少子高齢化による人材不足や働き方の多様化、グローバル化の進展など、企業を取り巻く環境は大きく変化しています。こうした時代において、多様な人材が能力を発揮できる組織づくりは、企業の成長に欠かせない経営課題となっています。
そこで注目されているのがダイバーシティ経営です。性別や年齢、国籍、価値観、働き方などの違いを尊重し、多様な人材の力を組織の成長につなげることで、生産性向上やイノベーション創出、採用力・定着率の向上が期待できます。
一方で、「何から始めればよいのか分からない」「制度だけ導入しても成果につながらない」と悩む企業も少なくありません。
本記事では、ダイバーシティ経営の基本から導入メリット、実践するための5つのステップ、資生堂やマイクロソフトなどの成功事例、中小企業が取り組む際のポイントまでわかりやすく解説します。
ダイバーシティ経営とは
ダイバーシティ経営とは、性別や年齢、国籍、文化的背景、価値観、働き方などの違いを持つ人材が、それぞれの能力や経験を活かして働ける環境をつくり、企業の成長につなげる経営の考え方です。
重要なのは、多様な人材を採用すること自体を目的にするのではなく、一人ひとりが能力を発揮できる環境を整え、組織の成果につなげることです。
例えば、女性や外国人、シニア人材などの採用を増やしても、特定の人だけが重要な仕事や管理職を任される状態では、十分に多様性を活かしているとはいえません。採用だけでなく、配置や育成、評価、昇進、働き方まで含めて考える必要があります。
ダイバーシティとインクルージョン(D&I)の違い
ダイバーシティ(Diversity)は「多様性」を意味し、性別や年齢、国籍、価値観など、さまざまな違いを持つ人材が組織にいる状態を指します。
一方、インクルージョン(Inclusion)は、多様な人材が組織の一員として受け入れられ、それぞれの意見や能力を発揮できる状態を指します。
多様な人材を採用するだけではダイバーシティ経営は実現しません。違いによって不利益を受けることなく、仕事や意思決定に参加できる環境をつくることが重要です。
そのため近年では、ダイバーシティとインクルージョンを組み合わせた「D&I」という考え方が広く使われています。
ダイバーシティ経営が注目される背景
ダイバーシティ経営が注目される背景の一つに、少子高齢化による人材不足があります。採用対象を従来の年齢や性別、働き方などに限定していると、必要な人材を確保することが難しい企業も増えています。
育児や介護と仕事を両立したい人、シニア人材、外国人材などにも活躍の機会を広げることは、採用できる人材の幅を広げるだけでなく、既存社員の離職を防ぐうえでも重要です。
また、顧客のニーズや価値観が多様化するなか、似たような経験や考え方を持つ人だけで意思決定をしていると、新しい発想が生まれにくくなることがあります。異なる経験や専門性を持つ社員が意見を出し合える組織をつくることは、新商品・サービスの開発や業務改善にもつながります。
さらに、人的資本経営やESGへの関心が高まるなか、人材の多様性や女性管理職比率などを社外に開示する企業も増えています。
ダイバーシティ経営は、単なる人事施策ではなく、人材確保や定着、組織づくり、企業の競争力まで関わる経営課題として考えることが大切です。
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ダイバーシティ経営に取り組む5つのメリット
ダイバーシティ経営は、多様な人材が働きやすい環境をつくるだけの取り組みではありません。採用できる人材の幅が広がるほか、人材の定着や新しいアイデアの創出など、企業経営にもさまざまなメリットが期待できます。
特に人材不足に悩む企業にとって、年齢や性別、国籍、働き方などにとらわれず、一人ひとりの能力を活かせる組織をつくることは、人材確保の選択肢を広げることにもつながります。
採用できる人材の幅が広がる
採用条件や働き方を柔軟にすることで、これまで採用対象になりにくかった人材にも選択肢を広げられます。
例えば、フルタイム勤務を前提とせず、時短勤務や在宅勤務、柔軟な勤務時間を取り入れれば、育児や介護と仕事を両立したい人も働きやすくなります。年齢や国籍などにとらわれず、能力や経験を基準に採用することも、人材不足への対応策の一つです。
応募条件を必要以上に狭めず、「どのような人なら活躍できるのか」という視点から採用を見直すことで、母集団を広げやすくなります。
