「強い組織」は、優秀な人が集まっている組織なのでしょうか。
2026年FIFAワールドカップで戦う日本代表を見ていて、そんな問いが頭に浮かびました。主力選手の離脱や苦しい試合展開があっても崩れず、チーム全体で戦い続ける姿には、多くの企業が組織づくりのヒントを見いだせるはずです。
この記事では、リーダーシップ理論として知られるPM理論(Performance・Maintenance)をもとに、日本代表の戦いを組織マネジメントの視点から読み解きます。
成果を出し続ける組織に必要な「目標達成力」と「チームを支える力」の関係について、サッカーを題材に考えていきましょう。
はじめに
2026年FIFAワールドカップが大盛り上がりしていますね。
筆者はサッカーにそれほど詳しいわけではありません。学生の頃に、某サッカーゲームに夢中になっていたくらいで、今の日本代表メンバーを全員言えるわけでもない、ごく普通のサポーターです。
それでも、日本代表の試合は毎回つい見入ってしまいます。今回のチームを見ていて、プレーの細かな戦術は分からなくても、ひとつだけ強く感じたことがありました。
「このチームは、空気のつくり方がうまい。」
選手交代のタイミング、ベンチの表情、失点後の立て直し方。「いま、チーム全体で前を向こうとしているな」と感じる場面が何度もありました。
その姿を見ているうちに「これは組織論でいうPM理論そのものではないか」と思うようになりました。
今回は、サッカー解説ではなく、一人の組織づくりに携わる人間として、日本代表から感じたことを書いてみたいと思います。
そもそも「PM理論」とは

PM理論は、社会心理学者の三隅二不二(みすみ じゅうじ)さんが提唱した、リーダーシップの考え方です。リーダーやチームの働きを、大きく2つの機能で捉えます。
ひとつが P(Performance=目標達成機能)。目標を立て、計画を描き、成果に向かってチームを引っ張っていく力です。
もうひとつが M(Maintenance=集団維持機能)。コミュニケーションを取り、人間関係を整え、チームがバラバラにならないように支える力です。
ざっくり言えば、Pは「勝つための力」、Mは「崩れないための力」です。そして強いチームは、どちらか一方ではなく、PとMの両方が高い水準でそろっている、というのがこの理論の肝になります。
今回の日本代表に当てはめると、こんなふうに見えてきます。
- P = 試合に勝つための実力、戦術、選手層、誰かが抜けても代えがきく層の厚さ
- M = 不測の事態でも崩れない空気、経験者の支え、チームとしての一体感
この2つが、お互いを支え合っているように見えたのです。順番に見ていきましょう。
P:主力級3人を欠いても、突破できる準備があった
まず驚いたのが、今回の日本代表が、かなりの主力を欠いた状態で大会に臨んでいたということです。
長く中盤の軸を担い、主将も務めてきた遠藤航選手。攻撃の切り札である三笘薫選手。前線で違いを作れる南野拓実選手。サッカーに詳しくない私でも名前を知っているような選手たちが、けがの影響等で、大会前や直前にメンバーから外れていました。
普通に考えれば、これは大ピンチのはずです。会社で言えば、エース級が同時に何人も抜けた状態でプロジェクトに臨むようなものですから。
ところが、日本代表は崩れませんでした。板倉滉選手が主将としてチームをまとめ、健在の主力である久保建英選手たちが力を発揮し、グループステージを オランダと2-2、チュニジアに4-0、スウェーデンと1-1。1勝2分の勝ち点5で、強豪ぞろいのグループFを2位で勝ち抜けたのです。決勝トーナメント1回戦の相手は、あのブラジルです。
ここで私が「すごいな」と思ったのは、単に「控えの選手がいた」という話ではないことです。
「控えがいる」ことと、「代わりが出ても機能する」ことは、まったく違います。
森保一監督は、けが人がいる中でもチームが回っている理由について、「誰が誰と組んでもプレーできるように準備してきた」という趣旨のことを語っていました。これはまさに、組織論でいう「サクセッション(後継・代替の準備)」そのものだと感じます。
