化の影響で、管理職や経営層の候補となる人材は今後さらに減少していきます。
これからは、多くの候補者から選ぶ時代ではなく、限られた人材を計画的に育てる時代です。
早い段階から育成を始めることで、管理職への昇格率や定着率を高められるだけでなく、将来の事業承継リスクも軽減できます。

帝国データバンクの調査でも、後継者不在による倒産は年々増加しています。後継者育成を後回しにすることは、企業の存続そのものに影響を与える可能性があります。
② 事業環境の変化が加速している
もう一つの理由は、AIやデジタル技術の進化によって、企業に求められるリーダー像が急速に変化していることです。
例えば現在の部長に求められる能力と、5年後に求められる能力は同じとは限りません。AI活用やデータ分析、変化への対応力など、新しいスキルが必要になる可能性があります。
そのため、「何人必要か」だけではなく、「どのようなリーダーが必要か」まで考えることがサクセッションプランでは重要です。
日本企業の取り組み状況
では、日本企業ではどの程度サクセッションプランが導入されているのでしょうか。

経済産業省などの調査によると、「後継者候補を選定している」と回答した企業は約33%、「後継者育成のロードマップを策定している」企業は約23%にとどまっています。
つまり、多くの企業では後継者育成の必要性を認識しながらも、実際の仕組みづくりまでは進んでいないのが現状です。
私自身も多くの企業をご支援してきましたが、採用計画はあっても、管理職や経営層を計画的に育成する仕組みまで整備されている企業は決して多くありません。
だからこそ、今のうちからサクセッションプランに取り組む企業は、将来の組織力や競争力において大きなアドバンテージを得られる可能性があります。
サクセッションプランを成功させる3つの構成要素
サクセッションプランは、後継者候補を選ぶだけでは機能しません。経営戦略と人材要件を整理し、候補者ごとの育成を継続して進める必要があります。
特に重要なのは、次の3つの要素です。
経営戦略と将来の組織像
最初に整理したいのが、企業として目指す方向性と、将来必要になる組織体制です。
今後どの事業を伸ばすのか、どのような組織をつくるのかが決まっていなければ、育成すべきリーダー像も定まりません。
サクセッションプランは、現在の役職を埋めるためではなく、将来の経営戦略を実現する人材を育てるための計画です。
ポジションごとの人材要件
次に、後継者育成が必要なポジションを特定し、それぞれに求める能力や経験を明確にします。
役割や責任、必要な専門知識、マネジメント能力、意思決定力などを具体的に定めることで、候補者の選定基準が明確になります。
現在の担当者を基準にするのではなく、3年後や5年後の事業環境を踏まえて人材要件を考えることが重要です。
候補者ごとの育成計画
候補者を選定した後は、現在の能力と将来求められる能力の差を整理し、一人ひとりに合った育成計画を立てます。
研修を受けてもらうだけではなく、配置転換や部門横断プロジェクト、経営会議への参加、責任ある仕事の付与など、実務を通じて経験を積ませることが必要です。
また、育成計画を作成して終わりにせず、定期的に進捗を確認し、本人の成長や経営環境の変化に応じて内容を見直します。
経営戦略、人材要件、育成計画の3つを連動させることで、サクセッションプランは実効性のある後継者育成の仕組みになります。
サクセッションプランの進め方
サクセッションプランは、後継者候補を先に選ぶところから始めるものではありません。まず将来の経営戦略を整理し、その実現に必要な組織やポジションを明確にしたうえで、候補者の選定と育成へ進みます。
基本的な流れは、次の4つです。
- 中長期の経営戦略やビジョンを明確にする
- 将来必要となる組織体制と重要ポジションを定める
- ポジションごとの人材要件を整理する
- 候補者を選定し、育成計画を実行する
それぞれの進め方を詳しく見ていきましょう。
中長期の経営戦略やビジョンを明確にする

最初に確認するのは、会社が将来どのような姿を目指すのかです。
人材育成そのものが目的になってしまうと、研修や配置転換を実施しても、経営や事業の成果には結びつきません。人を採用し、育成するのは、企業が目指す未来を実現するためです。
3年後や5年後に、どの事業を伸ばし、どのような組織をつくりたいのかを明確にすることが、サクセッションプランの出発点になります。
売上や事業規模だけでなく、新規事業への進出、デジタル化、海外展開、生産性向上など、将来の事業環境も踏まえて考えましょう。
将来必要となる組織体制と重要ポジションを定める
経営戦略やビジョンが明確になったら、それを実現するために必要な組織体制を検討します。
現在ある役職をそのまま引き継ぐのではなく、将来の事業に必要な役割やポジションを考えることが重要です。
例えば、営業担当者が新規開拓から契約後のフォローまで一人で担っている企業が、営業生産性を高めるために業務を分業するとします。その場合、次のような役割が必要になる可能性があります。
- インサイドセールス:見込み顧客と継続的に接点を持ち、商談機会をつくる
- フィールドセールス:商談や提案を行い、契約獲得を担う
- カスタマーサクセス:契約後の活用支援や追加提案を行い、顧客との関係を深める