従業員の定着につながる
働き続けたいと思っていても、出産や育児、介護など、生活環境の変化によって従来と同じ働き方を続けられなくなることがあります。
時短勤務や在宅勤務、休暇制度などを整え、状況に応じて働き方を選択できるようにすれば、こうした理由による離職を防ぎやすくなります。
ただし、制度を用意するだけでは十分ではありません。「制度を利用すると評価や昇進で不利になる」と感じる職場では、利用が進まない可能性があります。制度の整備とあわせて、評価方法や上司のマネジメントまで見直すことが重要です。
新しいアイデアや改善案が生まれやすくなる
似た経験や価値観を持つ人だけで構成された組織では、考え方や意思決定の方向が偏ることがあります。
異なる業界で働いた経験を持つ人、外国で生活した経験がある人、子育て中の人など、さまざまな背景を持つ社員が意見を出すことで、これまで社内では気づかなかった顧客ニーズや課題が見つかることがあります。
人材の多様性そのものが成果を生むのではなく、異なる意見を出しやすく、それを意思決定に活かせる環境があることが重要です。
従業員が能力を発揮しやすくなる
年齢や性別、働き方などではなく、本人の能力や成果をもとに仕事を任せることで、従業員が持っている経験やスキルを活かしやすくなります。
また、自分の意見を伝えても否定されない、必要なときに上司へ相談できるといった環境があれば、従業員から業務改善の提案や新しいアイデアも出やすくなります。
そのためには、公平な評価制度を整えるだけでなく、1on1やフィードバックの機会を設けるなど、日々のマネジメントもあわせて見直す必要があります。
採用や企業イメージの向上につながる
多様な人材が活躍できる職場づくりは、社内だけでなく採用活動にも活かせます。
例えば、育児と仕事を両立している社員や、年齢に関係なく活躍している社員の事例を採用サイトなどで紹介すれば、求職者が入社後の働き方をイメージしやすくなります。
また、人的資本経営やESGへの関心が高まるなか、人材の多様性に関する取り組みは、投資家や取引先などから企業を見る際の一つの材料にもなっています。
ダイバーシティ経営を採用広報や企業イメージのためだけに行うのではなく、実際に多様な人材が活躍できる環境をつくり、その取り組みを社外へ伝えることが大切です。
ダイバーシティ経営や組織づくりの進め方にお悩みの企業様は、お気軽にご相談ください。
ダイバーシティ経営を推進する際の課題・注意点
ダイバーシティ経営には多くのメリットがありますが、多様な人材を採用したり、制度を増やしたりするだけで成果が出るわけではありません。むしろ、進め方を誤ると、現場の負担や不公平感が増えることもあります。
重要なのは「多様な人材を増やすこと」を目的にせず、それぞれが能力を発揮できる状態まで整えることです。ここでは、推進する際に注意したい主な課題を紹介します。
価値観の違いからコミュニケーションが難しくなることがある
年齢や国籍、職歴、働き方などが異なる人材が増えると、これまで社内では当たり前だった考え方が通じない場面も増えてきます。
例えば、仕事の進め方や報告の頻度、会議での発言の仕方など、本人に悪意がなくても認識の違いからすれ違いが起きることがあります。
多様性が高まれば自動的にコミュニケーションが活発になるわけではありません。共通のルールを整理したり、上司が双方の意見を聞いたりするなど、違いを調整するためのマネジメントが必要です。
意見の違いを問題として抑え込むのではなく、なぜ認識がずれているのかを確認できる環境をつくることが大切です。
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制度を整えても利用されないことがある
時短勤務や在宅勤務、育児支援制度などを用意しても、実際にはほとんど利用されないケースがあります。
原因としては、「上司に言い出しにくい」「周囲に迷惑をかけそう」「利用すると評価が下がりそう」といった不安が考えられます。
制度の有無だけを見てダイバーシティ経営が進んでいると判断するのは避けた方がよいでしょう。
制度を導入した後は、利用率や従業員の声まで確認し、実際に使える状態になっているかを見る必要があります。
一部の従業員に負担が偏る可能性がある
柔軟な働き方を認める一方で、別の社員に業務が集中すると、不公平感が生まれることがあります。
