Will・Can・MustでWillが書けないのはなぜ?ポケモンから考える運用方法を徹底解説

Will・Can・MustでWillが書けない理由とポケモンから考える運用方法

Will・Can・Mustのシートを配ったものの、Willの欄で手が止まってしまう。1on1で「将来どんな仕事をしたい?」「3年後はどうなっていたい?」リクルート流ならば「お前はどうしたいの?」と聞いても、「特にありません」「まだ分かりません」と返ってくる。

こうした状況を見て、本人の成長意欲や主体性が低いと考えてしまう管理職もいます。しかし、Willが書けないからといって、本人に意欲がないとは限りません。

仕事の経験が少なく、選択肢をまだ知らない人もいます。一方で、以前掲げていた目標をすでに達成し、次に何を目指すか決まっていない人もいます。この2人に同じ質問を投げ続けても、答えはなかなか出てきません。

ポケモンに例えるなら、一人は「最初の草むらに入る前」、もう一人は「殿堂入りした後」です。本人の現在地を見分けることで、Will・Can・Mustを空欄を埋めるだけのシートから、育成や配置に使える仕組みへ変えられます。

目次

Will・Can・Mustとは

Will・Can・Mustは、本人の希望、現在の能力、組織からの期待を整理するためのフレームワークです。

項目 意味 具体例
Will 本人がやりたいこと、実現したい状態 管理職になりたい、新規事業に関わりたい、専門性を高めたい
Can 現在できること、強み、経験 顧客折衝、業務改善、後輩育成、データ分析
Must 会社や役割から求められていること 売上目標の達成、チーム育成、品質改善、新人の立ち上げ

3つを整理することで、本人の希望だけに偏らず、会社の都合だけにも偏らないキャリア面談がしやすくなります。Willだけから考えるのではなく、CanやMustから会話を始めることで、本人がまだ言葉にできていない希望が見えてくることもあります。

ただし、3つの欄を一度埋めれば完成するわけではありません。仕事の経験が増えればCanは変わり、異動や昇進によってMustも変わります。見える選択肢が増えれば、Willも変化します。

Will・Can・Mustは、固定されたキャリア設計図ではなく、本人の経験に合わせて更新していくものです。

Willが書けないからといって、意欲が低いとは限らない

Willが書けない人を経験が少ない状態と目標達成後の状態に分けた比較図

Willの欄が空白になると、上司は「この人は何をしたいのだろう」「仕事への意欲が低いのではないか」と不安になります。本人も何か立派な目標を書かなければならないと考え、会社が喜びそうな言葉を選び始めます。

その結果、本心ではないのに「管理職を目指したい」「専門性を高めたい」「チームを引っ張りたい」といった言葉が並びます。シートの欄は埋まりますが、本人の行動や上司の関わり方はほとんど変わりません。

Willが書けない社員への対応は、企業のキャリア面談や1on1でも起きやすい課題です。「あなたはどうなりたいのか」と聞き続ける前に、Willの空白がどこから生まれているのかを確認する必要があります。

Willが書けない人には、少なくとも二つの状態があります。

Willが書けない部下の状態① 最初の草むらに入る前

一つ目は、仕事の経験が少なく、どのような選択肢があるかを知らない状態です。ポケモンでいえば、最初のポケモンを選び、これから草むらへ入るところに当たります。

この段階では、どのようなポケモンがいるのか、どんな技を覚えられるのか、図鑑完成や対戦といった遊び方があることも十分に分かっていません。新卒や若手社員へ「将来何をしたい?」と聞いても答えが出にくいのは、珍しいことではありません。

営業、企画、採用、育成、マネジメント、業務改善。職種や役割の名前を知っていても、実際に経験したことがなければ、自分が何に面白さを感じるかは判断できません。

この状態の人に必要なのは、立派なWillを考え抜くことではありません。

少し背伸びすれば達成できるMustを経験し、Canを増やすことです。

Mustを経験すると、Willの材料が増える

たとえば営業職なら、最初は顧客の話を聞いて要点を整理するところから始めます。その後、一人で商談を進め、提案内容を組み立て、失注した理由まで振り返る。経験が増えてきたら、後輩へ商談の進め方を教えたり、チーム全体の数字から改善案を考えたりする役割も任せます。

こうした仕事を実際に経験すると、「顧客と話す時間が楽しい」「提案を考える方が好き」「自分で成果を出すより、人ができるようになる瞬間にやりがいを感じる」といった本人の反応が出てきます。

Canが増えることで、Willの候補が見えるようになります。Willを見つけてからCanを増やす人もいますが、Canを増やした結果としてWillが生まれる人もいます。

