DXやAIの普及によって、企業に求められるスキルは急速に変化しています。一方で、従業員が現在持つスキルと、これから必要となるスキルとの間に生じる「スキルギャップ」に悩む企業も増えています。
スキルギャップを放置すると、生産性の低下や人材育成の停滞、採用ミスマッチなど、組織全体の競争力に影響を及ぼす可能性があります。
近年では、AIやデータ分析を活用して従業員のスキルを可視化し、人材育成や適材適所の配置に役立てる企業が増えています。しかし、「大企業向けの取り組みではないか」と感じている中小企業も少なくありません。
本記事では、スキルギャップの基本的な考え方から、AIを活用した可視化の方法、Excelやクラウドツールを使った実践方法、分析結果を人材育成や採用に活かすポイントまで分かりやすく解説します。
なぜ今、スキルギャップの可視化が必要なのか
AIやデジタル技術の普及により、企業に求められるスキルは大きく変化しています。これまでの知識や経験だけでは対応が難しい業務が増える一方で、「自社にどのようなスキルが不足しているのか」を把握できていない企業も少なくありません。
スキルギャップとは、事業や業務に必要なスキルと、現在の従業員が保有しているスキルとの差を指します。この差を把握しないまま研修や採用を進めると、現場の課題と施策がかみ合わず、十分な成果につながらない可能性があります。
そこで重要になるのが、従業員の経験や能力を感覚ではなく、データとして整理することです。「誰が何をできるのか」「今後どのスキルが必要なのか」を可視化すれば、人材育成・採用・配置の優先順位を決めやすくなります。
たとえば、営業部門でデータ分析や生成AIの活用スキルが不足していると分かれば、全社員に同じ研修を実施するのではなく、対象者や業務内容を絞った研修を企画できます。すでに必要なスキルを持つ社員を把握できていれば、OJTの担当者として配置することも可能です。
人材や予算が限られる中小企業では、すべての課題に同時に対応することは現実的ではありません。スキルギャップの可視化は、限られた経営資源をどの分野に配分するべきか判断するための材料になります。将来の事業計画と照らし合わせながら、不足するスキルを社内で育成するのか、採用や外部人材の活用で補うのかを検討することが大切です。
関連記事:人事データ活用入門|BIツールで従業員パフォーマンスを可視化する方法
中小企業が抱えやすいスキルギャップの課題
中小企業では、必要なスキルを持つ人材を新たに採用したくても、知名度や採用予算、待遇面などの理由から人材確保が難しい場合があります。特にAI、データ分析、DXなどの専門分野は採用競争が激しく、経験者の採用だけで不足を補うことは簡単ではありません。
その一方で、社内の人材育成に十分な時間を割けない企業もあります。研修担当者が決まっていない、教育内容が部署ごとに異なる、日常業務が優先されて育成が後回しになるなど、仕組みを整えにくいことが中小企業の課題です。
また、従業員数が少ない企業では、経営者や管理職が社員の能力を把握しているつもりになりやすい点にも注意が必要です。実際には、担当業務以外の経験や資格、本人が伸ばしたいスキルまで共有されていないことがあります。スキル情報が整理されていないと、育成計画や人材配置が上司の印象や過去の経験に偏りやすくなります。
大規模な人事システムを導入しなくても、保有資格、業務経験、習熟度、研修履歴などをExcelやクラウドツールにまとめることから始められます。自己申告だけで判断せず、上司による評価や業務実績も組み合わせることで、実態に近いスキルマップを作成できます。
ただし、スキルを可視化するだけでは人材育成は進みません。把握したスキルギャップをもとに、研修、OJT、配置転換、採用などの具体的な施策へつなげる必要があります。まずは事業への影響が大きい職種や業務から対象を絞り、小さく始めて定期的に更新することが現実的です。
評価基準や活用目的を従業員に説明することも欠かせません。本人との面談を通じて現在地と今後伸ばすスキルを共有できれば、キャリア形成を考えるきっかけになります。企業側が一方的に評価するのではなく、育成を支援するための仕組みとして運用することが重要です。
スキルギャップ可視化の第一歩|社内データの収集方法
スキルギャップを可視化するには、従業員が現在持っているスキルを把握する必要があります。分析ツールを導入しても、もとになる情報が不足していたり、評価基準が部署ごとに異なっていたりすると、正確な分析はできません。