例えば、時短勤務者が対応できない時間帯の業務をいつも同じ社員が担当していると、制度を利用していない側に負担がたまっていきます。
こうした状態を放置すると、「多様性を尊重するために誰かが我慢している」という構図になりかねません。
制度を導入する際は、対象となる社員だけを見るのではなく、業務分担や人員配置、仕事の属人化まで含めて見直すことが重要です。
数値目標だけが目的になることがある
女性管理職比率や外国籍社員比率など、分かりやすい数値目標を設定することは進捗管理に役立ちます。
一方で、数字を達成すること自体が目的になると、本人の経験や希望を十分に考えない登用や配置が行われる可能性があります。
例えば、女性管理職比率を上げるために昇進を急いでも、必要な育成や支援が不足していれば、本人にも組織にも負担がかかります。
人材構成の数字だけでなく、本人が能力を発揮できているか、採用や定着、組織成果につながっているかまで確認しましょう。
管理職のマネジメント負担が増えることがある
働き方や価値観が多様になるほど、全員を同じ方法で管理することは難しくなります。
勤務時間が異なる社員との情報共有や、個別事情に配慮した業務分担など、管理職が対応する場面も増えてきます。
そのため、「多様性を尊重してください」と現場に任せるだけでは十分ではありません。1on1の進め方や評価基準、相談対応などを整理し、管理職が判断に迷わない仕組みをつくる必要があります。
必要に応じて管理職向けの研修や人事部門による相談支援を用意することも有効です。
特定の属性だけを対象にしすぎない
ダイバーシティ施策というと、女性活躍や外国人採用など、特定の属性に焦点が当たりやすい傾向があります。
もちろん個別の課題に対応することは重要ですが、特定の社員だけを支援する取り組みに見えると、周囲から不公平だと受け取られることもあります。
年齢や性別、国籍だけでなく、家庭環境、キャリア観、働き方なども含めて、一人ひとりが働きやすい環境を考えることが大切です。
ダイバーシティ経営は一部の人を優遇する取り組みではなく、それぞれの違いを踏まえながら、公平に能力を発揮できる組織をつくるための取り組みです。
ダイバーシティ経営を実現する5つのステップ
ダイバーシティ経営というと、女性管理職を増やしたり、外国人材を採用したりすることから始めるイメージがあるかもしれません。しかし、自社の課題を整理しないまま制度や施策を増やしても、現場で使われず形骸化してしまう可能性があります。
まず自社の人材や働き方にどのような課題があるのかを把握し、目標を決めたうえで必要な施策を選ぶことが重要です。ここでは、ダイバーシティ経営を進める基本的な流れを5つのステップで紹介します。
① 自社の現状と課題を把握する
最初に行いたいのが、自社の人材構成や働き方の現状を把握することです。性別や年齢、国籍、雇用形態などを見るだけでなく、採用、配置、昇進、離職などに偏りがないかも確認します。
例えば、「女性社員は多いのに管理職になると極端に少ない」「若手社員の離職率が高い」「育児支援制度はあるものの利用者がほとんどいない」といった状況があれば、その理由まで掘り下げてみましょう。
人事データだけでは原因が分からないこともあります。社内アンケートや1on1、ヒアリングなどを通じて、「制度を利用しづらい」「キャリアについて上司に相談できない」といった従業員側の声を確認することも大切です。
単に「多様性が足りない」と考えるのではなく、自社の採用・配置・育成・評価・定着のどこに課題があるのかを明確にすることが出発点になります。
② 課題に合わせて目標を設定する
現状を把握したら、解決したい課題と目標を決めます。目標は「ダイバーシティを推進する」といった抽象的なものではなく、進捗を確認できる内容にすることが大切です。
例えば、「女性管理職比率を○%まで高める」「育児や介護を理由とした離職を○%減らす」「管理職候補となる人材の男女比を見直す」など、自社の課題に合わせて設定します。
ただし、数値だけを達成することが目的にならないよう注意が必要です。女性管理職比率を上げることだけを優先しても、育成や評価の仕組みが整っていなければ長続きしません。
「なぜその目標に取り組むのか」「経営や組織のどの課題を解決したいのか」まで経営層と現場で共有しておくことが重要です。
③ 必要な制度や施策を決める
目標が決まったら、課題を解決するために必要な施策を検討します。ここで大切なのは、他社の制度をそのまま取り入れるのではなく、自社の課題から施策を考えることです。