サクセッションというと、企業では「後継者の名簿を作ること」だと思われがちです。でも本質はそこではありません。主力が抜けても、役割や判断の基準、連携の仕方が崩れないように、あらかじめ整えておくことです。
日本代表の強さは、スター選手がそろっていることだけにあるのではありません。スター選手が抜けた状況でも戦えるように、前もって準備してきたことにあるのだと思います。
会社も同じですよね。エースが抜けた瞬間に止まってしまう組織は、実はそれほど強くありません。本当に強い組織とは、エースが抜けても、ちゃんと前に進める組織なのだと思います。
P:海外で鍛えられた「基準」が、チームの当たり前を引き上げている
もうひとつ、Pの面で印象的だったことがあります。
今回の日本代表は、海外のクラブでプレーする選手が大半を占めていました。報道によっては「国内のクラブに所属している選手は数人だけ」と指摘されるほどで、多くの選手が、欧州の厳しい環境で日常的にもまれています。
これは組織論的に見ると、とても面白い現象です。単に「所属クラブの格が上がった」という話ではないのです。本質は、世界基準で戦う選手が増えたことで、代表チームの中に持ち込まれる「当たり前」のレベルそのものが上がっているということだと思います。
会社で言えば、外の厳しい市場や、レベルの高い顧客にもまれてきた人が増えることで、社内の仕事の基準が自然と引き上がっていく状態に近いのではないでしょうか。誰かが「もっとこうできるはず」と高い基準を持ち込むと、まわりもそれに引っ張られていきます。
その積み重ねが、「誰が出ても一定以上のプレーができる」という、チームとしての再現性を生んでいるように見えました。
実際、対戦相手からもそう見えていたようです。グループステージで対戦したスウェーデンの監督は、日本について「サイドも中央も強い」「誰が出ても脅威になる」「個人ではなく、集団としての強さがある」という趣旨の警戒をしていました。
相手の監督から見ても、日本は「特定の誰かを止めれば止まるチーム」ではなく、チーム全体で機能するチームになっている。これは、成果を出す仕組みが属人的ではなくなっている、ということだと思います。素人目にも、ここはとても格好よく映りました。
M:長友選手という、空気を支えるベテランの存在
さて、ここからは私がいちばん心を動かされた、M(集団維持機能)の話です。
象徴的だったのが、長友佑都選手の存在でした。スウェーデン戦に途中から出場し、日本人として初めて、ワールドカップ5大会連続出場を達成しました。しかも39歳。自身が持っていた日本人最年長出場の記録も、自ら更新してしまいました。これは本当にすごいことだと思います。
ただ、私が胸を打たれたのは、記録そのものよりも、長友選手の姿勢でした。
長友選手は、今大会では出番が多かったわけではありません。出場機会の少なさに悔しさを抱えながらも、腐らずに準備を続け、ベンチの仲間たちが声をかけ続けてくれたこと、そしてピッチに入ったときには落ち着いていられたことを、試合後に語っていました。
これは、いわゆる「ムードメーカー」という言葉だけでは片づけられない価値だと思います。
ベテランの本当の価値は、過去の実績や、出場した時間の長さで測れるものではありません。出られない時間にも腐らず準備する姿勢そのものが、チームに「基準」を示しているのだと思います。「あの長友さんがあそこまで準備しているのだから」と、若い選手たちも背筋が伸びるはずです。
組織におけるベテランの役割も、これと同じではないでしょうか。若手より偉そうに振る舞うことではなく、不安や緊張を吸収し、チームが前を向き続けられる空気を作ること。長友選手の姿は、その理想形のように見えました。
M:経験豊富なコーチ陣が、チームの「安定装置」になっている
Mの面では、ベンチのコーチ陣も見逃せませんでした。
森保監督のまわりには、名波浩さん、中村俊輔さん、前田遼一さん、長谷部誠さんといった、現役時代に代表や大舞台を経験した方々がそろっています。「レジェンド参謀」などと呼ばれているのを見て、なるほどと思いました。