組織体制が変われば、必要となる管理職の役割も変わります。従来型の営業部長には営業力や部下の管理能力が重視されていたとしても、分業型の組織では、複数部門の連携やデータをもとにした改善、業務プロセスの設計などが求められるでしょう。
現在の組織図を基準にするのではなく、経営戦略を実現するために将来必要となるポジションを考えることがポイントです。
ポジションごとの人材要件を整理する
必要なポジションが決まったら、その役割を担う人材に求める能力や経験を具体的に整理します。
人材要件を定める際は、次のような観点から考えます。
- 役割:そのポジションが組織内で果たす役割
- 目標:達成すべき業績や組織上の成果
- 責任と権限:任せる意思決定や管理範囲
- 知識と経験:業務遂行に必要な専門知識や実務経験
- 能力:戦略立案、問題解決、マネジメントなどの能力
- 行動特性:求められる考え方や行動、姿勢
具体的な能力の例としては、次のようなものが挙げられます。
- リーダーシップ:メンバーをまとめ、目標達成へ導く力
- 戦略的思考力:経営方針を踏まえて組織の施策を考える力
- コミュニケーション能力:社内外の関係者と交渉・調整する力
- 問題解決能力:複雑な課題を整理し、解決策を導き出す力
- チームビルディング力:メンバーの能力を引き出し、協働を促す力
- 倫理観:公正な判断を行い、コンプライアンスを守る姿勢
ここで注意したいのは、現在そのポジションで活躍している人をそのまま基準にしないことです。事業環境や組織の役割が変われば、将来求められる能力も変化します。
「今の優秀な管理職」ではなく、「将来の戦略を実現できる管理職」を基準に人材要件を設定する必要があります。
候補者を評価する際は、上司の印象だけに頼らず、人事評価や過去の実績、360度評価、適性検査、タレントマネジメントシステムなども活用すると、判断の偏りを抑えやすくなります。
候補者を選定し、育成計画を実行する
人材要件が決まったら、候補者の現在の能力や経験を確認し、求める状態との差を整理します。そのうえで、一人ひとりに合わせた育成計画を立てます。
育成計画では、最終的な到達点だけでなく、途中の目標も設定することが重要です。
例えば、「3年後に部長へ昇格させる」という目標だけでは、育成が順調に進んでいるのか判断できません。
- 半年後までに小規模なプロジェクトを任せる
- 1年後までにチームの目標管理を経験させる
- 2年後までに部門横断の業務改善を主導させる
- 3年後までに事業計画の策定に参加させる
このように段階ごとの目標を設定すると、進捗を確認しやすくなります。

