2026年度の最低賃金について、47都道府県の答申が出そろいました。全国加重平均は1,177円。前年度から56円の引き上げとなり、2026年10月1日から12月2日にかけて、都道府県ごとに順次適用される予定です。
最低賃金を下回る従業員の給与や求人票を発効日前に修正する対応に追われている担当者の方も、多くいらっしゃるのではないでしょうか。ただ、実際の人事支援の現場で話を聞いていると、問題はそれだけでは終わりません。
「新人の募集時給を上げたら、何年も働いているパートさんと同じ時給になってしまった」
「フルタイムで残業もしているパートさんは、月収だけを見ると正社員とほとんど変わらない」
こうした声を、お客様から最近よく伺います。既存のアルバイト・パートさんの昇給が10円、20円程度にとどまる一方、今年の最低賃金は都道府県によって54〜65円上がります。そのため、これまで少しずつ設けてきた給与差が、一度の改定でほとんどなくなってしまうのです。
最低賃金対応では、対象者の給与と求人票を直すだけでなく、新人と既存のパートさん、フルタイムのパートさんと正社員の仕事内容・習熟度・責任に見合う賃金差が残っているかまで、本来は確認する必要があります。
この記事では、2026年度の全国の最低賃金と発効予定日を一覧で紹介したうえで、企業が確認すべき対象者と計算方法、採用条件、社内の給与バランスをどう見直すかまで解説します。
2026年度の最低賃金は全国加重平均1,177円
2026年度の地域別最低賃金は、47都道府県の答申を集計すると全国加重平均1,177円となります。前年度から56円の引き上げです。ただし、会社が給与計算に使うのは全国平均ではなく、従業員が働く事業場に適用される最低賃金です。
2026年度改定のポイント
厚生労働省が2026年9月3日に公表した答申状況では、引上げ額は54〜65円。発効予定日は2026年10月1日から12月2日まで、都道府県によって異なります。
以下は2026年9月25日に確認した答申段階の一覧です。発効予定日は異議申出の状況などにより変更される可能性があるため、給与へ反映する際は管轄労働局の確定した公示も確認してください。
全国47都道府県の最低賃金・引上げ額・発効予定日一覧
各地域の答申額と発効予定日は次のとおりです。新しい金額の適用前には、改定前の最低賃金が適用されます。
| 都道府県 | 答申額(円/時) | 引上げ額(円) | 発効予定日(2026年) |
|---|---|---|---|
| 北海道 | 1131 | 56 | 10/1 |
| 青森 | 1090 | 61 | 10/29 |
| 岩手 | 1090 | 59 | 12/1 |
| 宮城 | 1098 | 60 | 10/1 |
| 秋田 | 1090 | 59 | 10/14 |
| 山形 | 1092 | 60 | 10/30 |
| 福島 | 1094 | 61 | 10/16 |
| 茨城 | 1136 | 62 | 10/18 |
| 栃木 | 1125 | 57 | 10/1 |
| 群馬 | 1120 | 57 | 10/3 |
| 埼玉 | 1196 | 55 | 10/1 |
| 千葉 | 1195 | 55 | 10/1 |
| 東京 | 1280 | 54 | 10/1 |
| 神奈川 | 1279 | 54 | 10/1 |
| 新潟 | 1108 | 58 | 10/1 |
| 富山 | 1119 | 57 | 10/1 |
| 石川 | 1113 | 59 | 10/3 |
| 福井 | 1112 | 59 | 10/4 |
| 山梨 | 1113 | 61 | 11/1 |
| 長野 | 1117 | 56 | 10/2 |
| 岐阜 | 1121 | 56 | 10/1 |
| 静岡 | 1154 | 57 | 10/15 |
| 愛知 | 1195 | 55 | 10/1 |