例えば、育児や介護による離職が課題なら、時短勤務やフレックスタイム、在宅勤務などが選択肢になります。特定の属性の社員が昇進しにくいのであれば、評価基準や昇進要件、仕事の任せ方に偏りがないかを見直す必要があります。
また、制度だけでなく、管理職向けの研修や1on1、アンコンシャス・バイアスに関する研修などが必要になる場合もあります。
「ダイバーシティ研修を実施する」といった施策から考えるのではなく、解決したい課題に対して何が必要なのかという順番で考えましょう。
④ 現場で利用・実践される仕組みをつくる
制度を導入しても、従業員に知られていなかったり、利用しづらかったりすれば十分な効果は期待できません。
例えば、在宅勤務や時短勤務の制度があっても、「利用すると周囲に迷惑をかける」「昇進に影響するのではないか」と感じる社員が多ければ、利用は進みにくくなります。
制度の目的や利用方法を社内で周知するとともに、管理職が制度を理解し、部下から相談されたときに適切に対応できる状態をつくることが大切です。実際に制度を利用している社員の事例を社内で共有する方法もあります。
また、制度を利用している社員だけでなく、その社員と一緒に働くメンバーへの配慮も必要です。業務が特定の社員に偏らないよう、役割分担や業務フローまで見直すことで、制度を継続しやすくなります。
制度を「作ったか」ではなく、現場で無理なく「使える状態になっているか」まで確認することが重要です。
⑤ KPIを設定して効果を検証・改善する
ダイバーシティ経営は、制度を導入して終わりではありません。取り組みが実際に課題の改善につながっているかを定期的に確認します。
KPIとしては、女性管理職比率や外国籍社員比率などの人材構成だけでなく、離職率、採用数、制度利用率、昇進率、従業員満足度、エンゲージメントスコアなどが考えられます。
ただし、全社平均だけを見ると課題を見落とすことがあります。例えば、会社全体の離職率が下がっていても、特定の年代や職種だけ離職率が高い可能性があります。必要に応じて属性や部署、職種などに分けて確認しましょう。
数値だけでは分からない課題については、社内アンケートや1on1、ヒアリングなどで従業員の声を確認します。「制度はあるが利用しづらい」「評価基準に納得できない」といった声があれば、制度や運用方法を見直す必要があります。
人材構成を変えることだけを成果とせず、採用や定着、働きやすさ、組織の成果にどのような変化があったのかまで確認することが大切です。
半年や1年など一定の期間ごとに結果を振り返り、必要に応じて目標や施策を見直します。このサイクルを繰り返すことで、自社に合ったダイバーシティ経営へと改善していくことができます。
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ダイバーシティ経営に取り組む企業事例
ダイバーシティ経営の進め方は企業によって異なります。ここでは、女性活躍や人材育成を長期的に進めている資生堂と、従業員一人ひとりにもD&Iへの取り組みを求めているマイクロソフトの事例を紹介します。
資生堂|女性管理職比率50%を目標に人材育成を強化
資生堂は、DE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)を経営における重要な取り組みの一つに位置づけています。特に日本では女性活躍を重点課題としており、2030年までに国内のあらゆる階層で女性リーダー比率50%を目指しています。
2026年1月時点で、国内資生堂グループの女性管理職比率は43.3%、グローバルでは60.3%となっています。
特徴的なのは、数値目標を掲げるだけでなく、管理職や経営幹部の候補となる女性社員の育成にも取り組んでいることです。「NEXT LEADERSHIP SESSION for WOMEN」では、将来のリーダー候補を対象にした育成を継続しています。
また、育児休業や短時間勤務、フレックスタイムなど、ライフイベントと仕事を両立するための環境整備にも早くから取り組んできました。
資生堂の事例から参考にしたいのは、「女性管理職を増やす」という数値目標だけで終わらせず、その候補となる人材の育成や働き続けられる環境づくりまで一緒に進めている点です。
マイクロソフト|D&Iを一人ひとりの行動に落とし込む