上司がやるべきなのは、Willの空欄を無理に埋めさせることではありません。本人が自分の得意・不得意や興味を知るために、次にどのような経験を渡すかを考えることです。

Willが書けない部下の状態② 殿堂入りした後

二つ目は、以前掲げていた目標を達成し、次の目標が決まっていない状態です。ポケモンでいえば、ポケモンリーグを制覇し、殿堂入りした後に当たります。

殿堂入りまでは、ジムを回ってバッジを集め、ポケモンリーグへ向かうという分かりやすい目標があります。ところが、殿堂入りした瞬間に、ゲーム側から与えられていた大きな目標は終わります。

その後の遊び方は人によって違います。図鑑完成を目指す人もいれば、対戦を極める人、好きなポケモンを育てる人、見落としていた場所を探索する人もいます。そこで一度ゲームを終える選択もあります。

仕事でも同じことが起きます。営業目標を達成して一人前になった人が、次に管理職へ昇進したり、チームを任されたりすることがあります。以前から希望していた部署への異動や、大きなプロジェクトの完遂を一つの区切りにする人もいるでしょう。

目標を達成したこと自体は前向きな変化です。ただ、それまで追っていた目標がなくなったことで、「次は何を目指せばいいのだろう」と迷うことがあります。

この人はCanが少ないわけではありません。むしろ、一定のCanを身につけ、以前のWillを達成したからこそ、次のWillが空白になっています。

次の大きな目標より、次の遊び方を試す

殿堂入り後の社員に対して、すぐに「次の3年目標を決めよう」と迫っても、答えが出ないことがあります。殿堂入りした直後から、次は図鑑を完成させようと決められる人ばかりではないからです。

まずは、新しいプロジェクトへ参加したり、後輩育成や業務改善を担当したりと、これまでとは違う仕事を小さく試せるようにします。他部署と仕事をする、チーム全体の数字を見る、専門性を深める役割を持つなど、本人が触れられる選択肢を増やすことも有効です。

実際に試すことで、「育成が面白い」「もっと専門性を深めたい」「管理職よりプレイヤーとして成果を出したい」といった次の方向が見えてきます。

次のWillは、頭の中から無理にひねり出すものとは限りません。新しい遊び方を試した結果として、次のWillが生まれることがあります。

Will・Can・Mustは順番ではなく、ループで運用する

MustからCan、Willへ進み、経験を通じて循環させるWill・Can・Mustの運用図
Will・Can・Mustは、Willから順番に欄を埋めるためのフレームワークではありません。本人の現在地によって、入口は変わります。

経験が少ない人の場合は、Mustを経験した結果としてCanが増え、得意・不得意や興味が見えるようになります。そこからWillの候補が生まれ、本人の方向性に合った次のMustを選びます。

以前の目標を達成した人は、Willを達成したことで次の目標が空白になります。新しい役割や仕事を試し、その中で新しいCanや興味を見つけながら、次のWillを決めていきます。

どちらにも共通しているのは、WCMを一度書いて終わりにしないことです。仕事の経験、本人の価値観、会社から求められる役割は変わるため、3つの変化に合わせてWill・Can・Mustをつなぎ直します。

部下の状態に合わせて、上司の関わり方を変える

経験が少ない人には、少し背伸びすれば届くMustを渡します。ただ仕事を任せるのではなく、その経験を通じて何を身につけてほしいのかを伝え、終わった後に本人とCanの変化を振り返ります。

本人が自分のCanを認識していない場合は、過去の行動や成果を具体的に返します。「商談で以前より質問できるようになった」「後輩への説明が分かりやすかった」と事実を伝えることで、本人も自分の強みを言葉にしやすくなります。

以前の目標を達成した人には、次のWillをすぐ決めさせるのではなく、新しい役割やプロジェクトを試す選択肢を用意します。Willと現在のMustが離れている場合は、今の仕事の中に本人の興味へつながる経験を組み込みます。

また、会社が期待しているMustを、本人のWillとして扱わないことも大切です。「会社として管理職になってほしい」と「本人が管理職を目指したい」は、分けて確認しなければなりません。

関連記事:マネージャー育成が失敗する3つの原因|中間管理職が育たない会社の共通点と改善策

Will・Can・Mustを1on1でどう更新するか

WCMを運用するからといって、面談用の質問集を上から順番に聞く必要はありません。

質問が丁寧すぎると、部下は自分の感覚を話すよりも、「上司は何を答えてほしいのだろう」と正解を探し始めます。キャリア面談のはずが、用意された設問に答える時間になってしまいます。

1on1では、上司が普段の仕事で見ている事実から会話を始める方が自然です。

上司が見た変化を返す。本人の感覚を聞く。次に試す仕事を一つ決める。

この流れで十分です。

最初の草むらにいる人との会話

たとえば、以前より一人で商談を進められるようになった部下がいたとします。

上司から、

この前の商談、前より自分で進められてたよね。自分ではどうだった?