最初からすべての情報を集めようとせず、まずは対象となる職種や部署を決めましょう。そのうえで、「どのスキルを把握するのか」「何のために活用するのか」を明確にすると、必要なデータを絞り込みやすくなります。
スキルの可視化に活用できる社内データ
従業員のスキルを把握する際は、人事評価、業務実績、自己申告などの社内データを活用できます。それぞれ確認できる内容が異なるため、複数のデータを組み合わせて判断することが大切です。
人事評価データ
人事評価データには、定期評価や面談の記録、上司からのフィードバック、行動評価などが含まれます。業務の遂行能力だけでなく、マネジメント力やコミュニケーション力など、成果だけでは判断しにくいスキルを把握する際にも役立ちます。
ただし、評価者によって判断基準が異なると、従業員同士の比較が難しくなります。スキルの定義や評価段階をあらかじめそろえておく必要があります。
業務実績データ
担当した業務やプロジェクト、保有資格、成果物、KPIの達成状況などは、実務で発揮されたスキルを確認する材料になります。単に成果の大小を見るのではなく、担当した役割や業務の難易度、周囲から受けた支援なども含めて確認することが重要です。
たとえば、プロジェクトを予定どおり完了した実績があれば、専門スキルだけでなく、進行管理や関係者との調整に関する経験も把握できます。
自己申告データ
自己申告データとは、従業員自身が回答した保有スキル、業務経験、資格、得意分野、今後身につけたいスキルなどの情報です。アンケートや自己評価シート、1on1、キャリア面談の記録などから収集できます。
本人にしか分からない経験や意向を把握できる一方で、自己評価が実際の習熟度と一致するとは限りません。そのため、自己申告だけで判断せず、人事評価や業務実績と照らし合わせる必要があります。
複数のデータを組み合わせることで、本人の認識、上司の評価、実際の業務実績を多面的に確認できます。評価に差がある場合は、スキルの定義が曖昧になっていないか、能力を発揮できる業務を任せられているかといった点も確認しましょう。
スキルデータを収集する具体的な方法
スキルデータの収集方法には、アンケート、Excel、クラウドツールなどがあります。従業員数や対象部署、更新頻度を踏まえ、継続して運用できる方法を選ぶことが大切です。
アンケートで従業員のスキルを確認する
GoogleフォームやMicrosoft Formsなどを使い、業務経験や保有資格、スキルの習熟度、今後学びたい分野を回答してもらう方法です。低コストで始めやすく、回答結果を一覧化できるため、初めてスキルの棚卸しを行う企業にも適しています。
ただし、「できる」「できない」だけでは、回答者によって判断が分かれます。「指示を受ければできる」「一人で対応できる」「他の社員に教えられる」など、具体的な評価基準を設定しましょう。
Excelでスキルマップを作成する
Excelを使えば、従業員名、スキル項目、習熟度、経験年数、資格、研修履歴などを一覧で管理できます。フィルターや条件付き書式を活用することで、部署ごとのスキル分布や不足しているスキルも確認できます。
少人数の企業や対象部署を限定したスキルギャップ分析であれば、Excelでも十分に運用できます。一方、管理する人数や項目が増えると更新漏れやファイルの重複が起こりやすいため、更新担当者と更新時期を決めておくことが必要です。
クラウドツールでスキル情報を一元管理する
Googleスプレッドシートやタレントマネジメントシステムなどを利用すれば、複数の担当者が同じデータを確認・更新できます。人事評価、研修履歴、資格、キャリア希望などを一元管理できるツールであれば、情報収集や集計にかかる負担も減らせます。
クラウドツールを選ぶ際は、機能の多さだけでなく、入力のしやすさ、既存システムとの連携、閲覧権限、セキュリティ、導入後の運用負担まで確認しましょう。
どの方法を選ぶ場合でも、スキル項目の定義、評価基準、更新時期、管理責任者を統一することが重要です。まずは事業への影響が大きい職種から始め、運用上の課題を確認しながら対象範囲を広げると、無理なく定着させられます。
AIを活用したスキルギャップ分析の進め方
スキルギャップ分析では、人事評価や業務実績、研修履歴など、複数のデータを整理する必要があります。従業員数やスキル項目が増えるほど、人事担当者が手作業で分類・集計する負担も大きくなります。
