Will・Can・Mustを使った面談で、部下に「やりたい仕事はある?」と聞いても、「特にありません」と返ってくることがありますよね。その先の話が続かず、育成の目標をどう決めればよいか迷う上司もいるのではないでしょうか。
Will・Can・Mustは、やりたいこと、できること、求められることを整理する考え方です。Willがはっきりしないときも、これまでの経験や本人の考えを確かめることで、次に取り組む仕事を一緒に考えられます。
同じ「やりたいことがない」という答えでも、まだ経験が少ない人と、一つの目標を達成して次を探している人では、必要な関わり方が変わります。
この記事では、ポケモンの「最初の草むらに入る前」と「殿堂入りした後」を例に、その違いを整理します。実際に筆者の面談経験も交えながら、本人との目標の考え方と、仕事を任せた後のフィードバックまで説明します。
Will・Can・Mustとは?面談で整理する3つの視点

Will・Can・Mustを面談で使うときは、まず3つの言葉を上司と部下が同じ意味で捉える必要があります。本人がやりたいことと、会社から求められることが混ざっていると、何について話し合っているのかが曖昧になるからです。
Willはやりたいこと、Canはできること、Mustは求められること
Willは本人がやりたいことや実現したいこと、Canは現時点で持っている知識・スキル・経験、Mustは仕事で果たすべき責任や期待される役割を指します。
面談では、それぞれを実際の仕事に結びつけて話します。たとえば、営業担当者であれば、Canは「営業経験がある」で終わらず、顧客へのヒアリング、提案、受注後の対応など、抽象的すぎずかといって具体的すぎないレベルで設定します。
Mustは会社として設定された目標に対して「営業として頑張る」ではなく、担当する顧客や目標、求められる対応を具体的に設定していきます。
Willについては、本人の言葉を聞くことが出発点です。「会社としてこの仕事を任せたい」という上司の期待と、「仕事を通じて〇〇なキャリアを描きたい」という本人の希望は、当然異なります。それぞれを理解しあうことで、本人の希望と会社の仕事の接点を話し合えます。
Willがはっきりしていなくても、育成は進められる
面談でWillを聞くと、すぐに答えられる人もいれば、考えても思い浮かばない人もいます。ほとんどの場合で不明確な時の方が多いのではないでしょうか?ただ明確な希望が出るまで次の仕事を決められないと考えると、上司も部下も話を進めにくくなります。
そんな時は現在のCanと、担当する仕事で求められていることを照らし合わせれば、できることと求めることのGAPはクリアにすることができます。
たとえば、顧客から聞いた内容をまとめることはできても、そこから提案を組み立てる経験が少ないなら、提案を考える過程を上司と一緒に経験することが目先の育成テーマになります。
Willがはっきりしていなくても、今できることと仕事で求められることから、次に経験する仕事は考えられます。 その経験を通じて、本人が面白いと感じることや、続けたいと思うことが見えてくる場合もあります。
ただし、同じ「やりたいことがない」という言葉でも、それまでの経験によって意味が違います。任せ方を考える前に、その違いを見ておきましょう。
「Willがない」を、ポケモンの2つの場面で考える
「何をしたいか分からない」という人に、いつも同じ質問や助言が合うとは限りません。私はこの違いを、ポケモンの「最初の草むらに入る前」と「殿堂入りした後」にたとえて考えています。
これから経験する人と、すでに一つの目標を達成した人では、同じ言葉でも意味合いが全く異なってきます。
| ポケモンの場面 | 仕事での状態 | 上司の関わり方 |
|---|---|---|
| 最初の草むらに入る前 | 仕事を選ぶための経験がまだ少ない | 実際に仕事を経験し、できることや興味を確かめる機会を優先する |
| 殿堂入りした後 | Canはあるが、次の目標が決まっていない | 未経験の取り組みを通じて、新たな意思が芽生えるかを見ていく |
最初の草むらに入る前は、まだ選ぶための経験が少ない