| 三重 | 1143 | 56 | 10/1 |
| 滋賀 | 1136 | 56 | 10/3 |
| 京都 | 1180 | 58 | 11/16 |
| 大阪 | 1231 | 54 | 10/1 |
| 兵庫 | 1172 | 56 | 10/1 |
| 奈良 | 1107 | 56 | 10/4 |
| 和歌山 | 1101 | 56 | 10/3 |
| 鳥取 | 1090 | 60 | 10/3 |
| 島根 | 1092 | 59 | 10/10 |
| 岡山 | 1104 | 57 | 10/2 |
| 広島 | 1141 | 56 | 10/11 |
| 山口 | 1101 | 58 | 10/8 |
| 徳島 | 1103 | 57 | 11/1 |
| 香川 | 1092 | 56 | 10/1 |
| 愛媛 | 1093 | 60 | 11/1 |
| 高知 | 1086 | 63 | 10/29 |
| 福岡 | 1114 | 57 | 10/4 |
| 佐賀 | 1095 | 65 | 11/15 |
| 長崎 | 1087 | 56 | 11/2 |
| 熊本 | 1092 | 58 | 12/1 |
| 大分 | 1096 | 61 | 11/1 |
| 宮崎 | 1085 | 62 | 10/24 |
| 鹿児島 | 1090 | 64 | 10/25 |
| 沖縄 | 1086 | 63 | 12/2 |
発効日は全国一律ではない
東京都と大阪府は10月1日、京都府は11月16日、沖縄県は12月2日が発効予定日です。複数の都道府県に工場や店舗がある会社は、拠点ごとに金額と切替日を管理する必要があります。
新しい最低賃金を適用する基準は、給与の支給日ではなく発効日以降に働いた分です。
最低賃金を直す前に、対象者と計算方法を確認
最低賃金の確認は、時給制のアルバイト・パートさんだけでなく、日給制・月給制の従業員にも必要です。給与台帳の総支給額ではなく、最低賃金との比較に含められる賃金を時間額へ換算します。
雇用形態にかかわらず最低賃金は適用される
地域別最低賃金は、原則として年齢や雇用形態にかかわらず適用されます。試用期間中という理由だけで最低賃金を下回る時給にすることもできません。減額には労働局長の許可が必要です。
また、特定の産業には「特定最低賃金」があり、地域別最低賃金と両方が適用される場合は高い方を使います。製造業では、所在地の地域別最低賃金を見ただけで確認を終えないようにしてください。派遣社員は派遣先に適用される最低賃金が基準です。
時給・日給・月給の確認方法
時給制は対象となる時間給をそのまま比較します。日給制は1日の所定労働時間、月給制は1か月平均所定労働時間で割り、時間額に直します。
| 給与形態 | 時間額への換算 | 仮定の計算例 |
|---|---|---|
| 時給 | 対象となる時間給をそのまま比較 | 時給1,250円→1,250円 |
| 日給 | 対象賃金÷1日の所定労働時間 | 日給10,000円÷8時間→1,250円 |
| 月給 | 対象賃金÷1か月平均所定労働時間 | 月給200,000円÷160時間→1,250円 |
月給の計算では、その月の実出勤時間で割るのではありません。例えば年間所定労働時間が1,920時間なら、1か月平均は160時間です。年間休日や勤務時間が違えば結果も変わるため、自社の年間勤務カレンダーと雇用条件から算出します。
計算に含める賃金と含めない賃金
基本給に加え、通常の労働に対して毎月支払う職務手当などは比較対象になります。一方、通勤手当や家族手当を足して最低賃金を超えていても、それで要件を満たすわけではありません。
比較から除くのは、結婚手当など臨時の賃金、賞与など1か月を超える期間ごとの賃金、時間外・休日労働に対する賃金、深夜割増部分、精皆勤手当・通勤手当・家族手当です。固定残業代を含む月給も、固定残業代を除いて判定します。