育成方法は、研修だけではありません。配置転換、部門横断プロジェクト、経営会議への参加、メンターによる支援など、実務経験を組み合わせることが大切です。
また、後継者候補に現在の実力より少し難しい仕事を任せる「タフアサインメント」も有効です。ストレッチアサインメントとも呼ばれ、責任ある仕事や新しい役割を任せることで、通常業務だけでは得にくい成長を促します。
例えば、新設するカスタマーサクセス部門の立ち上げ責任者を任せる、部門横断の業務改善プロジェクトを主導させるといった方法が考えられます。
ただし、難しい仕事を任せるだけでは、単なる丸投げになってしまいます。上司や経営層が定期的に状況を確認し、必要な支援やフィードバックを行うことが欠かせません。
候補者の選定、実務経験の付与、定期的な評価と計画の見直しを繰り返すことで、サクセッションプランは実効性のある育成の仕組みになります。
サクセッションプランと企業文化の関係
サクセッションプランを考えるうえで、企業文化は無視できない要素です。
企業文化とは、組織の中で共有されている価値観や判断基準、仕事の進め方などを指します。次のリーダーに求められるのは、業務を引き継ぐことだけではありません。自社が大切にしてきた考え方を理解し、組織の中で体現していく役割もあります。
ただし、現在の企業文化をそのまま残せばよいとは限りません。事業環境や経営戦略が変われば、これまでの価値観や働き方を見直す必要が生じることもあります。
サクセッションプランでは、「何を継承するのか」と「何を変えるのか」を分けて考えることが重要です。
例えば、顧客を大切にする姿勢や誠実な仕事への向き合い方は残しながら、意思決定の遅さや部門間の閉鎖性は改善するといった考え方です。
後継者候補を選定する際も、現在の企業文化に合うかどうかだけで判断するのではなく、将来目指す組織文化をつくれる人材かという視点が欠かせません。
経営戦略の実現に向けて、部門を越えた連携や挑戦を重視するのであれば、その方向性に合った経験を候補者に積ませる必要があります。経営層が求める価値観を言葉にし、評価や育成の仕組みに反映させることで、企業文化とリーダー育成を結びつけられます。
サクセッションプランに取り組んだ中小企業の事例
サクセッションプランというと、大企業や上場企業の取り組みという印象を持たれがちです。しかし、中小企業でも、事業承継や次世代幹部の育成を見据えた取り組みが進められています。
ここでは、中小企業庁の「中小企業・小規模事業者の人材活用事例集」で紹介されている事例から、2社の取り組みを紹介します。
株式会社砂子組の事例
株式会社砂子組は、北海道で建設業を営む企業です。将来の事業承継を見据え、次世代幹部を計画的に育成するための5カ年計画を策定しました。
取り組みの背景
同社では、新卒採用を継続的に行えていた一方、将来の経営や組織運営を担う人材を計画的に育てる必要がありました。
経営が不安定になってから対策を始めるのではなく、安定している段階で将来の人材課題に着手したことが特徴です。
実施した取り組み
- 人材育成の目的と、年度ごとの達成基準を設定する
- 社内研修と外部研修を組み合わせる
- 世代や部署を越えて学び合う機会を設ける
- 研修を通じて社員の能力や人材配置上の課題を把握する
取り組みによる変化
集合研修では、世代の異なる社員同士が意見を交わすことで、仕事に対する価値観の違いを知る機会が生まれました。その結果、世代間のコミュニケーションが活発になったとされています。
また、現場業務を中心に考えていた社員にも、継続的に学ぶことや人材育成の必要性に対する意識が芽生えました。
会社側にとっても、どこにどのような能力を持つ人材がいるのかを把握しやすくなり、配置や育成に関する課題が見え始めています。
この事例から学べるのは、後継者を指名する前に、社員の能力や可能性を把握できる仕組みをつくることの重要性です。
大王電機株式会社の事例
大王電機株式会社は、兵庫県で生産設備や検査装置の開発などを手がける企業です。事業拡大を目指し、経営理念やビジョン、中期経営計画の見直しとあわせて、人材育成と組織体制の整備を進めました。
取り組みの背景
同社は財務的に安定していたものの、現在の体制を続けるだけでは、さらなる事業成長は難しいと判断しました。
そこで、自社の存在意義や将来の方向性を改めて整理し、その実現に必要な人材や組織を考えるところから取り組みを始めています。
実施した取り組み
- 経営理念やビジョン、スローガンを整理し、社内への浸透を進める
- 営業力や技術力、内部管理を強化する組織を新設する
- 中堅社員を対象とした社内研修を強化する
- 社長自らが会社の方向性や経営への考えを伝える
- スキルマップを活用し、承継すべき技術を明確にする
取り組みによる変化
事業横断の部署が中心となってスキルマップを作成したことで、誰がどの技術を持ち、何を引き継ぐ必要があるのかが明確になりました。
また、技術を教えること自体を目標として設定したため、現場任せになりがちだったOJTを、組織的な技術承継へ変えることができています。
外部研修などを通じて次期管理職候補となる人材の層も広がり、中堅社員には「今後の事業を担うのは自分たちである」という意識が生まれました。
この事例のポイントは、経営ビジョン、組織体制、人材育成、技術承継を別々の施策にせず、一つの流れとして進めたことです。
2社に共通しているのは、後継者不足が深刻になってから動いたのではなく、経営が安定している段階で将来の人材課題に着手している点です。
サクセッションプランは、問題が起きてから始めるものではありません。時間をかけて人を育てる取り組みだからこそ、余裕のある段階から準備を進める必要があります。
まとめ
サクセッションプランは、後継者を選ぶためだけの制度ではありません。企業の将来を支える人材を計画的に育成し、組織の成長を継続させるための重要な経営戦略です。
人材不足が深刻化する今後は、「必要になってから育てる」のではなく、「必要になる前から育てる」という考え方が、企業の競争力を左右します。管理職や経営幹部の育成を属人的な取り組みにせず、経営戦略と連動した仕組みとして設計することが重要です。
まずは5年後、10年後の組織を見据え、「どのポジションに、どのような人材が必要なのか」を整理することから始めてみてください。その積み重ねが、将来の事業承継や組織力の強化につながります。
株式会社Tsumuguでは、中小企業向けの人材育成・組織開発・人事制度設計をご支援しています。サクセッションプランの設計や次世代リーダー育成についてお悩みの方は、お気軽にご相談ください。





