ポケモンを始めたばかりで、まだ最初の草むらに入っていないとします。その時点で「どのポケモンを育てたいか」「どんな遊び方が好きか」と聞かれても、具体的に答えるのは難しいでしょう。実際に出会い、捕まえ、育てるなかで、好きなポケモンや楽しいと感じる場面が分かってきます。
仕事も同じように考えられます。職種の名前や大まかな説明を知っていても、その仕事のどこが難しく、何ができると面白いのかは、経験するまで分からないことがあります。この段階で将来の希望を詳しく聞き続けても、本人には選ぶための経験がまだ少ないのです。
この場合上司が考えないといけないのは、本人が今できることを踏まえて、次に何を経験してもらうかです。仕事を一つ任せる場合も、取り組む目的、本人が担当する範囲、困ったときの相談先を伝えます。上司が説明も支援もせずに任せると、仕事の面白さを知る前に、進め方が分からないまま終わってしまうこともあります。
経験が少なくてWillが出てこない人には、実際に仕事を経験し、できることや興味を確かめる機会をつくることを優先します。
殿堂入りした後は、次の目標が決まっていない
一方、ポケモンで殿堂入りを目指して進めてきた人は、それを達成すると「次に何をしよう」と迷うことがあります。図鑑を完成させたい人もいれば、対戦を楽しみたい人もいるでしょう。それまでと同じ目標を追い続ける必要はありません。
このとき、育てたポケモンやゲームを進めるなかで得た知識がなくなるわけではありません。仕事でいえば、以前の目標を達成し、Canは身についているけれど、次に目指したいことが決まっていない状態です。
たとえば、「一人で担当業務を完結できるようになる」ことを目標にしてきた人が、それを達成した場面を考えます。さらに難しい案件を担当する、仕事の進め方を改善する、後輩に教えるなど、身につけた力を使う方向はいくつかあります。上司は、本人が何を達成したと感じているかを聞き、実際に社内で経験できる役割を一緒に検討します。
経験が少ない人に仕事を知る機会をつくる場合とは違い、この段階では、すでにできることをどこで使いたいかが話し合いの出発点になります。「次は管理職だろう」と上司だけで行き先を決めず、本人がどの役割に関心を持つかを確かめます。
このように、これまで掲げてきた目標を達成した人には、身につけたCanを踏まえて、次に取り組みたいテーマを一緒に考えます。 次の目標を無理に装着していくよりも、これまでやったことない取り組みから新たな意思が芽生えるかを観察していきます。
これまでの経験と、目指してきたことを確かめる
面談では、本人がどちらの場面に近いかを考えるために、担当した仕事と過去の目標を聞きます。次のように具体的に尋ねると、本人も経験を振り返りやすくなります。
- なぜこの会社のこの職種に入社したか
- これまでしてきた仕事を通して、できたと感じていることやこれから挑戦したいこと
過去の意思決定から本人がどんな気持ちで過ごしてきてこれからについてどう考えているか言語化してあげることも上司としては必要な役割になります。
やりたい仕事が出てこない部下と、次の目標をどう考えるか
これまでの経験や目指してきたことを聞いても、次にやりたい仕事が出てこない場合があります。そんなときは、仕事の話から少し離れて、本人がこれからどんな生活を送りたいのかを聞いてみる方法もあります。
仕事の話だけで答えが出なければ、生活の話も聞いてみる
私も過去にやりたい仕事が分からないという人に、まず「なぜこの会社に入社したのか」と聞くことがありました。残念ながら「ここしか入れなかった」「深く考えていなかった」といった答えが返ってくることも多く、入社理由だけでは、これから取り組みたいことまでは見えてきません。
一方、どんな生活を送りたいのかを聞くと、「30歳までに年収500万円くらい」といったぼんやりとした希望が出てくることがあります。やりたい職種や役職は思い浮かばなくても、生活について話すなかで、本人なりの希望が言葉になることがあるのです。
やりたい仕事が決まっていなくても、本人なりに実現したいことはある場合があります。 仕事の希望だけを聞いて面談を終える前に、生活の話も含めて本人の考えを聞いてみます。
本人の希望に対して、自社で目指せる役割を伝える
希望が出てきたら、上司はそれを自社でどう実現していけるかを伝えます。本人だけではぼやけている目標へのステップを、上司が明確にしていきます。