AIを活用すると、職務経歴や評価コメントなどの文章からスキルに関する情報を抽出したり、表記の異なるスキルを同じ分類にまとめたりできます。また、職種ごとに必要なスキルと従業員が保有するスキルを比較し、不足する項目を整理することも可能です。
ただし、AIを導入するだけで正確なスキルギャップが分かるわけではありません。分析の前に、必要なスキルと評価基準を企業側で定義する必要があります。AIは判断を代行するものではなく、データの整理や比較を支援する手段として活用することが大切です。
「必要スキル」と「現有スキル」を定義する

スキルギャップは、業務に求められる「必要スキル」と、従業員が現在持っている「現有スキル」の差です。正しく分析するためには、最初に両者の定義と評価基準をそろえます。
必要スキルとは
必要スキルとは、特定の職務や役割を遂行するために求められる知識、技術、経験、行動特性などです。現在の業務内容だけでなく、事業計画や今後予定している業務の変化も踏まえて設定します。
たとえば、社内のデータ活用を進める場合でも、すべての従業員にPythonや統計解析の知識が必要とは限りません。営業職にはデータを読み取って提案に活用する能力、分析担当者にはデータ加工やBIツールを扱う能力など、職種や役割ごとに必要なスキルを具体化することが重要です。
必要スキルは、事業内容や技術の変化によって変わります。一度作成して終わりにせず、事業計画や職務内容の見直しに合わせて更新しましょう。
現有スキルとは
現有スキルとは、従業員が現在保有している知識、技術、経験などを指します。人事評価の結果、担当した業務やプロジェクト、研修履歴、保有資格、自己申告などをもとに整理します。
スキルレベルを比較する場合は、「経験がない」「支援を受ければ対応できる」「一人で対応できる」「他の社員を指導できる」など、具体的な評価段階を設定すると判断しやすくなります。
必要スキルと現有スキルを同じ項目と基準で整理すれば、職種、部署、従業員ごとの不足を比較できます。分析結果は、研修対象者の選定、OJT、人材配置、中途採用、外部人材の活用を検討する判断材料になります。
ExcelやAIツールを使ったスキルギャップの分析方法
スキルギャップ分析を始めるために、大規模なシステムをすぐに導入する必要はありません。まずはExcelなどで必要スキルと現有スキルを整理し、運用方法を固めてから、必要に応じてAI機能を備えたクラウドツールへ移行する方法があります。
Excelを使ったスキルギャップ分析
Excelでは、縦軸に従業員名、横軸にスキル項目を設定し、習熟度を数値で入力することでスキルマップを作成できます。必要なスキルレベルと現在のレベルの差を計算すれば、従業員や部署ごとのスキルギャップを確認できます。
関数や条件付き書式を使えば、不足している項目の色分けや、部署ごとの平均値の集計も可能です。対象人数が少ない場合は、複雑なマクロを組まなくても基本的な分析を行えます。
AI機能を備えたクラウドツールによる分析
AI機能を備えたタレントマネジメントシステムや人材管理ツールでは、登録された経歴や評価コメントからスキル候補を抽出したり、類似するスキルを分類したりできる場合があります。製品によっては、職務要件との比較や研修候補の提示にも対応しています。
こうした機能を活用すれば、データの整理や集計にかかる時間を減らせます。ただし、分析できる内容や精度はツールによって異なります。導入前に、自社が必要とするスキル項目を扱えるか、分析根拠を確認できるか、既存の人事データと連携できるかを確認しましょう。
また、人事評価やキャリアに関する情報には個人情報が含まれます。外部のAIサービスへ入力する場合は、利用規約やデータの保存先、学習への利用有無、アクセス権限などを確認する必要があります。
まずはExcelで小規模に分析し、更新や集計の負担が大きくなった段階でクラウドツールを検討すると、必要な機能を見極めやすくなります。
スキルマップとレーダーチャートによる可視化
スキルギャップの分析結果は、数値を並べるだけでなく、スキルマップやレーダーチャートを使って可視化すると理解しやすくなります。目的に応じて表示方法を使い分けましょう。
スキルマップ
スキルマップは、従業員や部署ごとに保有スキルと習熟度を一覧化した表です。評価を色分けすれば、どのスキルを持つ人材が多いのか、どの分野が不足しているのかを確認できます。
たとえば、新しいプロジェクトを立ち上げる際に、必要なスキルを持つ従業員を探したり、特定の社員に業務が集中していないかを確認したりできます。人材配置や後継者育成を検討する際にも役立ちます。
