先日、『月曜から夜ふかし』で「育成キャンセル界隈」という言葉が取り上げられていました。
後輩からどう思われるか分からない。必要な注意でも、ハラスメントだと受け取られるかもしれない。時間をかけて育てても、すぐに辞めるかもしれない。だったら、最低限の仕事だけ伝えて、それ以上は踏み込まない。そんな状態を表した言葉です。
管理職の立場で考えると、気持ちは分かります。自分の仕事も終わっていないなかで、相手に合わせて言葉を選び、関係が悪くなるリスクまで背負う。それでも部下が変わらなければ、「もう何も言わない方が楽だ」と思うこともあるでしょう。
ただ、この話を「最近の若手は注意されることに慣れていない」「ハラスメントへの配慮が行きすぎた」で終わらせるのは、少し違う気がします。
育成が急に面倒な仕事になったのではなく、これまで育成を成立させていた社会の前提が変わったのではないでしょうか。
以前の日本企業では、一つの会社で長く働くことが今より当たり前でした。会社は時間をかけて社員を育て、社員もその会社のなかで一人前になる。良くも悪くも、お互いから簡単には逃げられない関係が、上司が部下へ踏み込む理由になっていました。
今は転職を選びやすくなり、仕事と私生活を分ける意識も強くなりました。ハラスメントへの理解が進み、リモートワークやAIによって、上司へ聞かなくても一人で進められる仕事も増えています。これらは基本的に社会の発展です。昔の関係へ戻せばよいとは思いません。
だからこそ、長く一緒に働くという暗黙の前提に代わるものが必要です。本人は何を目指すのか。会社は何を期待するのか。次にどこまで背伸びするのか。その挑戦を上司と会社はどう支えるのか。これからの育成は、こうしたことを言葉にして合意しなければ成立しません。
この記事では、「育成キャンセル」がなぜ起きるのかを社会とAIの変化から考えたうえで、人を育てることを管理職個人の負担にしない方法を整理します。
「育成キャンセル界隈」とは
「育成キャンセル」とは、部下に必要な注意やフィードバックを伝えず、最低限の業務指示だけで関係を終わらせる状態を指します。ただし、単に「育成が面倒だから放置する」という話だけではありません。
指摘した内容よりも、言い方の一部を切り取られて問題になるかもしれない。時間をかけても行動が変わらず、そのうえ退職されるかもしれない。部下の成果には責任を持つ一方で、どこまで踏み込めばよいかは曖昧です。こうした状況が重なると、管理職にとっては、何も言わずに自分で修正した方が短期的には楽になります。
実際、株式会社ライトワークスが20代社員443人と、部下の育成・指導を担当する30〜50代の管理職443人を対象に行った調査では、管理職の63.3%が、ハラスメントと受け取られることを懸念して、本来必要な指導や注意をためらった経験があると答えています。また、18.1%は意識的に、43.1%は気づかないうちに「育成キャンセル」をしていたと回答しました。
ただ、指導を控える最大の理由はハラスメントへの不安ではありません。「何度指導しても改善が見込めず、効果がないと感じた」が55.4%で最も多く、「ハラスメントと受け取られるリスクが高い」は34.0%でした。
ここから分かるのは、育成キャンセルには少なくとも三つの状態が混ざっているということです。
- 何をどこまで伝えてよいか分からない
- 伝えても変わらないと諦めている
- 自分の仕事で手いっぱいで、育成へ時間を使えない
原因が違えば、必要な対応も変わります。伝え方が不安な管理職には、具体的な基準を共有してあげることが必要です。何度伝えても変わらないのであれば、本人の意思や目標まで戻る必要があります。時間がないのであれば、研修で話し方だけを学んでも解決しません。業務量や、上位管理職・人事との役割分担を見直すべきです。
育成キャンセルを「上司の怠慢」と決めつけると、この違いが見えなくなります。そして、もう一つ確認したいのが、若手社員は本当に指導そのものを拒んでいるのかという点です。
出典:株式会社ライトワークス「ハラスメントと育成キャンセルに関する意識調査」(2026年9月26日確認)
若手は本当に「何も言われたくない」のか
若手社員が拒んでいるのは、必ずしも指導そのものではありません。
先ほどの調査では、若手社員の78.2%が「ハラスメントにならない範囲で、上司から率直な指導を受けたい」と回答しています。その一方で、63.6%は、上司が自分への指導を控えていると感じていました。この二つの数字を並べると、若手は必要な指導を求めているのに、上司は必要な指導まで控えているというすれ違いが見えてきます。