これもMの大切な要素だと感じます。大舞台で何が起こるかを知っている人が近くにいると、選手は技術的な助言だけでなく、大舞台での心の整え方や、苦しいときの空気の作り方まで受け取ることができます。
チームが苦しいとき、若い選手に必要なのは、正論だけではないのだと思います。「この状況でも大丈夫だ」と思わせてくれる経験者の存在が、何よりの支えになります。強い組織には、成果を出す人だけでなく、成果を出し続けられる空気を守る人がいる。日本代表のベンチは、まさにそういう構成になっていました。
M:「前を向く空気」は、口で言うほど簡単ではありません
「何があっても前を向く空気を作る」というのは、言葉にするととても簡単に聞こえます。
でも、実際にやるのは、ものすごく難しいことだと思うのです。
チームというのは、勝っているときは自然と前向きになります。難しいのは、けが人が出たとき、主力が抜けたとき、失点したとき、思うように出番がもらえないとき、外から批判されたとき。こういう局面では、空気はあっという間に崩れていきます。
今回の日本代表も、決して順風満帆に勝ち続けたわけではありませんでした。オランダ戦では2度追いついての2-2。スウェーデン戦も1-1で、苦しみながらの突破でした。苦しい局面を受け止めながら、それでも崩れずに前進したチームだったと思います。
ここから学べるのは、本当のM機能は「仲良しの空気」を作ることではない、ということです。不安や不満、焦りが出てきたときに、チームがバラバラにならない状態を作ること。それこそが、集団を維持する力なのだと思います。
PとMは、別々のものではなく、支え合っている
今回の日本代表をPM理論で見ると、PとMは、決して別々のものではありませんでした。むしろ、MがあるからPが機能し、PがあるからMが精神論で終わらない、という関係になっていたのです。
Pだけが強い組織は、短期的には成果が出ても、けがや離脱、不調や世代交代に弱くなります。逆に、Mだけが強い組織は、雰囲気はいいけれど、ここぞの場面で勝ち切る力に欠けてしまいます。
日本代表の強さは、海外で鍛えられた実力や選手層という「P」と、長友選手やコーチ陣、そして崩れない一体感という「M」が、お互いを支え合っているところにありました。
Mは、ただの「優しさ」ではありません。Pを落とさないための、土台なのだと思います。
素人の私が、日本代表から学んだこと
サッカーの戦術はやっぱりよくわからないままですが、組織を見る目線では、たくさんのことを教えてもらった気がします。
会社という組織に置き換えても、ヒントはたくさんありました。
- エース営業が抜けても、売上が止まらない
- ベテランが、権威としてではなく、安心感として機能している
- 苦しい局面でも、チームが下を向かずに前に進める
- 誰が担当しても、一定の品質で仕事ができる
こうした状態は、特別な才能がそろっているから生まれるのではなく、「成果を出す力」と「崩れない空気」を、両方そろえようとする意識から生まれるのだと、改めて感じました。
強いチームとは、優秀な人がいるチームではなく、優秀な人が抜けても前に進めるチーム。そして、勝ち続ける組織には、成果を出す仕組みと、成果を出し続ける空気の、両方があるのだと思います。
さいごに
PM理論は、成果を出すことだけでも、良い雰囲気をつくることだけでも、強い組織にはならないと教えてくれます。
2026年W杯の日本代表から感じたのは、目標達成に向けた「P(Performance)」と、チームを支える「M(Maintenance)」が高いレベルで両立していることでした。だからこそ、主力が抜けても、苦しい時間帯があっても、チームとして戦い続けられるのでしょう。
企業も同じです。エースに頼り切る組織ではなく、誰が担当しても成果を出せる仕組みをつくること。そして、困難な状況でも前を向ける組織文化を育てること。その両方がそろって初めて、持続的に成果を生み出せる「強い組織」になります。
日本代表の戦いは、スポーツの枠を超えて、これからの組織づくりやリーダーシップを考える多くの示唆を与えてくれました。ブラジル戦も、日本らしいチームワークで最高の試合を見せてくれることを期待しています。





















