職場に、機嫌が悪いと周囲が話しかけづらくなる人はいないでしょうか?
聞こえるようにため息をする。返事をしない。質問すると露骨に嫌そうな顔をする。怒鳴っているわけではないので、本人も周囲も「今日は機嫌が悪いね」で済まさざるを得ない。けれど、その状態が続くと、少しずつ仕事の進め方まで変わってきます。
「今は報告しない方がよさそう」「この相談は明日にしよう」「反対意見を言うと面倒そうだから、黙っておこう」。こうなってくると、問題は一人の機嫌ではありません。周囲がその人の機嫌を読みながら、報告・相談・意思決定のタイミングまで変えていることが問題です。
株式会社エムフロが2026年5月に仕事をしている500人を対象に行った調査では、「職場にフキハラをする人がいる」と答えた人は74.6%でした。悪影響として「雰囲気が悪くなる」28.4%、「コミュニケーションが減る」20.6%、「仕事の効率が下がる」17.0%が挙げられています。
出典:株式会社エムフロ「フキハラが及ぼす悪影響に関する意識調査」
この調査だけで、日本の職場全体の発生率を断定することはできません。ただ、不機嫌な態度が人間関係だけでなく、仕事の進め方にも影響すると感じている人がいることは分かります。
この記事では、職場のフキハラとは何か、パワハラとの境界、会社として見るべき影響と対処法を整理します。
「不機嫌にならない職場」をつくることが解決策ではありません。
人には感情があります。見るべきなのは、誰かの感情を読むことが、周囲の仕事の一部になっていないかです。
職場のフキハラとは?よくある具体例
「フキハラ」は、不機嫌ハラスメントを略した言葉です。一般には、不機嫌な態度を周囲に向けることで、相手を萎縮させたり、必要以上に気を遣わせたりする状態を指して使われています。
職場で起こり得るのは、たとえば次のような場面です。
- 挨拶や業務上の質問に返事をしない
- 報告を受けるたびに、大きなため息や舌打ちをする
- 書類や物を乱暴に扱い、周囲を萎縮させる
- 機嫌によって返答や指示が大きく変わる
- 特定の相手にだけ、露骨に無視したり冷たい態度を取ったりする
ただ、機嫌が悪いこと自体を、すべてフキハラとして扱うわけではありません。仕事をしていれば、体調が悪い日も、余裕がない日もあります。普段より口数が少ないだけで「ハラスメントだ」と決めつければ、今度は誰も自然な感情を出せない職場になってしまいます。
会社として確認したいのは、本人の内面ではなく、外から見える言動と、その後に起きた仕事上の変化です。
見るべきなのは、「不機嫌そうに見えるか」ではなく、どんな言動があり、それによって周囲の仕事にどんな影響を与えているかということです。
問題は「不機嫌」より、機嫌を読むことが仕事になること
私は、人が感情で動くこと自体は悪いことだと思っていません。
組織で仕事をしていると、正しい制度やルールをつくっただけでは人が動かない場面はたくさんあります。本人が何を不安に思っているのか、過去に何があったのか、誰との関係で引っかかっているのか。人は正しさだけではなく、感情や関係性にも影響を受けて動きます。
だから、相手の表情や反応を見ること自体をなくす必要はありません。たとえば評価面談でも、本人が「分かりました」と答えていても、表情を見ると納得していないことがあります。言葉以外の情報を見ることは、相手を理解するうえで必要です。
相手の状態を理解することと、相手の機嫌を管理しないと仕事が進まないことは別です。
部下がミスに気づいたのに、「今日は機嫌が悪そうだから夕方まで待とう」と考える。会議で問題があると思っていても、「反対したらまた不機嫌になりそうだから」と意見を言わない。承認を取りたい案件を翌日に回す。本人へ相談しづらいため、別の管理職を経由する。
これが繰り返されると、組織の中に「正式なルールとは別に、あの人の機嫌を確認してから動く」という非公式なルールができます。
「今は言わない方がいい」と共有を後回しにする
本人を避け、別の管理職や同僚を経由する
相手の反応を気にして懸念や異論を言わなくなる