総支給額が高く見えても、対象外の手当を除くと最低賃金を下回る場合があります。月給の低い正社員や、固定残業代の割合が大きい給与設計も点検対象です。
発効日をまたぐ求人・給与計算で注意すること
給与計算期間の途中に発効日がある場合は、発効日前後を分けて計算します。例えば毎月20日締めで10月1日に改定されるなら、9月21〜30日と10月1〜20日では適用する最低賃金が異なります。
採用面接や契約が発効前でも、実際に働く日が発効後であれば新しい最低賃金以上の給与が必要です。入社日が先の求人は、掲載時点だけでなく就業開始時点の金額まで確認します。
最低賃金の引き上げで起きる「2つの給与差の縮小」
最低賃金が上がったとき、最初に対応しなければならないのは、新しい最低賃金を下回る従業員の給与です。ただし、対象者だけを引き上げると、社内では別の問題が起こる場合があります。
一つは、新人と先輩パートさんの時給差がなくなること。もう一つは、フルタイムで働くパートさんと正社員の月収差が小さくなることです。
新人と先輩パートさんの差が縮む
既存スタッフの昇給が小さい場合
時給差が合っているか
パートさんと正社員の差が縮む
パートさんがフル勤務・残業をする場合
責任・賞与を含む処遇を比べる
差が小さいことだけで判断せず、仕事と責任に見合う処遇かを確認します。
新人と先輩パートさんの時給差がなくなる
冒頭で触れたように、お客様からは、既存のアルバイト・パートさんの昇給が1回につき10円、20円程度という話をよく伺います。毎年少しずつ昇給してきても、先輩スタッフの時給が最低賃金より数十円高い水準にとどまることがあります。
一方、2026年度の最低賃金は全国加重平均で56円上がります。例えば、前年の最低賃金より20円高い時給で働いていた人は、新しい最低賃金が適用されると、そのままでは最低賃金を下回ります。新人の募集時給とともに既存スタッフも新しい最低賃金まで引き上げれば、両者の時給は同じです。
ここで問題なのは、単に「先輩なのだから高い給与にするべき」という話ではありません。新人と先輩が同じ仕事を担い、同じ範囲の判断をしているのであれば、同じ時給でも不自然ではないでしょう。
しかし、実際には先輩スタッフが複数の工程を担当し、新人へ仕事を教え、忙しい時間帯の判断まで任されていることがあります。それでも新人と同じ時給であれば、仕事や責任の違いが給与に反映されていないことが、不満につながる可能性があります。
このときに明確にしたいのは、勤続年数の差そのものではなく、次のような仕事や責任の違いです。表は担当業務に差がある場合の例です。
| 比較する項目 | 新人 | 先輩パートさん |
|---|---|---|
| 担当できる仕事 | 決められた一部の業務 | 複数工程や例外対応も担う |
| 教育 | 教わる側 | 新人へ仕事を教える |
| 判断 | 判断が必要な場合は社員へ確認する | 一定範囲を自分で判断する |
| 給与への反映 | 入社時の基本時給 | 習熟度や役割に応じた加算を検討する |
先輩スタッフに違う仕事や責任を任せているなら、「長く働いているから」ではなく、できる仕事・教育・判断の範囲を言葉にして、時給差の根拠を作る必要があります。
フル勤務・残業をするパートさんと正社員の月収差が小さくなる
もう一つ、お客様から聞くのが「フルタイムのパートさんは、正社員と月給が変わらなくなってきた」という声です。
東京都の2026年度の最低賃金の答申額は1,280円です。仮に1日8時間、月20.4日働くと、月の給与は約20万8,900円になります。さらに法定時間外労働を月10時間行うと仮定した場合、25%の割増賃金を加えた月収は約22万4,900円です。
もちろん、賞与や福利厚生、雇用条件まで含めれば、正社員とパートさんの待遇が同じとは限りません。ただ、毎月の給与だけを見ると、正社員とほとんど変わらない会社は出てきます。