レーダーチャート
レーダーチャートは、複数のスキル項目を放射状のグラフで表示する方法です。個人やチームの得意分野と不足している分野を視覚的に比較できます。
必要スキルの基準値と現在のスキルレベルを同じグラフに表示すれば、両者の差が分かりやすくなります。たとえば、分析力は基準を満たしているものの、提案力やプレゼンテーション力が不足している場合は、その分野を育成施策の候補にできます。
ただし、グラフだけで研修や配置を決定するのは避けるべきです。可視化した結果をもとに本人や上司へ確認し、実際の業務内容やキャリア希望も踏まえて施策を決めましょう。
関連記事:ピープルアナリティクスとは?AIを活用した人材分析の進め方と企業事例を解説
スキルギャップ分析の活用方法
AIやスキルマップを使ってスキルギャップを可視化しても、分析しただけでは組織の課題は解決しません。分析結果を研修やOJT、人材配置、採用などの施策へ反映し、その後の変化を確認する必要があります。
重要なのは、不足しているスキルを見つけることではなく、そのスキルを「育成するのか」「採用で補うのか」「外部人材を活用するのか」を決めることです。事業計画や現場の状況と照らし合わせながら、優先順位をつけて取り組みましょう。
研修計画や人材育成へ反映する
スキルギャップ分析の代表的な活用方法が、研修計画や人材育成施策の見直しです。部署や職種ごとに不足しているスキルが分かれば、研修の対象者や内容を具体的に決められます。
たとえば、営業部門でデータ活用のスキルが不足している場合、全社員を対象とした一律の研修ではなく、習熟度に応じて内容を分ける方法があります。基礎段階の社員にはExcelやデータの読み方を学ぶ研修、一定の経験がある社員にはBIツールを使った分析や提案資料の作成を学ぶ研修を実施するといった形です。
ただし、スキルマップの点数だけで研修内容を決めると、本人の業務や課題に合わない場合があります。上司との面談や本人へのヒアリングも行い、現在の担当業務、今後任せたい役割、本人のキャリア希望を踏まえて育成計画を立てましょう。
また、研修で知識を学ぶだけでは、実務で使えるスキルとして定着しにくいことがあります。研修後に実践できる業務を任せ、OJTやメンターによるフォローを組み合わせることが大切です。中小企業では、社内で該当分野に詳しい社員を指導役にするなど、既存の人材を生かした育成方法も検討できます。
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採用要件やジョブディスクリプションを見直す
社内での育成だけでは補いにくいスキルが明らかになった場合は、採用要件の見直しが必要です。今後の事業に必要なスキルと社内で育成できる範囲を整理したうえで、採用によって補うべきスキルを決めます。
たとえば、データ活用を進めたい企業でも、必ずしも高度な分析スキルを持つデータエンジニアが必要とは限りません。必要なのが既存データの集計やレポート作成であれば、ExcelやBIツールの実務経験を採用要件にする方法もあります。不足しているスキルをそのまま並べるのではなく、入社後に担当してもらう業務と結びつけて採用要件を設定しましょう。
ジョブディスクリプションについても、現在の業務内容と合っているか定期的に確認します。業務のデジタル化や組織変更によって役割が変わっている場合は、仕事内容、求めるスキル、責任範囲を更新する必要があります。
採用要件を細かく設定しすぎると、条件を満たす候補者が少なくなり、採用が難しくなる可能性があります。「入社時に必要なスキル」と「入社後に習得できるスキル」を分け、必須条件と歓迎条件を整理することが重要です。
関連記事:リスキリングとアップスキリングの違いとは?意味・企業事例から成功のポイント
人材配置やプロジェクト編成に活用する
スキルデータは、部署異動やプロジェクトメンバーの選定にも活用できます。従業員の経験や習熟度を一覧で確認できれば、特定のスキルを持つ人材を探しやすくなります。
たとえば、新しい業務システムを導入する場合、システムの操作経験だけでなく、業務改善や社内調整の経験を持つ社員を選ぶことで、導入を進めやすくなることがあります。また、経験者だけでチームを構成せず、今後そのスキルを身につけたい社員を加えることで、実務を通じた育成にもつなげられます。
一方で、スキルが高い社員に業務が集中すると、本人の負担が増え、組織の属人化も進みます。人材配置では「誰ができるか」だけでなく、「特定の社員に依存していないか」という視点も必要です。