「最近、あの人は不機嫌だ」という印象だけなら、会社が簡単に踏み込めないこともあります。一方で、「必要な報告が遅れた」「相談が別の管理職へ迂回した」「会議で意見が出なくなった」は、会社が確認できる業務上の事実です。
フキハラを組織課題として扱うときは、本人の性格ではなく、その言動やふるまいによって周囲の仕事がどう変わったかを見る方が実務では動きやすいと思います。
フキハラはパワハラになる?法的な境界
「フキハラだからパワハラ」と一律に判断することはできません。
「フキハラ」という名称自体は、厚生労働省のパワーハラスメント指針で独立したハラスメント類型として定義されているわけではありません。実際の法的評価は、個々の言動が職場のパワーハラスメントの要件を満たすかどうかなどをもとに判断します。
厚生労働省の整理では、職場のパワーハラスメントは、①優越的な関係を背景とした言動、②業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動、③労働者の就業環境が害されること、の3要素をすべて満たすものです。
| 要素 | 確認すること |
|---|---|
| 1.優越的な関係を背景とした言動 | 相手が抵抗・拒絶しにくい関係を背景にしているか |
| 2.業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動 | 仕事上必要な指導や対応の範囲を超えていないか |
| 3.就業環境が害される | 働くうえで看過できない支障が生じているか |
そのため、「今日は無口だった」「表情が険しかった」というだけで、直ちにパワハラになるわけではありません。仕事上必要な注意や指導も、客観的に見て必要かつ相当な範囲ならパワハラには該当しません。
一方、厚生労働省が示すパワハラの典型的な6類型には、「人間関係からの切り離し」として隔離・仲間外し・無視が含まれています。また、人格を否定するような言動や威圧的な叱責は「精神的な攻撃」に当たる可能性があります。
会社で「フキハラではないか」という相談が出たときは、名前から結論を出すのではなく、いつ、誰に、どのような言動があり、どれくらい続き、その後の仕事や就業環境に何が起きたのかを確認するのが先決です。
ハラスメント対応と管理職評価は分けて考える
ハラスメントに該当する可能性がある言動や、就業環境を害している状態については、チームの成果が落ちているかどうかにかかわらず、会社として確認・対応する必要があります。
相談を受けた場合も、直属の上司だけで判断するのではなく、具体的な言動や経緯を確認し、必要に応じて人事や相談窓口を通じて双方から事実を確認します。
パワハラに該当するか判断が難しい状態でも、必要な報告をためらう、相談を避ける社員が増えるといった変化が起きているのであれば、組織運営上の問題として改善する必要があります。
フキハラを放置すると、情報と意思決定が止まる
フキハラを放置したときに起きる問題は、「職場の雰囲気が悪くなる」だけではありません。必要な情報や意見が、組織の中で動かなくなることの方が経営への影響は大きいと思います。
KiteRaが2025年6月に18〜65歳のビジネスパーソン1,196人を対象に行った調査では、「ため息や舌打ち、挨拶を返さないなど、不機嫌な態度で接された」と答えた人が26.2%でした。また、何らかの不快な言動を経験した人の45.8%が、それを理由に退職を検討したことがあると回答しています。
出典:KiteRa「職場のグレーゾーンハラスメント実態調査」
この45.8%は不機嫌な態度だけを受けた人の数字ではないため、「フキハラを受けると45.8%が退職を検討する」とは言えません。ただ、明確な暴言や暴力でなくても、日常の不快な言動が周囲の人に対して悪影響を及ぼす可能性が高いということは事実です。
経営の視点で見ると、問題は大きく3つあります。
情報の流れが遅くなる
悪い情報ほど「今は言わない方がいい」と後回しにされると、会社は必要なタイミングで状況を把握できません。早ければ修正できた問題が、顧客対応や納期にまで広がることもあります。
意思決定の質が下がる
反対意見や懸念が出なくなると、会議で検討される選択肢そのものが減ります。表面上は合意していても、判断に必要な情報が出ていなければ、意思決定の質は上がりません。