同じ労働時間で比べても給与差が小さく、その正社員が、通常業務に加えてシフト作成、新人教育、クレーム対応、欠員時の調整まで担っている場合、責任の違いに給与差が見合わなくなることがあります。正社員からすれば、「これだけ責任が違うのに、給与はほとんど変わらない」と不満に感じても不思議ではありません。
反対に、パートさんと正社員が実質的に同じ仕事を担っているなら、雇用区分だけを理由に大きな差を設けることにも無理があります。見るべきなのは呼び方ではなく、誰が何を任され、どこまで判断し、結果に責任を持っているかです。
対象者だけを上げても、全員を同額上げても問題は残る
最低賃金を下回る人だけ引き上げれば、人件費の増加は抑えられます。ただし、新人と先輩スタッフの時給差は縮みます。
差を維持するために既存スタッフ全員を同じ金額だけ引き上げれば、今度は人件費全体が大きく増えます。さらに正社員の給与まで連動して見直すと、影響は一層広がります。
そのため、「誰を何円上げるか」から考え始めると、判断が難しくなります。先に整理したいのは、次の3点です。
- ①それぞれが担当している仕事
- ②習熟度によって任せている判断の範囲
- ③新人教育や現場管理など、追加で担っている責任
仕事と責任を整理したうえで、入社時の基本時給、習熟度に応じた昇給、教育やリーダー業務に対する役割加算を分けます。最低賃金が再び上がっても、どの部分を連動して直すのか判断しやすくなります。
最低賃金対応は、給与表の一番下だけを書き換える作業ではありません。新人・先輩パートさん・正社員の仕事と責任を並べ、給与差の理由を説明できる状態にすることが大切です。
企業が進めたい4つの対応
期限までに必要な給与修正を進めながら、一人ひとりの改定後の時給と、会社全体の人件費がいくらになるかを出しておきましょう。給与担当者だけでは仕事の違いを判断しにくい場合もあるため、現場責任者には担当業務の確認、経営者には予算と見直し範囲の決定を依頼します。
1.発効日前に対象者・求人・契約を洗い出す
まず事業場ごとに、適用する最低賃金、発効日、従業員の現在の対象賃金、改定後との差額を一覧にします。給与台帳に加え、試用期間の賃金、日給・月給、募集時給の下限も確認対象です。
対象者が決まったら、給与システム、雇用条件を示す書面、賃金規程、掲載中の求人で直す箇所を特定します。更新担当と期限を決め、実際の給与計算前に発効日前後の勤怠を使って試算すると、切替漏れを見つけやすくなります。
制度全体の見直しに時間がかかっても、最低賃金への対応は先に実施します。従業員への説明も、今回の法定対応と、その後に検討する昇給・役割加算を分けると伝わりやすいです。
2.既存スタッフも調整する場合の人件費を試算する
予算は、新しい最低賃金を下回る人だけ直す案と、習熟度や役割に応じて既存スタッフも調整する案を比べます。月額だけでなく、改定後の条件が1年間続いたときの負担まで出します。
例えば、20人の時給を60円上げ、1人あたり月100時間働くと仮定すると、基本の賃金増加は月12万円、年間144万円です。このほかに、該当する社会保険料等の事業主負担や、単価変更に伴う残業代の増加も加わります。
全員を一律に上げる案しか用意しないと、予算が合わない時点で検討が止まってしまいます。新人教育を担う人、複数工程を担当する人など、仕事の違いが確認できた対象ごとに費用を出せば、優先順位を決められます。
3.新人・先輩パートさん・正社員の仕事内容と責任を並べる
処遇差の点検では、雇用区分ごとの代表的な仕事を横に並べます。下の表は、食品工場を想定した記入例です。実際の担当範囲に置き換えて使ってください。
| 比較項目 | 新人パートさん | 先輩パートさん | 正社員 |
|---|---|---|---|
| 担当業務 | 包装工程の一部 | 包装・検品、工程間の応援 | 担当工程の運営、作業配置 |
| 教育 | 手順を教わる | 新人へ作業手順を教える | 教育計画と習熟状況を管理する |