若手社員が求めているのは、人格を否定されたり、人前で感情的に叱られたりすることではありません。自分の仕事のどこが期待に届いていないのか、どう直せば次はうまくいくのかを、尊重のある形で具体的に知ることです。同じ調査でも、落ち着いた口調で個別に改善点を伝える行為は、若手・管理職の双方からハラスメントとは捉えられにくい一方、人前での強い叱責や感情的な言い方は、ハラスメントと受け止められやすい傾向がありました。
つまり、「厳しいことを言うか、何も言わないか」の二択ではありません。少なくとも、次の三つは分けて考える必要があります。
- 内容:期待する水準と、現在の仕事との差を具体的に伝える
- 方法:人格ではなく、観察できる行動や成果物を扱う
- 場所:人前ではなく、落ち着いて話せる場を選ぶ
もちろん、現状のままを望む人や、成長よりも別の価値を優先したい人もいます。本人が望んでいない成長まで、会社が一方的に押し付けることはできません。だからこそ必要なのは、「若手は打たれ弱い」と世代論で片づけることではなく、本人が何を望み、仕事上どこまでを目指すのかを確かめることです。
育成が難しくなった理由は、若手が一斉に指導を拒むようになったからではありません。これまで言葉にしなくても成立していた、育てる側と育てられる側の前提が成立しにくくなったからです。
なぜ「人を育てること」は面倒な仕事になったのか
昔の育成は、逃げにくい関係の上に成り立っていた
以前の職場で濃い指導が成り立っていた背景には、長く同じ会社で働くことを前提とした雇用や、社内での昇進を中心に考えるキャリア、仕事と生活を今ほど明確に分けない価値観がありました。
会社を辞める選択肢が今より少なく、上司も部下も簡単には関係から離れられない。時間をかけて育てた人材が、将来も組織の中で活躍する見込みが高い。そうした環境では、上司が育成に手間をかける合理性があり、部下も指導を受け入れる必要がありました。
当時の育成は、個々の上司が進んで引き受けたから成立したのではありません。「この会社で働き続ける」「そのために必要なことを上司が教える」という暗黙の合意に加え、会社も社員も簡単には関係から離れられない社会・雇用環境が、その負担を引き受けさせていました。
これは、昔の育成の方が優れていたという話ではありません。逃げ場の少ない関係は、熱心な指導と過度な介入の境目も曖昧にします。それでも、育成に時間と労力をかける理由が、今より共有されやすかったことは確かです。
社会の発展が、育成の暗黙の前提を弱くした
現在は、転職が現実的な選択肢になり、仕事とプライベートの境界も尊重されるようになりました。多様な価値観が許容され、ハラスメントへの理解が進んだことで、「上司なのだから部下の人生に踏み込んでよい」という考え方も通用しなくなっています。
コロナ禍を機に広がったリモートワークも、職場によっては関係のつくり方を変えました。隣に座っていれば自然に見えていた迷いやつまずきが、オンラインでは表に出にくい。雑談や観察から始まっていた小さなフィードバックも、意識して場を設けなければ起きません。
こうした変化の多くは、働く人に選択肢をもたらした前進です。一方で、かつて育成を支えていた暗黙の前提まで弱くしました。管理職から見れば、時間をかけて育てても転職するかもしれない。本人から見れば、会社が求める成長と自分の望む人生が一致するとは限らない。双方にとって、踏み込んで育成する理由を作らないとできなくなったのです。
以前の暗黙の了解
長く働く前提
逃げにくい関係
指導を受け入れる必要
社会・働き方の変化
転職と多様な価値観
リモートワーク
ハラスメント意識とAI
求められる関わり方
何を目指すか
なぜ挑戦するか
会社は何を支えるか
だからといって、昔のような家族主義に戻ればよいわけではありません。見直すべきなのは、「長くいるのだから、育てるのも育てられるのも当然」という暗黙の合意が切れたあとに、それに代わる仕組みをつくってこなかったことです。
だから今の育成には、以前よりも明確な意味付けする力が要ります。この力を身につけると、本人の選択肢はどう広がるのか・この挑戦がチームや顧客への価値とどうつながるのか・会社はどこまで機会と支援を用意するのか等、個人の意思と会社での仕事を接続することが可能になります。
「自分の子どもなら叱るのに、部下なら叱らない」のは合理的な選択
例えばですが部下には叱らない方であっても、自分の子どもが同じ失敗を繰り返していたら、嫌われる可能性があっても注意するでしょう。ただし部下であれば必要以上には何も言わない。この違いは、どの程度の時間を共に過ごすことになるのか?という前提が異なり、結果的に対応も違うのは当然のことです。