見えない調整コストが増える
別の管理職に間に入ってもらう、伝えるタイミングを調整する、誰が本人へ話すかを相談する。本来必要のない調整に、複数人の時間が使われます。
誰かの機嫌を読むための調整コストが、見えない仕事として積み上がっていきます。
「機嫌を読む職場」になっていないか?5つのサイン
自社の状態を確認するときは、社員が「誰に、いつ、何を話すか」を、仕事の必要性ではなく相手の機嫌に合わせて変えていないかを見ます。
| サイン | 職場で見える場面の例 |
|---|---|
| 1.報告のタイミングが機嫌で変わる | 急ぎの報告でも、「今日はやめておこう」と後回しにする |
| 2.相談が特定の人を避けて迂回する | 本来の担当者に聞かず、別の人へ「代わりに聞いてほしい」と頼む |
| 3.会議では出なかった懸念が、会議後に出てくる | 会議中は同意していたのに、終了後に「あの進め方では難しい」と話す |
| 4.特定の言動の後に、質問や声かけが止まる | ため息や舌打ち、返事をしない態度の後、周囲が話しかけなくなる |
| 5.困りごとが人事や相談窓口へ届かない | 同僚には困っていると話しているが、会社には伝えていない |
大切なのは、当てはまった数ではありません。必要なやり取りをためらう場面が実際に起きているかです。
たとえば報告を待つ理由が「相手が会議中だから」なら、業務上の調整です。一方、「前に報告したときに舌打ちをされたので、また同じ反応をされるのが怖い」であれば、報告を遅らせた社員だけではなく、報告を受ける側の行動を確認する必要が出てきます。
社員に話を聞くときも、「○○さんの機嫌が悪くて困っていますよね」と決めつけず、報告や相談をためらってしまった場面やその理由を具体的な出来事から確認するとよいでしょう。
フキハラ対策は、個人成果と集団成果を分けて考える
ここからは、ハラスメントに該当するかどうかとは別に、組織や管理職の評価という観点で何を見るかを考えます。
私は、本人の成果と、周囲を含めた集団の成果を分けて見る必要があると思っています。
たとえば、ある管理職が自分の売上目標を150%達成していたとします。個人だけを見れば、非常に高い成果です。ただ、その人に話しかけづらいために部下の報告が遅れる、相談が別の管理職へ集中する、会議で意見が出ない。その結果、チーム全体の生産性が20%落ちているのであれば、「150%達成しているから優秀」で終わらせるのは違うと思います。
もちろん、個人の売上150%とチームの生産性20%を単純に足し引きする話ではなく、あくまで一例です。
大事なのは、会社が個人の数字だけを成果として見ないことです。
個人成果
- 本人の売上
- 本人の目標達成
- 本人の業務実績
集団成果
- 必要な報告が上がるか
- 相談や意見が出るか
- チームとして意思決定できるか
特に管理職は、自分自身が成果を出すだけではなく、チームから必要な情報を集め、メンバーが判断し、動ける状態をつくることも仕事です。本人の言動によって報告や相談が止まっているなら、それはコミュニケーション上の好き嫌いではなく、管理職としての成果にも影響しています。
1.個人成果が高くても、集団成果へのマイナスを見逃さない
本人に相談できないため別の管理職がフォローしているなら、その人の成果を支えるために他の人の時間が使われています。会議で必要な意見が出ず、後から問題が発覚するなら、意思決定にも影響します。部下が萎縮して挑戦しなくなれば、中長期では育成にも影響します。
つまり、本人の成果だけを切り取ると見えないコストがあります。
個人でどれだけ成果を出したかと、その人がいることでチーム全体がどれだけ成果を出せたかは、別々に見るべきです。管理職であれば、後者まで含めて役割を果たしているかを見る必要があります。
2.周囲が負担している「機嫌を読むコスト」を本人の成果に隠さない
「今日は機嫌が悪そうだから、私から伝えておく」「直接聞きづらいから、代わりに確認してほしい」。一つひとつは小さな配慮に見えても、日常になれば、本来必要のない調整に複数人の時間が使われます。