| 判断・責任 | 異常時は報告する | 定めた範囲で一次対応する | 停止・再開の判断や関係部署との調整を担う |
| 給与の比較 | 基本時給、所定時間、残業代 | 基本時給、習熟・役割加算、所定時間、残業代 | 基本給・手当、所定時間、残業代、賞与 |
正社員の残業なしの月給と、パートさんの残業込みの月収だけを比べると、労働時間の違いが混ざります。まず通常勤務に対する賃金を時間額に直し、そのうえで残業代を含む月収、賞与を含む年収、福利厚生を比較します。
月収が近いこと自体より、任せる仕事と責任の違いを給与で説明できるかが、一つの判断基準です。先輩パートさんの時給差だけが消えているなら、パートの昇給制度を中心に確認します。正社員との責任・処遇にもずれがあるなら、雇用区分をまたいで見直すタイミングかもしれません。
4.役割・習熟度に応じた時給レンジと昇給条件を決める
時給表では、入社時の基本時給、習熟による昇給、教育やリーダー業務への加算を分けて定義します。「頑張っている人」ではなく、「二つの工程を一人で担当できる」「新人へ標準手順を教えられる」など、仕事で確認できる条件にします。
時給額は、近隣の募集相場と前項の費用試算を見て決めます。あわせて、誰が、いつ、どの仕事ぶりを確認して昇給を判断するかを定めないと、同じ仕事ができても上司によって評価が変わってしまいます。
最低賃金改定による引上げと、本人の役割に対する昇給は、分けて考えておきたいところです。「今回は法改定でここまで上がる。次はこの仕事を任せられるようになれば昇給する」と伝えられれば、従業員にも次の目標が見えます。
採用では最低賃金だけでなく、近隣の募集相場まで確認する
最低賃金以上に直しても、それだけで採用力が上がるとは限りません。応募者は通える範囲の求人を比較するため、勤務地・職種・時間帯が近い募集条件まで見て採用時給を決めます。
求人票を発効日前に更新する
見直すのは求人媒体の時給だけではありません。自社採用サイト、店頭の貼り紙、紹介会社へ渡した条件に加え、面接担当者が使う説明資料も、新しい条件にそろえる必要があります。
同じ職種・商圏・時間帯の募集時給と比べる
比較する求人は、応募者が実際に選びそうな範囲で集めます。例えば食品工場の早朝パートなら、近隣の食品工場だけでなく、同じ時間帯の品出しや物流作業も候補です。
時給の上限や深夜割増込みの金額を、そのまま自社の基本時給と比べないようにします。未経験者の入社時給、曜日・時間帯の加算、交通費、週の勤務日数をそろえると、どこに差があるか分かります。
募集時給を上げると決めたら、同じ仕事をしている既存スタッフの時給も再確認します。採用だけを優先して新人の時給を高くすると、今働いている人の納得を損なうおそれがあります。
時給を上げにくい場合は、求職者の欲しい情報を伝える
時給以外にも、応募者が求人を選ぶ条件はあります。勤務時間の固定、短時間勤務、学校行事に合わせた休み、車通勤の可否など、自社で実際に提供できる条件を具体的に示します。
「働きやすい職場です」だけでは、求職者は自分にとってどのようなメリットがあるのか分かりません。「9〜15時で勤務可能」「翌月のシフト希望は毎月○日まで」のように、実際の運用を書く方が伝わります。ただし、募集相場から大きく離れている場合は、文面だけで補うことは難しくなります。時給や業務内容を含めて、採用予算を組み直す必要があります。
2026年10月は社会保険の賃金要件撤廃にも要注意
最低賃金の改定と同じ時期に、短時間労働者の社会保険加入要件も変わる予定です。厚生労働省は、月額8.8万円以上という賃金要件を2026年10月に撤廃予定と案内しています。
「106万円の壁」に関する賃金要件は撤廃予定
いわゆる106万円は、月額8.8万円を年換算した目安です。賃金要件の撤廃後は、加入対象を判断する際、週の所定労働時間など残る要件の確認が必要になります。