先ほどの年収の話では、そこへ到達するために目指す役職として、リーダー職を提示しました。その際には「チームの業績を担う人材になれるかどうかだよ」と、リーダーに求められる働きを伝えました。
「年収500万円を目指したい」という希望に対し、この会社ではリーダー職を目指す道があると伝える。さらに、その役割ではチームの業績を担うことが求められると説明する。ここまで話すことで、本人は目標に向かってどのような働きが必要になるのかを具体的に考えられます。
本人の希望に対して、自社で目指せる役割と、そこで求められる働きをセットで伝えます。 その説明を聞いた本人と、目指したい方向について話し合います。
そこへ向かうための助言や、仕事を任せることに合意する
目指す方向を共有できたら、そこへ近づくためにどのように取り組むかを話します。私の場合は、必要なアドバイスをしたり、仕事を任せたりすることについて、本人と合意します。
本人が目指していることと、上司からの助言や任される仕事がどうつながるのかが分かれば、何のために取り組むのかも共有できます。上司としても、その場で目標を提示して終わるのではなく、日々の仕事を通じて成長を支える関わり方になります。
合意した後は、今できていることと、まだできていないことを率直に伝え、次に取り組むテーマへつなげます。目標に向かう過程で何ができるようになったのかを確かめることが、その後の育成につながります。
取り組んだ後は、できたこと・できなかったことを率直に伝える
仕事を任せた後の面談では、本人がどう取り組み、どこまでできたかを一緒に振り返ります。結果の報告だけで終えると、本人は自分の何が成長したのか、次に何を変える必要があるのかを捉えにくくなるので定期的な面談でも折に触れて会話しておく必要があります。
目指す役割に対して、今できていることを具体的に伝える
フィードバックでは、本人が目指す役割に照らして、今できていることと、まだできていないことを伝えます。「成長したね」「もっと頑張ろう」だけでは、どの行動を続け、何を変えるべきかが伝わりません。実際に取り組んだ仕事の場面を挙げて話します。
たとえば、顧客への提案を振り返る場面なら、「提案がうまくなった」とまとめるより、「今回は顧客の要望を整理し、提案に反映できていた」と伝えるほうが、できたことが具体的になります。一方で、提案の理由を聞かれたときに説明できなかったなら、そこも一緒に伝えます。
ここでは、仕事が最終的にうまくいったかと、本人がどの部分を担えたかを分けて見ます。上司が途中で提案を組み直したなら、その案件が受注できても、すべてを本人のCanとして扱うことはできません。本人が自分で考えて進めた部分と、支援を受けた部分を確かめることで、次に任せられる範囲が分かります。
逆に、結果が出なかった仕事にも、以前よりできるようになったことはあります。結果への評価は伝えつつ、どの部分が改善したのかを具体的に伝えると、本人は次にも使える力を自覚できます。
できたこと・できなかったことは、実際の行動と上司の支援の有無を踏まえて伝えます。 目指す役割に対して現在のCanを確かめるには、この具体性が必要です。
フィードバックを、次に取り組むテーマへつなげる
できていないことを共有したら、次に何に取り組むかを決めます。改善点をいくつも並べるだけでは、本人はどこから手をつければよいか迷います。目指す役割に近づくために、次の仕事で特に取り組むことを絞ります。
先ほどの提案の例なら、次のテーマは「顧客の要望を受けて、なぜその提案にしたのかを説明できるようになること」です。上司と一緒に提案の理由を整理するのか、本人が考えた内容を実際の商談前に確認するのかまで決めると、取り組み方が明確になります。
その際、本人が仕事をどう受け止めたかも聞きます。できるようになった仕事に、本人が必ず興味を持つとは限りません。難しかったが続けたいのか、得意でも今後の中心にはしたくないのかによって、次の仕事について話し合う内容が変わります。
「難しかった」という一言でも、初めてで手順が分からなかったのか、仕事の内容そのものに関心を持てなかったのかは違います。うまくいかなかった結果がどんな要因で起きているのかを事実ベースで整理していくことが大切です。