従業員へのフィードバックとキャリア支援に活用する
スキルギャップの分析結果は、評価のためだけに使うのではなく、従業員の育成やキャリア形成を支援する材料として共有することが大切です。本人が現在の強みと今後求められるスキルを理解できれば、次に何を学ぶべきか考えやすくなります。
ただし、分析結果を一方的に提示すると、「能力が不足していると評価された」と受け取られる可能性があります。スキルの点数だけを伝えるのではなく、評価基準や利用目的を説明し、本人の認識や希望も確認しましょう。
定期的な1on1や評価面談で、習得したスキル、業務での実践状況、今後の目標を確認することで、スキルデータを継続的なキャリア支援に活用できます。研修の受講だけを目標にせず、実際の業務でどのような変化があったかまで振り返ることが重要です。
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中小企業がスキルギャップを可視化する手順

スキルギャップの可視化は、大規模な人事システムがなくても始められます。従業員数の少ない中小企業であれば、ExcelやGoogleフォームなど、すでに社内で利用しているツールでも基本的なスキルマップを作成できます。
最初から全社のあらゆるスキルを管理しようとすると、項目の設定やデータ入力に時間がかかり、運用が続かなくなることがあります。まずは対象となる部署や職種を絞り、事業上の優先度が高いスキルから可視化しましょう。
ステップ1:可視化の目的と対象を決める
はじめに、スキルギャップを可視化する目的を決めます。「研修計画を見直したい」「新規事業に必要な人材を把握したい」「業務の属人化を解消したい」など、解決したい課題を具体的にしましょう。
目的が曖昧なままスキル項目を増やすと、情報収集そのものが目的になってしまいます。対象とする部署、職種、業務を決め、その目的に必要なスキルだけを選定することが大切です。
ステップ2:必要スキルと評価基準を設定する
対象となる職種や業務について、必要なスキルを整理します。専門知識や操作技術だけでなく、進行管理、課題解決、顧客対応など、業務の遂行に必要な能力も検討します。
スキルごとに、「未経験」「支援を受ければ対応できる」「一人で対応できる」「他の社員を指導できる」などの評価基準を設定しましょう。判断基準を具体的にすることで、自己評価と上司評価のばらつきを抑えやすくなります。
ステップ3:従業員のスキル情報を収集する
GoogleフォームやExcelなどを使い、従業員の業務経験、保有資格、研修履歴、現在の習熟度、今後身につけたいスキルを収集します。回答の負担が大きくならないよう、対象となるスキル項目を絞ることも必要です。
自己申告だけでは実際の習熟度を判断しにくいため、上司による評価や過去の業務実績も組み合わせます。評価に差がある場合は、面談で理由を確認しましょう。
ステップ4:スキルマップを作成してギャップを分析する
収集した情報を一覧にまとめ、職種に必要なスキルレベルと、従業員が現在持っているスキルレベルを比較します。Excelの条件付き書式を利用して不足している項目を色分けすれば、簡易的なスキルマップを作成できます。
この段階では、必ずしもAIツールを導入する必要はありません。従業員数やスキル項目が増え、集計や更新に負担がかかるようになった場合に、タレントマネジメントシステムやAI機能を備えたツールを検討するとよいでしょう。
ステップ5:育成・配置・採用の施策を実行する
分析によって明らかになったスキルギャップに優先順位をつけ、具体的な施策へ反映します。研修、OJT、担当業務の変更、中途採用、外部人材の活用など、不足しているスキルと緊急度に応じて対応方法を選びます。
たとえば、営業部門でデータ分析の基礎スキルが不足している場合、短時間の社内研修を実施し、実際の営業データを使った課題に取り組んでもらう方法があります。すでにスキルを持つ社員がいれば、OJTの担当者として協力してもらうこともできます。
ステップ6:定期的に見直して更新する
スキルマップは、一度作成して終わりではありません。研修や実務経験によって従業員のスキルは変化し、事業方針によって必要なスキルも変わります。
半年に1回など更新時期を決め、施策の実施前後でスキルギャップがどのように変化したかを確認しましょう。更新作業を続けられるよう、管理担当者と入力ルールも決めておく必要があります。
スキルギャップの可視化を定着させるポイント