マイクロソフトは、多様なバックグラウンドや経験を持つ人材が活躍できる環境づくりを進めています。特徴の一つが、D&Iを人事部門だけの取り組みにしていないことです。
同社では、従業員が毎年D&Iに関する目標を設定する仕組みを設けています。また、管理職だけでなく従業員が日々の仕事のなかで取るべき行動を示した「One Microsoft D&I Plan」を用意し、D&Iを具体的な行動につなげています。
社内には、女性、LGBTQIA+、障がいのある人、軍関係者、アジア系社員など、さまざまなコミュニティを対象としたEmployee Resource Groups(ERGs)もあります。社員同士の交流やキャリア形成を支えるだけでなく、組織として多様な意見を取り入れる場にもなっています。
さらに、採用面ではニューロダイバーシティに対応した採用プログラムを実施するなど、一般的な採用選考だけでは能力を十分に評価しにくい人材にも機会を広げています。
マイクロソフトの事例で参考になるのは、研修や制度を用意するだけではなく、従業員一人ひとりがD&Iについて考え、行動する仕組みまで設けていることです。
大企業と同じ制度をそのまま導入する必要はありません。中小企業でも、「管理職候補を計画的に育てる」「従業員の声を聞く場をつくる」「管理職や社員に具体的な行動を求める」など、自社の規模に合わせて取り入れられる考え方があります。
中小企業がダイバーシティ経営を進める際のポイント
中小企業では、大企業のように専任部署を設けたり、多くの制度を一度に導入したりするのは難しい場合があります。そのため、最初から大規模な改革を目指す必要はありません。
自社が抱えている採用や離職、働き方などの課題を整理し、優先度の高いところから少しずつ改善していくことが大切です。
大規模な制度改革から始めない
ダイバーシティ経営というと、在宅勤務やフレックスタイム、新しい人事制度などを導入するイメージがありますが、必ずしも大がかりな制度が必要なわけではありません。
例えば、育児や介護との両立が課題になっているのであれば、勤務時間の調整や一部業務の在宅対応など、現在の仕組みを少し見直すところから始めることもできます。
また、制度を正式に導入する前に、一部の部署や社員を対象に試してみる方法もあります。実際に運用してみることで、業務上の問題や従業員の反応を確認したうえで制度化できます。
制度の数を増やすことよりも、自社の課題に合った仕組みが実際に使われているかを重視しましょう。
自社の業種や働き方に合わせて考える
他社で成果が出ている施策でも、そのまま自社で使えるとは限りません。仕事内容や勤務場所、従業員構成によって、取り入れやすい制度は変わります。
例えば、IT企業では在宅勤務を導入しやすい一方、製造業や飲食業、介護業などでは現場での勤務が欠かせない仕事もあります。その場合は、勤務時間やシフトの柔軟化、業務分担の見直しなど、別の方法を検討する必要があります。
地方企業であれば、外国人材やシニア人材の採用、地元の学校や自治体との連携などが人材確保の選択肢になることもあります。
「ダイバーシティ経営では何をするべきか」ではなく、「自社ではどのような人が働きにくくなっているのか」という視点から考えると、必要な施策が見えやすくなります。
管理職の関わり方も見直す
制度を整えても、上司の理解がなければ現場では利用しにくくなります。特に少人数の組織では、直属の上司との関係や仕事の任せ方が、働きやすさに大きく影響します。
例えば、時短勤務を利用している社員に重要な仕事を任せなくなったり、育児中の社員に本人の希望を確認せず負担の軽い仕事だけを割り振ったりすると、制度があっても本人の成長機会を狭めてしまいます。
1on1などを通じて本人の希望を確認し、勤務時間や家庭事情だけで判断せず、能力や経験に応じて仕事を任せることが重要です。
また、年齢や性別、国籍などによる思い込みが評価や配置に影響していないか、管理職自身が振り返る機会を設けることも有効です。
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一部の社員だけに負担を寄せない
柔軟な働き方を導入するときに注意したいのが、制度を利用していない社員への負担です。
例えば、時短勤務の社員が担当できない業務を毎回同じ社員が引き受けていると、「制度を利用する人だけが優遇されている」という不満につながることがあります。