また面談では記録を取ることをおすすめしています。新しくできるようになったこと、本人の受け止め、次に取り組むテーマを記録しておく。これにより次回はその取り組みから話を始めれば、抽象度の高いゴールの話で終わらず具体的な実行部分についての会話が中心にできるからです。
フィードバックは、次に取り組むことと、上司がどう支援するかまで決めて終えます。
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Will・Can・Mustを育成に使うとき、上司が気をつけたいこと
本人の目標を支援する一方で、上司には会社として期待する仕事を伝え、担当業務を評価する役割もあります。育成のために聞いた本人の希望を、会社の期待や評価の話とどう区別するかも大切です。
会社が期待することは、本人の希望と分けて伝える
会社から求める仕事や成果は、上司が明確に説明します。本人が何をしたいかにかかわらず、担当する役割には果たすべき責任があります。そこまで「本人から言ってほしい」と待ち続けると、部下は自分が何を期待されているのか分からなくなります。
たとえば、担当顧客への対応を任せているなら、どの顧客に、どのような対応を、どこまで担ってもらうかを伝えます。これは現在の役割への期待要望です。
一方、「将来は後輩に仕事を教えたい」という話が本人から出たなら、それは本人の希望として受け止め、今後どのような経験を積めるかを検討します。
会社として求めることは上司が期待と要望をセットで伝え、本人がやりたいことはどうすればかなえられるかを共に考える。 両者が違うときも、どちらかを曖昧にしたまま合意したことにしないようにします。
本人が希望する仕事を、すぐに任せられない場合もあります。必要な経験が足りないのか、社内に担当できる機会がないのかによって、話す内容は変わります。
経験が足りないなら何を身につける必要があるかを伝え、機会がないならその状況を説明します。本人の努力で変えられることと、会社側の事情を分けて伝えるほうが、その後の相談も具体的になります。
そのうえで、現在の仕事で身につけられる力や、今後経験できそうな役割を話し合います。希望する配置を約束できない場合も、本人が何に関心を持っているかを把握していれば、機会ができたときの検討に生かせます。
Willをうまく話せるかどうかで評価しない
将来の目標を分かりやすく話せる人が、現在の仕事でも十分な成果を出しているとは限りません。反対に、やりたいことを聞かれて言葉に詰まっても、担当業務を着実に進めている人はいます。
Willを聞く面談で、目標の大きさや話し方の上手さが評価に影響すると、本人は自分の考えより、上司が評価しそうな答えを話すようになるおそれがあります。本人の考えを知るための対話と、担当業務への評価は、何を見て判断するかを分ける必要があります。
評価では、会社が定めた項目と、担当する仕事で求められる成果や行動に照らして、実際にどう取り組んだかを見ます。あくまでWillはWillであり、評価はMustの成果で測るというのは原則です。
Willの立派さに、そのまま評価が引っ張られないことは大切です。 将来の希望をうまく話せない人にも、今のCanを踏まえた経験や成長の機会をつくります。
まとめ:Willがないときは、これまでの経験と本人の考えを確かめる
部下から「やりたいことは特にありません」と言われたら、まず、これまで経験した仕事と目指してきたことを聞いてみてください。経験が少ない人と、一つの目標を達成した人では、次に必要な関わり方が違います。
仕事の希望が出てこないときも、生活の話を含めて聞くなかで、本人なりの希望が見えてくる場合があります。その希望に対して自社で目指せる役割を伝え、取り組む方向を共有します。
そして、仕事を任せた後は、できたこと・できなかったことを率直に伝え、次のテーマを決めます。Will・Can・Mustは本人の意思と会社の意思を重ねることでパフォーマンスを最大化するためのフレームです。
ただしバランスよく運用しなければ本来の目的を見失った運用になりかねないので、導入を検討する際は専門家に相談することをお勧めいたします。




