取り組みの目的を従業員へ説明する
スキル情報を収集する際は、何のために行うのか、誰が閲覧するのか、どのような施策に活用するのかを従業員へ説明します。目的を伝えずに始めると、「評価や人員整理に使われるのではないか」といった不安を招く可能性があります。
人事評価のためだけではなく、研修やキャリア支援、人材配置の改善に活用することを伝え、必要に応じて本人が登録内容を確認できるようにしましょう。
評価基準をそろえてデータの信頼性を保つ
「できる」「詳しい」などの曖昧な表現だけでは、評価者によって判断が変わります。スキルごとに評価基準や具体的な行動例を設定し、自己評価と上司評価を同じ基準で行うことが重要です。
また、スキルの名称が部署ごとに異なると、全社で集計する際に重複が発生します。使用する用語や分類方法も可能な範囲で統一しましょう。
小さく始めて運用方法を改善する
最初は1つの部署や職種で試行し、入力にかかる時間や評価の難しさ、分析結果の使いやすさを確認します。運用上の問題を修正してから他部署へ広げることで、現場の負担を抑えられます。
項目数を増やすことよりも、収集した情報を育成や配置に活用できているかを確認することが大切です。使われていないスキル項目は削除し、事業に必要な項目を追加するなど、定期的に見直しましょう。
必要に応じて外部の専門家を活用する
必要スキルの定義や評価基準の設計、データ分析を自社だけで進めることが難しい場合は、人事コンサルタントや研修会社、システム提供会社などへ相談する方法があります。
すべてを外部へ任せるのではなく、職務の整理や評価制度の設計など、自社で対応しにくい部分だけを依頼することも可能です。外部支援を利用する場合も、最終的な目的や判断基準は自社で共有しておく必要があります。
評価基準の整理から、人材育成・配置・採用につなげる運用設計のご相談はこちら
スキルギャップ可視化でよくある失敗と対策
評価基準が曖昧でデータの精度が低い
設問や評価基準が曖昧だと、同じスキルレベルでも回答者によって評価が変わります。具体的な業務や行動を基準に評価段階を設定し、回答例も示しましょう。
また、自己申告の結果だけで判断せず、上司による評価、業務実績、研修履歴などを組み合わせて確認することも必要です。
分析後の施策が決まっていない
スキルマップを作成しても、分析後の活用方法が決まっていなければ更新されなくなり、次第に使われなくなります。可視化を始める前に、研修計画、人材配置、採用要件の見直しなど、分析結果をどの判断に使うのか決めておきましょう。
分析結果ごとに、担当者、実施する施策、期限、確認する指標を設定すると、具体的な行動へつなげやすくなります。
スキル項目を細かく設定しすぎる
正確に把握しようとしてスキル項目を増やしすぎると、従業員の回答や管理担当者の更新に時間がかかります。似た項目が重複し、分析結果が分かりにくくなることもあります。
まずは事業や業務への影響が大きいスキルに絞り、必要に応じて項目を追加しましょう。利用されていない項目を定期的に整理することも大切です。
現場の理解や協力を得られていない
経営層や人事部門だけで進めると、実際の業務に合わないスキル項目や評価基準になることがあります。設計段階から現場の管理職や従業員に意見を聞き、業務内容を反映させましょう。
分析結果を一方的に評価へ使用するのではなく、本人へフィードバックする機会も設けます。収集した情報が研修やキャリア支援にどのように活用されたかを共有することで、継続的な協力を得やすくなります。
まとめ
スキルギャップの可視化は、単に従業員の能力を把握するためではなく、人材育成や配置、採用をより戦略的に進めるための重要な取り組みです。AIやデータ分析を活用することで、これまで感覚に頼っていた判断を客観的なデータに基づいて行えるようになります。
また、大規模なシステムを導入しなくても、Excelやクラウドツールを活用したスモールスタートで十分に成果を出すことは可能です。まずは必要なスキルを整理し、現有スキルとのギャップを可視化しながら、育成施策や配置転換、採用計画へとつなげていくことが重要です。
変化の激しい時代だからこそ、「誰が何をできるのか」を正しく把握し、継続的に育成していく仕組みづくりが企業の競争力を左右します。スキルギャップを見える化し、人材の可能性を最大限に引き出せる組織づくりを進めていきましょう。
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