こうした問題は、制度そのものよりも業務分担や人員配置に原因があるケースも少なくありません。業務の属人化を減らしたり、チーム内で役割を調整したりするなど、周囲の社員も無理なく働ける仕組みを考える必要があります。
ダイバーシティ経営では、特定の人だけを働きやすくするのではなく、チーム全体が働きやすい状態をつくることが大切です。
従業員の声を聞きながら改善する
経営側が良い制度だと考えていても、現場では使いにくいことがあります。制度を導入した後は、従業員が実際にどう感じているのかを確認しましょう。
大規模な従業員調査を行わなくても、少人数の会社であれば1on1や定期面談、簡単な社内アンケートなどでも十分に意見を集められます。
「制度を知らなかった」「上司に言い出しにくい」「利用すると評価が下がりそう」といった声があれば、制度そのものではなく周知方法や運用に問題がある可能性があります。
中小企業は経営層と現場の距離が近いからこそ、従業員の声を早く施策に反映しやすい点を強みにできます。
人事制度や組織づくりをどこから見直せばよいか分からない場合は、株式会社Tsumuguまでお気軽にご相談ください。
ダイバーシティ経営の評価と改善方法
ダイバーシティ経営は、施策を導入した時点で成果を判断できるものではありません。一定期間運用したうえで、自社が解決したかった課題に変化があったかを確認します。
女性管理職比率などの数字を上げることだけを目的にせず、採用、定着、働きやすさ、キャリア形成などにどのような変化があったのかを見ることが重要です。
目的に合わせてKPIを設定する
確認する指標は、自社が何を改善したいのかによって変わります。
例えば、人材確保が課題であれば応募数や採用数、採用する人材の構成などを確認します。定着が課題であれば離職率や勤続年数、育児・介護などを理由とした退職者数も参考になります。
そのほか、管理職に占める女性比率、昇進率、時短勤務や在宅勤務の利用率、従業員満足度、エンゲージメントなども指標として考えられます。
ただし、KPIを増やしすぎると管理すること自体が負担になります。中小企業では、自社の課題と関係の深い指標を数個に絞って継続的に確認する方が運用しやすいでしょう。
数字だけでなく現場の声も確認する
数値が改善していても、現場に別の問題が生まれていることがあります。
例えば、在宅勤務の利用率が上がっていても、「出社している社員に仕事が偏っている」という声が出ているかもしれません。また、女性管理職が増えていても、本人が過度な負担を感じている可能性もあります。
そのため、KPIとあわせてアンケートや面談などで従業員の声を確認することが大切です。
数字で「何が起きているか」を確認し、従業員の声から「なぜ起きているか」を探ると、改善すべきポイントを見つけやすくなります。
半年や1年ごとに施策を見直す
制度や取り組みは、一度決めたら変えてはいけないものではありません。実際に運用して問題が見つかった場合は、その都度見直していきます。
例えば、在宅勤務制度を導入したものの対象業務が限られているのであれば、対象範囲を見直す方法があります。評価への不満が多ければ、評価基準や面談方法を確認する必要があります。
大きな制度変更を毎年行う必要はありません。半年や1年ごとに課題とKPIを振り返り、「続ける施策」「改善する施策」「やめる施策」を整理するだけでも十分です。
ダイバーシティ経営は完成形を最初から作るのではなく、現場の変化に合わせて少しずつ改善し続けることが定着につながります。
まとめ
ダイバーシティ経営は、多様な人材を採用することが目的ではありません。それぞれの違いを尊重し、一人ひとりが能力を発揮できる環境を整えることで、企業の成長につなげる経営戦略です。
制度を整えるだけでは成果は生まれません。経営層のコミットメントのもと、現状把握から目標設定、制度設計、現場への浸透、効果検証までを継続的に行うことで、初めて組織文化として定着します。
特に中小企業では、大規模な制度改革よりも、柔軟な働き方の導入や公平な評価制度、1on1の実施、心理的安全性の向上など、身近な取り組みから始めることが重要です。小さな改善を積み重ねることで、多様な人材が活躍しやすい職場づくりにつながります。
人材不足が深刻化する今、多様な人材が活躍できる企業は、採用力や定着率だけでなく、組織全体の競争力も高められます。まずは自社の現状を見直し、できることからダイバーシティ経営を進めていきましょう。





















