「応募は集まるのに辞退が多い」「面接を重ねても自社に合う人材を採用できない」「今の選考フローが本当に最適なのか分からない」。このような悩みを抱える採用担当者や経営者は少なくありません。
新卒採用では、求人媒体や説明会だけでなく、書類選考・筆記試験・面接・内定フォローまで、選考プロセス全体を戦略的に設計することが重要です。
しかし、多くの企業では「昔からこの流れだから」「他社もやっているから」という理由だけで選考フローを決めてしまっているケースが少なくありません。
選考プロセスを改善するためには、各選考段階を数値で可視化し、どこで応募者が離脱しているのかを把握することが欠かせません。その際に重要となるのが、採用KPIです。
本記事では前編として、採用KPIの基本的な考え方や設定すべき指標、有効応募率・書類選考・筆記試験の考え方について詳しく解説します。
KPIを設定すべき指標について
自社に合った選考プロセスを設計するためには、各選考段階にKPI(重要業績評価指標)を設定することが欠かせません。
KPIとは、目標達成までの進捗を数値で把握・評価するための指標です。採用活動においても、選考プロセスを細かく分解し、それぞれの段階でKPIを設定することで「どこで応募者が離脱しているのか」「どの工程を改善すべきか」を客観的に分析できるようになります。
例えば「応募は集まるのに面接まで進まない」「内定は出しているのに辞退が多い」といった課題も、各KPIを確認することで原因を特定しやすくなります。採用活動を感覚ではなくデータに基づいて改善するためにも、KPIの設定は非常に重要です。
なお、本章では曽和利光氏の著書『会社を成長させる新卒採用 戦略編』を参考に、採用活動で確認しておきたい代表的なKPIをご紹介します。
採用活動で特に確認したいKPIは、以下の7つです。
- 有効応募率(プレエントリー者数に対する実際のエントリー率)
- 書類選考合格率(書類選考通過者数÷提出者数)
- 筆記通過率(筆記試験通過者数÷受験者数)
- 適性検査合格率(適性検査通過者数÷受験者数)
- 面接合格率(面接通過者数÷面接者数)
- 途中辞退率(途中辞退者数÷受験者数)
- 内定辞退率(内定辞退者数÷内定者数)
②書類選考合格率、⑤面接合格率、⑦内定辞退率は比較的よく使われる指標ですが、①有効応募率や⑥途中辞退率については、あまり意識できていない企業も少なくありません。
しかし、曽和氏は「有効応募率」と「途中辞退率」こそ、採用成功を左右する重要なKPIだと述べています。応募者をどれだけ次の選考へ進められているか、そして途中で離脱させていないかを把握することで、採用活動全体の改善ポイントが見えてくるためです。
それでは、ここからは7つのKPIについて、それぞれの意味や目安、改善方法を詳しく解説していきます。
有効応募率
有効応募率とは、プレエントリーした学生のうち、実際にエントリーまで進んだ人の割合を示す指標です。
例えば、就職サイトで100人がプレエントリーし、そのうち30人が実際にエントリーした場合、有効応募率は30%となります。
この指標を見ることで、「興味を持ってくれた学生を、どれだけ応募につなげられているか」を把握することができます。
有効応募率が重要な理由
新卒採用では、この段階で多くの学生を取りこぼしてしまっている企業が少なくありません。
最も多い原因は、応募までのハードルが高すぎることです。エントリーシートの入力項目が多い、説明会への参加が必須になっている、選考開始までの期間が長いなど、応募者に負担がかかる仕組みになっているケースは意外と多く見られます。
もちろん、この段階で離脱する学生の中には、もともと志望度が低い人もいます。しかし、だからといって「興味がない学生は応募しなくてもいい」と考えるのは危険です。
以前の記事「母集団形成とは?」でもお伝えしましたが、現在の採用市場では、自社のファンだけを採用対象にしていては十分な母集団を形成できません。まだ自社をよく知らない学生にも接点を持ち、企業理解を深めてもらいながら志望度を高めていくことが重要です。