短時間労働者への適用では、週の所定労働時間20時間以上、2か月を超えて雇用される見込み、原則として学生でないことなどが要件です。通常の労働者の所定労働時間・日数の4分の3以上働く人は、別途、通常の加入基準で判断します。
企業規模要件は一斉に撤廃されない
2026年時点の企業規模要件は、原則として厚生年金保険の被保険者数(短時間労働者を除く)が常時51人以上です。単純な在籍人数や店舗ごとの人数ではなく、制度上の数え方で確認します。2027年10月には36人以上、その後も段階的に対象が広がる予定です。
「賃金要件がなくなるから、すべての会社で直ちにパートさん全員が加入する」ということではありません。自社の適用状況と各人の勤務条件を合わせて確認する必要があります。
就業調整・シフト希望を従業員ごとに確認する
時給が上がると、同じ年収に抑えるために勤務時間を減らしたい人も出てきます。本人が気にしているのが社会保険への加入、扶養認定、税金、配偶者の勤務先の手当のどれなのかを聞き、希望する働き方を確認します。
加入要件を満たす場合、本人の希望だけで社会保険から外れることはできません。手取りの変化だけでなく保障の内容も説明し、必要に応じて年金事務所等へ確認したうえで、改定後のシフトを調整します。
出典:日本年金機構「短時間労働者に対する適用の拡大」/厚生労働省「社会保険加入の要件」/「年収の壁」への対応
最低賃金引き上げに使える支援策
賃金引上げとあわせて設備や作業方法を見直す場合は、業務改善助成金などを検討できます。制度ごとに対象条件や申請時期があるため、設備を購入してから調べるのではなく、計画段階で確認します。
業務改善助成金
業務改善助成金は、事業場内で最も低い賃金を一定額以上引き上げ、生産性向上につながる設備投資等を行った場合に、その費用の一部を助成する制度です。毎月増える給与をそのまま補填する仕組みではありません。
2026年度の交付申請は9月1日から受付開始と案内されています。対象となる事業場、最低賃金との差額、引上げ額、対象人数、投資内容によって利用条件や上限が変わります。申請と交付決定、賃上げ、設備の発注・導入の順序は、最新の要領で確認してください。
相談時には、従業員ごとの現在の賃金と改定案、対象人数、導入したい設備の見積もり、導入で減らせる作業時間を用意すると、対象可否を確認しやすくなります。
無料相談・専門家による支援
最低賃金の適用や計算に迷う場合は、都道府県労働局や労働基準監督署へ相談できます。賃上げや労働時間、非正規雇用の待遇改善などは、各地の働き方改革推進支援センターでも無料相談を受け付けています。
相談の際は「人件費が厳しい」という状況説明に加え、現在の賃金表と、どの従業員にどの変更が必要かを持参します。制度の利用条件を聞きたいのか、給与計算を確認したいのかを絞ると、次に行うことが決まります。
継続して支払える賃金原資を確認する
助成金は投資の負担を軽くできますが、引き上げた賃金はその後も毎月発生します。設備を入れてどの工程の作業時間や手直しが減るのか、販売価格や取引条件の見直しでどれだけ原資を確保できるのかまで見積もる必要があります。
まとめ|最低賃金対応を、役割と給与の見直しにつなげる
2026年度の最低賃金対応では、まず事業場ごとの金額と発効日を確認し、対象者の給与と求人条件を期限までに修正していきましょう。
すでに仕事と給与のルールを設計し、実態に合わせて運用できている会社なら、今回の改定を理由に制度全体を作り直す必要はありません。一方、教育や現場判断を任せる人の給与差がなくなっているなら、役割と習熟度を昇給へどう反映するか、見直す必要が出てきます。
「最低賃金を守っている」だけでなく、「なぜこの人はこの給与なのか」を説明できる状態を目指したいですね。まずは給与台帳と現場の担当業務を並べ、自社ではどこにずれがあるかを確かめるところから始めてください。




