会社が「周りがうまく付き合えばいい」としてしまうと、本人の言動によって発生したコストを周囲が吸収し続けます。その結果、本人は高い成果を維持しているように見えます。
フキハラのコストは、本人の評価表には載らず、周囲の調整時間や意思決定の遅れとして現れます。
3.本人には「機嫌」ではなく、集団成果を下げている行動を見直してもらう
本人へ「もっと機嫌よくしてください」と言っても、何を変えるべきかは伝わりません。
返すのは、「質問への返答がないため、部下が別の管理職へ確認している」「承認依頼への返答がなく、案件が翌日に持ち越されている」「強い反応の後、会議で他のメンバーから意見が出なくなった」といった仕事上の事実です。
本人の個人成果は否定しません。個人で150%の成果を出しているなら、それは評価する。そのうえで、集団成果にはどんなマイナスが起きているのかを分けて伝えます。
事実
実際に何が起きたか
影響
周囲や仕事に何が起きたか
期待する行動
次から何を変えてほしいか
たとえば、承認依頼に返答できないなら、「その場で判断できない場合は、いつ返すかを伝える」と行動まで決めます。
本人に事情があるなら、会社側も確認します。業務量が過剰なら減らす。権限が集中しているなら分散する。ただし、事情を理解することと、周囲へ影響する行動をそのまま認めることは別です。
4.改善しない場合は、任せる役割まで見直す
必要な支援をし、期待する行動を伝えても、周囲が機嫌を読まなければ仕事が進まない状態が変わらないのであれば、「もう一度注意する」だけでは足りません。
特に管理職は、人を通じて成果を出す役割です。自分の売上は高くても、部下から情報が上がらない、相談できない、会議で必要な意見が出ない状態をつくっているのであれば、その役割を任せ続けることが適切かは考える必要があります。
担当する人数を変える、承認権限を見直す、専門職として個人成果を出す役割へ変えるなど、本人の強みを活かしながら役割を再設計する選択肢もあります。
個人で高い成果を出すことと、人を率いて高い成果を出せることは同じではありません。
ここで見ているのは、あくまで役割や評価の話です。就業環境を害する言動やハラスメントに該当する可能性がある問題については、個人成果や集団成果とは切り分けて会社として対応する必要があります。
一方、管理職としての評価では、個人成果と集団成果の両方を見て、その役割を任せることが組織全体にとってプラスなのかを判断する。ここまでが、会社として考えたいフキハラ対策だと思います。
まとめ|見るべきは「機嫌」ではなく、言動とその影響
フキハラという言葉を聞くと、「不機嫌な人をどう直すか」という話になりがちです。
ただ、会社として見たいのは本人の機嫌そのものではありません。どんな言動があり、それによって周囲の仕事や就業環境にどんな影響が出ているかです。
ハラスメントに該当する可能性がある言動については、チームの成果とは別に事実を確認し、会社として対応する必要があります。
そのうえで、管理職としての役割や評価を考えるのであれば、個人成果だけではなく、周囲を含めた集団成果まで見る必要があります。
個人で高い成果を出していても、周囲が報告をためらう、相談が別の管理職へ迂回する、会議で必要な意見が出なくなる。その状態を放置したまま「数字を出しているから優秀」と評価してしまえば、見えないコストを周囲に負担させ続けることになります。
だから、フキハラへの対応も「もっと機嫌よくしてください」ではなかなか解決に至りません。
どんな言動があったのか。周囲や仕事に何が起きたのか。就業環境への影響はないか。そして、管理職であれば個人成果だけでなく、チームとして成果を出せる状態をつくれているか。
評価するのは機嫌ではなく行動です。そして管理職の成果を見るなら、本人一人の数字だけではなく、周囲を含めて組織として成果が出ているかまで見る。
フキハラを「最近よく聞くハラスメントの一つ」で終わらせず、会社として何を守り、管理職に何を期待するのかを考えるきっかけにする。その方が、会社としてはずっと意味のある向き合い方だと思います。



