親子の関係では、子どもの将来に長く関わることや、成長を支える責任が比較的はっきりしています。注意した瞬間に関係を解消されるわけでもありません。一方、上司と部下は雇用契約の中で一時的に組まれた関係です。異動や転職で終わる可能性があり、踏み込んだ指導には関係悪化やハラスメントと受け取られるリスクもあります。管理職が慎重になるのは、ある意味で合理的です。
ここで問われるのが、育成に対する当事者意識です。
ただし、当事者意識とは、上司が部下の人生を家族と同様に背負うということではありません。本人の価値観へ過度に介入したり、家族のような献身を求めたりすることでもありません。業務上必要な成長について、「伝えたので、あとは本人次第」で終わらせず、機会の渡し方、フィードバックの仕方、周囲の支援まで自分たちの責任として考えることです。
たとえば、報告の質が上がらない部下に「もっと分かりやすく」と繰り返すだけでは、育成したことになりません。良い報告の基準を示したか。練習できる小さな仕事を渡したか。提出後すぐに、どこが良くて何が不足しているかを返したか。改善できる条件を整えたうえで、本人にも取り組む意思を確認したか。そこまで含めて育成です。
同時に、部下も独立した大人です。本人に成長する意思がなく、会社が求める役割とも合意できないのであれば、上司だけが部下に対する悩みを抱えるべきではありません。役割の見直しや配置、評価の話へ進める必要があります。
家族のように叱ることを復活させるのではなく、仕事上の責任の範囲を明確にし、その範囲では互いに逃げない。この状態をつくることが、これからの当事者意識ではないでしょうか。
AIに聞けば一人でも成長できる時代に、人が人を育てる意味は何か
AI時代に人が育てる意味は、知識を教えることではなく、本人が挑戦する課題とその意味を一緒に決め、機会と責任を引き受けることにあります。
分からない言葉を調べる。文章の下書きをつくる。自分の考えを整理する。人には言いにくい悩みを、まずAIに投げてみる。これまで先輩や上司に頼っていたことの一部を、個人が好きな時間に、心理的な負担なく進められるようになりました。
OpenAIが消費者向けChatGPTの150万件の会話を分析した研究では、利用の49%が助言や情報を求める「Asking」、11%が内省・探索・遊びなどの「Expressing」に分類されています。また、利用の約70%は仕事以外の用途でした。この調査はAIが単なる作業代行ではなく、考えたり、迷いを整理したりする相手にもなっていることを示しています。
個人主義という前提に立てば、AIを使って一人で学び、試し、仕事を進められる範囲はこれからも広がるでしょう。知識を渡すだけ、文章を添削するだけの育成であれば、人間の上司でなければならない理由は弱くなります。
一方で、AI活用が進んでいる企業ほど、人を採用し育成する動きがみてとれます。NewsPicksがIndeed Recruit Partnersの調査をもとに紹介した記事では、日本のAI活用先進企業の88.1%が新卒・ジュニア層の採用を減らしておらず、約半数はむしろ若手採用を増やしていました。少なくとも、AIを活用する企業が、若手を一律に不要と見なしているわけではないことは分かります。
つまりAIでできることが増えるほど、会社は「人に何を期待するのか」という輪郭がクリアになっていきます。正解らしい文章をつくることではなく、顧客や現場の文脈を読み、問いを立て、誰かと合意し、結果に責任を持つこと。上司の役割も、すべてを教えることから、次のような仕事へ移っていきます。
- どの課題に挑戦するかを決める
- なぜその挑戦が必要かを本人と共有する
- 少し背伸びが必要な機会を渡す
- 現場の文脈に照らして、成果へフィードバックする
- 失敗したときに、組織として引き受ける範囲を決める
AIは、方法を提案することはできます。しかし、その人に今どの仕事を任せるのか、なぜそれを任せるのか、失敗の責任を誰が持つのかまでは決められません。
だから、AI時代に人が人を育てる意味はなくなるのではなく、むしろ輪郭がはっきりします。知識を与えることよりも、本人の意思を問い、背伸びする目標を合意し、挑戦できる場をつくること。その設計こそが、人に残る育成の価値です。
出典:OpenAI「How people are using ChatGPT」/NewsPicks「【実例集】就活生必見。『AI使い倒し企業』はここだ」(2026年9月26日確認)