と声をかけます。

部下が、

質問は前よりできました。ただ、聞いた内容から提案にまとめるところはまだ難しかったです。

と答えたら、

そこはこっちも同じ見立て。聞くところはかなり良くなっていたから、次は提案の骨子を作るところまで一人でやってみようか。

と次の仕事につなげます。

この会話で確認しているのは、壮大なWillではありません。現在のCanと、次に経験するMustです。

上司が「前よりできるようになったこと」を具体的に返すことで、本人も自分の変化を認識しやすくなります。そのうえで、まだ難しいと感じている部分を聞き、少し背伸びすれば届く仕事を次に渡します。

後輩へ仕事を教えていた部下に対しても、「この前、後輩に説明してたときは結構楽しそうだったけど、教える仕事はどうだった?」くらいの聞き方で構いません。

本人が「意外と面白かったです」と答えれば、次は新人のロープレを一部任せてみる。反対に「思っていたよりしんどかったです」と返ってきたら、何が負担だったのかを聞きます。

この段階では、Willを言葉にすることよりも、本人の反応が分かる経験を一つ増やすことが大切です。

殿堂入り後にいる人との会話

以前の目標を達成し、現在の仕事に慣れている人へ、いきなり「次の5年目標は何ですか」と聞く必要もありません。

たとえば、

今の仕事、だいぶやり切った感じある?

くらいから始めます。

部下が、

あります。前ほど新しいことをやっている感じはないです。

と答えたら、

そうだよね。次に試すなら、もう一段難しい案件を持つのと、育成側に少し回ってみるのでは、今はどっちが気になる?

と、本人が次に触れられそうな選択肢を置きます。

ここで育成に興味を示したからといって、すぐに「将来は管理職になりたい」とWillへ書かせる必要はありません。まずは新人一人の立ち上げや、チーム内の勉強会を任せてみます。その経験を振り返り、本人が面白いと感じたのか、負担の方が大きかったのかを確認します。

専門性を深めたいのであれば、難易度の高い案件や、これまで経験していない業界を担当してもらう方法もあります。試してみて面白ければ、次のWillにつながります。合わなければ、別の遊び方を試せばいい。

殿堂入り後の人に必要なのは、すぐに次のゴールを宣言することではありません。次に夢中になれそうな仕事へ、少しだけ触れてみることです。

質問集より、普段の仕事を見ておく

WCMを使った1on1の質は、質問のうまさだけでは決まりません。上司が日頃から部下の仕事を見て、どこが変わったのか、何に楽しそうに取り組んでいたのかを把握しているかで大きく変わります。

何も見ていない状態で「最近成長したことは何ですか」「今後やりたい役割はありますか」と聞いても、会話は抽象的になりがちです。

一方で、「この前の商談は前より良かった」「後輩に教えているときは楽しそうだった」と具体的な事実を返せれば、本人も自分の経験を振り返りやすくなります。

WCMの運用で必要なのは、きれいな設問集ではありません。

上司が見た事実から本人の感覚を聞き、得意・苦手を確かめ、次に試す仕事を決める。

この流れを1on1の中で少しずつ回し、Will・Can・Mustを更新していきます。

1on1の基本的な目的や進め方を確認したい方は、以下の記事も参考にしてください。

関連記事:1on1とは?目的・進め方・質問例・成功事例までわかりやすく解説

関連記事:1on1のやり方|続けても部下が育たない3つの原因と改善方法

Will・Can・Mustを更新するタイミング

WCMは毎月すべてを書き直す必要はありません。ただ、一度作ったシートを何年も使い続けると、本人の現在地と内容がずれていきます。

半期や年度の切り替わり

半年間で増えたCanと、変化したMustを整理します。以前書いたWillが今も変わっていないか、新しく見えるようになった選択肢がないかも確認します。

異動や昇進の前後

役割が変われば、会社から求められるMustも変わります。プレイヤーから管理職になれば、個人で成果を出す力だけでなく、チームの目標設定や育成も求められます。

新しいMustに対して、現在のCanで対応できる部分と、これから身につける部分を分けて考えます。

大きな目標を達成した後

殿堂入り後に当たるタイミングです。昇進や目標達成を祝うだけで終わらず、達成した本人が次に何を試してみたいかを話します。

次のWillをすぐに決める必要はありません。新しい仕事や役割を試す期間を設け、その中で本人の反応を確認します。

ライフステージが変わったとき

結婚、出産、育児、介護などによって、本人が大切にしたいことや希望する働き方は変わります。以前のWillを守り続けることよりも、現在の生活や価値観に合わせて更新する方が自然です。