つまり、有効応募率が低いということは、本来であれば自社に興味を持ってくれたかもしれない学生を、選考の入り口で逃してしまっている可能性があるということです。
関連記事:母集団形成とは?新卒採用で応募者を集める方法と採用プロモーションのポイント
有効応募率の目安と改善方法
有効応募率の目安は30%前後とされています。
これを大きく下回る場合は、応募までの導線を見直す必要があります。
改善のポイントは、応募のハードルをできるだけ下げることです。
- 会社説明会をオンラインでも開催する
- エントリーシートは面接当日に記入してもらう
- 入力項目を必要最低限にする
- 説明会から一次面接までの期間を短縮する
- 応募後の連絡を迅速に行う
人材獲得競争が激化している現在では「応募してくれる人を待つ」のではなく、「応募しやすい環境をつくる」という視点が欠かせません。
まずは自社の有効応募率を把握し、応募者が離脱している原因を分析することから始めてみましょう。
書類合格率
書類合格率とは、エントリーシートや履歴書などの応募書類を提出した応募者のうち、書類選考を通過した人の割合を指します。
この指標を見ることで「書類選考でどの程度応募者を絞っているのか」を把握できます。しかし私は、新卒採用においては書類だけで候補者を大きく絞り込むことは、あまりおすすめしていません。
書類選考だけでは人物を見極めることは難しい
私が就職活動をしていた頃は「学歴フィルター」という言葉がよく使われていました。大学名だけで合否を判断することに対しては賛否ありますが、書類だけでは人物像を十分に把握できないため、そのような判断が行われていた背景も理解できます。
しかし実際には、履歴書やエントリーシートだけで応募者の人柄や仕事への適性を正確に見極めることは困難です。書類だけで判断してしまうと、本来であれば活躍できる優秀な人材を取りこぼしてしまう可能性があります。
そのため、応募者数が極端に多く対応しきれない場合を除き、書類選考は最低限の基準を満たしているかを確認するための工程として活用し、できるだけ多くの応募者と実際に会うことをおすすめします。
書類選考で確認したい5つのポイント
とはいえ、限られた時間の中で効率的に書類選考を進めることも重要です。ここでは、私が書類選考で特に確認しているポイントをご紹介します。
①募集要項の条件を満たしているか
まず確認したいのは、自社が募集している条件を満たしているかどうかです。
新卒採用では、人物像や学部・学科、資格など、自社が設定した応募条件に合っているかを確認しましょう。募集要項とかけ離れた応募者を通過させてしまうと、入社後のミスマッチにつながる可能性があります。
②文章作成能力があるか
誤字脱字がないことはもちろん、日本語として自然で読みやすい文章になっているかも重要な評価ポイントです。
特に営業職や事務職など、社内外とのコミュニケーションが多い職種では、文章力が仕事の成果に直結する場面も少なくありません。
③自分の言葉で書かれているか
近年はインターネット上のテンプレートや生成AIを利用して応募書類を作成するケースも増えています。
もちろんAIを活用すること自体は問題ありませんが、そのままコピーしたような文章では応募者本人の考えや価値観が伝わりません。
文章全体を通して、自分自身の経験や考えが、自分の言葉で表現されているかを確認しましょう。
④読み手への配慮がある文章か
書類は「相手に伝えるための文章」です。そのため、読みやすさや分かりやすさも重要な評価ポイントになります。
特に以下のような点は注意して確認しましょう。
- 内容が抽象的で伝わりにくい
- 経歴や経験の説明が不足している
- 一文が長く読みにくい
- 専門用語やカタカナ語を必要以上に使っている
こうした配慮ができる人は、仕事でも相手の立場を考えて行動できる可能性が高いと言えます。
⑤自己PRから人物像が伝わるか
自己PRは、応募者を理解するための最も重要な情報の一つです。