育成キャンセルを防ぐ「4つの合意」
育成キャンセルを防ぐには、本人の意思、現在地、背伸び目標、支援の4つを、本人・上司・会社の間で合意する必要があります。
管理職がもっと勇気を出して、厳しく言えばよいというわけではありません。反対に、本人の負担を減らすために、できる仕事だけを任せ続けても育成にはなりません。
私は、育成とは一言でいうと「できなかったことが、できるようになること」だと考えています。できなかったことをできるようにするには、今の自分より少し背伸びをする必要があります。やったことのない仕事を任される。自分では十分だと思っていた成果物に修正を求められる。避けてきた課題と向き合う。背伸びは当然楽なわけはありません。
だから、育成を続けるには「成長のためだから頑張って」で済ませず、本人・上司・会社の間で、少なくとも次の4つを合意する必要があります。
本人の意思
半年後、何を一人でできるようになっていたいか。
現在地
今できることと、まだ一人では難しいことは何か。
背伸び目標
次に何をできるようにするか。なぜ今、その挑戦が必要か。
支援する
どの機会・権限・フィードバック・振り返りを用意するか。
| 合意すること | 話す内容 | 合意がないと起きること |
|---|---|---|
| 1.本人の意思 | 本人は何を目指したいのか。この仕事で次に何をできるようになりたいのか。 | 会社の期待が、一方的に増やされた負担に見える。 |
| 2.現在地 | 今できることと、まだ一人では難しいことは何か。 | 難しすぎる丸投げか、成長しない単純作業になる。 |
| 3.背伸び目標 | 次に何をできるようにするのか。なぜ今、その挑戦が必要なのか。 | 本人は苦しさの意味を持てず、上司は指摘する基準を失う。 |
| 4.支援する | 上司と会社は、機会・権限・フィードバック・振り返りをどう用意するのか。 | 挑戦が本人任せになり、失敗した途端に育成が止まる。 |
1.本人の意思
最初に確かめたいのは、本人が何を目指しているかです。ただし、「将来どうなりたい?」と聞くだけでは、話がぼんやりしやすくなります。
「今の仕事で、次に任されたいことはある?」「半年後、何を一人でできるようになっていたい?」と、目の前の役割に近いところから聞いた方が話しやすいでしょう。同時に、上司も「この役割を任せたい」「ここまでできるようになってほしい」と期待を伝えます。本人の希望だけを聞くことが対話ではありません。会社の期待も出したうえで、重なる部分と、重ならない部分を確かめます。
2.現在地
次に、本人が今できることと、まだ難しいことを分けます。ここを曖昧にすると、挑戦ではなく丸投げになります。
例えば、報告書の内容が浅いとします。そもそも何を調べ、どの数字を使うか知らないのであれば、必要なのは知識です。基準を教えるか、資料やAIを使って調べる方法を示せます。一方、基準は分かっているのに、状況に応じて情報を選べないのであれば、足りないのは経験です。まず本人に作ってもらい、どこで判断を誤ったかを一緒に振り返る必要があります。
知識不足と経験不足を分けないまま「もっと考えて」と伝えても、本人は何を変えればよいか分かりません。上司も、何度言っても変わらないと感じやすくなります。
3.背伸び目標
背伸び目標は、今の仕事をただ増やすことではありません。「次は会議資料も作って」ではなく、「次回は、数字を並べるだけでなく、変化の理由を一つ説明できる状態まで任せる」というように、できるようになることを決めます。
ここでは、なぜその挑戦が必要なのかも共有します。その資料を作れるようになると、顧客への提案を任せられる。数字の変化を説明できれば、次の施策を自分で選べる。挑戦の先にある役割が見えれば、目の前の負荷は同じでも受け止め方が変わります。
もちろん、意味を説明すれば何でも引き受けてもらえるわけではありません。本人の意思と会社の期待が合わないこともあります。その不一致を隠したまま「成長のため」と押し切らず、どこまでなら合意できるかを話すことが必要です。
4.支援する
最後に決めるのは、上司と会社が何を支えるかです。仕事を任せる機会、本人が判断できる権限、途中で受けられるフィードバック、振り返る時間。この4つがないまま高い目標だけを渡すのは、育成ではなく本人任せです。
例えば、初めて顧客提案を任せるのであれば、提案前に一度だけ構成を確認するのか、最初の商談には上司も同席するのか、終わった後に何をいつ振り返るのかが大切です。失敗したときに仕事を取り上げるのではなく、次に任せる範囲を調整すれば、失敗を一度で挑戦終了の合図にせず、再挑戦につなげられます。