WCM運用で起きやすい失敗

Willの欄を埋めることが目的になる

Willの空欄を問題視すると、本人は会社が期待する言葉を書き始めます。また、Willがないことを主体性の欠如と判断すると、経験が少ない人と、以前の目標を達成した人を同じように扱ってしまいます。

まず確認するべきなのは、なぜ今Willが出てこないのかです。空欄そのものを評価するのではなく、本人の現在地を見ます。

MustとWill、Canの意味が混ざる

「管理職になってほしい」という会社の期待を、そのまま本人のWillとして書かせるケースがあります。会社のMustと本人のWillは、重なることもありますが、同じものではありません。

Canも、資格や専門知識の一覧だけにしないことが大切です。「関係者を巻き込める」「問題を整理できる」「途中で投げ出さずに進められる」といった、実際の仕事で再現できる行動もCanに含まれます。

一度書いたシートが更新されない

半年前のWillやCanが、今も同じとは限りません。経験が増えれば本人の選択肢は広がり、役割が変わればMustも変化します。

きれいなシートを完成させても、配置や育成、1on1の内容が変わらなければ意味がありません。WCMは記録を残すためではなく、次にどの経験を渡すかを決めるために使います。

Will・Can・Mustを運用へ定着させる4つのステップ

Will・Can・Mustを定着させる定義、状態把握、1on1、配置・育成の4ステップ

ステップ1 3つの言葉の定義をそろえる

最初に、Will・Can・Mustを自社ではどのように捉えるかを決めます。特にCanは、資格や職務経験だけでなく、実際の行動や周囲から評価されている強みまで含めます。

ステップ2 上司へ状態別の見方を共有する

上司が「Willは何?」と聞くだけでは、運用は進みません。最初の草むらにいる人と、殿堂入り後の人では関わり方が違うことを、研修や具体的な事例を通じて共有します。

ステップ3 1on1で小さく更新する

毎回シート全体を書き直すのではなく、1on1で確認した変化を少しずつ反映します。新しくできるようになったこと、面白いと感じた仕事、苦手だと分かった仕事、次に試す役割、変化した会社からの期待を記録します。

一度に完成させようとせず、本人の経験と会話を重ねながら更新する方が、実態に合ったWCMになります。

ステップ4 配置・育成・評価へつなげる

WCMの内容を聞いて終わりにせず、次の仕事、研修、プロジェクト、配置へつなげます。ただし、Willそのものを評価点にする運用は慎重に考える必要があります。

立派なWillを書ける人ほど高く評価される制度にすると、本人は本音を書きにくくなります。評価の対象にするなら、合意したMustへの行動や、Canを増やすための挑戦を見た方がよいでしょう。

Will・Can・Mustを1on1や人材育成へ落とし込む方法にお悩みならお気軽にご相談ください。

Will・Can・Mustは、空欄を埋めるためではなく、次の経験を決めるために使う

Willが書けない人へ、何度も「やりたいことは何?」と聞いても、答えが出ないことがあります。その人がまだ最初の草むらにいるのか、以前の目標を達成して殿堂入り後にいるのかを、まず確認する必要があります。

経験が少ないなら、少し背伸びすれば届くMustを渡し、Canを増やします。以前の目標を達成した後なら、新しい役割や仕事を小さく試せるようにします。

人生には、最初の草むらに立つ時期と、殿堂入り後に次の遊び方を探す時期があります。Will・Can・Mustは、一度決めたキャリアを守り続けるためのものではありません。

本人の経験や価値観、会社からの期待に合わせて、次の一歩を何度も決め直すために使うものです。

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株式会社Tsumuguでは、中小企業を中心に、キャリア面談、1on1、目標設定、評価制度、管理職育成の設計・運用を支援しています。

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ABOUT US
塔筋大樹株式会社Tsumugu代表取締役
同志社大学卒業後、地元金融機関へ新卒入社。その後、株式会社リクルートジョブズ(現リクルート)へ中途入社。求人広告営業として全国トップクラスの営業成績を収め、営業リーダーや代理店支援を担当。その後、Indeed特別認定パートナーの株式会社アド・イーグル執行役員として営業・人事・企画領域を管掌。現在は株式会社Tsumugu代表取締役として、中小企業の採用・育成・評価・定着に関する課題に対し、データとAIを活用した人事支援を行っている。