単に実績を書いているだけではなく、「どのような価値観を持ち、どのような強みを仕事で発揮できる人物なのか」が具体的に伝わる内容になっているかを確認しましょう。
例えば営業職であれば、積極性や挑戦意欲、目標達成への行動力が伝わるエピソードが書かれているか、また文章が簡潔で分かりやすいかなどが重要な判断材料になります。
筆記通過率
筆記通過率とは、筆記試験を受験した応募者のうち、次の選考へ進んだ人の割合を指します。
ここでいう筆記試験とは、数学や英語などの学力試験だけでなく、論理的思考力や文章力、専門知識などを測る試験全般を意味します。
筆記試験を実施する目的は企業によって異なります。学力を重視する企業もあれば、論理的思考力や専門知識を確認したい企業もあります。
そのため、自社が採用で何を重視するのかを明確にしたうえで、試験内容や合格基準を決めることが重要です。
業界によって重視すべき能力は異なる
筆記試験で評価すべき能力は、業界や職種によって大きく異なります。代表的な例をご紹介します。
①コンサルティング業界
重視する能力:ロジカルシンキング・問題解決能力
数列や図形問題、データ分析などを通じて、論理的思考力や課題解決能力を評価するケースが多く見られます。
②商社
重視する能力:語学力・異文化適応能力
英語をはじめとする外国語能力が重視されることが多く、TOEICやTOEFLなどのスコア提出を求める企業も少なくありません。
③金融業界
重視する能力:数理的思考力・リスク管理能力
確率や統計などを扱う問題を通じて、数字を正確に扱えるかを確認する企業が多くあります。
④広告・マーケティング業界
重視する能力:発想力・文章力・コミュニケーション能力
広告コピーの作成や企画提案など、創造性や表現力を見る課題が出題されることもあります。
⑤製造業(技術職)
重視する能力:専門知識・技術的理解
機械工学や電気工学など、職種に応じた専門知識を確認する問題が出題されるケースが一般的です。
筆記試験だけで判断しすぎないことも重要
私個人の考えですが、学力の高さと仕事で成果を出せるかどうかは、必ずしも比例するとは限りません。もちろん、地頭の良さが仕事に活きる場面は多くありますが、筆記試験だけで合否を決めてしまうと、自社で活躍できる人材を見逃してしまう可能性があります。
特に新卒採用では、現時点のスキルよりも将来性や成長意欲を重視する企業も多いでしょう。そのような企業であれば、筆記試験で過度に応募者を絞り込まず、できるだけ面接で人物を見極めることをおすすめします。
筆記試験をどの程度重視するかは、自社が求める人物像や採用方針、採用に割けるリソースを踏まえて判断するとよいでしょう。
筆記通過率の目安
筆記試験を重視する企業であれば、筆記通過率は10%前後が一つの目安となります。
一方で、人物重視の採用を行う企業では50%前後まで通過させ、実際に会って判断するケースも少なくありません。
重要なのは、他社の数値に合わせることではなく、自社の採用方針に合わせて適切な通過率を設定することです。
まとめ
今回は前編として、選考プロセスを設計するうえで重要となる採用KPIの考え方と、有効応募率・書類選考・筆記試験について解説しました。
採用活動では「応募者数」や「採用人数」だけを見ていては、どこに課題があるのかを正確に把握できません。選考フローを段階ごとに数値化し、それぞれのKPIを確認することで、改善すべきポイントが明確になります。
特に有効応募率は、せっかく接点を持った学生をどれだけ応募につなげられているかを示す重要な指標です。応募のハードルを下げる工夫や、学生との接点を増やす取り組みは、採用成果を大きく左右します。
後編では、適性検査や面接、途中辞退率、内定辞退率など、選考プロセスの後半で確認すべきKPIと改善方法について詳しく解説します。
採用活動は感覚ではなく、数字をもとに改善を繰り返すことが成功への近道です。本記事が、自社に最適な選考プロセスを設計するヒントになれば幸いです。





