この4つは、一度決めたら終わりではありません。本人の意思も、任される役割も、できることも変わります。1on1や目標設定の場で合意を更新し、必要なフィードバックを率直に返す。そこで初めて、育成は「上司が部下を何とかする仕事」ではなく、本人・上司・会社が一緒に背伸びを支える仕事になります。
管理職個人に任せないために、会社が整えること
本人と上司が育成の意味や目標に合意しても、それだけで育成が続くとは限りません。プレイングマネジャーが自分の成果も求められるなかで、育成だけを個人の熱意に任せれば、忙しい時期ほど後回しになります。
育成キャンセルを防ぐには、上司に気持ちの面での覚悟を説く前に、会社が「どこまで踏み込み、どこから組織で引き受けるか」を目線合わせする必要があります。
指導してよいこと、してはいけないことを具体化する
「ハラスメントに気をつける」という抽象的な注意だけでは、慎重な管理職ほど何も言えなくなります。必要なのは、業務上のフィードバックと、人格への攻撃を具体例で分けることです。
たとえば、「この報告書では判断に必要な数字が不足している。次回は売上・原価・前年差を入れてほしい」は、成果物と期待水準を扱っています。一方で、「だから君は仕事ができない」は、人格を評価しています。事実、期待、影響、次の行動の順に伝える。人前で感情的に叱らない。私生活や価値観に必要以上に踏み込まない。こうした基準を、全員の共通認識にしておくことです。
判断に迷うケースを管理職が相談できる窓口も必要です。個々の上司に「リスクを取って指導してください」と求めるだけでは、育成キャンセルは減りません。
育成に使う時間と権限を渡す
育成には、説明、観察、フィードバック、再挑戦の時間がかかります。部下に任せるより自分でやった方が早いとなってしまえば、できなかったことができるようにはなりません。
それにもかかわらず、短期の数字だけで管理職を評価し、業務量を減らさず、失敗する余地も与えなければ、育成しない方が合理的になります。定期的な対話の時間を業務として確保する。小さく任せられる案件を用意する。失敗時にどこまで管理職が判断でき、どこから上位者や人事が支援するのかを決める。育成責任と同時に、必要な権限を渡すことが欠かせません。
管理職研修でフィードバックの方法を学ぶことは有効です。ただし、時間も権限もない状態では、学んだ方法を使えません。育成力の不足に見える問題が、実は仕事の設計の問題であることも少なくありません。
評価や1on1で合意を更新する
本人の意思も、会社が求める役割も変わります。一度決めた目標を固定せず、1on1や評価の場で定期的に更新します。
ここで確認したいのは、今の役割で求められていることは何か。本人はどの力を伸ばしたいのか。次の期間に、どの仕事で背伸びするのか。上司はどんな機会と支援を用意するのか。うまくいかなかった場合に、何を見直すのか。これらを具体的に残します。
一方で、合意できない状態を放置しないことも大切です。本人が望む働き方と、会社が必要とする役割が一致しない場合、それは技術で解決できる話ではありません。配置や職務、評価まで含めて話し合う必要があります。
育成を上司と部下の関係性に閉じず、組織として重要なアジェンダとして定期的に対話する時間を設ける。そうして初めて、育成は「管理職個人が抱える仕事」から、「事業に必要な仕組み」へ変わります。
まとめ|育成を、暗黙の前提から合意へ変える
育成を暗黙の前提任せにするのではなく、一定の明確な基準を合わせることが、育成キャンセルを防ぐ出発点です。
育成が面倒な仕事になったのは、管理職が冷たくなったからでも、若手が何も言われたくなくなったからでもありません。転職、働き方の多様化、仕事と私生活の境界、ハラスメントへの理解、リモートワーク、そしてAI。社会が発展し、個人の選択肢が増えるなかで、かつて育成を支えていた暗黙の前提が通用しにくくなった結果です。
育成とは、できなかったことができるようになることです。そのためには、今の自分を少し越える「背伸び」が要ります。当然、楽なことばかりではありません。だからこそ、会社や上司が一方的に目標を押し付けるのではなく、本人の意思を問い、背伸びする目標と、その意味、支援する側の責任を合意する必要があります。
これからの育成で大切なのは、仕事上の期待と責任を言語にし、対話の機会を継続的に持ち続けることです。この転換ができれば、「人を育てること」は、避けたい面倒から互いの選択肢を広げる仕事へ変えられるのではないでしょうか。





















